リリシアと慎はお互いの顔を見て笑いあった。笑いこそあったがこの揺れで起きた被害をどうしようか考えてしまう。
ちょっとあいつやりすぎたんじゃね?
そんな心配を抱える慎はリリシアをチラ見する。
しかし、特に困っている顔ではなかった。
「これじゃ続きができないわね、家に帰りましょう」
ふむ、なるほど、この世界ではそんなことは気にしないのか。そうかそうか、なんて平和な世界なんだ。
「そうだな、今日は教えてくれてありがとう」
「私は何もしてないわよ。慎自身の才能じゃないかしら」
帰りながら他愛のない話をしていた。しかしどこまでも悪運は続いていくもの。
「そこの二人、悪いがその精霊を置いてもらおう」
いきなりの声に背後を向く二人。
正体不明の青年に無の精霊を置けと言われて素直に頷く人はいないだろう。
「断る、ムーは俺の精霊だ」
「ムー?その無の精霊はこの世界に災いをもたらすもの。今すぐにでも消さねばならん。それを理解していて断るというのなら力づくでも奪わせてもらおう」
男は精霊を呼び出し轟々と燃える熊のような何かが現れる。
見たところサラマンダーに似ていなくもない姿にやや驚いていた。サラマンダーと言えば燃え盛る炎を纏うトカゲだが、こちらの世界では熊のような姿だった。
契約者とかによっても姿は変わるものなのか…?だがまあ、見たところ四大属性に関しては俺のいた世界とそんなに変わらなそうだな。火はサラマンダー、水はウンディーネ、風はシルフ、地はノーム。伝承されている姿などが必ずしも一緒かどうかと言われると無いと思うが。
「〈エレメンタル=トワイライト〉のルーン・ヴィッヂが命ず!サラマンダーよ、やつを食い尽くせ!」
ルーンは雄々しく命令し、サラマンダーが敵を確認する。
すぐさま慎に襲い掛かるサラマンダー。
しかし慎はサラマンダーの攻撃を軽々と避け男めがけて走り出した。
攻撃を躱されたサラマンダーはすぐに体制を立て直し後ろから反撃をするが、慎はそれを想定していたのか回し蹴りを放つ。
慎の強烈な蹴りがサラマンダーの腹部を直撃し霧散した。
再び慎は男めがけて走り出す。
慎の拳をとっさの反応で男は回避したが慎はすかさず掌底を放つ。
一発で気絶してしまった男を見て慎は拘束状態にして去っていった。
「なんだ、すごく弱いのなお前。精霊のほうが強いとか立場逆じゃね」
慎は笑いながら男を見る。男は完全に気を失っており、倒れこんでいる。
まあ元から誰かを殺めるつもりはないし、リリシアたちの前でやるようなことじゃない。しっかしガキの頃に覚えた格闘術がこんなところで役に立つなんて人生何が本当に起こるか分からないもんだな。
「とりあえずこいつをそこら辺に縛っておいて家に帰るか」
家に着いてすぐに慎はリリシアと話し合いをはじめた。
「ムーを狙ってくる輩がこんなにも早くに出るとは思ってなかった、これは早めに策を考えないといけないな。しかし盗み聞きをするなんて不逞な輩だ」
慎は険しい顔をしながら考えていた。
「そうね、私がいたのに盗み聞きされていたなんて…。でもサラマンダーをあんな簡単に倒しちゃうなんてすごかったわ」
リリシアもリリシアで曇った表情のままだった。
「蹴る前は触れたら燃えるんじゃないかって思ってたがムーやリリシアに危害が加えられるよりはマシだと思って蹴ったんだ。思ったより強く蹴っちまったが」
慎は苦笑しながら若干焦げている靴を見る。
そんな話をしていると無の精霊が起きてきた。
「お、ムー起きたか。大丈夫か?」
慎は心配そうに無の精霊の頭を撫でた。
無の精霊はやや嬉しそうな顔をした。
「あり…がとう…、マスターとリリシアのこと…信じる…」
無の精霊は笑いながら細い声で思いを伝える。
慎とリリシアは顔を見ながら笑いあった。
「あ、マスターってなんか仰々しいから慎って呼んでくれよ?」
「分かりました…です。慎…」
よしよしと頭を撫でる慎。
少ししてリリシアが突如精霊を呼び出した。綺麗な緑髪をなびかせモデルのような姿をしていた。
いきなりのことで驚く慎と無の精霊。
「精霊の紹介をしてなかったわね。私の精霊、シルフよ。系統は風よ」
慎はシルフという単語を聞き納得がいった。
さっきの盗聴云々で言っていたことはやはり風の力で人を把握できるってところだろうな。
慎は一人、考察をしていた。
「ムー、リリシアのシルフとも仲良くしてやってくれ」
「よ…よろしく…。ムーです…」
無の精霊は頭をぺこっと下げた。
シルフも続けるように頭を下げた。
「こちらこそよろしく、ムーちゃん」
精霊によって話す速さが違ってくるのか。話せる精霊もいれば黙ったままの精霊もいるってことなのか…?となると闇の精霊たちとももしかすると意思疎通ができるのか…?ま、今はそんなことより相性がそんなに悪くなくてよかったことに感謝しないとな。
喧嘩が起きる心配はなさそうだと安心した慎。
二人の精霊の会話を楽しそうに眺める慎とリリシア。
「俺たちも強くならないとな。ムーたちを守りたいのに守られるのは嫌だからな」
慎はどこか思いつめたように遠くを見る。
しかしリリシアはそれに気付かなかった。
「慎はそのままでも十分に強いと思うわ…。私のほうがもっと強くならないといけないのに…」
「となるとお互いで特訓してみるか?実力も分かり合えるし一石二鳥だろ?」
慎から出された提案にリリシアは賛成の意を見せる。
でも、慎の足手まといにしかならないんじゃないか、そんなことを思ってしまうくらいに慎は強かった。
「どうしたリリシア?言っとくが足手まといとかそんなこと考えるなよ?誰にも得手不得手はあるんだ。魔法が得意なやつもいれば近接が得意なやつだっている、もちろん両方できるやつもいるが」
「慎…」
「でもな、後ろ向きに考えているやつが強くなることなんて絶対にないんだ。だからそんなことを考えているならきれいさっぱり忘れろ。それに、これから先にすごく強い敵が来るかもしれないって考えたらワクワクして来ないか?特訓するときもどんな時も前向きに面白おかしくいこうぜ?」
慎はリリシアの頭を撫でながら諭す。
今まで誰かと接することがなかったためこうして話せるリリシアや無の精霊に正しい方向に進んでほしいと思っているのだ。
暫くすると無の精霊が慎に近寄ってきた。
「ムー…のことも…、撫でてください…」
対抗心を燃やしたかのように頭を出す無の精霊。
苦笑いをしながらもムーの頭も撫でた。
数分撫でた後、慎は何かを思い出したようにリリシアに質問する。
「あ、そうだ、リリシア。ここら辺に図書館…、えっと本をたくさん貯蔵してあるところってあるか?」
「精霊に関しての本ならここの近くにある古殿に行くといいわ」
リリシアにここら辺の地形図を書いてもらう。
すごいな、筆が勝手に地形を書き始めている。だがこれはシルフの力ってわけじゃなさそうだが…。能力とかを譲渡できる精霊がいるとしたら物に付加させることも可能なのか…?それともこの世界でもひたすらに便利なものを追求する人でもいるのか?
「はい、こんな感じよ」
完成した地形図をもらい頭の中に地形をインプットさせ古殿までの最短の道を考える。
ある程度把握したところで今の時間を確認する。
「もう時間も遅いし寝るか。ベットはどこにあるんだ?」
「あ…ベット買うのすっかり忘れてたわ…」
言われて思い出し申し訳なさそうに肩をすぼめていた。
「今日はいろいろあったし仕方ない。そこら辺の椅子とかで寝るとするよ」
慎はそういって椅子に腰かける。
あ、この椅子思っていたより柔らかいぞ。よく寝れそうだな。
「し、慎が良ければ私のベットで寝てもいいのよ?」
「ん?」
年頃の男子にそんなこと言っちゃダメだろ。
そんなことを思いながらもどうしようか悩んでいた。
寝相と寝息はひどくないし大丈夫だとは思うが、まあリリシアにそういう気がないし問題ないか。今まで誰かと一緒に寝たことないから寝てみたいんだろうな、俺と同じかは知らんが大勢の中で過ごしてきたわけじゃないんだろうな。
「わるいなリリシア、それじゃベット借りるわ。リリシアはどうするんだ?」
「え!?私も一緒に寝るわよ?」
「そうか、それじゃ部屋までの案内たのむ」
リリシアは嬉しそうに部屋まで案内する。
やっぱり誰かと一緒に寝たかったんだな。
嬉しそうなリリシアを見て微笑む慎。
女性の部屋に入るというのはやっぱ緊張するな。ここら辺は男子といったところか。
リリシアの部屋は綺麗に整頓されていてどこに何があるか分かるように仕切り板まで設置されていた。
ベットが大きくて良かったと心の中で安堵の息を吐きながらベットに向かう。
「それじゃおやすみ、慎」
「リリシアもおやすみ、良い夢を」
慎は目を瞑るとすぐに寝てしまった。
リリシアはその寝顔を見ながらつぶやく。
「良い夢はとっくに見れてるんだけどね…。まだ気付いてくれないのかな」
慎の頬につんつんと指でつつく。
「うぅ…ん…」
慎の反応が面白かったのかさらにつつく。
しかし眠気には勝てず、リリシアも眠くなってきた。
リリシアは恥ずかしそうに、慎の手を握り眠りついた。
「おやすみ、慎…大好きだよ」
慎の知らない甘酸っぱい物語である。
投稿が遅れてしまい申し訳ありません。東雲です。
社会人になり慣れない生活を送っていてあまり書く余裕がなかったもので。
今回登場してきた「〈エレメンタル=トワイライト〉」なのですが、これから先ずっと敵として登場してきます。ただ今のところ襲撃は予定していません。
あとはもう少し戦闘のシーンを長くしたいですね…。自分の言葉の下手さがよく分かります。
文中にありましたリリシアの恋の気持ちを伝えるかどうかを悩んでいたりします(汗
さて、次回は無の精霊と同じ系統の精霊が登場します。
そして申し訳ありません。次回の投稿は未定となっていますのでご了承ください。
この度は読んでいただきありがとうございます。少しでも読んでいて楽しいと思ってくだされば嬉しいです。