天下に響く風   作:霧のまほろば

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今話は洛陽の変動に対する月の憂いと決意を書いています。
そして、月が王として覚醒する回でもあります。

月のキャラクターがズレ始めますが、基本的はそのままですのでご了承ください。


第12話 王の決意

「はあぁぁぁ!?洛陽やて!?」

「正気か!?あの十常侍を、だぞ!?」

「そうなのです。もう……、私は逃げないのです」

 

目を見開いて叫ぶ張遼と華雄。鬼気迫る表情であり、以前の董卓なら、怯えて、玉座に隠れてしまっていたことだろう。

しかし、今の董卓は一味違う。完全に覚悟を決めた表情の董卓だ。二人の鬼気迫る表情にわずかに気圧されるも、目を閉じて、開いた董卓の顔は正に『王』だ。

儚い雰囲気の少女の姿はそのままに、皆の上に立つべし気風を持つ少女の姿へと成長していた。『優しい王』であるが、それが董卓なのだ。『慈愛』の王。それが董仲穎だ。

史実とは正反対の性格であるが、それが彼女らしい。

 

「私が動くことで少しでも争いが少なくなるのであれば。平和が少しでも近づけるのならば。………喜んで洛陽に向かうのです(命に代えてでも、なのです)」

「月。命に代えてでも、……なんて思っているよね?」

「ッ!?」

 

心の奥深くに秘めていたのに、あっさりと呂風に見破られる。疑問符付きであるが、確認のためであり、呂風はもう確信していた。

月は万が一の時は自身の命を投げ打つつもりだ、全ての責任を負って犠牲になるつもりなのだと。

紅い目に見据えられ、ビクリと震える董卓の肩がそれを顕著に表していた。

 

「月!そんなこと……、そんなこと、認めないわよ!」

「でも……っ!私には、何もできない!詠ちゃんみたいに頭は良くないし、響さんみたいに強くない!そんな私が出来るのは、皆のために盾になることしか……!」

 

悲痛な叫びだった。覚悟を決めたとしても、哀しきことに董卓の能力は董卓陣営の中では秀でた所は少なかった。至って言えば平凡の域を少し越えた辺りであり、それがどうしようもなく悔しかった。

此処で彼女の擁護をさせてもらうが、『彼女は至って平凡の域を少し越えた辺りである』とあるが、文官としてはむしろ、優秀の域にあり、その儚い見た目の容姿に反して、武芸にも長けるものである。確かに呂風や賈詡たちのように突出した才は持っていないが、呂風たちが加入する前は董卓自身が鉈を持って『熊狩りや鹿狩り』に出かけて食費を賄ったり、賈詡と共に安定の政を司っていたこともあるくらい、実は剛胆な少女なのだ。少し、臆病であるだけで、やる時はやるのが董卓だ。

 

しかし、董卓の陣営にいる将は揃いも揃って突出した才を持つ天下に名だたる名将、英傑となる大器が揃い、その中では董卓が如何に優秀であったとしても影に隠れてしまう。

 

なにせ、武では天下無双の、人類最強最高峰の武人、呂風。

次点に人中の呂布。

更に驍将の張遼。

突撃の破壊力は呂布にも引けを取らない華雄。

そして、遊軍の将として極めて優秀な趙雲と李傕。

隠密の名手、郭汜。

防衛戦の名将、郝昭。

 

智慧では、史実で曹操を追い詰めた智謀を有する名軍師、賈詡。

軍師としては未熟であるも、政治では非凡な才を発揮する陳宮。

かの司馬徽の手ほどきを受け、『鎮風』の雅号をつけられた呂風。

 

此れだけ天下に名を知られる英傑たちで勢ぞろいしているのだ。

はっきり言ってしまえば、呂風の方が総合力で董卓を遥かに上回っている、『王』に相応しい能力を有する。それこそ、かの『古覇王、項羽』に肩を並べ得るほどに。かの『大軍師、太公望』に例えられるほどに。

実際、民の中には、君主に呂風を望む人も少なくない。酔った勢いでポロリと零す声があちこちから聞こえる。

しかし、呂風はそれを望まない。人のために、人に尽くすのが好きだから。董卓に尽くすのが好きだから。故に王となろうとしない。

だから、呂風は董卓に静かに語りかける。心に染み入る涼風のように。

 

「月。私はね、こう思うんだ。人に無能の人材なんて居ないんだ。どんな人でも、必ず秀でた部分があるんだ。それを見つけ出して、それを上手く使えるかどうか、上手く使えるところにいるかが肝要なんだ」

「でも………」

「確かに、月は詠みたいに策略を張ることは難しいかもしれない。恋みたいに方天画戟を振り回せないかもしれない。でも、月には月にしか出来ないことがあるでしょ?」

「へぅ………。私にしか出来ないこと……?」

「うん。月にしか出来ないことだよ」

「へぅぅ……、分からないのです」

「ふふ、それはね、教えてもらっちゃ、意味の無いことなの。自分で気づかなきゃ、月の自信にならないからね」

 

頭の上に渦巻き模様を浮かべて頭を悩ませても分からない董卓。しかし、呂風はそれに怒るでもなく。優しい、我が子を見つめるかのような眼差しで諭す。いや、諭すというよりも説くの方が近いのかもしれない。

ふわりと心地いい風を思わせる微笑みを浮かべて董卓の頭を優しく撫でる。

 

「へぅぅ…… ♪ 気持ちいいのです…… ♪」

「やっぱ、響って、オカンやなぁ」

「そうさネェ。包容力がとんでもないさネ」

「響お母さん……」

 

ボソリと張遼が呟き、郭汜の言葉に激しく同意する一同。

それを聞き逃すことは出来ない呂風。彼にも男子としての矜持があるのだ。

 

「ちょっと!?なんで私がお母さんってことになっているの!?百歩譲って言うなら、お父さんでしょ!それかお兄さんでしょ!」

「お父さんなんて無理よ。お兄ちゃんよりもお姉ちゃんよ」

「即答っ!?」

 

顔を赤くして叫ぶが、賈詡に一発で叩き切られ、如何にも衝撃ですと言わんばかりによろける呂風。

彼女……いや、彼は自身の容姿や女子力の高さに自覚を持っていないのだ。いや、容姿には街の中でも散々言われ続けてちるため、いつか髪切ってやると意気込むが、髪を切ろうとする度に董卓を筆頭に董卓陣営の面子に必死に止められるため、未だ伸ばしっぱなしなのだ。精々、賈詡が呂風の髪を整えるために少し切る程度だった。切った髪は捨てられず、誰がか保管しているという噂もあるとか無いとか。

 

なので、今、呂風が男らしくするためにやったことは袴を履いたくらいだ。その悩みを聞いた張遼から袴を数着譲ってもらい、それを履いただけだった。

体を鍛えても、なんの因果か、筋肉らしき筋肉が肌に浮かぶことは無く、滑らかな肌のままだった。哀しきことかな。

 

「なんでって、なぁ?」

「そうだな」

 

生暖かい視線を一同から浴びて思わずたじろぐ。

容姿は然り。包容力も然り。家事能力も然り。武力が天下無双な所には目を瞑るとすべてが完璧な女性を表し、もしも、此処に呂風が男であることを知らない男性がいたら、挙って求婚を申し出るだろう。

その事を言外に、視線に含ませて呂風に飛ばす。すると、ジワリと目尻に涙を滲ませた呂風の顔が。

 

「う、うぅ〜〜!……もう、ご飯作ってあげないっ!」

「そ、それは困るわよ!?」

「せやせや!うちらの楽しみの一つを奪うつもりなんか!?」

「お兄ちゃんのご飯……。食べれなくなるの……?」

「へぅぅ!」

 

ぷいっと非情な宣言をしてそっぽを向く。

想像外の反撃を食らった董卓陣営に動揺が走り、一気に姦しくなる。週一の頻度で当番を交代しながら出る呂風のご飯はダントツで人気の高いものであり、これがお母さんと呼ばれる原因の一因であった。

完全に呂風のご飯に胃袋を掴まれた董卓陣営にとって、呂風のご飯が食べれなくなるのは生命線の危機とまで言っても良いほどなのかもしれない。何も言わなかった華雄たちなぞ、白目を剥き、気絶しかけている程だ。

 

「私たちが悪かった!謝るからご飯は作ってくれ!」

「そうなのですぞ!響どののご飯を食べれなくなったら音々たちは飢え死にするしかないのですぞ!」

「わ、わかった、わかったから!」

 

涙目になって土下座せんがばかりの勢いで頭を下げられる。それはもう、見事なまでに同じ拍子に下げられる様は一種の芸術の域にあるほどである。

命に関わるとまで言い切られては、作らない訳にはいかなかった。

料理人を怒らせれば飢え死にするしかないのだ。

 

冒頭の真面目さがどう間違えればこんな結果になるのか。奇なりことよ。

 

 

 

 

「そういえば、なんの話をしていたんだ?」

「…………確か、洛陽がどうのだったかしら?」

「ーーー全く、漸く落ち着いたのね。入ろうにも入れなかったからどうしたものかと」

「………!矢文を放った人……」

 

突如として会話に入ってきたのはいつの間にか扉に身を預ける女性から。その容姿から賈詡の部屋に飛び込んできた、帝の血書を乗せた矢を放った武人だと気づく呂風。

突如現れた女性に警戒心を露わにした董卓陣営の将。賈詡と陳宮、李傕が董卓の周りを固め、郭汜が鋼鉄の紐を取り出していつでも飛びかかれるように構える。張遼と華雄も素手であったが、身構え、呂布も目を細くし、自然体を装って拳を固めた。

 

「………大丈夫。この人は敵じゃないよ」

「そうよ。私は朱儁。陛下の勅使、と言ったところかしら。本来ならば、謁見の間で話すべきことなんだろうけど、内容が内容だから、こうして、此処まできているのよ」

 

朱儁。字を公偉。洛陽軍を統べる何進大将軍の配下にして、現在、驃騎将軍の官位を叙されている英傑。慮植、皇甫嵩と並んで、洛陽の三将軍と呼ばれる中でもバリバリの武人路線であり、洛陽一の弓の名手である。

帝に対する忠誠心の厚さで帝の身の回りの世話を任されている程の彼女が何故此処に?

勅使という、帝直接の言葉を語る使者であるため、慌てて畏る董卓たち。しかし、彼女は手をひらひらと振って畏る必要は無いという。

 

「ああ、勅使と言っても、正式なものじゃないからかしこまらなくていいわ。朗報と凶報の二つがあるのよ。まず、朗報は呂風殿たちの推薦によって、華佗殿が陛下直属の医官となって、陛下の容態は少し安定したわ。そこは感謝の念に堪えないわね。本当にありがとう」

「そっか、華佗はもう着いたんだね」

「ええ。到着するなり、五斗米道とか叫んで後宮に向かったときは焦ったけど、治療の腕は確かだったわ。………でも」

「只の時間稼ぎにしかならない……だね」

 

よかったとばかりに胸を撫で下ろす呂風と賈詡だったが、朱儁の晴れない表情を見る限り、事態はまだ好転していないようだった。

呂風の言葉に肯定の意味の頷きを返す朱儁。

其処まで帝の容態は悪化していたという証左にしかならない。

 

「華佗には悪いことしちゃったなぁ……」

「いえ、彼は良くやってくれているわ。洛陽一の名医でさえ、匙を投げる程の容態を立て直しかけているのだから、非常に優れた医師よ」

「そういうことは彼に直接言ってやって……あ、言わない方がいいかな」

「ええ、そうね。彼ほど暑苦しいのは初めて見たわよ。其処だけは恨むとこね」

 

華佗は今、自分の無力さを嘆いているのかもしれないと思うと罪悪感を感じてしまうが、朱儁が罪悪感を吹き飛ばしてくれる。

しかし、彼の暑苦しい性格を考えるとわずかにしか好印象を残さないのが玉に瑕だった。

愚痴を言ってくる朱儁だったが、口角がつり上がっていたので、本気で言っているわけじゃなく、只の言葉の投げ掛けだ。

ふぅ、とため息を吐くと武人然とした表情をさらに引き締め、険しい表情を作る。これに只ならぬ事態を悟る。

 

「さて、凶報なのだけど……、陛下が董卓殿に宛てた血書の存在が十常侍に勘付かれたわ」

「ーーーっ!」

 

最悪の事態に息を飲む賈詡。郭汜と呂風も何も言わないが表情を強張らせる。

しかし、朱儁はパタパタと手を振ってまだ最悪では無いと否定する。

 

「幸い、誰に宛てて、何を書かれたものなのかまでには気づかれていないようだけど、今は最も力を付けている何進大将軍に疑いの目を向けているそうよ」

「でも、気づかれるのも時間の問題、だね。今しばらくは動かない方がいいのかな。あ、現状維持かな」

「それが無難ね。しばらくは十常侍と何進大将軍の争いに落ち着くでしょうけど、あの十常侍のことだから、直ぐに動きを見せることでしょう」

「そうね、権力に囚われた人って何をするか分からないものだわ。私の方でも情報を集めておくわ。……お願いね。五月雨」

 

董卓軍随一の隠密の達人である郭汜ならこの役目は最適であると判断した賈詡の意思を汲み取って五月雨が前に出る。そして、軽く腕と脚を伸ばして、李傕の方を向いて、今生の別れのような表情で向き合う。

 

「あい。慎重に動くとするさネ。禊、暫く留守にするさネ」

「寂しいさ〜。ま、俺はバカだから何の話かは知らないけど、そんなに良い話じゃないことはわかってるつもりさ。……気をつけろよ、五月雨。今の話が本当なら、洛陽は今までに無いほど危険な状態さ」

「勿論さネ。無茶はしないさネ。マズイと思ったら尻尾巻いて逃げるから安心してほしいものさネ」

 

おちゃらけた雰囲気から一転して鋭い視線を投げかける李傕。彼は確かにアホでバカであるが、戦場の雰囲気を感じ取る才能はずば抜けていた。

そんな彼が真剣に告げるということは、最早洛陽は戦場も同然であった。

今生の別れのようにきつく抱擁を交わし、軽く口づけをしたら、郭汜の姿は霧のように霧散して消える。呂風の探知範囲にも引っかからないことからすでに郭汜は安定の外へ出たことだろう。凄まじい疾さだ。

 

「ふぅ〜。あ、後、もう少ししたら、陛下が直々に董卓殿を洛陽に呼び寄せられると思うわ。時季にしては……そうだねぇ、秋を過ぎた頃かな。ま、勿論、陛下が其れまで保てばだけど」

「へぅ、分かったのです。私たちは其れまで準備しておくのです」

「それが吉、ね。さーて、私も急いで洛陽に戻らなきゃね。あ、朱耀が生きていた事は黙っとくわね。本当に生きててよかったわ……じゃあね」

「ああ、またな。……小々波」

 

挨拶もそこそこにさっさと部屋から出て行く朱儁。もし、余裕があるのならば、呂風と矛を交えたかったことだろう。天下無双の武人と戦えるのは、今や名誉とさえ言われるほどにまでになった。それ程にまで呂風の残した武勲は凄まじいものがあるという事だ。

だから、部屋を出るときに羨ましそうに張遼たち武官を見て、名残惜しげに呂風の方を見てから出て行ったのだろう。

そして、さらりと流してしまったが、朱儁と高順(丁原)はかつての同僚であり、互いに武を競い合った仲である。ポツリと高順が呟いた朱儁の真名はしっかりと朱儁の耳に届き、嬉しそうな笑みを浮かべて去っていった。

 

「………さて、朱儁さんもいなくなった事だし。ーーーお説教だよ♪月」

「へぅ!?」

 

にこにこと浮かべる柔らかい微笑みが一転して悪魔の微笑みになる。

只ならぬものを感じ、思わず後ずさりするも、トンと何かとぶつかる。後ろには誰がいた?

顔を蒼白にしてゆっくりと振り向くと。

 

「ーーーそうね、お説教だわ♪月、覚悟はいい?」

「へ、へぅぅ………」

 

額に青筋を立てて表情に陰を作った笑顔で、呂風とともに董卓を挟んで立つ賈詡がいた。

笑顔の二人の修羅に挟まれて涙目になって助けを求める視線を動かすも、一切視線を合わせてくれず。趙雲や張遼なんか、冷や汗を流して、サッと視線を逸らし、華雄や高順と李傕は手を合わせて冥福を祈ってくれやがり、郝昭と陳宮は抱き合って、体をぷるぷると震わせて二人の放つ重圧に怯える。残る、呂布といえば。

 

「……お兄ちゃん……なんでお説教……?」

「それはね、………『命に代えて』なんて馬鹿を考えているからだよ」

「……ええ、そうよ。月がいなくなったら、私たち、皆バラバラになってしまうわ。そんなの……認められる訳ないじゃない」

 

悪魔の微笑みから悲しげな笑みに変わり、そっと董卓から視線を外して俯く。賈詡も同様に俯く。しかし、身長の関係で董卓から賈詡の顔は見え、その目に薄っすらと涙が浮かんでいるのを見て、董卓は罪悪感で心が締め付けられるのを感じた。周りを見ると呂風と賈詡と同じような表情を浮かべる自身の配下の皆。趙雲と呂布は呂風の配下であるが、同じように悲しげに眉をひそめる。

 

「響さん……、詠ちゃん……。皆……」

「だから!私は……いえ、私たちは月のために尽くすわ!月を死なせないために!」

「当たり前だよ。王は臣下が死すとも、その歩みを止めてはいけないの。頂に腰を下ろす時まで歩き続けるのが王だから。私たちはその王の盾と矛だから。暗殺や誅殺も私たちが防ぐ」

 

涙を振り払って宣言然と言い放つ賈詡。

洛陽は陰謀と暗殺、闇討ちといった影の手段が蔓延る、言わば政治家にとって魔都と言っても差し支えない所だ。其処に、十常侍を排することを目的とする董卓が入り、血書を知った十常侍なら彼女の目的に気づき、董卓を排そうとするだろう。それを防ぐのが賈詡や呂風たちの役目でもあった。

そして、呂風は独自の論理感による王を説く。しかし、それに反論するのは董卓だ。

 

「へぅ、響さん、それはダメなのです。平和な世になるまで皆生きていなければダメなのです!平和な世になって、皆で笑いあって、皆が自分の子供を作れて、おじいちゃん、おばあちゃんになって。次の世代に引き継げるその時まで、誰一人も欠けることは許さないのです!」

 

ーーああ、やはり、董卓は『慈愛の王』。優しい王。月の真名の通りに、この乱世という夜の闇の中に差し込む青白い光。それに導かれて私たちは此処に集まった。此れは運命なのだろうか。いや、必然であったと願いたい。

 

「ふふ。御意に、我らが王よ……かな♪」

「へぅ……!」

 

董卓の手を取って臣下の構えを取る呂風。悪戯っぽい笑みを浮かべた科白は董卓を夢幻に誘うのに十分すぎる威力を発揮してしまった。

顔を真っ赤にして頭からポフッと湯気を立てて倒れる董卓だったが、床に叩きつけられる前に呂風が抱き抱えて董卓の寝台に横たえられる。

彼女の表情はなんとも幸せそうに緩み、時折えへへ、と笑みをこぼすことから微笑ましい夢でも見ていることだろう。

 

「おやおや、罪な人ですなぁ」

「うっさい。それ、自分にも言ってごらんよ。同じことが言えるの?」

「はて?」

「………惚けるのも上手くなったよね」

「褒め言葉として受け取っておきましょうかな」

「褒めてないよ。あ、そうだ。いいお酒が入ったんだけど、後で飲まない?」

「おお、それは是非とも。では、私は秘蔵の………」

「メンマ以外のもので。メンマで来たら叩くよ」

「そんな殺生な!?体の半分がメンマでできている私にメンマを食べるなと!?」

「他にも新しい好物を見つけてみたら?」

「では、響の手料理を食べたいものですなぁ。前に食べて以来妙にやみつきになってしまったようで……」

「じゃあ、何かつまめるものでも作っていくよ。んー、いつものところでいいかな?」

「はい、楽しみにしておりますよ」

 

半年程見ているいつも通りの主従の掛け合い。趙雲が揶揄い、呂風が返す。その何気ない掛け合いが賈詡にとっては助かるものだった。……さりげなく手料理をねだるところには釘を刺しておかねば、と思うが。

董卓を取り巻く環境は今、急激に変わろうとしている。主の意思とは関係無く、洛陽の中枢の様々な思惑によって踊らされようとしている中で不変のものがあるということは何よりの救い、光明のようなものだった。

願わくば、立場が変わったとしても、この絆だけは不変を………。

そう願わずにいられなかった。

 




月はあの儚い少女でありながら、熊狩りをする少女であると判明。
臆病な性格でありますが、いざというときは滅法強い少女です。

響は武だけではなく、生活面でも最強(母)
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