The transmigration of Eagle   作:fumei

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入学前
前編


 1990年12月24日。街中は鮮やかなライトに照らされたクリスマスツリーが飾られ、買い物を楽しむ人々で賑わうロンドン、キングス・クロス駅から歩いて20分───邸宅が立ち並ぶある住宅街の影に男が一人姿を現した。

 

 男の名はセブルス・スネイプ。彼が今日ここ、グリモールド・プレイス十二番地にやってきたのはそこの住人にホグワーツ入学許可証を渡すためである。

 

 スネイプが十一番地と十三番地の間をじっと見つめ、そのまま数秒ほど立っていると、「パシッ」という軽い音とともに屋敷しもべが現れた。

 

「ホグワーツからの使者様でございますか?」

 屋敷しもべはキーキーとした特徴的な声でスネイプに問いかけた。

 

「左様…吾輩はセブルス・スネイプ、この度はホグワーツの入学許可証を届けに来た次第だ。」

 スネイプは突然屋敷しもべが現れたことに驚きもせず、むっつりと答えを返す。

 

「少々お待ちくださいませ。」

 屋敷しもべはお辞儀をして、姿くらましをした。ほどなく十一番地と十三番地の間から重厚な扉が現れ、次に漆喰の白い壁続いてピカピカに磨かれた窓が現れた。みるみるうちに十二番地に大きな館が姿を現す。 

 石段を上がった先の黒い扉の前には先ほどの屋敷しもべがおり、扉を開けて待機している。

 

「失礼する。」

 スネイプはこの館が代々ブラック家の所有しているものであり、当主があらゆる安全対策が施され万全の守りが敷かれていることを知っていた。当然、この館には鍵はなく、郵便受けもなかった。すなわちフクロウで手紙を届けることができない。

 スネイプがわざわざ訪ねてきたのにはこのことも理由に含まれていた。

 

そしてもうひとつの理由は───

 

「ようこそおいでくださいました。スネイプ教授」

 

───住んでいるのがこの少年一人だからである。

 

 見る人全てに好感をもたせるだろう微笑みを浮かべて客を歓迎するこの少年───アルタイル・レギュラス・ブラックは父をおなかの中にいるころに亡くし、母は5歳のころに病死した。

 以来、この大きな館に一人で暮らしている。なかには幼くして両親を亡くしたアルタイルを不憫に思い、養子縁組を申し出た者もいたそうだが、彼はブラック家を断絶させるわけにはいかないと断ったそうだ。

 一連の悲劇を日刊預言者新聞は「幼きブラック家当主の覚悟」として書き立てたが、上からの(おそらくマルフォイ氏だと思われる)圧力により大した話題にならず、それきりアルタイルは家へ閉じこもったため、世間はその存在を忘れていった。

 

 そして、今日12月24日にアルタイル・レギュラス・ブラックは11歳になり、ホグワーツへ入学する資格を得、再び世間へ姿を現す(表舞台へ上る)のだった。

 

 

 

 

 

「───では、要件は以上ですか?」

 手紙を読み、返事を書き終えたアルタイルがスネイプに問うた。案内された客間を見物していたスネイプは席に戻り、返事をしたためた手紙を受け取りながら答える。

 

「いや、姓をそのまま使うのかどうかを聞いてくるよう頼まれている。」

 

 ブラックはその名が体を表すかのように評判がいいわけではない。10年ほど前にはアルタイルの叔父にあたるシリウス・ブラックが死喰い人としてアズカバンに収監された。

 アルタイルの父親のレギュラス・ブラックも世間に公表されたわけではないが、「闇の陣営にある程度まで入り込んだが、恐れをなして身を引こうとしたために他の死喰い人に殺された」と影では囁かれている。

 

「いえ、友人もいることですし、ブラックのままでいいです。」

 

 悪名を恐れることなく、アルタイルははっきりと答えた。スネイプはその自信が親族との無関係を装うものなのか、悪評判を覆せる余裕からくるものなのか判別しかねた。だが、これだけは尋ねておくべきだと思った。

 

「友人というのはドラコ・マルフォイのことかね?」

 闇と関わりが深い者との付き合いが長ければ、注意を払う必要がある。

 

「ええ。ドラコのお父上であるルシウス氏には母の葬式の件でお世話になったので、それ以来色々と面倒を見てもらっていて……たまに食事をご一緒させてもらっています。」

 

 ルシウス・マルフォイはかつて死喰い人の一人として名前が挙がった人物である。とはいえ、スネイプは彼の人となりを良く知っている。純血主義に傾倒する面はあるが、家族愛に深い男性だ。息子の友人として夕食に招いても不思議ではない。

 

 アルタイルは暖炉の上の写真立てを見ていた。写真立てにはマルフォイ家の人々と笑顔で映るアルタイルの姿が見てとれる。その笑みに嘘があるようには見えない。

 事実を確かめようにも開心術を試みることはできない。さすがに正面にいる人に向かってバレずに杖を振るのは無理だ。

 まして、ブラックとはいえ11歳の子供。大した脅威にもなるまいとスネイプはこれらの指示を出したダンブルドアの心配がばからしいものに思えてきた。

 そう考えている間にアルタイルの視線は正面に座るスネイプへと戻っていた。

 

 スネイプは改めて見て、アルタイルの造形が整っていることがわかった。瞳はブラック家の男によく見られる灰色をしていて、雨が降り出す直前の空を思い出させた。目つきは穏やかで、この辺りは父親に似ていると思われる。これでもし相手を射抜くようなあの忌々しいシリウス・ブラックのような目つきであったらスネイプは早々に用事を済ませ出ていくところだった。少年だからなのか透き通るように美しく瑞々しい肌は、地下室にこもりっきりの不健康を表にだしたスネイプとは大違いだ。絹糸のように艶のある黒髪は軽く目にかかるほどで肌とのコントラストを強調させている。

 

 

「───お茶のお代わりがいりますか?」

スネイプはいつの間にかぼうっと目の前の人物を眺めていたことに気づいて、居た堪れなくなった。

 スネイプは気まずさをごまかすためにお代わりを要求した。

 

 

 その後、数分間をホグワーツの説明に費やし、スネイプはアルタイルと屋敷しもべに見送られブラック家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 館が面する道路に生える樹の影でスネイプが姿くらましするのを見届けると、アルタイルはその顔に浮かべていた笑みを消し、館へ戻った。

 (スネイプは今のところ僕に不信感を抱いていないようだ)

 アルタイルは客間の片づけを屋敷しもべのクリーチャーに任せ、自室に戻りながら先の出来事を思い返した。

 

 (ただダンブルドアは違うみたいだな)

 マルフォイ家との関係について聞いてきたり、自分のことを観察していたりしたのはおそらくダンブルドアに言いつけられていたからだろう。

 

 

 アルタイルがまだ11歳であるにも関わらず、ダンブルドアに目を付けられるようになったのか。その原因は6年前にさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

 アルタイルは本来魔法も何も不思議な力を持たない一般人だった。マグルという意味ではなく、最初から魔法など存在しない世界にいたのだ。

 ところがある日、死んだと思ったら五歳児になっていて、さらに『ハリーポッター』という誰もが一度は聞いたことのある本の世界であるというのだから頭が混乱していたのだ。しかも、目の前には屋敷しもべが泣いている。

 

「あぁ……そんな……お坊ちゃま……お可哀想に!まだこんなに小さいのに母君も亡くされて……!どうしましょうレギュラス坊ちゃま……クリーチャーめはどうすればよいのか分かりません!」

 

 そこでアルタイルは自分が本来原作に登場しないレギュラス・アークタルス・ブラックの息子であることを知ったのだ。

 まだ5歳ということで多少状況を把握できていないことをごまかせたが、いきなり自分の母親という関係にあるからといって赤の他人のために涙を流す器用なマネはいくら世渡り上手を自覚するアルタイルでも対応できなかったのだ。自分が転生してきたその日が母親の葬式の日だったらしく、アルタイルはすべてがただの夢なのではないかと実感を持てぬまま式に出席していた。

 人々が悲しみに伏している際ただ突っ立っていたアルタイルの姿が、同じく式に出ていたダンブルドアの目には不自然に映ったのだろう。影射す蒼い視線が一瞬交わった。

 記者に囲まれていたため、直接話しかけられはしなかったが、あの老人は遠目に自分の様子を伺っていた。

 

 式が終わるとアルタイルは出席していたマルフォイ氏に連れられ、そこで両親の詳しい話を聞き出すことができた。

 

 

 

 

 

 

 それから6年。アルタイルが家に閉じこもり、何をやっていたかというと───魔法の特訓だった。

 

 元は魔法が使えない世界から来たのだから純血主義は理解こそすれ共感できない。

 ゆえに純血主義がもとで起こる闘争は他人事。本の世界だと認識してしまえば、魔法使いの戦争が起きたところで対岸の火事みたいなものだ。誰かが死んだところでそれは物語上の都合である。アルタイルは掛けるべき慈悲の心をもたなかった。

 

 しかし、ブラックとして生まれたからには無関係でいることはできないだろう。

 例えばハリーが三年生になる年にはシリウス・ブラックの脱獄がある。甥にあたる自分は必ず注視される。五年生以降のヴォルデモート卿が復活した後はブラック家としての身の振り方を考えなくてはいけない。

 そこでアルタイルは中立派の立場をとることに決めた。そしてその立ち位置を保ち、闇の勢力からの干渉などの火の粉を自力で払えるよう自分の力を高めておこうと思ったのだ。

 

 また、もう一つの勢力、ダンブルドア含む不死鳥の騎士団を筆頭とした光の勢力についても問題はないだろうと判断した。

 もとより純血主義に傾倒しているわけでもないのだから、その態度を普段から表に出すだけでいいのだ。マグル出身者とも仲良くしておけば、ダンブルドアはわからないが他の人々は信用するはずだ。アルタイルは自分の外面の良さには自信があった。

 

 元の世界でも、いつも彼は多くの人から慕われていた。眉目秀麗かつ家も裕福で人当りもよい彼の周りはいつも人に囲まれていた。自ら進んで仕事を引き受け、勉学に積極的な姿は大体の人に好意的にとられる。一方で、影では彼を妬む者もいた。そういった者たちはアルタイルの評判を落とそうと画策したが、どれも失敗に終わった。───なぜなら、そうなるようにアルタイルが操作したからだ。

 ハリーポッターの世界に転生した彼は再び似た境遇にいた。

 彼は魔法界を掌握しようという野望や原作で死んでしまった人々を救済しようといった目的を持たない。

 ただ前の自分の世界と同じように眼前に敷かれたレールを進み、邪魔をするものを排除するだけだ。彼にとって、この世界はあくまで本の世界だった。

 

 

 

 

 

 アルタイルは手紙を机の引き出しにしまい、クリスマスのご馳走が並んでいるだろうダイニングホールへと足を向けた。今日は何と言ってもクリスマス・イブ。そして、彼の記念すべき11歳の誕生日なのだ。

 




長編を書くのは初めてです。読む専だったはずが、時間があったのでつい書いてしまいました。
更新速度は不明。春休みが終わったら更新が止まってしまうかもしれません。そんな責任感0小説ですが、楽しんでくれたら幸いです。

誤字などがあったらぜひ指摘してください。

作者の励みになるので感想があったらぜひ気軽に書き込んじゃってください。飽き性なので反応がないとすぐに消えそうです。

挿絵も予定していますが、読者様からのイラストも募集中です。

詳しい設定はそのうち公開するかと。

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