オリキャラ無双。東方でBLなんか必要ねえんだよ!って人にはお勧めしません。うそです。
「あの話はもう、いい加減勘弁願いたいものなんだがな」
枝豆をムシャムシャ食べながら、真兵衛は不満そうに言う。
「元々天狗連中は好かぬのに。・・・毎日毎日追いかけ回されて嫌になる」
「それで雲隠れね・・・。通りで何回会いに行っても留守にしてるわけだ」
「ようやくここ数日は収まってきたがな。・・・まったく、また話さねばならぬのか」
「そうは言っても、どうしても気になるんだ」
「天狗の新聞や雑誌に書いてあることが全て」
「ゴシップまみれの―」
「ではないぞ。話は最後まで聞け」
「ああ・・・」
「聞くだけ野暮だが、それらに一通り目は通したのであろう?」
「ああ、隅々まで読んでみた」
「それを読んでどう感じた?」
「・・・第一発見者の、君に疑いの目が向けられてるのがすごく気になった」
「実にうまいと思わぬか、これ」
「え?」
「この枝豆。塩の量も湯で加減も良いあんばいだ」
「・・・」
―下道真兵衛(かとうしんべえ)。
人里の長屋に住む呪い師の若者だ。里の人間からは「拝み屋さん」と親しまれ、各地で地鎮祭のお祓いや、妖怪のいる場所に向かわねばならない人間の警護、幻想郷各地の結界の修繕や確認を行っている。そして彼は妖怪退治屋でもあった。弾幕も使わず、空も飛べない彼であるが、父親から受け継いだ呪術の力は本物である。
そんな彼だが、あの下道荘(しもつみちのしょう)の所有者でもある。現在の彼の姓とは読み方が異なるが、これは彼が父の後を正式に継いだ際、彼が姓の読みを「しもつみち」から「かとう」に改めたためである。
・・・しかし、彼がここに来てくれたのは助かったな。一番話が聞きたい人物だからだ。
枝豆を食べ終えると、真兵衛は目を伏せ、ゆっくりと口を開いた。
「現場が下道荘の近く、そして―」
「被害者は強力な怨念の術を掛けられていた」
僕は真兵衛の顔をじっと見据えて言う。
「おまけに第一発見者ときたもんだ。・・・疑われないほうがおかしな話だなぁ」
真兵衛はぱっと顔を上げニタァと笑った。普段伏し目がちなだけに、本来のギョロ目や満面の笑顔を向けられると何か不気味だ。里の人たちに見せる営業スマイルとは全然違うし。
「で、どうなんだい?」
「は?」
「君がやったのか?」
「たわけ」
あ、笑顔が速攻で消えた。
「あっそう」
「そもそも、謎が多すぎであろう。それは[[rb:其方 > そなた]]もわかっているだろう?」
「・・・そこなんだよな、問題は」
そう。この事件は謎がとにかく多すぎる。
もう一度、新聞の真兵衛の証言を確認してみよう。
時刻は九時くらいか。菜園の野菜を確認した後に、荘園の周りの結界が歪んでいることに気が付いた。その時は大した問題ではないと思っていたのだが・・・歪みの元は何なのか確かめているうちに、例の屋敷に通ずる道の結界が破壊されていることに気づいた。これは穏やかな事態ではないぞ、と直感した。
急いで屋敷に向かったが、もうすでに天狗連中は全員倒れていた。一目見て、危険な怨念の術にやられたなと思った。・・・屋敷の中には、小さな悪霊が一体いた。まあ、その悪霊に関しては大した問題ではない。護符一枚であっさり成仏した。
それから助けを呼びに行った。里の退治屋と自警団を集めて、永遠亭にも手配を頼んで・・・
「これ、本当なんだろうね?」
「信用に値せず、と言うのか?」
「うーん、重要なことが結構抜けてると思う。それに何か色々引っかかるんだ。だから詳しく聞かせてもらうよ」
「やはり其方も私を疑うか」
真兵衛は眉にしわを寄せた。
「いや、そうじゃない」
「ふん」
「まず、この術の仕組みがどうなっていたのか・・・第一発見者として、そしてプロの判断として聞きたい。あ、なるべくわかりやすい説明でね」
「屋敷に入った者に、否応なく術が降りかかる」
「扉を開けて、中に入ったとたんに?」
「その通り。窓や天井から入っても同じくな。とにかく屋敷の中に入った時点で終いだ」
「ふーん・・・・術は全ての人にかかるってことかい?」
「左様。ご丁寧に、ちゃんと人数分しっかりな。さらに悪いことに、人間でも妖怪でも、とにかく種族は関係なしに仕留める」
「種族は関係なく、か・・・」
「うむ。あれが効かないのは、それこそ八雲のスキマぐらいであろう」
「へえ・・・」
彼女がいたら、詳しく聞いてみたいな。・・・まったく、どうでもいい時に限って店に訪れるのは一種の嫌がらせだろうか。
「ところで、その術だけど・・・君自身は大丈夫だったのかい?」
「大丈夫だからこうしてここにいる」
「いやそう言う意味じゃなくてだね・・・」
「屋敷に入る前から既に感じていた。で、外から仕掛けは全部駄目にしてやった」
「・・・」
「如何した?」
「月の頭脳を持ってしても、癒しの神の力を持ってしても容易には治癒できない術を、君は解除した・・・」
「やはり其方、まだ疑っているのか」
真兵衛の表情が再び厳しくなる。
「可能性の話だよ」
「今回の場合、術を受けた後の治療は簡単ではなかったようだが・・・。術が誰かに降りかかる前の解除ならば容易いものだ」
「なるほど、それなら筋は通ってるね」
「いい加減疑うのは止めにしようではないか」
「可能性は全て検証していきたいんだよ」
「さよか」
真兵衛は不満全開の表情のままだ。
「しかし、そうなるといったい誰なんだろう?あの恐ろしい術を仕掛けたのは・・・」
「誰だろうな」
「真兵衛」
「何だ」
「あの術・・・。仕掛けようと思えば、君が仕掛けることは可能かい?」
「無理だ。・・・もう、其方の中では私が犯人か」
「いやだから、可能性の話だよ」
「あ。ならばいいこと教えてやる」
真兵衛がまた不気味な笑顔を見せた。気味が悪いから本当に勘弁してほしいんだが・・・せめて里で見せてる営業スマイルで・・・
「スキマが協力してくれれば可能、だろうな」
紫の協力があれば、可能なのか。だけど・・・
「私とスキマが共犯ということで、訴えてみるか?」
真兵衛はおどけた調子で言った。
「そんなことして何になる?天狗を懲らしめるためか?私が天狗をいけ好かないのは事実だが、その怨みを晴らすためか?」
「いや、そんな単純な話じゃないと思うよ、恐らくは」
・・・うーん、やっぱり話を聞いていると真兵衛がそんな事をするとは思えないな。そもそも、天狗たちがあそこへ向かったのは偶然ではないか?確か酒に酔った勢いで、だったらしいけど。
「・・・正直、これ以上考えても仕方ないかな。一体、誰が何のためにあんな術を仕掛けたのか」
「スキマを試しに呼んでみるか?大した答えは返って来ぬとは思うが」
「いや、いい。多分適当にはぐらかされるだけだと思う」
僕はとりあえず、屋敷に仕掛けられた術についての話題はストップした。
さてと、これから話す方が実は本題なんだよな。
「ところで、そもそも、あの屋敷の正体自体がまだ不明だったね」
「だな。ただ、これだけははっきりしているぞ。あの屋敷で殺人が起こったことは無い」
真兵衛はきっぱりと言い切った。
「えっ、そんなことわかるのかい?」
「入ってみた時に、そういった強い恨みの念といったものは全く残っていなかった。屋敷にいた悪霊に関しても、悪霊ともいえども意識薄弱で恨みの念はほとんど無に等しい」
やはりそうか、それじゃ僕の仮説は・・・
「僕の考えを話そうか。この呪いの屋敷の真実を」
「お聞かせ願おう」
真兵衛は身を乗り出すようにして僕を見る。
「まずは、あの屋敷の正体に関してだ。あの屋敷は、なんのことは無い、ただの廃屋だ。色々調べてみたけど、実は、噂が広まる以前は、あそこの屋敷の存在を知る人自体が少なかったんだ」
「ふむふむ」
「色々な人に尋ねてみたよ。噂が立つ以前の屋敷についてね。里の人間だけじゃなく、里によく出入りしてる妖怪や神様たちにもね。でも、彼らの認識はみんなこうだ。『そういえばそんな建物があった』って、ただそれだけ。漠然と、古い建物があった、それだけの印象だけだったんだよ」
「うむ」
「で、面白いことに、例の呪いの屋敷の噂が流れ始める直前に、これを多くの人たちが借りて読んでいたそうだ。この本を見てくれ」
「外来本ではないか」
「そうだよ。ここの記事」
僕は以前、小鈴が話した呪いの屋敷の記事を見せた。
「こりゃたまげた。里で流れてた噂そのものだ」
「そう、あの屋敷は、以前はほとんどの人が話題にすることもない、ただの廃屋だったんだ。今となっては、誰が住んでたかというのも大した問題じゃない。君の言う通り、あそこで惨殺事件なんて起こっていなかったんだからね。ただ、鈴奈庵に渡ったあの外来本が、事実をおかしな方向に捻じ曲げてしまった。「呪いの屋敷」について書かれた記事を人々は読み、噂は尾ひれがついて湾曲され、いつの間にか恐ろしい伝説が生まれてしまった。普通の廃屋は惨劇の屋敷となり、管理用の結界は、意味深な屋敷への侵入を拒む門と化してしまった」
「なるほどな」
真兵衛はうんうんと頷いた。
「確かに下道荘は結界でごちゃついているからな。・・・たまには整理せねばならないのだが。その中の大きな一つが偶然にもその屋敷へ続く道にあった・・・屋敷にいた弱い悪霊に関しても、単に偶然迷い込んだものであろうな。ふむう、人々の恐怖心の伝搬がありもしない話を作り出してしまったわけだ。考えてみれば恐ろしい事だな」
「そう、噂の力って言うのは、恐ろしいよ。外来本で何度も読んだけど、店が閉店に追い込まれたり、身に覚えのない濡れ衣を着せられたり・・・大量殺人に至った事例もある」
「うむ、確かに一歩間違えれば、えらいことになりかねない」
「でもやっぱり、・・・腑に落ちないな」
「む?」
「どうしても術の件が気になる」
結局、日数が経つにつれて、呪いの屋敷の事件は次第に話題にならなくなっていった。
天狗の新聞も、犯人は屋敷の中にいた悪霊だと、最終的にはそういう無茶苦茶な判断を下していた。
天狗と以前トラブルがあり、なおかつ術をかける事が可能かもしれないということで疑われていた真兵衛も、紫の協力でもない限り不可能と言うことで、証拠不十分という結論に達していた。
そして面白いことに、あの被害者の天狗たちが退院した後、手のひらを返したように天狗の新聞は真兵衛を褒めたたえた。被害にあった天狗の命の恩人と言うことで、完全に前とは真逆の扱いとなってしまっていた。
寺子屋の子供たちはいつも賑やかだ。どこから来たのか、無邪気な妖精たちも交じって仲良く遊びまわっている。
慧音は子供たちのほうを見たまま呆れた声で言う。
「噂が今回の騒動を引き起こした、か。人里は情報伝達が早いからな。・・・天狗もだが。しかし、今後も噂が原因の騒動が起こりそうで不安だよ」
「・・・何が正しくて何が正しくないか、疑い出すと何もかも信じられなくなりそうだね」
僕は寺子屋を出ていく無邪気な子供たちを見ながら言う。
「・・・本当に、何も無かったんだろうか」
「ん?」
「あの地で・・・下道荘で」
「なんだ、まだ気にしてるのか」
「いや、ただ何となく。火のない所に煙は立たず、って言うしね」
「ないない」
慧音は笑いながら手を振る。
「惨殺事件なんか無かったよ」
「・・・君が歴史を喰ったかもしれない」
「むむ、失礼な」
「いや、今のは冗談だよ、すまない」
「まったく・・・」
「ん、もうこんな時間か。今日はこの辺で失礼するよ。それじゃ」
「ああ、気を付けて」
僕は足早に寺子屋を後にした。やっぱり慧音も何も知らないか。
「・・・ごめんな、霖之助」
慧音は霖之助の背中を見送ると、ぎゅっと拳を握りしめた。
(訳あって、話すことは出来ないんだよ。確かに惨殺事件は無かった。でも―)