天下に響く風   作:霧のまほろば

11 / 18
今話は月の胸中がメインのお話です。
リクエストしてくださったオリゴデンドロサイト様、ありがとうございます。

月が意外と描きやすくてすいすい書けたのです。
口調は多分、これでいい筈?


第11話 董仲穎 ーー月の胸中

ーーー月side

 

雪も残るところ少しとなって、太陽の光が温もりを溢れさせて、時折吹いてくる風がとても心地よくてついつい眠く船を漕ぎそうになってしまいます。

今日も私は私の部屋で太守の認印が必要な書簡に目を通して、太守印を捺して丸めて卓の上に乗せていくという地味な作業を繰り返しているのです。

 

竹で組まれた綺麗な窓からポカポカと暖かい日差しが差し込んで、瞼が重くなってウトウトしては慌てて頭を振って眠気を振り払って書簡に向かい合います。

いけない、いけない。この書簡は詠ちゃんと響さん、音々ちゃんが頑張って処理してくれている書簡。私には詠ちゃんや響さんたちのように頭が良いわけではないのです。三人に頼りきりになる自分が情けないと思う。

 

時々、響さんや朱耀さんにお願いして勉強を教えて貰っているけど、詠ちゃんや響さんにはまだまだ及ばない。二人とも、凄いなぁと思うのです。私も頑張らなきゃ、と思う。響さんに釣り合うようないい女性になるためにはここで挫けるわけには行かないのです。

……あ、ダメ。もう少しで終わるのに、眠く………。

 

 

 

「ーーー。ーーて、ー」

 

真っ暗だった私の意識に一筋の光が差し込む。そして、耳にとても心地いい声が響いてくる。瞼が重いけど、外の様子を見なきゃと思って瞼を開こうとすると、肩にじんわりと暖かいものが置かれてポンポンと優しく叩いて、私の眠気を追い払ってくれます。

うっすらと瞼を開くと、目の前に春なのに、白雪が降っているかのように太陽の光の中で揺らぐ白き華。そして、優しい光を灯す赤い瞳。私の想い慕う方、響さん。優しい微笑みを浮かべてゆっくりと眠りから手を引いて起こしてくれます。

 

「おはよう、お寝坊さん。もうお昼だよ、月。ご飯、食べない?」

「へぅ………?響、さん……?……っ!?お昼っ!?」

 

その途端、私の意識は完全に目覚め、顔が青ざめるのが良く分かるのです。何故なら、眠りに落ちる前にまでやっていた仕事はお昼まで。今、響さんはもうお昼だよ、と言っていました。

 

「へ、へぅー!?急がないと……!?ってあれ?」

 

私らしくない叫びが出たのが分かり、少し恥ずかしいけど、それどころじゃなくて、慌てて筆をとって、口元をゴシゴシと拭って卓に向き合おうとして気付きました。

山ほどあった筈の書簡がすっかり無くなって、卓の上は綺麗に片付いていました。

 

「さっき詠が持って行ったよ。もう少しで終わるところだったから、仕方なさそうに肩を竦めて持って行ったけどね。あ、ご飯持ってくるからちょっと待っててね」

 

何処か可笑しそうに微笑む響さん。ご飯を取りに部屋を出て行きました。

恥ずかしくて顔が熱くなるのが分かります。後で詠ちゃんに謝らなきゃ……。

うぅ……、今思い返してみると、響さんに私のだらしない寝顔を見られちゃったことですよね……。よだれの跡があって、慌てて拭ったけど、多分響さんは何も言わないけど、微笑みを浮かべていたので、ばっちり見ていたのでしょう。とても恥ずかしいのです。

 

「はい、ご飯だよ。今日は私が当番だったから上手くできているかどうか分からないけど、ゆっくり食べてね」

「へぅ♪いい匂いなのです。頂きます」

「召し上がれ」

 

響さんの手作りの料理。なんて甘い響きなのです。私たちのところには専属の料理人はいますけど、音々ちゃんが経費の削減のために朝と夜だけ料理人にお願いして、お昼は私たちの誰がか料理出来る人が変わりばんこで作るって事になったのです。

昨日は朱耀さん。麻婆豆腐のピリ辛で、とても美味しかったのです。

でも、私たちの中で一番人気なのは響さんなのです。五年間、放浪の旅をしていた時に彼方此方の料理店にお邪魔して料理を手伝いながら学んでいたそうで、その味は前に一度食べた宮廷の一流料理人にも劣らぬ味わいで、私たちの胃袋を鷲掴みにして離しません。

 

今回、響さんが出した料理は何でも、遥か遠くの国、草原の中を伸びる絹の道を乗り越えた先にある西羅、大秦と呼ばれる国で作られる料理なんだそうで、丸い生地を焼いたものに山羊の乳を発酵させたものを薄く切って乗せて、トマトをすり潰したものを掛けたものなんだそうです。

運ばれてくる間にも漂ってくる美味しそうな匂いに、お腹がクゥ……と鳴ってしまいました。

 

「ふふっ、私もお腹空いちゃったから一緒に食べよっか」

「へぅぅ………、響さんの意地悪なのです……」

 

顔が真っ赤になるのが自分でも分かります。何となく頬に触れると熱を持ったかのように熱くて。それでも、この時間は嫌いじゃないです。むしろ、もっと長く続いて欲しいのです。

火照りを誤魔化すように響さんの手作りの料理を口に運び、一口食べると、口の中にとても濃厚な味が広がりました。生地は程よく焼けて狐色にで噛み応えのある感触。山羊の乳を発酵させたものは生地の熱でトロトロに溶けて、かけられたトマトが程よい酸味を生み出して、それらが見事に融合した一品でした。

頬が緩み、私の顔が自然と笑顔になるのが分かります。響さんの料理は誰でも一口食べれば笑顔になるのです。詠ちゃんも、霞ちゃんも。華雄さんも、恋ちゃんも。星さん、禊さん、五月雨さん、郝昭さんも。

皆さん、響さんが作る料理の事が好きだと言います。……皆さん、わたしもですけど、女としての尊厳が悉く打ち砕かれ、食べ終わった後に打ちのめされてしまいます。

 

「へぅぅ〜〜♪」

「ん〜♪美味しいね」

「凄い美味しいのです♪響さんの料理は全部美味しくて、もっともっと食べていたくなるほどなのです」

「えへへ、ありがとう」

 

そう言って嬉しそうに、照れたように笑う響さんはとても綺麗です。この人が男の方であると誰が気づくでしょうか。

 

今はうなじで一つに束ねて背中に流している白雪のように純白の髪。とても、サラサラで指通しも気持ち良くて、柔らかくて、女の子なら、誰でも憧れてしまいます。それが風に吹かれて靡く姿は実に幽玄的で幻想的でとても綺麗です。

優しい瞳は紅玉(ルビー)のように煌めく綺麗な赤。

女の子の中でも傾国と言われる人のような整った顔立ちで、肌も白磁のようにきめ細やか。

その肌を保持するのにどんなものを使っているのですかと聞いても、特に何もしてないよと返答がきて、心の底から羨ましいと思ってしまったのです。

体つきも男の方のそれとは思えない程、細く、ある部位が無い所に目を瞑れば女の子としか見えないのです。この間、響さんがお着替えしているところを目撃してしまったのです。慌てて逃げたのですが、響さんの……は、裸が目に焼き付いて、目を閉じるたびにその姿が浮かんで、暫く眠れなくなったのです。

えっと、背中を向けていたので前は見えませんでしたけど、何時も着ている法衣のような服の下も白磁のように白い肌は痩せ過ぎでも無い、無駄な肉が付いていない、滑らかな線。腰は女の子でもうらやむくびれがあって細くて。

その下は恥ずかしくてとても言えませんけど、その、綺麗、でした。あっ、いえ!前はみていません!背中しか見えなかったのです!

へぅぅ……。恥ずかしいのです。ええと、脚も体に合わせて細く、すらりと伸びるその脚。

本当に華奢という言葉が当てはまりそうな身体のどこにあの速さで動ける筋肉があるのでしょうか。

此れは響さんの謎の一つで私たちの中で交わされる議題の一つです。

 

「へぅ♪ご馳走さまです」

「お粗末さま。あ、私は食器を洗うから、もう行くね」

 

私の分のお皿と箸を持って部屋を出て行き、静かになってしまいました。その途端に襲いかかってくる寂しさ。なんと無く、部屋が暗くなったようにさえ感じました。

 

「へぅ……。あ、詠ちゃんに謝らないと……」

 

一人で何もすることが無くて、ぼんやりしていたら、今日の仕事で詠ちゃんに謝らなきゃいけないことを思い出して、詠ちゃんの部屋に向かいます。

 

詠ちゃんの部屋は私の部屋に近いけど、二つ程部屋を挟んだ向こうにあるため、少し歩いて、詠ちゃんの部屋の前に着くと、中で何やら話していました。みっともないですけど、中で話していることは響さんのことのようで、とても気になるのです。

 

「ふぅ……。お昼は本当に美味しかったわね。確か、西羅か大秦で作られた料理なのよね」

「そうですな。私はメンマ好きを公言しておりますが、彼処迄、美味なものは生まれて初めてです」

 

へぅ、詠ちゃんと星さんもあの響さんの料理を食べたのです。素直じゃない詠ちゃんも素直に褒める程美味しかったみたいなのです。

 

「そうやなぁ、病みつきになっちまいそうな味わいやったで。ウチなんか、五枚も食べてしもうたわ」

「食べ過ぎだろう。太っても知らんぞ」

「ふ、ふふ太らへんわ!た、食べた分動いてんねん!」

「太る程食べたくなるのは理解できるさネ。ワタシも減量中なのを忘れてしまう程衝撃的だったからネェ……」

「響どのがご飯を作るようになってから太ったような気もしますぞ………」

 

霞ちゃん……五枚は食べ過ぎなのです。私は一枚でお腹いっぱいです。朱耀さん、そっとしておいてあげてください……。朱耀さんと音々ちゃんの一言が私含めて詠ちゃんの部屋にいる全員に突き刺さったようで呻き声が数人から上がったのです……。

 

「へぅぅ………」

「お?なんや、月やん」

「ふむ、淑女とあろう者が盗み聞きとは感心したしませんなぁ」

 

私も呻き声をあげてしまったので、私の存在に気づかれてしまい、部屋の中へ引きずり込まれてしまい、星さんの一言が私に深く突き刺さるのです。

あ、恋ちゃんと音々ちゃん、華雄さんと郝昭さん、五月雨さんも、皆いるのです。此処にいないのは響さんと禊さんの二人だけ。

 

「月?どうしたの?」

「へぅ、その、仕事の事で……」

「ああ、その事?大丈夫よ。私が取りに来た時はもう終わっていたから。頑張ったじゃない。間違いなんて無かったわよ」

 

へぅ?どういう事なのでしょう?私の記憶では途中で眠ってしまってまだ二巻程目を通していないものがあった筈なのです。

それなのに、終わってたのです?

 

「え、でも……」

「私が行った時にはもう響がいて、月が眠っているから、静かにって教えてくれて、月が終えた書簡を渡してくれたのよ」

 

それって……。響さんは何時からいたんでしょう。響さんは何も言わなかったのですが、響さんが仕事を変わってくれたのでしょうか。だったら、響さんにもお礼を言わなきゃ。

でも、響さんって………。

 

「なんだか、響が母上殿に見えて仕方ありませんな」

「ホンマやな。ウチらが演習で汗かいてきよったら、響も参加していた筈なんに、いつの間にか風呂の用意をしていたり、布の用意をしていたりとなぁ」

「……お兄ちゃんは強くて、優しい」

「それにあの傾国の美貌さネ」

「それに、あの料理の美味さ。……………ちょっと待て、私達、響に負けていないか。女としてどうなんだ………」

 

やっぱり、皆も同じ事考えていたようです。響お母さん………。

でも、その後にまた放たれた朱耀さんの言葉が私達の心深くに突き刺さり、皆項垂れてしまうのです。でも言った朱耀さんも肩を落として項垂れていたのです。

 

「……頑張ろうと思っているのだけれども、勝てる気がしないのよね」

「あ、ウチ、響に勝ててるもの、なんか分かったわ!」

「おお!何ですぞ?」

「ほら、これや!」

 

音々ちゃんに答えるように胸を張って答えたのです。ちょっとよく分からなかったけど、皆暫くすれば、……確かに、とか、そりゃ仕方ないだろとか。

何の話でしょう?

そんな私に溜息を吐いた詠ちゃんが耳を寄せてこっそりと教えてくれる。

 

「胸よ。まぁ、響は男であるのだから、胸が無いのは当たり前であるから、比べるのはおかしいのだけれど、なんとなく共感できてしまうのが癪だけどね」

「へ、へぅぅ……。でも、私も胸小さいし……」

 

恥ずかしくて顔が赤くなってしまうのが分かります。自分の胸に手を置いても、少しの膨らみしか感じられないのです。私はもう16なのです。それなのに、この大きさだと悲しくなります。

響さんは胸が大きい方がいいのでしょうか……。

 

「そんな事無いと思うわよ?響の性格的に大きい小さい関係なく受け入れてくれると思うわ」

「へぅっ!?」

 

詠ちゃんはサトリなのです!?思考が読まれていたのです!

 

「んな訳無いでしょ。月は表情に考えている事が諸に出ているから分かりやすいのよ」

「へぅ、また読まれた!具体的過ぎると思うよ!」

 

そう言うとそっと視線を逸らされました。なんだか納得行かないのです。

 

 

 

わいのわいのと賑やかなひと時でしたけど、ふと気づけば、もう空が橙色に染まり、綺麗な風景を作ります。私は詠ちゃんと一緒にお城の中を散歩する事になり、この場は解散する事になりました。

そして、私と詠ちゃんはのんびりとお話ししながらお城を見て回って、ある塔に登った時、思わず目を奪われてしまったのです。

隣の詠ちゃんも同様で頬を赤くして見惚れていたのです。

 

「響さん………」

 

視線の先には城壁の壁盾に腰を下ろして眼下に広がる、夕日に照らされて美しく染まる草原と山の絶景をいつもの如くお酒を飲みながら眺めている響さんの姿。

時折吹く風に吹かれて靡く、夕日の色を反射して煌めく白銀の髪と裾の短い法衣のような服装がその幻想さを彩ります。

まるで一つの絵のような美しい光景がそこにありました。

ついつい、ほぅ……とため息が出てしまい、それに気づいた響さんが此方を向いて軽く手を振ってきます。

 

いつの間にか見惚れていた事に気付いて顔を真っ赤にして慌てる詠ちゃんを連れて響さんの隣に座るのです。

響さんは何も言いませんでしたが、ふわりと嬉しそうな表情を浮かべて微笑んでくれます。

 

「恋ちゃんはいなかったのですか?」

「音々と一緒に犬の散歩に行ったから今は街の方かな。月と詠はどうしたの?」

「今日は天気が良かったので、散歩したくなったのて詠ちゃんと一緒に散歩していたのです」

「そっか。今日は風も気持ちいいし、散歩日和だね。もう少しで花も咲きそうだしね」

 

響さんに言われて気づいたのは目の前に広がる草原の至る所には小さな蕾が無数にあります。そのどれも膨らんで、今にも咲きそうな気配さえします。

 

「月、詠、知っている?花って、蕾から開くとき、ポンって小さな、綺麗な音がするんだよ。こんなにたくさんの花が一斉に開いたら、どんな音がするんだろうね」

 

落ち着いた詠ちゃんと共にその光景を想像してみます。

目の前に広がる草原からポンって綺麗な音が響いてくる。そんな光景を思い浮かべてみると、なんだか楽しみになってくるのです。詠ちゃんも同じ事を思ったのか、柔らかい笑みを浮かべていました。

 

「………もう此処に来て一年経つんだね」

「そう言われてみればそうね……。もう一年かぁ……」

 

響さんに言われて漸く気づいたのですが、響さんと恋ちゃんが来てからもう一年になるのです。二人とも感慨深げに頷き合っています。

 

今、思い返してみると、色々ありました。響さんと恋ちゃんが来てから、私たちの周りの環境は凄い早さで変化していきました。

響さんと恋ちゃんが来るまでは、荒れ放題で修復しても修復しても、次々と襲い来る異民族によって破壊されて、一向に復興も進まず、亡国もこんな感じなのかなって酷い有様で、次に攻めて来られたら安定は陥ちるだろう、と半ば諦めていたのです。

実際に響さんが来てから侵攻して来た異民族は十万に近い大軍。こんな数に攻められていたら、安定は間違いなく陥落していたと思います。

でも、響さんはその異民族を圧倒的な武で軍の中へ飛び込み、総大将の首を討ち取って、軍を撃退したのです。

 

それから、私たちの変化は始まったのです。

音々ちゃん、朱耀さん、禊さん、五月雨さんの四人の仕官に加えて数万の難民が安定に雪崩れ込んできたのです。でも、これを想定していたのか、響さんと詠ちゃんは瞬く間に難民全員を受け入れて、勢いに乗って街の再興を始めたのです。

 

難民の皆は安定の外に広がる荒地を頑張って開墾して、響さんの指示通りに広大な田畑を作り上げ、響さん率いる兵の皆は近くの川から巨大な水路を作り上げ、運河まで作ってしまったのです。舟が通れるような広い運河を作ったことで人の行き交いや、物資の運搬も楽にできるようになりました。

それに合わせるように商人たちも大勢各地からやって来てはお金や品物を落として行っては、お店を持つようになり、経済も回り始めたのです。其れまでは近くに根城を置く賊を霞さんや華雄さんに襲撃してもらって取り締まるのと同時に物資を没取するという、悪く言えば山賊紛いの事をやってなんとか回せている状態だったのです。

 

異民族の襲来も響さんが率先して迎撃に向かっているので、皆安心して暮らすことが出来るようになり、此処から離れようとする人は居なくなり、むしろ新たに安住の地を求めて集まって続々とやって来てくれるのです。

響さんたちが来てくれるまでは六万か五万の当たりを彷徨っていた安定の人口は一気に三十万近くにまで増え、今もまだ日々続々とやって来てくれます。でも、そのため、音々ちゃんが忙しそうに城内の廊下を書簡を抱えて走っていくのを何度も見ます。

何でも新しい城郭を作るんだそうで、建築の専門の名士を招いては響さんと共に話し合ったりしているのを良く見かけます。

 

そして、最近では星さんの加入。

本当に響さんの人脈はとても広いなぁと思うのです。

五年の放浪の旅でこんなに広い人脈を築けたのは響さんの魅力なのでしょう。私は人見知りなので、その魅力がとても羨ましいのです。

 

最後に、洛陽への召喚。それも帝直々の血書で。

これがこの一年で起こった出来事なのです。

 

でも、この一年で一番変わったのは私たちなのです。はっきりと言うのは恥ずかしいのですが、私たちは皆、響さんに何かしらの好意を抱いているのです。

私と詠ちゃんははっきりと恋情を。気づいていないのかもしれないけど、霞さんと星さんも響さんに惹かれている。華雄さんは武人としての尊敬に近いのです。五月雨さんと禊さんも華雄さんと同じだと思うのです。

音々ちゃんはお兄さんって感じで慕っているようなのです。

 

私は初めて会った時に見惚れて、一目でこの人のことがどうしようもない程好きになってしまったのです。人見知りの私が初めて会う人を好きになるなんて、響さんと会う前ならあり得ないって言っていたと思うのです。自分なんか、詠ちゃんに劣る自分なんか、と顔をあわせるのも恥ずかしくて隠れていたと思うのです。

でも、どうしてか、あの日だけは謁見の間から逃げ出そうという気にはなれなくて。でも、やっぱり自分に自信が持てず、恥ずかしくて。

悶々と悩んでいたら、いつの間にか響さんが謁見の間にやって来て、逃げることも隠れることもできなくなってしまい、固まったまま響さんを待っていたのです。

 

そして、扉を潜って入ってきたのは白き華。

白、という言葉はこの色の事を示すのだと言わんばかりの強烈な印象の白。積もり行く白雪が人の形を取ったらこんな風になるのではないかと思えるほどに白が似合う人だったのです。扉の向こうに沈みゆく夕日に照らされて幽玄に燃える白銀の髪を揺らして入ってくる響さんに私は一瞬で目を奪われたのです。

紅玉か、血を思わせる鮮烈な紅い瞳はちっとも怖くもなく、むしろ、火のような暖かささえ感じるような優しさを灯した瞳が私を映し、体が震えてしまったのです。

でも、恐怖からくる震えではなくて、嬉しい、歓喜による震えだったのです。

何で歓喜だったのか。それは今になっても分からないままです。

ですが、今となっては、あの時、逃げずに彼と向き合えた事は私の糧となり、成長する切っ掛けとなったのです。

 

今まで、私は詠ちゃんたちの意見を聞いて、どうすべきかを相談しながら安定を動かしていました。でも、そこに私の考えはありません。言い出せなかったのです。

政治では詠ちゃんや響さん、音々ちゃんの意見を、軍事は響さん、霞さん、華雄さん、星さんの意見を聞いて実行しただけ。

でも、それじゃいけないと思うのです。それは逃げているだけなのです。正面から向き合って意見を言い合う事こそ、私の目標とすべきことなのです。

だから、私はもう逃げません。

 

「ーーー詠ちゃん、響さん。私は……私は洛陽に行きます。帝の血書に応じます。どうか……、どうか付いてきてください」

 




他にもリクエストあれば、どしどしきてください!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。