―この世界はどうして面白いことが見つからないのだろう。
そう思いながら9年、ただ面白いことを探している少年がいた。
親などはいない孤独な少年、だからこそ光り輝いていると思える面白さを求め続けているのかもしれない。
彼の行動範囲はとても広かった。
全国の神社を巡り怪しいと思われる場所を隅々まで探し回ったり、何年も放置されている廃墟を探索したり、果てにはこの世界の曰くつきと呼ばれる場所も探索した。
しかし、何一つ彼を満足させるものは無かった。
―そういう人生を送りながら高校を迎えた初日、彼は今度こそ面白いことが起きるのではと少しだけ期待していた。
「世の中の噂、都市伝説ってのは不確かで確証を持てないが高校という施設はちゃんと存在している。俺の思っている"面白い"がほかの人の思っている"面白い"と違っていたとしても高校にはきっと何らかの面白いことが起きてくれる。とうれしいんだが…」
ため息を吐きながら愚痴をこぼした。
始業式、生徒たちが緊張した顔をしている。壇上に立っている先生の話を退屈そうに聞いている生徒もいた。
式が終わり、クラスで自己紹介が行われていた。当然ながら自分の番も回ってくる、席を立ち自己紹介を始める。
「今日からみなさんと同じクラスになった迅風 慎(はやかぜ しん)です。面白い学校生活を送りたいのでよろしくお願いします」
これ以外の目的もないし自己紹介なんてこんなもんだろ、そう思い席に座る。
全員の自己紹介が終わり時間も過ぎ授業が始まる。
一時間目にいきなりテストと聞いて不満の声が上がる。
慎にとってテストなど時間の無駄に過ぎず、開始早々テストを終わらせ教室から出て行った。
「さてと、この学校の探索を始めるか」
ここにはどんな面白いことがあるのかという気持ちが心を燻る。
一階のほとんど教室で特別な部屋は校長室と化学実験室くらいだった。
校長室は特に不思議なところはなかった。来客用のソファーに作業をするための机、ミステリー小説ではおなじみの本棚。
一通り探索を終え化学実験室に向かう。
「校長がいないのが少し気がかりだが触れなくてもいいか」
慎は次の目的地へと向かった。
この学校の廊下はなぜか長い、学校内で運動でもさせるためなのだろうか。なんて考えているうちに着いた化学実験室。
薬品のにおい、どこか何かを感じさせる部屋だ。感じさせるだけで特に不思議なところはなかった。
「すべての部屋何も発見なし」
四階までの探索を終え、何もなかったことにほんの少しばかり残念に思いながら教室に戻った。
教室のドアを開けるとクラスの人が驚いた顔をしていた。慎は気にも留めず自分の席に戻る。もうこの学校に未練はないのだ。
どこか悲しい顔をしながら窓の外を見ていたとき
「あなた様は面白いことを探しているのですか?」
どこかからそんな声が聞こえた気がした。
慎はあたりを見回したがそんなことを言ったと思われる距離に人はいなかった。
「空耳か?そんな歳になった覚えはないんだがなぁ…。それとも思ってたよりショックが大きかったのか?」
「空耳ではありません!そんな風に思われるとはショックです…」
かなり早い返答だった。残念そうな声音だが声がすることを再認識した。
他の人には聞こえていないのか気にしている様子はない。
突如起きた不思議な現象に慎は驚きを隠せなかった。
「姿が見えないと信用できないな、姿を見せてくれよ」
慎はこの現象を受け入れる気はあった。これを逃したら二度と出会えない、そう思った。確証できないのに信じるのは慎のスタイルではないが、不思議とそう思っていた。
「分かりました!少々派手な登場をさせてくださいね」
そう言い終わった瞬間クラスの電気が突如消え、周りに暗い霧が発生した。
クラス内はパニック状態になり悲鳴が聞こえてくる。
だが、慎はこの状況になり生まれて初めて笑っていた。
「それがあなた様の笑った姿なのですね」
その声を聞きはっと自分の顔が笑っていることを告げられる。
「お、俺は笑えているのか!?この現象に面白いと思えているのか!?」
あまりに突然なことに慎自身訳が分からなくなっていた。
ある程度目が慣れてきて、自分の顔を窓で確認する。
「どちらかと言えば嬉しい、と言うべきですね。さて、時間も惜しいので屋上に来てください。そこでお話をしましょう」
それでは―、と声が聞こえなくなると同時に霧が消え、電気が点灯した。
慎は改めてクラスを見回した。散乱した机、散らばったプリント、何が起きたか理解できない生徒たちの表情。
今起こったことが本当だったと実感し、急いで屋上に向かった。
屋上の鍵は閉まっていたが慎は軽く蹴ってドアを開けた。
屋上の中央には学生とは思えない女性が立っていた。
「あんたがさっきの霧とかを発生させたのか?」
その声に反応するようにこちらを向いた。
きれいな蒼色の長い髪、お嬢様と思わせるような派手な服、一目見ただけでほとんどの人の目を奪わせる美しさだった。
「ええ、そうです。はじめまして、私はリリシア・ブランと言います」
スカートの裾をつかみながら礼をする。
慎も慌てて自己紹介をする。
「どうも、迅風慎です。この度は素晴らしい体験をさせていただきありがとうございます」
慎は嘘偽りのない言葉で感謝の気持ちを伝えた。
リリシアはその言葉に嬉しさを覚えた。
「満足していただけたのであれば嬉しいです!では本題に入りますね。私はあなた方の住んでいらっしゃる異世界とは別の世界にいます。あなた様の解釈としては私は異世界の住人、と考えてくだされば大丈夫です」
慎はただただ無言でその言葉を聞いていた。
異世界の住人、というだけで嬉しさが爆発しそうだったが話の続きが気になって仕方がなかった。
「あなた様の今までの行動を見てきました。面白さを求める、単純ですが純粋でどこまでもまっすぐな気持ちで探し続けていたあなた様を。そしてその行動に見合う 成果が出なくても探し続ける。だからこそ教えます、この世界にはあなた様が求めている面白さは絶対にありません」
リリシアはそう告げると申し訳なさそうに顔を伏せた。
しかし、慎も理解していなかったわけではない。自分が知っている知識で動ける場所はほとんど探した。それでも見つからないのだ、最初からそんなものは無かったと言っているようなものであろう。
だが、慎にとってそんなことはもうどうでもいい。
今の発言から察するに"この世界"には面白いことがない、だが"そちらの世界"には面白いことがあるということだと。
「なんとなく分かっていたことだ、そんなに気を落とさないでくれ。それとあなた様と呼ばれるのはどうも苦手だ、せめて慎と呼んでくれるとありがたい」
慎の言葉を聞き顔を上げる
「ありがとうございます!えっと、それでですね慎様。慎様の世界には面白いことが―」
慎はその口をふさいだ。
突然のことにリリシアは顔を赤くして悶えた。
「慎様、なんて仰々しい。そんな大層なことはしてないから慎と呼んでくれ。あと硬くならないでいい」
慎は手を放しリリシアを見る。
なぜか顔を赤くしていたがこういうことをされることがなかったのだろうなと考えて申し訳なく思った。
「ビ、ビックリした…。そ、それでですね、慎。慎の世界に面白いことがないのに、無いものを探したまま人生を棒に振るわせるのは絶対に嫌だって思ったの、そして慎と話すことを決めたの。私の勝手でこうしたことだからちゃんと確認したいの。私と一緒に私が住んでいる世界に来ない?きっと慎が求めている面白いことがあると思う。ちゃんと自分の意思で決めてね」
リリシアは真剣な表情で慎を見る。
慎はその言葉を何回も脳内に響かせた。その言葉と今までの人生を天秤にかける。やる必要はないと分かっていたが自分の意思でと言われたので確認がてら計ってみた。
「すごくありがたい言葉、そして悪くない条件と気持ち、全部合わせて了解だ。俺はリリシアの世界に行きたい」
自分の意思で確認したぞ、と笑いながら言った。
リリシアはとても嬉しそうに喜んだ。
「あ、ありがとう!私も精一杯慎のために頑張るわ!」
そういうとリリシアは空中に陣を描いた。
五芒星を描くのかと思っていたが、違った形をしていた。
どうやらその世界の魔法陣らしい。
慎の知識には一切ない形だった。
「さあ、私の住む世界アルトレリオンへ!」
リリシアは手を差し伸べる
これだけ堂々とやっていてほかの人が気づかないわけがなく、ざわざわと魔法陣を指していた
誰かに止められる声が聞こえた気がする。だが慎は気にせずに魔法陣の中で手を差し伸べるリリシアの手をつかんだ。
これから先は本当に面白いことが待っているのだろう。
そこには困難や試練があるだろう、だがそれに見合う何かがある―。
そう考えずにはいられなかった。
処女作を読んでくださりありがとうございます。
初めてということもあり文章を構成していくことの大変さを実感いたしました…。
徐々に直していくつもりですが、もし文字の打ち間違いなどがありましても温かい目で読んでくださると嬉しい限りです。
投稿する際に思ったのですが、これ長くね!?と自分でも驚いています。ですが長い作品のほうが読み応えある!と言ってくれることを信じてこのスタイルで続けさせていただきます。
この小説を読んでくださった皆様方、ありがとうございます。これから先も、どうぞよろしくお願いします