最後の方にちょっとだけ手合わせがあります。
それではご覧くださいませ
第3話
匈奴を撃退してから、呂風たちの環境は大きく変わった。
1つ、民が集まり始めた事。
この涼州では度々重なる異民族からの侵略に遭うため、城郭都市に住んでいない、山や森の近くで集落を作ってひっそりと暮らしていた。だが、今回の匈奴を撃退したという商人が伝え歩く話を聞き、安全を求めて安定に住みたいと考えてる民が各地から集まってきたのだ。それだけではなく、安定の他の城郭都市に住む住民も安定に希望を見出して集まる。それがこの結果だ。
「うおお………すっごい規模やん。ひい、ふう、みい………十万はいるんちゃうか?」
「そ、そうね……。匈奴を撃退した事の影響は考えていたけど、これほどになるとは思わなかったわね……」
張遼と賈詡の言うように城郭都市の門外に集結した民はおよそ十万。地平線遥か彼方まで続く黒い影。この全てが匈奴撃退の報で安定に希望を見出して集まった民である。
「幸い、安定にはこの規模を受け入れられる余裕はあるけど、一気に集られると治安とか、経済に混乱を催しかねないから困るわね」
「その事なら、私に考えがあるんだけどいい?」
「いい案を期待するわ。それで何かしら?」
「農業用土の田畑を拡大する事、治安維持のために警邏隊を構成する事、商売の自由を推進する事、兵には徴兵ではなく、志願兵制にする事。あとは、城壁の修繕を依頼する事と学校を建てることかな」
呂風の案になるほど、と頷く賈詡。彼女も似たような事を考えていたのか、流石と言いたげな顔で呂風に微笑を浮かべて頷く。そして、董卓から理由を尋ねられると懐から一巻の書簡を取り出して卓の上に広げる。そこには今、提案した事の理由が細やかに書かれていた。
・農業用の田畑を拡大する事で多くの民が農業に従事出来、税として収められる食糧の量が底上げされ、大規模な軍事活動が出来るようになる。但し、流れてきた民は生活が安定出来るようになる3年から4年の間、納税は無しとする。
・治安維持のための警邏隊は志願者のみで構成したものであり、主に街中の治安を維持するパトロールを主な任務とする。理念としては住民の安全が第一、と定め、住民と身近になりながら巡回する事で犯罪を未然に防ぐ事が出来る。そして、警邏隊と言っても、戦闘行為を行う必要は無いため、武術に心得が無い、一般の人でも採用すると告知する事で1つの労働になる。勿論、給金も配布される。
・商売の自由を推進する方針にする事で様々な商人が訪れやすくし、安定に店を誘致する事で経済の発展を図る。店で働く労働者の採用や、店を建てる時の労働者も民から採用。強制ではなく採用する事を義務付ける。
・徴兵ではなく、志願兵制にする事で量より質を重視する。志願兵にした方が士気も高い者たちが集まりやすくなるため、厳しい訓練でもしっかりついてこれる者が多くなり、強力な軍が作れ、それが更に治安の向上につながる。
・城壁の修繕を行う事で侵攻を防ぎやすくする事で民を不安がらせず、治安の維持にも、商人が逃げ出さないように促すため、経済の安定にも繋がる。そして、予算が余れば、安定の拡張、強固な城郭都市に発展させる。
勿論、従事する労働者に給金は支払う事。この支払った給金をつかう事で経済は潤う。
・学校を建てるのは人材の育成を目的とし、優秀な人材を雇用しやすくし、安定を動かし易くする事が目的。ただし、数年単位での時間が必要になるため早めに行動を起こした方がいい。教師は学養がある者に依頼し、学校の維持は公営とし、入学費もこちら持ちである。平民にも優秀な者がいるが、金が無いため、教育を受ける事が出来ず、野に埋もれてしまう者が多く、人材の損失である。
この案と理由を見て、ふむ、と考え込む賈詡。恐らく彼女はこの案を実行するのに必要な予算をどこから捻出すべきかを考えているのだろう。
「あ、そうだ。詠、お金の事なんだけど、万里の長城の近くの山に棲む山賊が略奪で得た金をたんまりと貯めていると聞いた事があるんだ。それに、涼州と言ったら、強靭な軍馬で有名だから、その涼州馬の牧畜もいいかも」
「あ、それ、いいやん!」
目を輝かせて相槌をうつ張遼。涼州馬は大陸でも屈指の強靭な肉体を持つ馬が生まれる事で有名であり、群雄はこの馬を買い求めたがるが、涼州の奥、それこそ匈奴に近いところが産地であるため、生まれる数が少ないのだ。それを此処で牧畜し、此方でも軍備を整えられるし、余った馬は売れるで一石二鳥。
「涼州馬の牧畜はいい案ね。山賊の件はこの流れてきた民の生活が落ち着くまで待って欲しいわ」
「あ、なんなら、私と恋とその他数人で行く?兵も数十人程度でいいし」
「またあんたは……!」
「心配してくれるのは嬉しいけど、私たちの事、信頼して欲しいな……」
「うっ、そ、それは……」
シュンと落ち込んだ風の呂風にたじろぐ賈詡。ダメ押しとばかりに呂布と並んでじっと見つめる。
「〜〜〜っ、分かった、分かったわよ!許しゃいいんでしょ!でも!その前にやるべき事をやってからよ!」
「えへへ、ありがとう!」
二人に見つめられた事で根負けした賈詡は自棄になったように叫ぶが、それを生暖かい目で見守る董卓たち。でも、幸いそのニヤけ顔を賈詡に気づかれる事はなかった。気づかれたら、大騒ぎになった事だろう。
根負けした代わり、呂風の笑顔が見れたからそれで良いかと思ってしまう賈詡だった。
「やる事ってなんや?」
「人材が集まって来たのよ。私たちが思っている以上に匈奴を撃退した事は大きな影響があったらしいわ」
賈詡から渡された名簿には今回仕官を願望する人材の名前が記されていた。
陳宮公台
高順
李傕稚然
郭汜阿多
この四人である。
「へぇ…….。高順は知らないけど、他の3人は聞いた事あるわ」
陳宮は最近流れてきた民の中で評判の学者と言われ、幼いながらも先見の明を持ち、この安定に逃れようと近隣の集落に声をかけて此処までやって来たようだ。是非とも欲しい人材である。
高順は出生から経歴まで至るものが不明という謎の人物。だが、武芸に長けていると受付の兵士から聞いている。もし、それが本当ならば、怪しいが大きな戦力になるだろう。
李傕と郭汜はこの安定で有名なゴロツキ。盗賊紛いのこともやっているが、義賊のようなもので、民からの人気も高く、腕も確かなものだ。そういった輩を捕らえる軍から見れば複雑なものだが、こういう事で躊躇う理由にはならない。
高順を後回しにして、陳宮、李傕、郭汜の3人の面接を最初に行い、無事3人とも董卓に忠誠を誓い、真名を交換した。
陳宮は【音々音】。李傕は【禊】。郭汜は【五月雨】。
此処で意外だったのは、陳宮と呂布の気が合ったという事だ。呂布と陳宮は犬が好きで、呂布は此処に仕官してから、街中で捨てられていた仔犬を拾って『セキト』と名付け、可愛がっていた。そして、陳宮も犬を連れて此処まで流れ着いたため、数匹の犬と共に散歩するところを見かける。
「何はともあれ、親友が見つかってよかったね。恋」
「………〈コクリ〉」
嬉しそうに微笑を浮かべて頷く。それに対し、陳宮は顔を真っ赤にして、アワアワと何か声を発していたが、何か意を決したかのように、呂風の方を向き、その小さな口を開く。
「響殿、ふちゅちゅかものですが!………失礼しました。不束者ですが、よろしくお願い致しますぞ!」
「………それ、なんか違うよね?」
賈詡に顔を向けて確認を取ると、苦笑を浮かべて頷いてくれる。
陳宮が発した言葉は婚儀などでいう言葉である。その事を賈詡から説明された陳宮は赤かった顔を更に真っ赤にして評議場から飛び出して逃げていく。
「あっはっは!あー、笑った笑った〜」
「んだネェ。ああいう子はからかい甲斐があるもんさネ」
涙を拭いて『あー、笑った笑った』と鉤爪が付いた籠手を腰にぶら下げ、軽装の革鎧を纏い、蒼い髪をバンダナで留めている190程の偉丈夫…李傕。顔の左目の下に三筋の傷跡を付けているが、比較的整った顔立ちで、傷跡がワイルドさを醸し出して、若い女性に人気が出そうな顔であるが、本人は郭汜一筋であるため、靡くことは無いらしい。
李傕の言葉に相槌を打ったのは郭汜。妖艶な遊女のような雰囲気を醸し出す顔立ちと魅力的な紫色の髪を左側の首筋で纏めた美女。煙管を腰帯に挿して李傕の側を離れず、恋人らしく振舞っているが、此れでも隠密に長ける技者。鋼糸(ピアノ線)を自在に操り、首を狩り落とす暗殺を得意とする。李傕とは幼年からの付き合いがあり、自然と李傕と恋人になった。
「あんまり弄らないようにね。最後の一人、高順を連れてくるね」
ひらりと評議場から出て行き、高順を呼びにいく呂風。呂風の姿が見えなくなった後に交わされた会話は聞こえなかった。
「あれが【武神】なのネェ……。とても見た目からではそう思えないけどネ」
「ああ、そうだなぁ。でもよ、僅かだけど"あの娘"から漏れ出る覇気はとんでもねぇさ。………格が違いすぎるさ」
李傕自身、格闘技を得意とする武人であるため、僅かに呂風の体から漏れ出る絶対的な武王の覇気を感じ取り、その格の差を感じ取り、背中をじっとりと冷や汗で濡らし、唇が乾き、喉がゴクリと鳴る。自身がどれほど鍛えても届く事のない絶対的な武。乱世の化身と張遼と賈詡に称される存在。
自身と郭汜の二人で飛びかかっても瞬殺されるイメージしか湧かなかったのは初めてだった。そして、そのイメージは呂布に対しても抱いた事で自身は井の中の蛙だったと痛感させられた。
だが、そんな畏れも次に放たれた郭汜の言葉で吹き飛んでしまう。
「ん?なんだい、気づいてなかったのネ、あの子はオトコのコだヨ」
「ブフゥ!?う、嘘だろ〜?」
「あんたがそう思うのも無理ないかもしれないわね。でも真実よ」
この流れに慣れたように呆れた笑いを零しながら賈詡が言い、傍らにいた董卓と呂布がコクリと頷く。
「マジでさ……。いや、色んな意味で世界は広いさ」
「高順さんを連れてきたよ〜。………なんの話?」
唖然としたように呂風が消えた方を向いて呟くとその方から当の本人が高順らしき女性を連れて現れ、首を傾げる。それに慌てたように『なんでもないさ』と言葉を返す。
そして、評議場に入ってきた高順を見た董卓と賈詡の顔が見開かれ、唖然とする。
「へぅ……?て、丁原さん……?」
「おっと、丁原はもう死んだ事にしているんだ。だから今は高順と呼んでくれ」
丁原と呼ばれた妙齢の女性。膝まであるくすんだ色の銀髪を持つ彼女は丁原建陽なる人物であり、董卓と賈詡がまだ旗を立てる前の頃、この安定で太守を務め、二人に都市の運営のイロハを教えた人物であり、二人の恩師である。
「あ、ええと……」
「何故此処にいるか?だろう」
それはと口を開いた丁原……改め、高順の口から事情が話される。
私は元々併州にある【晋陽】の太守を務めていた。そして、時々起こる匈奴の侵入を阻んで来た。此処は安定も同様であるが、安定のほうが回数が多く、厳しい条件があるのだが。
兎も角、匈奴の侵入を退けた後、洛陽から帝からの使節がやって来たのだが、その役人も例によって十常侍の息がかかった腐敗した役人だった。
その役人は晋陽に到着するなり、賄賂を寄越せと言ってきたのだ。『袖の下を寄越せば、十常侍に上手く言ってもっと良い官位をくれてやるがどうだ?』とな。
勿論、私は鼻で笑ったよ。『貴方達に渡す者は民の血税故。この税はこの街の発展の為に使うものであって、私用で使う事はありませぬ』と言ってやった。
そしたらな、役人は顔を真っ赤にして、『なな、何たる無礼者!我らを虚仮にするつもりか!』などと言っていたんでな、『十常侍に虚偽の報告をするつもりなら、ご自由に』と言って太守の役を証明する印をその役人に叩きつけて宮殿を出た。
私の腹心の者に言って私は死んだという噂を流して私自身は名前を変えて放浪の旅に出たんだ。
放浪の旅の途中で、お前達の事を思い出していたら、此度の匈奴の件だ。私も一介の武人だから、居ても立っても居られなくてな。
こうして此処に来てみたという訳だ。
「そんな事が………」
「ふっ、元々、私に太守という堅苦しい役目が務まるとは思わなかったんだ。前線に出て暴れるのが一番性に合っている。私は一度死んだ事になっているんだ。此処で厄介にさせてもらいたい」
「こ、此方こそ、喜んで!恩師にいていただけるのなら、心強いです!」
嬉々とした色を浮かべて喜ぶ董卓と賈詡。それに微笑むと不意に呂風と呂布の方を向く。
「お前たちも此処に仕官していたとは驚きだぞ。てっきりまだ放浪の旅をしているものだと思っていたが、いつの間にか匈奴撃退の立役者になっているものだからな、驚いたもんだ」
「へぅ?響さんと恋さんの事ご存じなのですか?」
愉快気な笑みを浮かべて懐かしげに声をかけるものだから、董卓は首を傾げ、疑問を口に出す。賈詡も口に出さなかったが、不思議そうな顔をしていた。
「こいつらが放浪の旅に送り出したのはこの私だからな。こいつらが小さい時、住んでいた村が山賊に襲われて村人が皆殺しになった事件があったんだが、その時の山賊を返り討ちにしたのが響だったんだ」
「そうですねぇ。そのあと、朱耀さんが率いる軍に助けられたんですけど、なんだか居心地悪くて飛び出ちゃいました」
【朱耀】は高順(丁原)の真名である。半年程の僅かな間だったが、二人を養ってくれた親のようなものである。
しかし、呂風と呂布は幼い頃両親を亡くして以来、親からの愛情というものを受けた事が無かったという事と、100人程いた山賊をたった12歳の子が一人で全滅させたのだから、ひそひそと『鬼の子』と陰口を叩かれた事もあって、居心地悪く感じ、僅かな食糧だけを持って幼い呂布を連れて晋陽を飛び出した。
「まったくだ。まぁ、その後追いかけて旅の路銀とある程度の食糧と護身用の剣を渡しただけでなにもできなかったが」
「いえ、あの手助けが無かったら私たちは野垂れ死んでいたでしょう。それに、あの時は言えなかったのですが、私たちを助けてくれたこと、感謝しています」
「礼なんていい。むしろ、こっちが謝らなきゃいけない。太守としての力不足で、お前たちの村を守れなかったーーー」
「………それ以上言ったら怒る。恋たちの今があるのは朱耀が助けてくれたから。恋もお兄ちゃんも今がある」
「………やれやれ、本当に頑固兄妹だな」
困ったように苦笑して、首を振る。だが、その表情はこの二人が生きていて、伝説を築くまでの存在となっていた事を喜ぶ母親のような表情だった。
その微笑を消して、再び董卓の方へ向き直り、拱手の構えを取る。
「姓を高、名を順。字を白波。真名を朱耀と申す。私の命、貴女に預けよう」
「へ、へぅ!此方こそよろしくお願いします!」
そうして、董卓には3人の優秀な武人と賈詡に比肩しうる優秀な文官を加え、軌道に乗り始めた。
張遼と華雄が呂風を鍛錬に付き合えと引きずって行った後、郭汜が李傕にしなだれて甘々した空気を作って、耐えかねた賈詡によって追い出された。
その様子を見た高順の口から爆弾が落とされた。
「………ほう、なんだ?月と詠の二人はアイツの事が好きなのか?」
「ブフゥッ!ゲホッゴホッ……いきなり何を言っているの!?」
「響が出て行った方向を何度もチラチラと見ていたら誰でも気づくだろう」
飲んでいたお茶を勢い良く噴き出して噎せ返る賈詡。その隣では董卓が僅かに頰を染めてはにかんでいた。
高順の言うことは至極真っ当なことであり、観察眼があるものからすれば、董卓と賈詡が呂風に恋慕の情を抱いている事などお見通しである。
何せ、呂風がいるときはいつもより数割は雰囲気は柔らかく、よく笑顔を見せる。でも直接見るのは恥ずかしいから、チラチラと呂風の方に目を向けては逸らすを繰り返す。そして、呂風がいなくなると、呂風が去った方角を寂しそうな目で時々見つめるのだ。
これで気づかない方がおかしいだろう。
「………そ、そんなに顔に出てた……?」
「ああ。諸にな。おそらく、響も薄々気づいているが、確信が持てないから何も言わず、普段通りに接しているんだろう」
賈詡、爆沈。
なにせ普段は無表情の呂布でさえ頷くのだから。卓に頭を打ち付けてそのまま動かなくなる。
「……わ、私も響さんの事が好きです。……でも、今の私では響さんの枷になってしまうのです。せめて、この街を豊かに出来た時に想いを伝えようと決めています」
いつもは引っ込み思案の董卓であるが、ここまで意思を固めていい表情で決意を表した。これに驚いたのは高順である。丁原だった頃、手ほどきをした時は引っ込み思案でこれで大丈夫なのかと不安にさえ思っていたが、恋愛は人を強くすると言う言葉があったなと思い直して、朗らかな笑みを浮かべる。
「よくここまで強くなったな。お前が小さい頃は不安だらけだったが、もう主としての自覚と覇気が満ちてきている。もはや心配はいるまい」
「……月はお兄ちゃんと会って強くなった。恋もお兄ちゃんがいたから強くなれた。詠も強くなろうと決めている」
「そ、そんな事ないですよぅ………」
立て続けに褒められて顔を真っ赤にして自身の袖に埋もれて突っ伏してしまう。
困惑しつつも、愉快気な笑みを浮かべた後、呂布に練兵場に行ってくると言い、近くにいた兵士に案内を頼んでそのまま行ってしまった。
とても楽しそうな笑みを浮かべたまま。
そして、残された呂布は未だ卓に突っ伏したままの董卓と賈詡の頭や頰をつんつんして遊んでいた。
兵士に案内され、練兵場に向かうと、激しい剣戟の音が聞こえてくる。
どうやら、まだやり合っているらしい。
先ほどより近づくと、足運びの音。剣が風を切り裂く音。槍が空気を貫く音。鉄と鉄が激しくぶつかり合う音。荒い息遣い。
そして、苛立たし気な声が聞こえてくる。
「ああ、もう!強すぎや!なんなん、その動きは!反則やないか!」
「く、二人掛かりでも押す事もおろか、本気を出させる事も出来ないのか!」
この声から判断するに張遼、華雄対呂風で手合わせしているようだが、2対1でやっても逆に押されているようだった。
「華雄も霞もまだ無駄な動きがあるんだよ。相手の動きを先読みしないと対応が間に合わないよ!」
「無駄な動きちゅうてもなぁ……っと!」
練兵場に着くと、ちょうど呂風が槍を繰り出して、張遼が偃月刀の側面で受け流していたところだった。そして、呂風の後ろには華雄の姿が。巨大な手斧を振り上げて呂風の背中に迫る。
「隙ありっ!」
「残念。ワザと見せた隙だよ。そぉれっ!」
「うわわっ!?」
「しまっ!?」
張遼に受け流された槍を大きく旋回させて、張遼ごと後ろに投げとばす。大きく跳躍していた華雄に躱せるはずも無く、二人は正面から激突して地面に落ちる。
「あーいったー……」
「私たちが此処まで歯が立たないとは……」
折り重なるようにして地面に倒れ伏す張遼と華雄。彼女らはすでに10連敗していた。
息を荒げ、肌に玉のような汗を浮かべる彼女たちに対し、呂風は全く変化なし。服についた埃を払うだけで終わった。
「いやはや、武神という名は大したもんだ。この二人も中々の武人であるだろうに、それを容易くあしらうとはな」
「朱耀さんも手合わせしてみますか?」
「ああ。お手柔らかに頼むよ。もういい歳なんでな」
そう言いつつも、張遼や華雄にも引けを取らないどころか、肩を並べる程の覇気を滲み出させ、その身に闘志をみなぎらせる。そして、腰に一振りの大業物の刀を構える。
ニヤリと挑発的な笑みを浮かべる高順。されど、彼女は呂風の実力の底を知らなかった。
「ーーーっ!?」
ふわりと微笑んだ呂風の体から重圧を伴う圧倒的な覇気と闘志が漏れ出し、空間を軋ませる。全身の毛が逆立ち、背筋をゾワリと冷たいものが走る。身体中に鉛を取り付けたかのように重く、思うように動きが取れない。息苦しく、肌がピリピリと痛く感じる程濃厚だった。ゆっくりと槍を自然な構えに持った呂風の周りの空間が揺らめいて見える。
ーーなるほど、これは確かに化け物だ。到底、私では及びもしない。……本気で行かねば死ぬな。これが……武神!正しく乱世の化身!
生半可な覚悟では呂風の前に立つ事さえ許されない。生半可な覚悟で立てば、瞬く間に気を失うだろう。華雄と張遼も本気で、相手を殺すつもりで打ち掛かったのだろう。そうでなければ、立っている事など出来ないのだから。
「ふんっ!」
「はっ!」
〈ゴギィイィン!!〉
高順の居合抜きから攻防は始まり、高順の手がブレて見えたかと思えば、呂風の槍も唸り声をあげて姿を消した。
次の瞬間、凄まじい衝突音が鳴り響く。一拍後に衝撃波が地面を走る。
「〜〜っ……!中々重いな……!」
「朱耀さんこそ。では、次は此方から行きます!《燕突き》!」
鍔迫り合いから三歩引いて短い溜めから神速の三連撃を放つ。三連撃と言っても、時間差の三連撃では無く、"同時"に三つの突きが襲う。一撃目はなんとか弾いたようだが、二撃目と三撃目の突きは躱しきれず、腕と太腿に赤い線が走る。
驚愕で身体が硬直した高順を見逃す筈が無く、止めとばかりに月光叉双で鋭い一撃を放つ。
「まだ終わらんよ!」
「おおっ!?」
硬直から立て直した高順は半身横にずらして、掌底打ちで槍の矛先を逸らす。そのまま呂風の懐に飛び込んで、目にも止まらぬ疾さの居合抜きを放ち、その切先を呂風の首に止めようとしてーーー
「まだ、遅い」
「……………参った」
負けた。首に添えられた自身の刀を見て、漸く状況が掴め、ため息を吐いて、降参する。
張遼と華雄には今のやり取りは全く見えなかった。それほどにまで疾かった。
高順が飛び込んできてすぐに呂風は槍を離し、迫り来る高順の刀を持つ手に手刀を当て、刀を弾き飛ばし、片方の手で飛んだ刀を掴み取り、高順の首に添えた。
文章にすると、長くなるが、このやり取りは僅かコンマ数秒の間でのやり取りである。
「さっきの燕突きとはなんだ?」
「空を飛ぶ燕を落とそうと試行錯誤した結果、同時に三連撃を放つ技が出来たんですよ。まぁ、今では六連撃の《飛燕落》がありますけど、体に負担が大きいので、あんまり使いませんが」
絶句するしかなかった。
真逆、此処まで人外の域に足を踏み込んでいるとは思わなかった。救いなのは、呂風でも体に負担がかかるものがあるということだった。
果たして、これが救いになるかどうかは分からないが。
何度目になるか分からないため息を吐いて考えるのを止めておく。
そのあと、張遼と華雄を加えて軽く鍛錬したり、武芸の修行をしたりと穏やかな時間を過ごしていた。
しかし、不意に城の方が騒がしくなり、伝令兵らしき少女が駆け込んできた。
「郝昭?」
「り、呂風将軍、張遼将軍、華雄将軍、高順将軍!直ちに評議場に戻ってください!火急の報があります!」
「火急?」
「はい!一大事です!」
「一体なんや!?」
「細かい事は後です!急いでください!」
郝昭に急かされて、駆け足で評議場に飛びこむ。すると、そこには険しい顔をした賈詡と董卓を筆頭に、此処の主戦力となる者たちが集まっていた。
「スマン、遅うなった!」
「遅いわよ!事は一刻を争うわ。これを見なさい」
「これはーーー」
強張った顔の賈詡に渡された書簡には漢そのものを揺るがしかねないものが記されていた。
ーーー韓遂叛乱。総勢八万の大軍が長安に向けて進行中。
はい!
この話では、高順が丁原だったという設定でいきます。丁原が太守を辞めた理由に無理があるかもしれませんが、ご了承くださいませ。
キャラクターパラメータ
陳宮公台
統率41 武勇23 知力98 政治95 魅力85
高順
統率84 武勇92 知力68 政治62 魅力79
李傕稚然
統率75 武勇84 知力42 政治31 魅力74
郭汜阿多
統率76 武勇79 知力58 政治41 魅力87