悩める古道具屋   作:與七

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オリキャラが出てきます。タイトルがアレですが、むしろ悩んでるのは霊夢と慧音です。


博麗の巫女の愚痴

文明の発達により忘れ去られた者たちが流れ着くのは、幻想郷の常である。外来本を読んでいると、外の世界の道具の新陳代謝が激しいのがよくわかる。だが、その忘れ去れるものというのは、時に道具のみとは限らない。先日はこんなことがあった。

 

―カランカラン

「いらっしゃい」

扉を開けて入ってきたのは、みすぼらしい風体の男だった。ボロボロの傘を持ち、着ている羽織は干からびた海藻のようにくたびれており、継ぎはぎだらけの穴だらけであった。顔はというと、ぼさぼさの総髪に、死んだ魚のような伏し目、髭は老仙人の如く伸び放題である。

(見かけない顔だな)

「すまねえ、座らしてもらっていいか?」

男は店に入るなり、客用の椅子に腰かけると、そのまま押し黙ってしまった。どうも、相当お疲れの様子である。

僕はあえて彼には話しかけず、横目でこっそりと様子を窺っていた。

男はたまに顔を上げては店の商品をちらりと見て、また目を伏せる、の繰り返しである。

(何か探してるのか、それとも単にどう話しかけるべきか迷っているのか・・・?)

とりあえず僕は、男に話しかけることにした。

「何か、お探しかな」

下を向いていた男は、僕に視線を移した。改めてよく見てみると、顔つきは若者のように見える。それも、髪を梳き直し、髭を剃り落とせば、中々器量は悪くはない、むしろそれなりに整った顔立ちに思える。

「あぁ、悪いな。特に何を探してるってわけじゃねぇんだ。ごめんな」

男は申しわけなさそうに言う。

「ここの事、まだあんまり知らねぇんだ。ただ、ここでは懐かしいモンを扱ってるって、それは聞いたからよ」

「ああ、様々な小道具を取り揃えているからね。・・・誰かから、この店のことを聞いたのかい?」

「おう。紫色のドレス着た、金髪の女子が言ってた」

紫色のドレス・・・金髪・・・?まさか―

「よく分からないところに迷いこんじまった俺に、親切に色々教えてくれたんだよ」

「・・・」

「綺麗な女子だったなあ。まるで欧羅巴の貴婦人だ」

この人、紫の案内でここに来たのか。しかしこの人のこの様子は・・・

「なあ、店主の兄ちゃんや」

男は僕の目をじっと見つめる。直感が働いた。この男はただ者ではない、と。

「半化けか」

「・・・ご名答」

果たして僕のことは紫から聞いていたのだろうか?僕が妖怪と人間のハーフだということを。でもこの感じ、それを知らずに、ただ僕と顔を合わせただけで正体を見抜いたようにも思える。

「くふふ」

「・・・」

答え合わせは正解だ。男は無邪気な笑顔を見せた。

「さっきの女子のことだが・・・」

男は目を薄めて息を吐く。

「あれも物の怪だった。すぐわかる」

「・・・すぐにわかったのかい」

「おうよ、年の功と言う奴だ。おっと、でも兄ちゃんも結構長生きしてそうだな。あはは」

男はまた少しだけ笑顔を見せたが、すぐにまた伏し目の寂しそうな表情に戻った。

「・・・」

僕は彼に、今まで質問したかった事を聞いてみた。

「貴方は・・・一体何者なんだ?」

男は自嘲気味の笑顔を僕に向ける。

「俺は・・・神様だよ。こんな身なりになっちまったが」

 

 

―カランカラン

 

「霖之助さん、いるー?」

扉から聞き慣れた声がする。

「やあ」

「相変わらず暇そうねえ」

「そういう訳でもないよ。さっきまで色々、物の整理とかをやっていたからね」

「あっそ」

霊夢は僕の横を通り過ぎると、さっと振り向いた。

「喉乾いちゃったから、お茶貰うわね」

「・・・」

「じゃあ失礼するわね」

いいよ、とも何も言ってないんだが。いつものパターンだからまあ仕方がないか。

「ふう、おいしー」

お茶を飲みながら表情を緩める霊夢を見ながら、僕もお茶をちびちびとすすりつつ、読みかけの本を読み始めた。が、楽しい読書タイムはすぐに中断されることとなってしまった。

「ねえ、霖之助さん」

「ん?何だい」

「ごめん、ちょっと愚痴らせて」

勘弁してくれ、と言いたいのを抑えて、僕は霊夢に言う。

「僕がもし断るといったら?」

「構わずに喋らせてもらうわ。その時は」

「はあ」

「なんか、誰かに聞いてもらわないと気が晴れないのよ」

ふうっ、と息を吐くと、霊夢は不機嫌そうに語り始めた。

「昨日ね、うちに厄介なのが来たのよ」

「厄介なの?」

おうむ返しに僕は答える。

「そう。とっても厄介な奴」

厄介な奴か。一体どんな奴なのだろうか?単に妖怪や妖精がちょっかいを出しに来たわけではなさそうだ。

「追い返すのに苦労するわ、ああいうのは」

「追い返す?」

追い返すということは、退治しなかったのか。いや、退治をしないのではなく―できなかった―のか?

「追い返したと言ったね。その厄介な奴というのは、もしかして妖怪とかじゃなくて―」

「人間」

はあ、と霊夢は大きなため息をついた。

「私と同じ年くらいの女の子が来たの」

驚いた。祭事でもないのに博麗神社に普通の人間が訪れるのは稀なことである。だが、いったい何の目的で?

「それで、その子は何て―」

「弟子にしてほしい、って」

「弟子!?」

危うく持っていた湯呑を落とすところだった。まさか霊夢に弟子入りを志願する者が現れるとは。

「最初はね、優しく諭してあげたわ。私は、というか博麗の巫女は弟子をとるわけにはいかないってね」

「ふむ」

まあまずそう言うだろうな、と僕は思った。まあ、厄介な奴扱いされるということは、その言葉で引かなかったことはまず間違いない。

「でもね、何回説明しても、『弟子にしてくれるまで帰りません』の一点張りで・・・

そのうち延々と自分の自慢話ばかりするようになって・・・だんだんイライラしてきちゃって・・・」

「うん」

「金輪際ここに来ないで。二度とあんたの面も見たくない」

「・・・」

「思いっきり、そういってやったわよ。あーもう本当ムカつく」

「・・・霊夢」

「何かしら?」

「一応、その子の話はちゃんと聞いてあげたんだろうね?どうして君の弟子になりたいのか」

「ええ。ずっと前から私に憧れていたみたいね」

「ふむ」

僕は霊夢が不機嫌そうなのが気になっていた。

「喜ばしいことじゃないか?君に憧れているんだろう?その子は」

「なーにが喜ばしいことよ。迷惑なだけよ」

霊夢は不快感を露わにした声で言う。

「・・・私に憧れているって、それを聞いた時は悪い気はしなかったんだけどね。嬉しかった。それに、博麗の巫女として悪い妖怪への対応のやり方とか、簡単な弾幕や術の使い方を教えてあげようかとは思ったわ。最初はね。弟子は無理だとしても、みんなのために妖怪退治をしたいという気持ちが真剣なものならば、後々心強い味方になってくれるはずだから」

「・・・なるほど。その様子だと、彼女はそうではなかったと?そういうことかい?」

「そうよ。『どんな妖怪にも容赦しない、冷徹な最強の巫女、そういうのすごく憧れます』ですって。・・・まあ、間違ってはいないんだけど。ただね、そういう煽りは、天狗の新聞やら、雑誌やら、あることないことごちゃまぜのゴシップ記事の内容で全部知りましたーって。それで私の触れられたくないことや恥ずかしいことまで、どや顔でひけらかしてくるのよ。冗談じゃないわ。あんなデタラメばっかり、プライバシーの侵害ばっかりなもので知ったことを延々と、さも事実のように言われたら、腹が立つに決まっているじゃない」

霊夢は怒りをぶちまけた。僕はあえて、相槌を打つことはせずに黙って聞いていた。

「それに」

霊夢の怒りは収まらない。

「まったく、妖怪退治を甘く見すぎなのよ。『私、強くなって霊夢さんみたいに妖怪を懲らしめたいんです!』ですって。そんな単純な話じゃないわよ。正義のヒーローかなんかと勘違いしてるわね」

「正義のヒーローか」

思わず僕は唸った。

「人間からすれば、君は立派な正義のヒーローじゃないか」

「『人間からすれば』、でしょ?妖怪からすれば恐ろしい敵よ」

「それは確かにそうだが」

それは否定できなかった。それほど力の無い妖怪は、霊夢の姿を見るだけで震え上がり、恐れおののくものである。

「まったく、妖怪退治にしても、異変解決にしても、色々考えてやらなくちゃいけないって言うのに・・・ろくに知らない癖に変な間違った知識だけは一丁前で・・・」

「うーん・・・」

いつも冷静な霊夢が相当ヒートアップしている。しばらくこの愚痴りは止みそうになかった。

 

「ところで、一つ気になっていたんだが」

「何?」

霊夢はじろりと僕を睨み付ける。いや、僕にまで怒りの矛先を向けるのは筋違いだろう。

もっとも、そんなことは口が裂けても言えないが。さとり妖怪には通用しないだろうけど。

「その子は、一人で神社まで来たのかい?」

「そんなわけないじゃない」

霊夢は呆れたように言う。

「慧音が一緒だった。はぁ、妖怪退治をろくに会得していない人間が簡単に一人で来れるわけないでしょ。それでも彼女、最初は一人で神社まで来る予定だったらしいわね。流石にそれは彼女の家族からも、里の退治屋からもストップがかかったそうよ」

「慧音が・・・」

「『保護者役として一緒に来た』って疲れた顔してたわよ。まったくいい迷惑よね」

霊夢の話を聞いていると、慧音も相当大変だっただろうな、と思う。

「それでね、その子、その道中でうるさい妖怪やら、妖精やらを何体もやっつけてやったとか得意気に言い出すのよ」

「へえ」

単純に何の能力も持たない子じゃなかったのか。

「それは驚いたな。何かの能力を持って―」

「あんなもの所詮は付け焼刃よ」

僕の言葉を遮って霊夢が言う。

「中途半端な結界術。試しに見せては貰ったけど、危なっかしくてもう無理、見てられない。冗談抜きで危険よ、あれは。たとえ全く力の無い素人であっても、手順を踏んで基礎から少しずつやっていけば、それなりに身を守る術にはなるわ。でも彼女は違う。なまじ才能があるから、色々途中の重要な箇所をすっ飛ばして、あろう事か難しい複雑な術を使おうとしているのよ。自分の力に酔っていて、如何に危ない真似をしているのかが全く分かってないわ」

霊夢は早口でまくし立てた。が、僕はその中で気になる言葉がある事に気づいた。

「今、『なまじ才能がある』って言ったね」

「ええ、そうよ」

「まったく術の才能が無いわけじゃなかったんだ」

「まあね。何でも、代々伝統的な結界術を扱ってきた家系だって言ってたわ。それこそ、昔は妖怪退治の仕事もしていたことがあったらしいわね」

「なるほど、それでか」

いまや、幻想郷の妖怪退治と言えばそのほとんどは博麗の巫女の役目である。妖怪が人間を襲う、という概念が形骸化した今となっては、それが普通である。ただ、一昔前の時代はそうではなかった。人間を襲う妖怪を退治するために、里には数多くの退治屋がいたのだ。今でこそ退治屋を本業とする者は少ないものの、その名残はわずかに残っている。かつてのご先祖の経験を活かし、副業としてではあるが、里の結界の修繕の手伝いや、地鎮祭などのお祓い、博麗の巫女が出るまでのないちょっとした悪霊退治といった仕事を行うものは今でも何人もいる。

「でー、さらに悪いことにね。『この結界術は初代博麗の巫女の教えを汲んでるんですよ』とか言い出すのよ。それが慧音曰く、本当らしくってさー」

盛大な溜息を吐き、霊夢は両手で顔を覆った。

初代博麗の巫女か・・・博麗大結界を作り上げた結界術の達人だったな。その初代巫女の結界術となると相当凄まじいものじゃないか。

「凄い所の娘さんじゃないか、彼女」

「家柄や教えが凄くても、使う人がなってないと全然意味ないわよ」

霊夢は呆れ顔で溜息をついた。本日何回目だろう、霊夢の溜息を見るのは。

「さっきの道中の退治の話だけど、みんな容赦なくぶちのめしてやった、って言ってたわね。

知らず知らずのうちに自分にも相当負担がかかる術まで思いっきり使って・・・もちろん慧音が彼女には気づかれないようにフォローしてたみたいだけど」

「慧音が・・・」

もう完全に保護者状態じゃないか。話を聞く限り、その子は自分がどれだけ危険な振る舞いをしているのか全く理解していないようだ。霊夢がブチ切れるのも無理はないか。

「そもそも、最初付き添い役は慧音じゃなかったようなの。魔理沙が同行する予定だったみたいね。で、道中の妖怪退治は全部魔理沙が行うって言ってあげたらしいんだけど・・・その子、妖怪退治は自分で全部やりたい、一切手出ししないでくださいって馬鹿げたことを言いだしたから、呆れた魔理沙は降りたってわけ」

そんな事情があったのか。魔理沙も親切心を蔑ろにされるとは・・・可哀想に、その弟子入り志願の子は相当歪んでいるな。

「真兵衛さんは最初っから乗り気じゃなかったみたいね。神社までの往復の案内賃を吹っかけてその子にメチャクチャ噛みつかれてたそうよ」

・・・からかってるだけだろうそれは。まあその子の家柄を鑑みて、もしやいけると思ったのかもしれないが。

「彼は相変わらずせこい稼ぎもやってるようだね」

「土地代の収入があるんだからそれでいいでしょうに。まったく、私の仕事もこれ以上取られたらたまんないわよ」

「そこは同じ退治屋同士、上手くやっていくのが正解だと思うね」

「そりゃまあ・・・そうだけど」

何度も同盟を組み、妖怪や悪霊を協力して退治したこともあるだろうに、と思ったが、普段はお互いライバル同士という認識は相変わらずのようだ。

 

その後も霊夢の怒りに満ちた愚痴は続いた。延々と続く愚痴に完全に今日のスケジュールは台無しになってしまった。

言いたいことを吐き出し、すっきりした顔の霊夢が去った後で、僕はようやく読書を再開しようと思ったのだが・・・

「あ・・・これは」

ふいに霊夢が動かした椅子の横に、ボロボロの傘があるのが目についた。そうだ、この傘はあの神様の忘れ物・・・

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