後半はほとんどオリキャラの独擅場です。そして筆者が勝手に想像した設定とかあります。扱い悪いキャラもいます。みんな許して
外来本を読んでいると、随分事実と剥離しているな、という情報がごまんと載っている。
ほとんどの外来本に載っている妖怪や妖精や神は、本人たちが見たら噴飯ものであろう。もちろん事実を伝えているものも数多くはあるが、その事実にしたって、誤解を与えかねない内容で書かれていることもある。
ある鬼の男は「俺はこんな恐ろしい面だが、どうだ、外の世界ではこんな美男子なんだぞ」と冗談交じりに笑っていたし、ある姥妖怪の老婦人は「あのねえ、あたしゃ若い頃でもこんなには美しくはなかったよ」と困惑していた。さてと、僕がもし、外の世界に住んでいたとしたら、どんな扱いにされているのだろうか。恐らくは、マイナスの面ばかりが強調されてるのであろう。
「不気味な寂れた店に住み、何に使うのかわからない得体のしれない摩訶不思議な道具に囲まれている奇怪な男。妖怪を情け容赦なく殺害する恐ろしく冷酷な巫女と、同じく妖怪狩りを専門とし、様々な場所で盗みを繰り返す盗賊魔女がしばしばその店を訪れる」
「うわぁ、絶対行きたくない」
「え?」
「さっきからぶつぶつ呟いていたそれって、あの・・・何なんですかね?もしかして、香霖堂の新しいキャッチコピーか何か?」
「いつの間に・・・」
一人の少女が、知らないうちに店の中に入ってきていた。
「あ、いつものカランカランってなるアレ、壊れてるみたいなんですけど」
「何だって?」
参ったな。お客さんが来たのに全然気が付かなかったぞ。早めに修理しとかないとな。
「随分熱心に読んでたみたいですね。扉が開いたのにも気づかなかったみたいで」
「まあね。読んでいたらついのめり込んでしまってね。ほら、君も好きだろう?こういう本」
「わあっー」
積んであった本に飛びつくように、少女は足早に駆け寄った。髪に着けた鈴がチリンチリンと音を立てる。おっと、そういえば微かにさっきも聞こえたな、鈴の音は。
「すごい、大豊作じゃないですか。今までこんなにたくさん見つかったことって、ありましたっけ?」
目を星のように輝かせながら、小鈴は僕に問う。
「いや、ここまでたくさんあったことは無かったね。どうやら外の世界では、急激に本が廃れている証かもしれないな」
「えぇっ、本が無くなったら絶対不便じゃないですか」
小鈴は不満そうに口を尖らせた。
「はは、これはあくまでも僕の推測だよ。ただ、その代替に、違うものが普及してるんじゃないかな。ほら、天狗がよく使ってるじゃないか。そういう道具を」
「えー、あれって本とは全然違うものじゃないんですか?」
「何でも、河童たちが日々アレンジに没頭しているらしいからね。そのうち本にどんどん近づけていくんだと思うよ」
「そんなものなんですかね・・・」
小鈴は納得いかない、といった表情であったが、僕は気にせず再び本に目を戻した。
「さてと、じゃあ、査定をお願いしようかな。・・・明らかに商品にならなそうなものも混ざってるけど」
「それは構いませんよ。貸し出し用にはしませんから」
小鈴は手慣れた様子で、順番に本をチェックしていく。本を全部確認すると、次は算盤をパチパチと弾き出した。流石は貸本屋の娘、こういう作業は見事なものだ。
「それじゃあ、金額はこちらでいかがでしょう」
「ふむふむ・・・ん!?」
「ご不満ですか?」
「いや、・・・こんなに貰っちゃっていいのかい?随分太っ腹なような」
「ふふ、今回はちょっとですね、私的な査定も入れてみちゃったりして」
「まあ、君が構わないんならそれでいいよ。でもご主人は何も言わないのかい?そんなことやっても」
「ええ、前からある程度は自由にやっていいって言われてますから」
放任主義も、ちょっと踏み外したら大変なことになりそうな気がするが・・・いや、他人の家庭にいちいち文句を言う資格は僕にはない。
「それじゃ、これで頼む」
「ありがとうございます」
小鈴はニッコリ笑うと、ぺこりと頭を下げた。
「風呂敷に包むから、ちょっと待ってて。量は多いけど、小さめの本が多いから、そんなには重くならないはずだ」
「お願いします」
僕は無縁塚で拾った本を丁寧に風呂敷に梱包すると、小鈴から買い取り賃を受け取った。
「あの、出来れば・・・」
「ん?何だい」
「買い取りをするなら、なるべくうちに来てほしいんですけど」
「ああ、そうだったね・・・」
出不精の僕は、鈴奈庵まで本の買い取りに行くことはほとんどなかった。
そもそも、こうやって小鈴がここまでわざわざ来て本を持っていくことのほうがおかしい。まあ、僕だけの特例措置と言う奴だ。どうしてそんな特例が通用するか?いつも僕は無縁塚をはじめ、幻想郷のあちこちで大量の外来本を見つけては、まとめて鈴奈庵に買い取ってもらっているからだ。
「それじゃ、失礼しますね。ありがとうございました」
風呂敷包みを背負って、小鈴は店を後にした。
さてと、それじゃ読書の続きと行こうか。鈴奈庵に売る気のない、僕自身の本はまだこんなにある。じっくり楽しむとしよう。
鈴奈庵に外来本を売ってから、何日かが過ぎた。僕はいつものように積み上げた外来本を一冊ずつじっくり読み進めていた。うーむ、実に素晴らしい読書日和だ。こんな過ごしやすい日は中々無い・・・
―チリンチリン
「店主さん!」
「うおっ」
「聞いてください、実は―」
あーびっくりした。・・・入口のアレを修理するのを忘れてたな。うむ、しかしわずかに鈴の音は聞こえたが・・・
「今、人里でちょっとした怖い噂が流れているんです」
怖い噂・・・なんか少し前にもそういう騒動が里であったような・・・
「その噂が似ているんですよ、買い取ったこの外来本の都市伝説と」
「・・・似ている、ねえ」
僕は小鈴が持ってきた外来本をめくってみた。
写真雑誌か。えーっと・・・
「呪いの屋敷の・・・伝説?」
要約すると・・・
ある山奥の屋敷で、その惨劇は起こった。精神を病んでいたその屋敷の娘が、突然家族を襲い、次々に殺害していった。殺戮の主である娘も最後には自害した。ところが、廃墟となったその屋敷の跡地には未だに悪霊が住み着いており、そこに行ったものは生きて帰ることはできない・・・
「ふうん、不謹慎だけど、話としては面白い」
「これと同じような噂が流れているんですよ。人里で」
小鈴は興奮した口調で繰り返す。
「うん」
「とある屋敷で、その家のお嬢さんが家族を皆殺しにしたそうです。そしてそのお嬢さんも自殺、屋敷はその後廃墟のまま残されているそうですが・・・そこには悪霊と化した屋敷の人たちが未だに彷徨っているそうですよ」
「・・・そう」
「・・・あのー、なんでそんなに反応が薄いんですかね」
・・・ここは幻想郷。化け物の類は歩いていればすぐにぶち当たるはずである。これなのにこの子は・・・
「霊に会いたいんだったら、ここにもたまに来る子を紹介してあげるよ。正確には、半霊だけどね」
「・・・いや、そうではなくて」
「純粋な幽霊に会いたいんなら、その半霊の子に頼んで・・・」
「そういうことを言いたいわけじゃないんです!」
小鈴はムッとした表情で僕を睨む。
「私はその事件のことを詳しく知りたいんですよ。その悲しい屋敷で何があったのかを。そして悪霊を成仏させてあげたいんです」
・・・やれやれ。相談する相手を思いっきり間違っているだろう。
「あのね、そういうのは里の退治屋さんに相談するのが一番だと思うよ。誰かに頼めばすぐにやってくれるだろう」
「もちろん、何人も頼んでみましたよ。でも・・・」
「でも・・・?」
「みんな口をそろえて言うんです。その廃屋の近くまで来たら・・・これ以上は無理だって」
「無理?」
「はい、非常に強力な結界が張ってあるそうです。しっかり手順を踏んで解除できるのは、妖怪の賢者か博麗の巫女ぐらいだと。もっとも、強力な弾幕でも使って強行突破するという手もあるにはあるらしいんですけど・・・リスクが高すぎるとか」
まずいな・・・下手に魔理沙あたりに相談したらとんでもないことになりそうだ。
『こんなもの、マスタースパークで一発だぜ!』
ああ、想像したくはないがそんな声が自然に耳に聞こえてくる。
「妖怪の賢者さんに依頼なんてできっこないし、それで霊夢さんに頼もうかなー、と思ったんですけど・・・断られました」
まあ、それは当たり前だ。
「『簡単に破れない結界がある以上、普通の人はそんなところに入れないんだし、問題ないでしょ』だそうです。『こっちからちょっかいを出さない限り、何も害は無い。触らぬ何とかに祟りなしよ』とも言ってました」
全くその通りだ。余計な喧嘩をこっちから吹っかける必要などない。
「魔理沙さんにもお願いしたんですけど・・・駄目でしたね。霊夢さんと同じように、『そういうのは無視しといていいだろ、だって今までずっと無視して平気だったんだからな、なんか面倒なことになりそうだし』って」
はぁ、と小鈴は大きく息を吐いた。
「ずっと屋敷に居るままで、成仏できないなんて・・・可哀想ですよ」
「まあ、とにかく」
僕は小鈴に対して毅然とした態度で言う。
「好奇心旺盛なのは悪いことじゃないけど、あまり危険なことに首は突っ込まないほうがいい。まさしく霊夢の言う通り、触らぬ何とかに祟りなしだ」
「うう・・・」
小鈴は納得いかない、という表情を浮かべると、俯いてしまった。
「まあ、何度も言うようだけど、単純に幽霊に会いたいんだったらいくらでも手はあるよ」
僕は悪戯っぽく笑いながら話題を変えた。
「さっきの半霊も子もそうだし、騒霊楽団のコンサートにでも・・・」
言いかけて僕ははっとなった。
「小鈴」
「え?」
「その呪いの屋敷だけど、どこにあるんだい?」
「下道荘(しもつみちのしょう)の近くですよ」
「何だ、違うか・・・」
ひょっとしたら、と思ったが違っていた。霧の湖の近くに、プリズムリバー姉妹の住んでいた廃洋館がある。もしかしたら噂が湾曲されて、その廃洋館が惨殺の屋敷として語られているのかとも思ったが・・・
「そうだそうだ、その屋敷の場所はまだ聞いてなかったね。下道荘の近く・・・か」
下道荘というのは、人里の外れにある荘園・・・平たく言えば、下道家(しもつみちけ)の土地なのだが。前の当主の時代は、かなり広い土地だったのだが、代替わりしてからはそのほとんどの土地を耕作地として貸し出している。良く肥えた土地らしく、そこで様々な作物を育てている里の人間は多いと聞く。しかし下道荘・・・あそこは確か複雑な結界で区切られていて、普通の人間が入れない場所も多かったっけ。
「あーあ、店主さんなら色々興味を持って、協力してくれると思ったのに・・・残念ですよ」
小鈴は捨て台詞を呟くと店を出ていった。・・・全く。魔理沙や霊夢からよく話は聞くけど、あの子も相当危なっかしいな。
その日、僕は珍しく人里に足を運んでいた。僕の場合、生きるために食事はとる必要はないのだが、それでもたまに美味しいものを無性に食べたくなる時はある。さてと、せっかくだから、旬の食材でも買っていくとするか。
ん・・・?何やらざわついてるな。・・・様子がおかしいぞ。何人かで集まっては、口々に指さしたり、顔を抑えたり、焦ったように身振り手振りをしている。それも皆一様に驚愕し、あるいは不安・はたまた恐怖の表情をしている。
「これは・・・何かあったな」
僕は「何か」があった場所へと向かうことを決めた。人々から断片的に見聞きする情報・・・
「下道荘の近く」「あの屋敷だとよ」「祟りだ」「呪われたって」「悪霊か」「悪戯したらしい」「ばちが当たったのよ」「憑りつかれたとか」「噂は本当だった」「助からねえかもな」
一体どうなっているんだ、これは。まさか本当に、あの噂・・・
ようやく、噂の場所の近くまでたどり着いた。くそ、野次馬がわんさかいて先が良く見えない。
里の自警団や、数名の退治屋が必死で彼らを押しとどめている。その中には慧音の姿もあった。
「香霖!」
横から魔理沙の声がした。
「なんかもう、大変なことになっちまったらしいな」
魔理沙の神妙な顔つきが、事の重大さを物語っているようであった。
「一体、何があったんだい?」
「いや、私も今来たばかりでさ。詳しくはわからない。ただ―」
魔理沙は不安そうな目で、野次馬が集まる方向を見た。
「・・・呪いの屋敷に・・・入った奴がいるらしい」