光り輝く魔法陣を抜けるとそこには幻想的な世界が広がった。
元いた世界の車などがなく空気がとてもよく、俺の知識にもある空を飛ぶ人もいる。
「本当にいい世界だな―。眺めているだけでもよくわかる」
「そう言ってれるととっても嬉しいわ」
えへへーと照れながらも自分の住む世界を褒められ嬉しそうに飛び跳ねていた。
「早速で悪いがリリシア。この世界はどういう仕組み、というかどういう風に動いているのか教えてくれないか?」
リリシアはアルトレリアンを見つめた。
「この世界は勝負で決める国もあれば平和でのどかな国もあるの、私の国は本当に平和になったのよ」
慎はそう言われて納得していた。
確かにここの人たちはみんな温かそうだ。見かける人ほとんどからそういう印象を受け取れる。
「平和になった、ということは昔はひどかったのか?」
「そうね、昔は悪魔軍が領地を増やすためにいろいろな場所を侵略していったの。私は生まれてないから教科書でしか知らないけどすごくひどかったらしいの」
少しつらそうな顔をしている。この手の話題は触れないほうが良さそうだ。
「そうか、分かった。辛いことを思い出させて悪かった」
慎は頭を下げ、次の質問に移った。
「疑問に思っていたんだが俺はどこで暮らしたらいいんだ?リリシアの家はなんていうか恥ずかしいし?」
「私は別に構わないわよ?ひとりで暮らしてたのが楽しくなるのは大歓迎よ!」
リリシアは嬉しそうに自分の家に向かっていく。
慎はそれについていく。この風景を守りたいという意思がなんとなく分かった気がした。
リリシアはある家の前に立ち慎のほうに向きなおす
「着きました!ここが私の家です!立ち話もなんですから入りましょう!」
慎はテンションの高いリリシアを見て驚いていた。
そしてさっきの言葉を思い浮かべる。
―ひとりで暮らしてたのが楽しくなるのは大歓迎よ!
そうか、リリシアはリリシアでこの世界に退屈していたのか。平和な世界に退屈でもしたのか?
考え込んでいる慎にリリシアは不思議そうに首をかしげる。
「どうしたの?入ってお茶にでもしない?」
「ああ、そうだな。」
慎は考えるのをやめ家の中に入った。
そこには慎の世界にないものがたくさんあった。
かぼちゃのランタンはハロウィーンでも見かけるが、自在に浮遊しながら灯りとなるランタンだったり魔法で動いていると思われる時計だったり、見るものすべてに慎は興奮してしまう。
「おお!すげえ!でもこれって魔法で動かしてるんだろ?リリシアも魔法を使えたりするものなのか?」
その言葉にキョトンとした顔をする。
「魔法…?慎の世界ではこれを魔法と呼ぶの?でもこれは普通に売っているものよ…?」
疑問に疑問で返され面を食らった顔をする。
しかしそう思うのも仕方あるまい。
お互いの世界の言葉で話していたのであれば話が食い違うのは当然であろう。
「俺のいた世界では科学で証明できない現象を魔法と呼んでいたな」
慎は不思議そうにリリシアが作ったと精霊詠唱を眺めながら聞いた。
「俺にも使えるようになるのか?」
慎のその言葉を思っていなかったのかリリシアは嬉しそうな驚いたような顔をしていた。
慎は特に邪なことを考えていたわけではない。
ただ、使えたほうが面白いという単純かつ純粋な感情。もう一つは慎がリリシアを守りたいという意思なのだが、まだ慎は気付いていない。
「うーん、使えないことはないと思うけど私が教えられるのは簡単な精霊詠唱よ」
やや申し訳なさそうにリリシアは言った。
だが慎はその言葉を嬉しそうに聞いた。
「本当か!?そいつは嬉しいな!よし、俺の世界の紅茶を堪能させてやるぜ」
やや足早にキッチンに向かった。
リリシアは慎の一連の流れを母親のように眺めているだけだった
「本当に楽しそうな顔…連れてきてよかったわ…。―って私も同じよね」
慎をこちらの世界に連れてきてから自分もずっと笑顔でいることに気付いてさらに嬉しくなる。
これから先とても楽しいことが起きるのだろう、そんなことを考えてしまう。
「おーい、これどう使うんだー?」
台所から響く声にハッと我に返り台所に向かうリリシア
「あ、それはこう使うの」
ひょいっと取り上げて実演してみる
「俺の世界でいうミキサーが進化した感じか」
マジマジとミキサーのようなものを見つめる。
この世界の器具を一通り教えてもらった慎は紅茶を淹れリリシアに飲ませた。
「わぁ…。とてもいい香りで温かい…。それにとっても美味しいわ」
優雅に紅茶を飲む姿はまさにお嬢様といった風格だ。
でもどこかお嬢様というより天然のお姉さんって感じなんだよな。
そんなことを思いながら慎は美味しいと言ってもらってほっと安堵の息を吐いた。
「そう言ってもらえると淹れた甲斐があったってもんだ」
紅茶を飲み干すと満足したようにカップを置いた。
「さてと、この美味しい紅茶っていうのを飲ませてもらったし精霊詠唱の特訓に行きましょう?」
その刹那慎はスッと立ち上がり喜々とした顔で言った
「準備はいつでも万全だ!いつでもオッケーだぜ」
ふふっ、と笑いながらリリシアが道案内した
着いたところはとても広い原っぱのようなところだ。
あたり一面が緑で覆い尽くされていて、自然と一体になっている気がした。
「それじゃあ始めましょう。まずは自分の中にある無意識の世界に入るところから―」
言い終わる前に慎が驚きの声を漏らす
「ちょっと待ってくれ、いきなり難易度が高すぎないか?普通の人間が無意識の領域になんて簡単に入れるわけないぞ」
「なんとなくの知識はあるのね。じゃあ無心のまま5分くらいいてもらえる?」
言われるがまま慎は無心状態になった。
木々のざわめき、なびく風の音、無心になってから聞こえる音は興味深い。
そんなことを考えていた慎、しかし無心状態とは言えない。
リリシアは慎の肩をぽんっと叩いた。
「考え事をしたらダメよ」
再び無心になる慎。
気が付くと、どこかから不思議な声がした。
「あなたはこの世界の人じゃないわね、でも邪な心があって来たわけじゃない」
女性の声だとは分かったがそれ以外のことは全く分からなかった。
「あなたは無意識の世界に入って来たのよ、それも意識があるまま。無意識の世界に意識があるまま入ってくるなんてなかなかイレギュラーだったからお話させてもらったの。でもあなたなら大丈夫そうね」
これは意識して入ったわけではないのだが、まあ言わないでおくのがいいか。
「あら、無心になってたら入ってきてしまったのね、才能というべきか偶然というべきか…」
その言葉に慎は驚きを隠せなかった。
アルトレリアンに来てから驚きっぱなしだったが今対面しているこの状況が一番驚いていた。
「ふむふむ、精霊詠唱を得たいのね。それには試練の祠に行って実力を確かめてから試練の番人がその人の心と合う系統精霊を呼び出して、精霊詠唱を覚えるのだけれどあなたはそんなことを試す必要はないわね」
なるほど、さっぱり分からん。
「この世界に来てまだ何にも分からないから混乱するのも当然よね。でもこれから先もっと驚くことがたくさんあるから慣れておかないとダメよ?」
大人びた女性の笑いが響き渡る。
「そんなあなたに特別サービスよ、私があなたにとびっきり素敵な精霊をあげるわ。心が通い合うかはあなた次第だけど、あなたならできると信じているわ。それと、もう一つだけいいかしら」
少しだけ真剣な声音になって響いてきた。
慎は首を縦に振った。
「あなたを連れてきたあの子、ちゃんと守ってあげてね。あなたとはまたどこか違う場所で会えるはずだから楽し―。」
慎の意識が遠くなっていく。
―。
――。
かれこれ二十分ほど経過したが慎はまだ無心だった。
リリシアは慎の才能に感動した。
私が無心状態をこれだけ続かせるようになったのはどれくらい勉強した時だったかしら。
そんなことを考えながら慎を呼びかける。
「慎、よくできました。戻ってきて平気よ」
リリシアの声が耳に響き現実に戻される
慎はあたりを見回し現実に戻ったことを認識する。だが、どうも腑に落ちないため確認も兼ねてリリシアに質問をする
「なあ、この世界では試練の祠をクリアして天使界の人たちがその人に合った系統精霊を呼び出すのか?」
無意識の世界で聞いたと思われることをそのまま口にする。
「え、えぇ、そうよ?でもどうして知っているの?私はそんなこと話してないわよ?」
リリシアは難しい顔をしながらこちらの顔を覗いてくる。
となるとやっぱり本当だったのか。
リリシアの反応を見ながら確信する
そして言われた言葉を思い出す
―あなたにとびっきり素敵な精霊をあげるわ。
しかし慎は精霊の扱い方はまったく理解していない
「質問続きで申し訳ないが、精霊はどうやって呼び出すんだ?」
「えっと、その精霊を表す紋章みたいなのがあるんだけど、そこに手を当てて呼び出すの。手を当てなくても呼び出せるらしいけどよく分かってはいないらしいのよ。呼び出し方は人それぞれだからとくに決まった言葉っていうのはないわ」
まずはどこに紋章があるのかを探すところかららしい。
疑っているわけではないのだが紋章を見ないと信じられない性分なのだ。
慎は自分の体を見る。
腕、足にあらわれてないところを見ると背中あたりかと予想した。
「すまんリリシア、ちょっと背中を見てくれ」
「え!?」
リリシアが素っ頓狂な声をあげた。
男の背中を見たことがないんだろうが自分の確認のほうを優先したいため今は無視をしていた。
リリシアに背中を見せどれだけ驚くのだろうかと思ったが帰ってきた声は予想外な反応だった。
「す、すごい…。こんな大きいの始めて見た…」
聞くだけだと誤解を受けそうなセリフに慎も驚いていた。
「す、すまん。男の背中を見たことがなかったにいきなり見せて悪かった」
慎は罪悪感を感じながら謝る。
「あ、違うの。慎の背中にすごく大きい紋章があってこんなに大きい紋章を見るのは始めてだったから驚いちゃって」
慎はリリシアが素で天然なんだと思った
だが、背中に紋章があると見ることはできないがリリシアが言っていたから間違いではないのだろう
慎は心の中で姿を見せてくれと願った
するとぽんっと可愛らしい音を出しながら精霊が召喚された
「は、はじめましてマスター…。どの系統にも属さず名前もない無の精霊です…。お、お役に立てるかは分かりませんが…」
か細い声でそういった無の精霊。
「四大精霊のどれにも属さないなんて…。すごい精霊と合ったのね慎!」
リリシアはマジマジと無の精霊を見る。
それに恐怖を感じた無の精霊は慎の後ろに隠れる。
慎の後ろに隠れた後慎の顔を見て無の精霊は遠ざかり体を震わせた。無の精霊が震えるたびに地面が揺れる。
傍に来たときに顔を見てこうなったってことはつまり、俺より前の契約者が無の精霊にひどい目に合わせたんじゃないのか?だが自己紹介はできていたし…どういうことだ?
「お、おい大丈夫か!?俺が近くにいるから安心しろ!」
無の精霊を抱きかかえ安否を窺う。
慎の考えはおおよそあっていた。
―無の精霊。遥か昔にアルトレリアンで起きた精霊戦争で終止符を打つためにあらわれた精霊。どの系統にも属さない無の強さで圧倒し戦争は終わったが、あまりの強さに人々だけでなく四元精霊からも忌み嫌われてしまった。
慎はそんなことをまったく知らない。だがそれでも無の精霊を暗い世界にいさせたくない一心で言葉を続ける。
「何を怖がっているのか俺には分からないが俺は絶対にお前を怖がらせたりしない!」
慎の真剣な声を聞き無の精霊は慎に問いだす。
「わ…たしは…いろんな人から…嫌われてきて…。だから…怖いの…」
無の精霊の辛い気持ちに慎は気づいた。
こいつもこいつで長い年月辛かったんだろうな。俺が過ごしてきた退屈な時間なんてこいつに比べたらぬるいよな。だけど、だったらなおさら契約者である俺がこいつに面白いことを教えねえとな。
「大丈夫だ、俺はどんなことがあっても絶対にお前を嫌いになったりしない!絶対だ!」
慎は力強く無の精霊を抱きしめる。
「今すぐには信じられなくても、今はまだ怖くても、必ずお前を笑顔にして見せる!だから信じろ!」
無の精霊は自分にここまで全力な人を見たことがなくどうすればいいのか分からなかった。信じれるかと問われたらまだ答えられないがこの人なら本当に―。
「ほんとう…に…?ぜったい…?」
どこか不安そうな声。様々な感情が葛藤しているのだろう。
俺はそんな声は聞きたくない、もっと明るく楽しい声が聞きたいんだ!
「あぁ絶対に!」
どんなことがあったとしても!たとえ俺とリリシア以外が敵に回ろうとも!
「楽しくして見せる!」
そこまで聞き終えると、無の精霊は安心したのか寝てしまった。
これで慎と無の精霊との絆ができればいいのだが…。そんなことを考えながら慎は空を見る。
無意識の領域。ひとりの女性がその一部始終を見ていた。
「やっぱりあの子に任せて正解だったわね。あの子ならこれから先も必ずムーちゃんも笑顔にできそうね。ふふ、でもムーちゃんかぁ…。あの子にあだ名なんてつけたことなかったから新鮮だったのかもしれないわね。でもやっぱり…、あの子にある無限の可能性も見てみたいわ。それに―」
女性はリリシアを見る。
「あの子にも同じくらい、もしかしたらもっとすごい可能性があるかもそれないわね…」
女性は楽しそうに話す慎とリリシアを眺める。
だがここから見られているとは思ってもいない慎たち。
「どうかあの子たちに素晴らしい出会いと加護がありますように」
そう願いながら女性はどこかに消えた。
第二話を読んでくださりありがとうございます。
感想としては前回より長かったですね、はい(笑)
新たな仲間、無の精霊が仲間になり少しずつですが物語が動き出しました。無の精霊はあんまし喋らないイメージですが、本当は普通に喋れたりします。
読んでいい時間になってくだされば幸いです。
これからの更新は二週間ごとくらいになります、申し訳ございません。