天下に響く風   作:霧のまほろば

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今回から黄巾の乱が本格的に始まります。
ですが、その前に張遼視点の閑話が入ります。
もどかしいかもしれませんが、少々お付き合いください。


第15話 黄巾の乱 大軍鳴動す

 

張遼side

 

洛陽に無事に到着したウチら襲ったのは黄巾の大軍。

見渡せる限り、十数万はいる。黄色の頭巾の波。不気味な蠢きを轟かせながら洛陽郊外に迫りつつある、と物見の兵から急報やったわ。不気味な蠢きってゆーのが気になるんやけど、十数万の軍勢ってちとマズイんちゃう?ウチらは到着したてで体勢も整ってへんし、疲労も半端ない。洛陽の兵士は頼りにならへんし………。

 

「そんな………!?なんで、こんな時に……!」

「詠ちゃん!響さん!皆!直ぐに迎撃をお願いします!全権を詠ちゃんに委譲、呂風軍を除く全軍の指揮を任せます。響さんは響さんの軍を率いて迎撃してください!ーーですが、全員生きて帰ってきてください!」

 

慌てふためく詠やんを落ち着かせるように凛とした声が響いた。あの普段の儚い少女の姿はそこには無くて、一人の『王』の姿やった。

馬車から降りて、足りない身長を馬に跨る事で誤魔化していても、その澄んだ声はウチらに響き渡った。

その声が聞こえた途端、ウチら呂風軍の兵士の皆が戦闘用意を進めたんや。疲れたような顔は何処かへ吹っ飛んで、一人一人が戦士よ顔やったで。

全く、頼りになる奴らやな!

 

「分かった!」

「了解!ーー恋、星、霞。直ぐに出られるよね?」

 

詠やんが、響が頷いて、詠やんは月が率いる軍の所に行って、響はウチらの所に走って………うわ、めっちゃはや!?え?さっきまでめっちゃ遠いとこにおったよな?なんで、もう此処にいんのや?

あ、返事しておかんと。

 

「おっし、ウチらはばっちしやで!隊の兵士たちも準備進めとるからあと少しあれば終わるやろ」

「私の方も同様ですなぁ。私が響に仕えてからの初めての大戦。腕が鳴りますな」

「………ん、頑張る」

「うん、流石!準備が出来た隊から蜂矢の陣に布陣して。詠が率いる弓弩隊は壁の上から攻撃する手筈だから、連携が大切だから気を抜かないでね」

 

ふわり、と華が咲いたかのような笑顔を見せてくるもんやから、顔が熱くなるのが分かる。

うぅ……、不意打ちは卑怯やで……!ウチだけやなくて、星や恋も顔を赤くしとるし……。唯一平気やった音々……あ、反応遅いだけかい!アカンな、全員やられとるわ。

 

ウチも響の前では一人の女っちゅうことやなぁ。いつからこうなったんやったけ?

そうや、あんときからやったな。

 

 

 

 

安定で一人の将軍として月に仕えていた頃のことやった。

晋陽で朱耀の姐さんのとこにおった時、洛陽に用事があって、姐さんと一緒に訪れた時、滞在していた屋敷を訪れた二人の少女、月と詠やん。それがウチの運命の分かれ道となるとはこん時は思いもよらんかった。

まぁ、あれこれやっていたら、二人の力になりたいって思うて、姐さんに頼み込んだら、「うむ、行ってこい」ってな、一言ですんなりと通って、晴れてウチは安定に来れたんや。

 

安定に来てから一年とちょいとくらいか?ウチの後に仕えた華雄と一緒に幾度もなく侵攻してくる奴らと戦っては追い返して……。侵攻を受ける度にボロボロになっていく安定の城郭を見るたびに遣る瀬無い気分やった。

月や詠やんが必死に街を立て直しても、襲いかかってきたら振り出しに……いや、人死にが出てるんやから、悪くなっていく一方やった。人手が余りにも足らんかった。月、詠やん、ウチ、華雄の四人だけで何とか此処まで来れたのは奇跡としか言いようが無かったと思う。もしもウチら以外の奴らやったら滅んでいたんちゃうかな。

 

もう限界を感じていた頃にやってきたのは西羌の奴らの侵略。既に長城を超えたってな。慌てて軍を整えて出陣したら、西羌の奴らは全滅しとった。千人程の軍が一人の逃亡者すら出さずに全滅。

それがどれほど異常なのかは一目見ても明らかやった。

そして、今までの人生で一番の驚愕なんは、コレをやったのはたったの二人。

 

かの【武神】、【飛将軍】やった。

新雪のように真っ白。そうとしか言いようのあらへん綺麗な白い髪と紅玉を思わせる赤い瞳。ふわりと微笑むその容姿は人形か天女を連想させ、ウチも見惚れてしもうた。

せやけど、そんなモノ、一瞬【武神】と目が合ってしもうた時、直感でウチらの全滅と死を感じて吹っ飛んでいった。手に持っとる馬鹿でかい双槍で瞬く間に何も出来ず、首を跳ね飛ばされ、或いは真っ二つに切り裂かれる、そんな死の幻覚さえ見てしもうた。

今までにも何度か実力者と対峙すれば、未来予知とまではいかなくとも、実力を測ることができる。せやけど、この【武神】はそんな実力者とは格が違い過ぎる。桁が違うと思い知らされる。これ程にまで濃厚な敗北の想像が浮かぶのは初めてやった。目を合わせただけで体が死を感じて恐怖を覚えるんは。

 

此れが二つ名に神を冠する唯一の武人。

此れが【武神】。

 

ーー格が、桁が違いすぎる。

 

全身の毛が逆立ち、鳥肌も立って本能が危険や、コイツって警鐘鳴らすけど、なんとか体の震えは抑えて華雄の方を見ると、赤髪の子に……こう、海老反りっていうんか?で頭から落とされていたとこやった。

……え?華雄生きとるよ、な?地割れできとるし、陥没しとるし。人からなっちゃアカン音も聞こえてしもうたし。ゴギッてかメギッてか。絶対骨折れとんやろ。

あ、よかった、痙攣しとるし、生きとるな。まぁ、気絶すんのは何時もの事やし、馬に乗せときゃええやろ。

 

 

内心冷や汗ダラダラで話しかけてみた。

赤髪の子は妹で、基本無口の甘えん坊やった。兄……この容姿を兄って言うのは違和感半端ないんやけど、一応男らしい。男でコレって……。敗北感が凄まじいんやけど……。

 

ウチらんとこ来てみぃひんかと誘いをかけてみると、顎に手を当てて数瞬迷っていたみたいやけど、直ぐに来てくれるって決めてくれたのは有難いやっちゃなぁ。

そこらへんで怯えて嘶く馬を適当に見繕って、あっという間に宥めすかしてはひらりと体重を感じさせない動きで飛び乗ったのは流石としか言いようが無かった。妹の方も同じやったから思わず声をあげてしもうた。

首を撫でて何か呟くと気持ちよさそうに嘶いて鼻を鳴らすと怯えていたのが嘘のように従順になっとるんはビックリしたわ。

それだけやなくて、ウチらとともに響も走れば誰も乗っておらん馬もついて走ってくる。

確かに馬は群れで生きる生き物やけど、それでも走る最中やと、逸れたり、いつの間にか居なくなっていたり、とそれが普通やった。

せやけど、響と恋が乗る馬には何処までも付いてくる。どんなに速度を上げても必死についてこようと脚を動かしてくる。何やら執念めいたものすら感じた。

 

せやから、問うてみたんや。なんで付いてくんのや?ってを

答えは何とも自然の摂理を感じさせるものやった。

「私と恋が乗っているこの子は女の子なんだ。まぁ、在り来たりに言えば、群れの頭なのかな。だから、男の子は女の子が走れば追うし、止まれば止まるんだ」

なるほど、と納得した。

これが酒場のおっちゃんが言っていた、綺麗な女が服を肌蹴て歩いているのを見れば何となく目で追ってしまうのは悲しい男の性というものだ、と言う言葉を思い出した。

 

多分やけど、響は深い意味を知らない。生態の観察をしてこういう結果になったんだと思う。深く他人と触れ合わなかったからなのか、この年では信じられないほど純粋やった。

悪戯で、わざと抱きついてこの大きく実った胸を当てて見れば、顔を真っ赤にして逃げ出すっちゅう、かーわいい反応を見せてくれるモンやから、楽しいもんや♪いじり甲斐があるもんやで♪

戦で偃月刀を振り回すとき、こないな大きい胸、邪魔になるだけやと思っていたんやけど、こんなかーわいい反応を見れるんなら捨てたもんやないって思える。

 

でもな、こんな可愛い響でも戦場に出たら、鬼、鬼神と間違う程、圧倒的な強さを誇る。

ウチや華雄なんて比べもんにならへん。

ウチが偃月刀を一回振り下ろす隙に、響はあのおっきい双槍で数閃も煌めかせとんのや

その度に舞い上がる赤い華、と首や胴体。多分、響と出くわした敵兵は幸運やと思う。

なんでやって?簡単な事や。響は確実に敵を殺すんや。苦痛を与えることなく、一閃で死を与える。徒らに手脚を斬って痛みに悶え苦しまへんで、むしろ、自身が斬られたことにすら気づかないまま死に絶えとる。

 

響が初めてウチらと共に敵軍と戦うた時、ウチは背筋が震える思いやった。響から発される戦意が圧力となって戦場を覆い尽くし、一瞬夜になったのかと錯覚するほど濃い殺気。

呼吸すら思うようにならんて、空気が欲しいっちゅう自分の意と反して浅い呼吸しかしてくれへん。

短い気だめの声と共に振るわれる槍の一閃は瞬く間に十数人の命を散らし、大地を紅く染める。

 

人の範疇を超えた武。

此れが武神。

此れが乱世の化身。

此れが鬼神。

 

戦場に咲き乱れる白き華には赤い汚れなんて付かず、太陽の光を反射して白く輝く髪が流れるように靡き、幻想的で美しく舞いながらも死を齎す。

それが如何しようもなく恐ろしくも美しくて………。如何しようもなく見惚れさせる。完成された武と言うべき、この白き華は。

ウチを何処までも魅了する。胸が高鳴り、胸の奥がじゅんと疼く。

 

でもウチはその時、こんな気持ちが何なのか全く知らへんかった。初めてやった。こんな気持ちになるんは。

……此れが恋やと気づいたんは、この時から半年も経った頃や。響や恋が入って、匈奴の奴らを完膚なきまでに叩き潰し、暫くして音々や朱耀の姐さん、禊、五月雨も加わって、異民族の奴らも大人しくなった頃やった。……まさか朱耀の姐さんが響と恋の知り合いやったとは知らへんかったわ。それに、月を支えてくれるとは思わへんかった。

ま、そないなことは置いといてぇな。

いつも通りウチは酒場巡りをしとった時、偶々お気に入りの場所で響とばったり出くわしたんや。

既にウチは二つの居酒屋をはしごした後で、程よい酔いの感覚に浸っとった。

体が酒でポカポカと暖かくて、瞼も重くて、この居酒屋で飲んだら、酔い潰れて寝てしまうやろなと思うてたら聞き覚えのある声が聞こえて、目が覚めたんや。

 

「あれ、霞?」

「おー!響やん!奇遇やなぁ!響もここの酒屋なん?」

 

酒壺を二つ腰にぶら下げて、チャポンと酒が入っとる音を立てながら歩いて来たんや。ウチと響は無類の酒好きでよくよく街を練り歩いているんやけど、安定の街のやつらも酒好きが多くて、酒屋も通りに多く建てられていつも賑わっとる。今回ふらりとやって来たんは安定の中でも居酒屋が集まっとる一画。

そんなかでも中々美味い酒が揃ってるってな評判の店や。

 

「うん、いつもお酒飲むときは此処で飲むんだ。此処はお酒も美味しいけど、つまみも美味しいんだよ」

「ほー、響がそう言うんなら、此処は当たりやな!」

「あっ、呂風さま!今日は何を所望ですか?」

 

嬉しそうな響きの女の子の声。ん?と思うてそっちを見れば、手ぬぐいを頭に巻いて長い黒髪を背中で一房に纏めて、ニコニコと笑顔を浮かべた女の子やった。この反応を見るに、響は何度も此処に足を運んとるようやな。ウチが店をやっとって、響が常連やったら、うれしいやろな……って何いうとんねん!ウチは武将やろ!将軍やろ!

あ、でも……響の帰りを待つってのもええな………って違ーーう!!

 

「うーん、清酒かなぁ。良いの入ってる?」

「はい!それなら、丁度幽州の琢群のお酒が入ってますよ♪」

「わ、彼処のお酒、美味しいんだよね♪うん、それをいただこうかな。おつまみもお任せでいいかな?」

「はい♪こちらへどうぞ♪」

「行こっか、霞………霞?どうしたの?」

 

ほえ?

自分の世界に入り込んでたウチを引き戻したんは、視界たっぷりの響。クリクリした綺麗な赤い瞳が目の前にあって、鼻なんか、くっつきそう………あ、くっついてもうた。

そして、おでこに違和感………、あ、響のおでことくっついとんのかー。お、ええ匂いやわぁ〜。お、今日は石鹸みたいやな。

へー、ほー………?〜〜〜っ!?

 

「な、ななな、なにさらしとんねん!?」

「え?だって霞の顔、真っ赤だよ。お酒も入っているからなのかもしれないけど、体調悪いとか無いかなって思ったんだけど………」

 

ズザザ!とばかりに後ずさりしておでこを抑えて自分でもわかるくらい顔を真っ赤にする。こういう時、発揮される響の天然さにはほとほと参るで。恋も純粋やから、響の天然も普通だと思っとる節があるんやろな。

ていうか、熱っ!あっ、下駄、焦げてるやん!あーあー……この下駄、お気に入りやったんやけどなぁ……、とほほ。

 

あ、でも響のええ匂い嗅げたし、おあいこやっちゃな。え?響の匂いはどんな匂いかって?んー、その時その時で少し違うけど、赤ちゃんの匂いか、石鹸の匂いやな。後、時々香を焚いてんのかな、花の匂いや。

ほんまに羨ましいわ。ウチなんか、酒の匂いしかせぇへんって恋に言われた時は流石に凹んだで。

その、な?響に酒ばかり飲んでるって思われたくないやん?(手遅れ)だからこうして人前に出るん時は香を焚いて匂いを染み込ませた羽織を羽織るんや。偶に詠やんに文句言われるんは堪忍な。

 

「な、なんもあらへんよ?……ほな、飲もか!」

「わわ!?自分で歩けるから引っ張らないでー!わぷっ!?」

 

ぐいぐいと引っ張って娘さんが案内する席に歩いていく。そしたら、ポフッと響がウチの腕に抱きついてきたんや。その途端、包まれる響の石鹸の匂いと響の体の感触と暖かさ。響、めっちゃ柔らかいわぁ。これって、女の子とまちごうてもおかしくないで。いや、知らへん奴から見たら女の子にしか見えへんやろ。うん。音々たちも初めて見た時は女の子とまちごうてたしな!

 

って、現実見いや!現実逃避してどないすんねん!

内心、あたふたと動揺しても、お姉さんなんは、ウチや。やから、冷静なフリして響の方を向くと、誰かに背中を押されてよろめいてウチの腕にしがみ付いただけやったみたいや。

向こうを見ると、ウチの配下の兵士がこう、自慢気な顔……ドヤ顔っていうんか?で親指を立てて白い歯を見せとったんは余計なお世話やったけどな!

ホッとする反面、悔しいという感情も浮かんで、チクリと胸の奥が痛んだんや。なんやろな、この感じ?

 

「わわ!霞、ごめんね、大丈夫?」

「ん、ウチは何ともあらへんよ。響の感触を楽しめたんやから、お得やなぁ?」

「ーーーっ、もうっ!」

 

ニヤニヤと笑って揶揄うと顔を真っ赤にして頬を膨らませるっちゅう可愛い顔を見せてくる。勿論、手は腰に当てて、如何にも怒ってますって感じやったんやけど、響がやると怖いよりも、可愛いと思うてしまうんは仕方あらへんよな。戦場の響の方がメチャクチャ怖いわ。

 

「全くもう……。あっ、ここのお代は霞持ちでね!遠慮しないから!」

「え、ちょっ!?そ、それは堪忍してぇや!?」

 

ウワバミかっちゅうくらい飲みまくる響が本気で遠慮しないで飲みまくったら、ウチの財布が保たへんわ!ウチの給料の全部吹っ飛んでしまうわ。ほら見ぃや、店員も引き攣った顔、浮かべとるやん!

前、飲み放題の店もあったんやけど、響が遠慮しないで飲みまくったせいで潰れたのも幾つか………ひーふーみー………6か7はあった筈や。あ、因みにこのことを聞いた詠やんが飲み放題禁止令を出したんも納得できる。アレはアカン。

酒樽(ビール樽大)を四つも一気に飲みきったんは顎が外れた。アレはウチでも挑戦しようとは思わへん。っていうか、その身体の何処に入るんや?響の胃袋は何処ぞの大食らい幽霊少女の胃袋と繋がっとるんか?

 

「あははっ!冗談だよ。酔わない程度に飲むから、安心して」

「響の酔わない程度っちゅうのが常人やったら、酔い潰れるトコなんやけど………」

「気にしないの。ーーイイネ?」

「アッハイ」

 

え、なんや?今の響、ハンパない威圧やったんやけど……。思わず片言になってもうたんやけど。

 

「んー♪美味しー!」

「あぁー!いつの間に!?」

 

いつの間にか響の脇には酒樽が二つ置かれて柄杓で器に次々と注いでは飲み干していく。

って、酒樽の半分くらい無くなっとるやん!?

 

でも、この幸せそうな雰囲気の響を見るとへらり、と顔が緩んでしまう。

そんな時、ウチにとっての爆弾が炸裂した。

 

「ふふっ、張の姐さんも一人の乙女ってことですね。あの呂将軍を見つめる顔、完全に恋する乙女じゃないですか」

「そうだな。あの嬉しそうな顔、調練では見れないぜ?あーあー、呂将軍が羨ましいぜ。張の姐さんにあんな顔で見られるってなぁ」

「いやいや、張の姐御も良いけどよ、俺は呂将軍だな!あんな可愛い子だったら、男だったとしても、嫁に迎えたいね!聞けば、料理も得意だとか」

「ああー、確かに。と言うか、呂将軍にまつわる噂を聞くたびに女としての尊厳が………」

 

少し離れた所に座って話している一群。間違いなくウチの配下の兵たちや。酔っ払っとるのか、声がヤケに耳に入ってくる。

………って、ウチが恋する乙女?いやいやいや、なにいうとんねん。

響には月や詠がおるやん。ウチなんかに見向きもせぇへんし、うちも響のことをそういう感情で見たことなんか……。

ーーズキンーー

………っ、痛い。寂しい。ウチも見て欲しい。響のことしか考えられへん。

そうか、此れが恋っつうもんなんや。でも、ウチは………。響を諦めないといけないんや。月や詠の幸せの為には………。

ーーズキンッーー

こんな気持ち、どうしたらええっちゅうねん。グチャグチャになりそうや。頭がまともに動いてくれへん。

さっきまで楽しく飲んでいたのに、今じゃ苦しくて、辛くて。響とまともに面、合わせられへんわ。

 

そっと席を離れて城の自分の部屋に戻ろうとすると、響から心配そうな声がかかってくるけど、聞こえないふりして居酒屋を飛び出して城に走る。

すれ違う人々が何事かって振り向くんやけど、ウチにそんなこと気にする余裕は無かった。涙を抑えるだけで精いっぱいやった。

 

どのくらい経ったのかわからん。気づけば、ウチは城の中庭に来ていた。走って来たからか、息も荒くて、汗もグッショリで、羽織がペッタリとくっついて気持ち悪い。

フラフラと中庭に立つ木にもたれ掛かって尻餅をついて手で顔を覆う。

 

「ハァ……ハァ……。………へへ、情けないやっちゃなぁ。勝手に恋して、勝手に諦めて………」

 

涙が溢れてきて、止まらない。胸が痛くて、寂しくて。

一瞬でウチの初恋は終わってしまった。初めて好きになった響はウチなんかより素敵な女の子がぴったりや。ウチなんて、酒ばかり飲んで、戦働きしか出来へん。家事なんか一つもこなせへんわ。そんなウチに響が振り向く訳あらへんやん。

そう勝手に納得して泣くだけ泣いて。漸く落ち着いて、涙を拭って、部屋に戻ろうと立ち上がる。

 

「あーあ、もう一度湯浴みせぇへんとアカンな。汗でベタベタして気持ち悪いわ」

「ーー霞さん」

 

ビクリと身体が跳ね上がる。誰も居ないと思って、自分に言い聞かせるように独り言をつぶやいていたのが聞こえたんかと思って慌てた声が聞こえた方を向くと、優しい笑みを浮かべた月が立っていた。いつから立っていたのか分からへんけど、なんとなく、泣いている時から見守ってくれたんやと思った。

 

「みっともないトコ見せたみたいやな。もう大丈夫や」

「へぅ……、霞さん」

「ええねん。ウチなんか、響に見てもらえる訳あらへんやん。月が一番お似合いやろ」

「…………」

 

何も話そうとしない月に、苛立ちが立ち上ってくる。主に対して、ありえんことやったけど、抑えられへんかった。

けど、次に放たれた言葉でウチは言葉を失った。

 

「……いいんですよ。霞さんも響さんの事、好きになっても。恋しても」

「…………は?」

「私も、詠ちゃんも、恋ちゃんも郝昭さんも響さんの事が好きなのです。でも、その中の誰かが響さんと結ばれて、その影で誰かが悲しい思いをするのは嫌なのです。響さんもみんなのこと、平等に大切にしてくれると思うのです。私は二番目でも、三番目でもいいのです」

 

文字通り、絶句した。月の言うことをそのまんま直訳すれば、響をウチらで囲むことも認めるっちゅうことやん。

確かに、この時代、男が複数の女を囲む事があっても、そこに女の意思なんてあらへんかった。男が強力な権力を振りかざして、女を無理やり娶るってやり方が多かった。

でも、月が言ってたんは逆。囲む女が自分の意思で一人の男を好きになるってことやろ。

女っちゅう生きもんは嫉妬深いもんやで。それなのに、響が他の女に取られてもいいっちゅうんか?

 

「へぅ、独占したい気持ちもあるのですけど……、私はみんなと笑いあっていたいのです。誰かが幸せになっても、その反面で誰かが悲しんでいるのは嫌なのです」

 

今、思えば、この時から月には『王』の資質が目覚めつつあったんやろなと思う。それも慈愛の王っていう、乱世の世には不似合いな王やった。

でも、そんな月だから、詠やんも、華雄も、響、恋も付いて行こうと思うんやろな。もちろん、ウチもやけどな。

 

「……諦めへんでいいんか?ウチも響を好きになってもええんか……?」

「勿論ですよ。だって、霞さんも可愛い、魅力的な女の子なのですよ?そう自分を卑下することもないのですよ」

 

そう直面して言われると照れるわ。

でも、諦めなくてええんやな。好きになっても、ええんなら、遠慮せぇへんで。

 

「うっし、ほんなら、即行動やで!ーーありがとうな!月」

「へぅ、お元気になれたのでしたら、よかったです」

 

ダッと駆け出して響の部屋目掛けて走り去っていくウチ。月はただ微笑んで見送ってくれた。

 

 

董卓side

 

へぅ♪霞さんも本当に可愛いんですよ。

そのサバサバした性格、私だったら、本当に羨ましい限りなのです。もしも、私が霞さんの立場だったら、いつまでもズルズルと引きずってしまうんでしょうね。

そんなんじゃ、響さんに迷惑かかって、申し訳なく思ってしまい、更に引きずってしまうという悪循環に陥ってしまうと思うのです。

 

……それにしても、響さんも罪な人なのです。今、わかっているだけでも、私、詠ちゃん、恋ちゃん、郝昭さん。

恋ちゃんは響さんの妹なのですけど、恋ちゃんは異性としても、兄としてても好きって言っているのです。

華雄さんは純粋に武人としての尊敬と先輩としての威厳で揺れている感じなのです。

音々ちゃんは恋ちゃんのことが大好きで、響さんも好きなのですが、どちらかというと兄として、のようなのです。

五月雨さんは禊さんとくっついていますから。

 

「へぅ、私も部屋に戻らなきゃ、詠ちゃんに怒られちゃいーー」

「ーー月〜?」

「へぅ!?え、詠ちゃん!?」

 

お腹の底から絞り出したような低い声が聞こえて、慌てて振り向くとそこには青筋を立てて、怒りのオーラを滲み出させる詠ちゃんが。

 

「何処かに出掛けるんなら、私か誰かに一言告げてから行きなさいって何度も言ったわよねぇ?なのに何で此処に一人でいるのかなぁ〜?誰かに話したのかなぁ〜?」

「へ、へうぅ……」

 

笑顔なのに、とても怖いのです。間延びしている口調なのが恐怖を更に煽り立てます。

だ、誰か助けてください………。

 

この後、一刻程ずっとお説教されたのは言うまでもないのです……。へうぅ、足が痺れたのです……。

 

「そこっ!聞いているの!?今回という今回は堪忍袋も限界よ!とことん締めるからね!一刻は覚悟しなさい!」

「へ、へうぅ〜!?」

 

この騒ぎは城中に響いたようで、苦笑を浮かべた響さんが詠ちゃんを宥めて何とかお説教はそこで打ち切りになったのです。

響さんの背中に後光が見える気がして、思わず拝んでしまったのです。

 




張遼のキャラ、上手く表現できていたでしょうか?
何分、恋姫未プレイなので、先生方の作品を読んで、張遼の人格の想像を膨らませて此処に書き記してみたのですが、如何でしょうか?
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