今回は安定での平安の一時の一幕です。
反乱軍戦役から帰還して一ヶ月程。
太陽が天に留まる刻も頂点を越え、放射状だった軌道が弓なりになりつつあったこの頃、私の姿は【安定】の表通りにあった。
「あ!呂風のおねーちゃん!」
「こら!呂風さまはこう見えて男の方です!お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんです!」
「えー?男に見えないよー?女の子にしか見えないよー」
子供たちの純粋な言葉は容赦なく心を抉ってくる。そして、子供を叱った筈の売り子の娘も何気なく心を抉ってくる。
もうなんだか踏んだり蹴ったりで泣きたくなってきた。この服のせいなのか。下にも何か穿いた方がいいのかな……。
「うぅ………、どうせ私は女にしか見えないですよー……。だって、もう十七歳なのに、男らしさなんて何処にも無いですよ……。何処で間違えたんでしょうか………」
涙目になって膝を抱えて悲哀の情に沈むのは情けないと思うけど、そうしないと立ち直れない。此処でもう一撃あったら心が砕ける。
なんで街の見回りのついでにお酒を買いに行こうとしてこんな羽目に合わなきゃいけないんだろう……。
「あ、ええと……、あっ、ほら、皆!あっちで甘味売っているところあったからいってらっしゃい!」
「えっ!?甘味!わーいっ!!」
「ふふっ。………ええと、その、呂風さま……。あっ、丁度、何時も飲んでいらっしゃる荊州の江夏のお酒が届いていますよ!」
む、お酒で釣ろうとしてる。私はそんなに子供じゃ無い。子供じゃ無い筈………。
「毎度ありー!」
「………子供じゃ、無いもん……」
「そう言う人程子供っぽいんですよ」
「………むぅ」
……なんで私はお酒の甕を手に取って代金を払っているんだろう。そして、生暖かい眼差しと頰を赤くして見つめてくるから、思わず抗議したけど、一蹴されてしまう。それよりもなんで頰を赤らめるのかな?
このお店が揃えるお酒はどれも美味しいんだけど、どうも、この売り子に苦手意識を持ってしまう。年齢は同じくらいの筈だけど、お姉さんって感じがして、何時もこの店の前で子供達に打ちのめされると宥めすかされて、いつの間にかお酒を買わされる。
「又の御贔屓をー!」
商売の定文をにこやかに叫ぶ彼女を見ると頰を膨らませる気も何処かに放り投げてしまう、そんな魅力があった。
お酒の甕を腰帯にくくりつけて、二振りの刀を差してふらりと気の赴くままに街を歩く。
先程の酒屋からそう離れていない所で客寄せの通る声が私に向けられる。
「おっ、【白麗公】でございやせんか!」
「もう、その呼び方は止めてよー」
【白麗公】というのは、反乱軍戦役が終わった後に長安と安定、それと洛陽と陳留、鄴を中心にして広まった私の新しい二つ名のようなものだ。
なんでも、この真っ白な髪とこの袈裟のような服装を何進大将軍が今代の帝、霊帝に報告したら、【白麗公】と称えられたそうだ。
旅をしている間にも私みたいに真っ白な髪の持ち主とは出会わなかった。精々、星の水色の髪とか、音々音の薄い緑色の髪と、華雄、楽進の銀髪、雛里の薄い紫の髪が私に近い。でも、私の白雪のような髪の持ち主には会わなかった。五年の旅でもだ。若しかしたら行き違いになったのかもしれないけど……。
「へへ、すいやせん。今日、新しく甘味を考案してみたんですが、試食してみてくだせぇ」
「えっ、いいの?ありがとう!」
朗らかに笑いながら木を彫って作られた手の平ほどの皿を差し出してくる。その皿には真っ白な球体を少し潰したような形の団子みたいなもので、大きさは両の手で丸を作ったのよりも小さいくらい。
「此れって団子?」
「いえいえ、団子とは似ても似つかわない味わいでございますよ。ワタクシの力作でございやす」
「どんな味なんだろ?いただきまーす……あむっ」
ーーー!この口に入れた瞬間、口に広がる甘い匂い。もちもちした食感。振りかけられた白い粉が口にくっつくけど、それが更に甘い味を生み出す。噛みちぎると白い皮の下に黒いものが。これが一層甘い!ザラザラした食感だけど、舐めとれば一瞬で溶けて無くなる。あ、と思ったけど、甘い味と匂いが口の中を満たして、幸せな気分にしてくれる。
「わ!おいしー!旦那さん、天才っ!」
「へへっ、そう言って頂けるとワタクシも冥利に尽きるというもんでごぜぇやす」
「あむっ、ん〜!ね、この黒いのってなに?」
とても美味しくて、顔が自然と笑顔になる。その瞬間、私に視線が集まるも気にしない。
私と同じくらいの眼鏡をかけた女の子が鼻血を噴き出して倒れて、人形を頭に乗せた大人しそうな女の子が何処かに運び去り、地面を足で擦って血を誤魔化す人々なんて気にしない。
目の前にいる旦那さんもこういうことに慣れているのか、そちらを見ないようにニコニコと人当たりの良さそうな笑みを浮かべている。
[甘味を食べるたびに可愛らしい笑顔になる貴方にやられて鼻血を噴き出して倒れる人が続出したため、慣れてしまったのでごぜぇやす。みっともねぇ理由でごぜぇやすが……これは心に仕舞っておく事でございやしょう……]
「それは街の外で生えていた小さな赤紫の子豆をふやして、すり潰しながら砂糖を混ぜて練ったものを、団子を平べったくした生地で包み込んだものでごぜぇやす」
「へぇ。これ、一番のお気に入りかな。名前はなに?」
「まだ試作なもんで、名前をつけていないんですよ。……おっ、そうです。白麗公につけていただきやしょうかね?」
「だから、その呼び方は止めてってばー!」
「いやいや、お似合いですよ」
「もうっ!煽てても何も出ないよ!あっ、名前だったね。」
でも、名前かぁ……。真っ白だからなぁ……。でも中のは黒いからなぁ。
「黒白……は安直だから却下で……んー……」
名前をつけるのがこんなに難しいとは……。
これ、本当に美味しかったなぁ。食べた時、幸せな気分になったし……?幸せ……、幸福?
「そうだ!大福って名前はどう?食べたとき、本当に幸せな気分だったから福にして、福だけだと味気ないから、縁を担ぐってことで大福!」
「おお、大福!いい名前じゃねぇか!なぁ、皆!」
「そうとも!旦那!大福にしちまえよ!」
「縁を担ぐ甘味。いい名前じゃない!きっと人気でるわよ!」
わわ!?いつの間にか甘味処に人が集まってた!?
皆も賛同してくれているようで嬉しい。喜びの声が輪を広げるようにして広がっていく。
「大福……。有難く頂戴いたしやす!早速看板品の一つとさせていただきやす!」
「早速、旦那さん、十個お願い!」
「毎度ありー!」
「皆、この大福、本当に美味しいから一個食べてみて。絶対お気に入りになるから!」
「旦那!俺にも一つ!」
「私は三つ!」
「あっしには二つ!」
「オラにも二つ!」
次々と手が上がり、旦那さんは忙しそうに動き回るもやる気に満ちたいい笑顔だ。それに集まった人々も下を向くような人は一人もいない。皆上を向いて歩いている。私たちが積極的に内政を充実させようとしているけど、民の皆にやる気が無かったら、何もできない。でも、この街の皆に絶望感や、諦観など見られず、前を向いて歩こうという強い意志を感じる。
「おお!?一体何の騒ぎですぞ!?」
「ん?あ、音々。散歩?」
後ろから声が上がり、何事だろうと振り返ってみると、私の胸と同じくらいの小さな女の子……これでも十四歳なんだそうで。
名前を陳宮。真名を音々音。言いにくいなら音々でいいのですぞと後付けもあった。
月の配下の中でも内政向きの軍師。その才覚を発揮し始めては詠の目に止まり、この安定の内政の一切を任せ、詠は外交、謀略に集中するようになった。
あ、因みに私は軍略中心に両方にも顔を出して相談するご意見番のような役割になっている。戦が無い平和な一時だと、地図を書いたり、陣形を考案しては訓練させるくらいしか無いし、訓練は恋や霞たちでも出来るから、軍略では余り仕事が無いから午後は時々こうして街に出て練り歩く事が趣味となっている。それ以外だと恋たちと鍛錬を積むことくらいかな。
「響殿!そうですぞ。それにしてもこの騒ぎは一体何の騒ぎなのです?」
「甘味処で新しく品が出てね、その試食を頼まれたんだけど、とっても美味しくて、宣言みたいなことしたら、こうなっちゃった」
「甘味ですと!?音々も食べたかったですぞ!」
うがー!とばかりに両手を振り上げる音々。眉を吊り上げて金色の瞳を見開くも可愛らしいとしか受け取れない。でも、可愛らしい外面に反して、実は格闘が得意という音々。細い足から繰り出される『ちんきゅーキック』なる足技は大人を吹き飛ばすほどの威力だ。時々、練兵場に来ては兵たちを相手に大立ち回りする軍師らしからぬ豪快な子だ。初めて見た時は霞と華雄と朱耀さんとともに呆気に取られてたっけ。見た目で判断してはいけないとはこの事だと改めて感じた。
「大丈夫。皆のお土産で買ってきているから城に戻ってから食べよう」
「なんと!?むむ、こうしちゃいられないのです!急いで戻るのですぞ!」
「わ!はいはい、分かったから!」
大福を包んでもらったかごを見せると、目を輝かせて手をぐいぐいと城の方へ引っ張っていく音々。チャポンとお酒の甕が鳴り、カランと甕同士がぶつかる。
道行く人はこちらを見ては微笑ましげに見守られる。本当に平和だなぁ……と思ったのがいけなかったのだろうか。
「みぃつーーけたぁぁぁぁぁーーーー!!」
「!?な、なんですぞ!?」
突如として響き渡った叫び声。なーんか、何処かで聞いたような………。びくりと肩を震わせてキョロキョロと声の出処を探す音々。
だけど、この声の出処は表通りに連なる長屋の屋根の上。
「我が名は華蝶仮面!!」
「………若しかしくもなく、星だよね」
「………私はその様な名では無い!華蝶仮面である!」
バアァァンッとでも効果音が付きそうな登場をしたのは白を中心にした裾の短い着物と二股に分かれた槍を持ち、蝶々を象った仮面と薄い水色の髪に赤い紐の付いた帽子を被る女の子。
どう見ても星ーー趙雲。字を子竜。
一瞬で見破られた事に動揺する様を見せるも、直ぐに取り繕う。けど、バレバレなんだよね。
「知り合いなのです?」
「まぁ、ちょっとね……。さて、星。さっさと降りて仮面を取らないと不審者で牢に叩き込むよ?」
カチャリ……と二本の刀のうちの一本に手を掛けて身を低くする。いつでも屋根の上に飛び上がれるように体勢を整える。
「……貴方にそれが出来ますかな?いざ、手合わせを!」
まぁ、星ならそう言うと思ってたよ。月光叉双が無いのは不便だけど、槍の対処は心得ている。
隣で不安げな表情を浮かべる音々に大福を入れた籠とお酒の甕を預けて、少し離れさせる。
遠巻きながらも群衆たちもこちらの対峙を見守るが、何処かお祭り気分の雰囲気が漂うのを感じる。……え?どこからともなく酒樽を持ち出して、それに柄杓を突っ込んでは器に並々と注ぎ込んで乾杯の音頭を取り始めた!?え、あっちではどっちが勝つかで賭けてる!?
元々、安定の皆は戦乱が絶えないこの地に住むことから、血の気が多いというか、豪快な性格の人が多いというか。兎に角、街が陥ちるくらいの異常事態にならない限り慌てる事のなさそうな人々が集まるような土地であり、喧嘩祭りなど日常茶飯事にまでなるような街だ。幸いに殺人までいかないが、強盗や盗賊なども女ですら自身で撃退できるような肝っ玉、腕っ節の集まりだから、騒ぎは否が応でも滅茶苦茶に大きくなるのだから、音々や詠たち、街の政治を司る人にとっては悩み事となっているんだよね。
ただ、治安は想像するよりも悪く無い、否、むしろ良い。強盗などの犯罪が起これば即座に街の人々が団結し犯罪者を追い詰めてはボコボコにして検挙するような人々なのだ。そんな人々がすむ安定だからこそ、何度も数十万に登る大軍をもって攻め寄せてくる異民族を跳ね除けてみせることができるんだろう。
やれやれと首を振ると、私の周りに影が差し、気の早い事だと【朧月】【月影】の内、【朧月】を引き抜き、頭上に一閃。その瞬間、耳障りな金属音が鳴り響き、火花が飛び散る。
「全く、隙も無い!」
「ふふ、そんな簡単に勝てるとは思わないでよ?」
「簡単に勝てるとは毛頭思っておりませぬ。寧ろ敗北濃厚でしょうが、それこそ燃え滾る状況でしょう!」
未だ武器で膠着しあい、星が槍を真っ逆さまの体勢で突き出し、私の片手で持つ刀を支えに宙に浮いている状態のまま、会話を繰り広げる。
さて、いつまでこのままなのかな?いい加減降りたらどうなの?
残るもう一本【月影】手を掛けて居合の応用で引き抜きながらも一閃するも【月影】に手を掛けたのを見た星は咄嗟に槍をバネにして地面に降り立って一閃を躱す。しかし、僅かに逃げ遅れた一房の髪の内数本を散らす。
「いやぁ、今のは危なかったですぞ?私なら兎も角、他の方なら殺られていたでしょうに」
「頭の上から襲いかかってくるの、星だけだからね」
「おや、では私は二人目という事になりますね」
よく言うもんだと対峙していながらも感心してしまう。軽口の応酬。嘗ての幽州でのやり取りを思いだす。最も、仮面はつけていなかったが。
「どの口が言うのかな。当の本人であるくせに。さっさとその仮面、剥がせば文句無いよね?」
「おやおや、淑女の嗜みに手を出そうと言うのですかな?」
「私の知る淑女なら、お淑やかに、気品良く一日を過ごせる人なんだけど、星がその範疇に入るのかな?」
メンマを好物と言って憚らず、一日中、暇でもあれば酒を飲みまくる。そして、仮面を被っては何処ともなく出没するような残念な人。確かに気品は高いだろうが、昼間から酒に走るような人に淑女なんて言われたく無いな。え?私?淑女じゃないから問題無い。男だもん。
「ぐっ…………あっ」
「あ、認めたね?星だと認めたね?」
「そ、そんな事はありませぬよ?貴殿の聞き間違いではありませぬか」
「だったら、そんなに動揺する必要なんて無いでしょ?そら、隙ありっ!」
僅かに槍の穂先が揺れたのを見て、一気に間合いを詰めて両側から挟み込むように朧月と月影を振りかざそうとしてーー咄嗟に左手で持った朧月を地面に突き刺して、体を片手で持ち上げるという無茶苦茶な体勢で何時の間にか突き出された槍を躱す。
ふむふむ、槍捌きの技術も遥かに上昇している。五年前に会った時とは比べものにならない程成長しているのがよく分かる。
「ハアァァァッ!!」
「おっと!」
体勢を崩した私目掛けて神速の三連撃が放たれる。それを地面に突き刺した朧月の柄を支点に片手で勢いよく逆立ちをし、体を跳ねあげた勢いで朧月を引き抜き、そのまま体を捻りながら勢いよく廻る事で三連撃を弾き、弾かれた槍をの柄を蹴って空中で一回転して地面に降り立つ。
我ながらこんな曲芸染みた事を剣戟の嵐の中でよく出来るもんだなぁと思ってしまう。
ただ、袈裟が捲れて際どい所までずりあがってしまい、それを目撃した群衆の中から男共が鼻血を噴き出して慌てて何処かに走り去っていくのはちょっと恥ずかしかった。うん、帰ったら何か下にも穿くものを探そう。
「全く、呆れたお方ですな。あんな無茶苦茶な動きがよく出来るものです」
「ふふーん、どやっ!」
挑発のつもりで、五月雨(郭汜)が見せてくれた【阿蘇阿蘇】という貴重な紙で作られた洛陽発の書本にあった『ドヤ顔』と言われる表情を浮かべると、思わずと言うか額に青筋を立てた星が先程よりも鋭い槍捌きで襲いかかってくる。
「おおっと、本気?」
「何故かその表情に無性に苛つきまして、な!」
「ほい、ほいっと」
続けざまに放たれる突きを剣舞でもやるかのように躱し、手に持った刀で逸らし。数十に上る突きを全くの無傷で躱していくと当たらない事に苛ついた星が吼える。
「く、私を嘗めているのですかッ!!」
「んー、そろそろかなっと」
「なにを…………ッ!?くうっ!?」
星の槍捌きが疲労で僅かに鈍った一瞬のうちに、突き出された槍を右足を軸に回転しながら躱し、数本の白髪がひらりと落ちるのを流し目で見ながら一歩踏み出して星の懐に飛び込む。
しかし、星も伊達に『常山の昇り竜』と謳われいるだけあって、懐に飛び込んだ私を石突で攻撃しようと槍を引こうとしているけど、そんな動きももう遅い。ビュウと風切りの音と共に星の首目掛けて朧月と月影を振り抜く。死を覚悟したのか、ぎゅっと目を瞑る星。
「…………?」
「うん、星だね」
斬ったのは仮面を留める紐のみ。カランと音を立てて仮面が落ちて、露わになったのは五年前から成長し、少女から女性らしくなった星の顔があった。
「はぁ………。また負けてしまいましたな……。あれからちょっとは差が縮まったかと思えば、まだまだでしたな。本気の、ほの字も引き出せて無かったようです」
「ううん、五年前に初めて手合わせした時とは比べものにならないくらい強くなっていたよ。槍同士でのやり合いも楽しみにしているよ」
「おや、槍ですと?てっきり、私は偃月刀を使っているものかとばかり」
「双槍だけど、穂先が長いから偃月刀の斬る役目も持ち合わせたものだよ。斬る、突く、殴る、投げるが一つになった傑作だよ」
「それは、なんとまた凶悪な武器ですなぁ」
呆れたというような表情を隠そうともしない星。………今の今まで忘れていたけど、星ってなんでわざわざここまで来たんだろう?主を探す旅に出たというのだから、幽州か併州で主を見つけているものだと思っていたけど………。
「そういえば、星ってなんでわざわざ幽州から此処まで?」
「水くさいですな。私達の仲ではありませぬか。ふふ……、お・し・しょ・う・さ・ま?」
「まだその話続いていたんだ……。私は弟子は取らないって言ったじゃないか。はいそこ、抱き付こうとしない」
「お堅いですなぁ。お師匠さま程の武があれば弟子入りしようとする武人は数多ほどいるでしょうに」
「残念ながら、私に弟子入りしようとしたのは星だけだよ。ーーーで?目的は何かな?」
「主に仕えに」
疑問に間髪入れずに答えた。それも紫暗の瞳はこれ以上はない程真剣な煌めきだ。表情もいつもの人を揶揄うような笑みは影も見当たらず、戦に臨むような引き締まった表情。
間違いなく、星は本気で此処に仕えるつもりだ。
「そっか。月………董卓に仕えるつもり?」
「いいえ。私は貴殿に仕えたいのです。董卓殿には陪臣のいう扱いになるでしょうがそれで構いませぬ」
「………へ?私に?」
「そうです。呂万武、響こそ、我が主。貴殿に仕える事こそ我が天命にありましょうぞ」
思わず呆気に取られてしまう。星お得意の揶揄いかと思えば、表情は真剣そのもの。冗談や揶揄いなど許さないと言わんばかりの鬼気迫るものを感じるほどだ。
「ええと……。本当に、それでいいの?」
「無論ですな。そうでなければ、態々幽州から此処まで足を運んでなどおりませぬ。本当ならば、あの時に仕えようと、主と仰ごうとしたのに、逃げられてしまったのですから……」
そう言ってヨヨヨ……と泣き崩れる真似をするが、白々しい。あの時は多分、五年前の幽州での旅を切り上げて、冀州に入ろうとしていた時の事だろう。
ペシリと星の頭を軽く叩いて、オロオロとしている音々の元に向う。その後ろを軽くむくれながらついてくる星の気配がする。
それがなんだか可笑しくて、懐かしくてついつい笑みを浮かべてしまう。
「どうしたのですかな?主、そのような笑みを浮かべて」
「ん、幽州で一緒に旅をしていた時の事を思い出して、なんだか懐かしいなって思ってさ。それと、主はやめて。響でいいよ」
「承知しました」
「うんうん。恋も久しぶりに星に会えるのだから喜ぶと思うよ」
「ふむ、恋とも手合わせしておきたいものですな」
好戦的な笑みを浮かべて白玉のような腕を揉んでほぐす星。まぁ、多分負けると思うけど、此処では言わないで置こう。
それよりも、泣きそうな表情を浮かべる音々を宥めないとめんど……もとい、大変な事になる。見た目が幼い女の子なのだから、泣かせでもしたら、どんな事が起こるかわからない。しかも此処は街中で、群衆の目もあり、どんな顰蹙を買うか分からない。
「響どのぉーーっ!」
「音々。大丈夫怪我してないから。此方は昔からの知り合いで……」
「趙子竜と申します。此度は響を主と仰ごうと此処までやって来た次第です」
訝しげに半目になってジトーと星を見つめては、私の方へ視線を向けてくる。本当なのかと確認の視線だろう。
コクリと軽く頷くと疑いの目を消して、幼い見た目相応の笑顔を浮かべて星に陳宮ですぞ、と名乗りを上げてから私の荷物を返してくれた。
「さ、急いで城に向かおうか。大福も待っている事だしね」
「おー!なのです!」
「ふむ、大福……とは?」
「この街で新しくできた甘味の一種だよ。絶対気に入るから、楽しみにしてて」
「ほう、響が其処まで言うのならば、期待大でしょうなぁ」
片手に引っ提げた大福の籠を見せると興味深そうに見つめている。星もメンマが好きだと公言していても女の子。新種の甘味と聞いて、興味が湧いたのだろう。
上機嫌になったのが見てわかるほどだ。
だが、その前に星を皆に会わせないとね。
そして、城内で皆が集まっている所はどこかなと思ったら、今歩いている通路の向こうから恋が猛烈な勢いで駆けてくる。しかも、目の色を変えて……って、止まって、止まって!?うわぁ!?
「いたた……」
「……お帰り、お兄ちゃん……」
「ただいま。でも、勢いは落としてね?危うく吹き飛びかけたから」
駆けてくる勢いのまま飛び込んでくるものだから、勢いを受け止めきれず、尻餅をついてしまう。もしも、これが私じゃなくて星や音々だったら間違いなく吹っ飛ぶだろう。
お腹に抱きついて頬ずりをしてくる恋を宥めて、痛むお尻をさすりながら立ち上がろうとすると、星がニヤニヤと笑いながら手を差し伸べてくる。
「相変わらず、仲のいい事で」
「大切な妹だもん。仲が良いのは当然でしょ?」
「……大切……えへへ……」
「やれやれ、胸焼けがしてきますなぁ……」
何か変な事言ったかな?恋が頰を赤らめてはにかみ、星が余計な事言ってしまった、というような呆れた表情になり、音々が頰を膨らませたりと戦乱から程遠い平安な一時が流れた。
やっぱり、この安定に来て、月に仕える事になってよかったと思う。華琳の所も賑やかだったけど、君主と配下って色が強くて、私と恋には馴染まなそうだった。だから、武者修行を理由に誘いを断った。
それに引きかえて、此処は皆が一つの目標……民の笑顔のために、民の平和な暮らしのためにっていう目標を共通して持っている、君主と配下ではなく、月をリーダーにした仲間の集まりって感じで団結しているから、和気藹々した暖かさを感じる。
私と恋が昔から欲しかった家族、お父さん、お母さんが居て、恋がいて。何も変わりない、変哲もない家族。
そんな感じがして、どうしようもなく嬉しく思う。恋も此処に来て、私と旅していた時よりも表情が豊かになって、微笑む事が多くなった。
私と二人きりのときはよく笑うけど、他の人の目がある時は笑わなかったからどうしようかと悩んでいた時もあった。でも、此処にきたら、そんな悩み事も風に吹かれたかのように消え去ってくれた。
感慨深げに恋の頭を撫でながら思案の海に沈んでいたら、不意に手の平に二本の赤い触覚のような髪の毛がピコピコと動く感触が伝わってくる。何だろうと思っていたら、手に持っていた籠が気になるようでジーッと注目していた。
「くんくん……?お兄ちゃん、何買ってきたの……?」
「ふふっ、皆集まってからのお楽しみ」
「……皆いる。お茶飲んでた」
「……絶妙な機会だね。丁度いいかな。星の事も紹介しておこうと思っていたからね」
「……久しぶり、星」
「……今頃ですか」
ちょいちょいと指を星の方へ指すと、くるりと恋の頭が動き、初めて星の姿を視界に収めたようで、僅かに眉を吊り上げて驚きーの表情を作る。
そんな恋に今の今まで気づかれてなかった事に軽く衝撃を受けつつも突っ込みを入れる星。なんだかんだで星は構って欲しい願望があるのだろう。
ちょっと凹んだような星の雰囲気を感じながらも、恋と音々の二人に引っ張られ、月たちがいるであろう部屋に入る。
「お帰りなさい。響さん」
「ただいま。月、みんな。お土産だよ」
「あら?珍しい。あんたがお酒だけじゃなくて、何か買ってくるなんて………って後ろの、誰よ?」
「あ、そうだったね。彼女は昔からの知り合いで、今回、私に仕えたいって来たんだ。本来なら、月に仕えるべきなんだろうけど、頑なにして頷かないから、仕方なくね……」
「お初にお目にかかります。趙子竜と申す。此度は、主の主君である董卓殿に無礼と承知で、響に仕えようと参った次第でございます」
ガタリと詠の椅子が鳴る。
やはり、詠は知っていたかぁ。星の二つ名。まだ若いとはいえど、卓越したその槍捌きで名を広めつつある豪傑。それが星ーー趙子竜だ。
あ、やっぱり大福は美味しいね。恋と音々も一個どう?もちろん、月たちも食べてみて。
「え……?も、もしかして、【常山の昇り竜】の趙子竜?」
「如何にも。此処にまで名が知られているとは私も中々のものになったものですな」
「す、凄いよ!月!二つ名持ちがボクたちのところに来たよ!」
「へぅ!?お、落ち着いて、詠ちゃん!?」
おお、あの詠が滅多に表さない喜びの感情を爆発させて、月に抱きついて、笑顔を浮かべている。
あ、ちなみに二つ名持ちとは、私の【武神】【白麗公】とか、【天下無双】だったり、恋の【飛将軍】だったり、霞の【神速】だったり。華雄だったら、【羅刹】、朱耀さんなら【一本斬り】。
その人の武勇、智謀を表すような言葉が二つ名であり、そんな二つ名をつけられるということは誉れでもあり、天下に我ありと示すことが出来る。
でも、私の【白麗公】は止めて欲しい。この二つ名の意味は『白き麗しの君』。つまり、これ以上ないほど白が美しく映える人という意味でもある。
この名を付けられ、どこからとも無くそう呼ばれるようになった時はとてつも無く恥ずかしかった。湯気でも出てるんじゃないかと思うばかりにまで頰も熱かった。
霞や禊(李傕)、五月雨、朱耀さん(丁原もとい高順)には散々揶揄われた。仕返しに一日、四人対私で扱いてやり、涙目になっていたのはいい気味だ。
さて、詠を落ち着けさせないと、月が貧血を起こしかけている。あんなに揺すられていたら、元々活発な性質ではない月にも耐えられようがない。
「詠、落ち着いて。月が貧血を起こしかけてるよ」
「はっ!?あ、あぁ!?ご、ゴメン、月!」
「へうぅ………。だ、大丈夫……」
顔を真っ青にした月がふらつきながらも席に戻り、羞恥で顔を真っ赤にして席につく詠と正反対の顔色を作った二人だったが、直ぐに気を取り戻して既に名乗っている音々と以前から知っている私と恋を除いた全員が真名も含めた名乗りを上げた。これに面食らったの星だ。
「なんと……、初対面に関わらず、私に真名を預けてもよいのですかな?」
「響と恋の二人が真名を預けてもいいと判断してるんさ。だから悪い人では無いから俺たちも真名を預けるさ〜」
「そうさネェ。響と恋の人を見る目は確かさネェ。否、勘とでもいうべきなのかネェ?」
呆気にとられた星に気さくに話しかけたのは禊と五月雨の二人。この二人は私たち、月の配下の中でも私と恋に次いで、朱耀さんと音々の二人に並んで新参者だ。確か、此処に仕えてからまだ二ヶ月やそこら辺りしか経っていないと思う。
でも、私も恋も月たちもみんな、この四人を心から信頼している。そして、月も詠も霞も華雄も、まだ入って三ヶ月か四ヶ月くらいの私と恋のことも信頼してくれている。家族と見てくれている。
禊と五月雨も家族と見てくれることが本当に嬉しかったのだろう。そして、次に入ってきた星にもその暖かさを教えようと親身になろうとしているのだろう。
「そうだな。響と恋の二人が趙雲を友として、家族として認めているのであれば、我らも家族と受け入れよう」
「そうやな〜。っつー訳で、早速親睦を深めるために宴会やろーや!」
「また、あんたはそうやって、口実を隠れ蓑にお酒が飲みたいだけでしょうが!」
「ギクゥッ!……いややな〜。ウチは趙雲のために……」
早速と言わんばかりに霞が酒甕をどこからとも無く取り出しては卓の上にドンッと置いて楽しそうにしている。って、もう霞は飲んでいるじゃないか。この部屋に入った時から酒臭いのがプンプン臭ってくるんだもの。大福を片手にお酒を飲んでいるけど、お酒に大福って合うのかな?
詠の鋭い切り返しに態とらしく声に出して肩を震わせる。霞は飄々としつつも、誠実であり、実直な性格だから、嘘をつくのが破滅的に下手だ。今の科白も目が宙を泳ぎ、冷や汗が数筋流れて、声も何処か震えているのだから、私でなくても気づくだろう。
「言い訳無用……と言いたい所だけど、趙雲と響に免じてパーっと飲みましょ。ちょうど、案件もひと段落ついたし、今日くらいは楽しんだって罰は当たらないでしょ」
「よっしゃ!な、響、良い居酒屋とか知らへんか?そこに話通して来るわ」
へ?意外にも詠も宴会に賛同した?
確かに、此処んとこ大きな案件は無いし、異民族の侵攻も不気味な程無い。でも、詠なら、程々にしなさいと言うかと思ったけど、ドンドン飲みなさいと言わんばかりの口調だ。
呆気に取られる私に霞が肩を組んでしなだれ掛かりながら訪ねてくるけど、それどころじゃなかった。
胸とか、女の子の柔らかい体が密着しているから物凄い恥ずかしい。霞は露出の激しい服装だから、諸に霞の体温と匂いも伝わってきて、頰が熱くなるのがわかる。チラリと俯きながらも霞の方を見ると、ニヤニヤと笑いながら揶揄いの笑みを浮かべていた。つまり、私はまた揶揄われているという事。
………へ〜ぇ、ほ〜ぉ。流石に頭に来たね。
「………霞。明日一日中私と手合わせね?手加減無しの」
「……へっ!?い、いや〜、それは堪忍してぇな……」
「ねっ?あ、恋と星も一緒にね」
「か、堪忍してぇやぁぁぁ…………」
絶望にガクリと膝から崩れ落ちる霞にプイッとそっぽを向くと、大福を片手に持った月や詠たちから同情の視線が霞に向けられていたのを視界に収めた。
何だか私が悪者みたいな感じがして複雑な気分だ。揶揄ってきたのは霞なのに……。
何とも居た堪れない雰囲気を壊してくれたのは星の含み笑いの声だった。
「ふ、ふふ……。コホン、失礼。何分愉快なやり取りだったので思わず笑いが漏れてしまいました」
「……星、此処、暖かい?」
「ふふ、そうですな。響や恋が此処にいる理由が分かった気もします。………月殿、私の真名は星と申します。響が月殿に仕える限り力になりましょう」
「へぅ、ほ、星さん!こ、こちらこそよろしくお願いします!」
「委細承知。では、響。よい居酒屋を教えてくださらぬか?」
やっぱり、そう来るか。
初めて霞を見た時も感じた事だけど、霞と星って何処か似てるよねーって思ってた。
でも、お酒が好きな事に罪はないっ。………程々にして酔っ払って暴走する人が居なければ良いんだけど……。
月とか、霞とか、禊とか、恋とか、音々とか。
特に月と音々はお酒に弱いのに、周りに合わせようとして酒甕で飲むんだから、簡単に酔っ払って暴走しては被害が主に私にかかってくるんだから自重して欲しいんだけど、酔っ払っている間の記憶が無いみたいだからどうしようも無いのが悩みだ。
この二人の他は相当強い。けど、酔っ払う時はとことん酔っ払ってはスキンシップが激しくなるから、ちょっと……ううん、相当恥ずかしい。
抱きつくのは当然と言わんばかり。口吻も仕掛けてくる。なんとか躱して油断していたら私の膝に乗ったり、胡座の中に座っては背中を密着させてくる。
霞に至っては私の服の裾を捲ってきたり、露出した太腿やお腹を愛撫してくる。大切なところまでは手を出さないのは褒めるべきなのか悩むところだ。
「良いところだと、彼処かな。鳳鳴って最近出来た新しい居酒屋だけど、品が豊富だから食べ飲みし飽きないと思うよ」
「ああ、彼処さネ。確かに彼処は美味しかったネェ」
「確かに美味かったさ〜」
鳳鳴。匈奴戦役が終わった時に流れてきた住民の一人が何処かで居酒屋をやっていたらしく、安定でも新しく居酒屋を開いたらしい。店開きをした途端、定評のある味わいで街の中でも人気がある居酒屋へと成長し、毎晩満席となって、予約しなければ入れないという程の勢いだ。
鳳鳴の名を聞いた瞬間、霞の姿が消える。石床に下駄の歯で擦った摩擦跡と風を残して。
「へぅ?霞さんは?」
「あのバカは多分居酒屋に行ったわよ。予約なんでしょうけど」
「………霞、速い……。見えなかった」
「私でも辛うじて、といったところかな」
真逆、摩擦跡からプスプスと煙が出るくらいの速さで動くほど、伊達に【神速】と謳われる訳ではないということだね。………ん?何か物凄い速さで近づいてくる?え、もう帰って来たの?
「予約取れたでぇ〜!」
「へぅっ!?」
「はやっ!?」
ギャリリリッと下駄で轍を作りながら部屋に飛び込み、勢いのある嬉しそうな声の霞に驚愕の視線が向けられた。
何せ、霞が出て行って僅かな時間しか経っていない。確か、居酒屋 鳳鳴まで此処からだと、一里(414.7m)はあったはず。更に言うならば表通りから枝分かれしている通りを奥に行った繁華区の一角にあり、人混みも相当なものだが、その中をこの僅かな時間で行けたのだろうか?
どないしたー?とでも言いたげに首を傾げて疑問符を頭に浮かべているけど。多分、月たちにとってらどうやって行った!?と問い詰めたいのかもしれない。
「えっと、何時から?」
「へ?今からに決まっとるやん」
え、今から?まだ陽が傾き始めた頃だから、裏卯の刻前頃。(15時)
宴を始めるには少々早い時期だ。
油の節約の為に裏申の刻(20時)には就寝となっている安定の城宮だが、それでもまだ二刻半の間がある。
どうして?と疑問符を浮かべると、気恥ずかしそうに頰を掻いて視線を泳がせて、霞が答えてくれる。
「そら、星と響たちは久し振りに会うんやろ?せやから、積もる話もあるんちゃうかと思うてなぁ。だから、早く行こうやってな」
「霞……。ぎゅー……」
「わぷっ。恋、響?」
「ええと、その……霞、ありがとう!」
「……霞、大好き」
こんな心遣いが嬉しくて、思わず恋と一緒に霞に抱きついてしまった。すぐに我に帰るも恋が私ごと抱きしめているため、逃げられず、頰を赤くしてお礼を言うのが精一杯だった。私の背中にいる恋も恥かしそうにしながらも、嬉しそうな笑みを浮かべている。
私たちの口撃に耐えられなくなったのか、霞も顔を真っ赤にして、慌てて部屋を飛び出して逃げて行った。霞も初心なのだ。
「えへへ……。じゃ、皆、行こっか!」
「………ん!」
「あ、恋どのぉ!響どのと手を繋ぐとは羨ましいですぞ!音々もですぞ!」
「ふふ、そうですな。五年ぶりですから話すことも沢山あるでしょうなぁ」
「へぅ、響さんと恋さんと星さんの思い出話、楽しみですぅ」
「やれやれ、程々にして月たちを抑えて置かないとまた響に迷惑掛かっちゃうわね……。………偶には響にいい所も見せて……その……うぅ………」
「禊ィ、あんまり飲むもんじゃないさネェ。前に響に恥ずかしい思いをさせたの忘れた訳じゃないよネェ?」
「うっ!?……わ、わかってるさぁ!今日はそこそこにするさ!」
「その言葉、前にも聞いたような気もするのだが、気のせいか?それはそうと、朱耀、今日こそ飲み比べで勝たせてもらうぞ!」
「いや、気のせいではないだろう。私も聞いた覚えがある。ふっ、そう簡単に私に勝てると思うなよ、華雄。今日は何を賭ける?」
途端に騒がしくなり、私たち月一行は城を出て鳳鳴に向かって道を行く。
途中に道をすれ違う街の人たちも騒がしい一行に深々と頭を下げて微笑みながら見守ってくれる。時折、街の人も私たちに話しかけては豪快に笑いあって、手を叩き合っては別れていく。
他の太守が務める都市では考えられないような光景だけど、月たちの気質と街の人たちの気質が上手く噛み合ったからこそ、この光景が見られるのだろう。とても誇らしくて自然と笑みがーーー
「あっ!呂風のおねーちゃん!」
「こらっ!あ、すみません、うちの娘が……」
「あ、いえ、もう慣れてしまいました……」
……また言われちゃった……。もう割り切ろうかな……。
ポン、と肩に手が置かれたから、そっちの方を向くと、星がニヤニヤと笑っていた。
「いやぁ、お似合いですぞ。響お姉さま?」
「……………星、明日覚悟しておいてよ」
「はて、何のことやら?」
のらりくらりと躱して逃げて行ったけど、明日になれば地獄を霞共々味わわせてやるんだから……!
次の日、練兵場から私と恋の二人対霞と星で対戦し、二人の悲鳴が上がったのは言うまでも無い。
………でも、練兵場が半壊したから詠に大目玉を四人共々喰らったのは締まらなかったなぁ………。
本来ならば、大福は三国志の時代には出ていませんが、原作でも時代を無視したものが出ているので、甘味くらいなら構わないかなと思いました(笑)
命名云々は想像ですので悪しからず。
【白麗公】という二つ名も関羽の【美髯公】に肖って独自に作りました。関羽は美しい髭を褒め称えられていますので、呂風は白雪よような純粋な白を褒め称えられたという設定です。
趙雲とは五年前の幽州で知り合い、冀州に行くまでの一年程一緒に旅しています。
勿論、安定にはお馴染みの二人も来ていますが、仕官するかどうかはまだ不明です。
さて、読者の方々にリクエストがあれば出来る限り実現したいと思います。何かあればどしどしご意見くださいませ