「シオン」
突然の呼び声に振り向くと、無表情のスコールがそこにいた。
いや、元々表情は薄い方だから、特に何ともないんだけど。
しかし、彼が声を掛けてきたからには何かあったのだろうか。
「スコールか。
何かあったの?」
「いや」
問いかけると、目を逸らして口ごもる。
……作戦に関する事務的トークではないのだろうか。
他事を考えるとは、スコールにしては珍しいことである。
「何か、心配事?」
「……ああ」
スコールが俺に相談とは珍しい。
いつもなら、面倒だ、で押し切ってしまうというのに。
任務前だからであろうか。スコールも緊張しているのかな。
「言ってよ。
俺に出来ることならするつもりだけど?」
少し気分を持ちなおし、スコールの悩みを聞くことにした。
「お前が」
「……俺?」
「お前が。
何か焦っているみたいだから」
予想していなかった方向から来た。
いや、まさか。あのスコールが俺のことを心配である。
心配に思うだけならともかく、態々口にだしてまで、だ。
「俺が、焦っている?」
「ああ
……違うのか?」
ん。違うのかと聞かれたら。
「いや。
違わないこともないけど」
「任務に関してか」
「まあ、そうだね」
大まかに言えば、それであっている。
失敗をするのを判っていて、3人を送り込むことに、とか。
それに納得しきれない俺に苛立ちを隠せないだとか。
「後方支援のことなら気にしない方がいい。
元々seedはスリーマンセルだ。
戦力的にも十分以上の構成だ」
「……うん」
「それとも作戦に関して何かあるのか?」
スコールにしては、本当に鋭い。
いや、スコールは元々頭はいいのだ。それは判っている。
ただ人を思い図ることや、説明には慣れていないだけで。
これはある程度正直に喋るべきだろう。
「――この任務は失敗する可能性が高いと思っている」
「前提条件か?」
ダミー情報だろうね、ってことなんだけど。
「ああ」
「確信が?」
「いや、ない。
だけど」
言葉を切って、少しだけ意思を固める。
俺が言っている言葉に信憑性を増す為に、少しだけ嘘をつこう。
俺が知っていないはずのことを知っているという嘘を。
「『森のフクロウ』は意外と有名だ。
内部の実力はともかく、組織網に関してはティンバーで随一と聞く。
それと」
「それと?」
「ガルバディア政府幹部の娘が居ると聞いている」
「……リノアか?」
うん、と俺はわざとらしく頷いて見せた。
目を見開くスコールは、半信半疑といったところだろうか。
「可能性は高い。
一般人がseed認定パーティに入れるはずがないだろう」
「そう、だな」
まあ学生の振りして紛れ込むとかなら、俺はやるけど。
「彼女が敵という確率は相当低いだろうが、
彼女の存在がガルバディアに知られていないはずがない」
「偽情報ということか」
「絶対ではないけど」
スコールは腕を組んで考え始めた。
一応、この時点で推測できてもおかしくない情報を出し切ったはずだ。
俺が苛立っている理由づけとしては十分だろう。
「そうだな、確かにありうる話だ。
失敗の可能性が高いという前提で動くことにする」
「リノアさんには気づかれないようにね。
彼女の立場で失敗したということも気づかれるわけにはいかない」
そこらへんの気遣いも、忘れないように。
特にスコールには、リノア・ハーティリーの王子様のままで。
「了解した。
作戦失敗の責任は敵の策略にあるということだな」
「それで頼むよ」
スコールはうなづくと、車室に帰ろうとした。
その小さくて大きな背中に、俺は感謝の言葉を投げかける。
「ありがとう、スコール。
お陰で楽になった」
「……班員の精神安定も、班長の仕事だ」
「うん。ありがとう」
照れ隠しが上手いのか下手なのか。
慣れてしまうと簡単に本心が読み取れるのも、なんだか微笑ましい。
スコールはこちらを振り返ることなく去ってしまった。
はあ。実際ダミー情報なら、難易度も危険度も高いものではない。
行って帰ってくるだけならば、あの3人ならば簡単な話だろう。
心配することでもなかったかなと、作戦後のことに集中することにした。
俺とスコールの予定通り、大統領誘拐作戦は失敗した。
護衛も護衛車両も大した数は居なかったらしく。
スコールたちは、あっさりとアジトまで逃げ帰ってきた。
街の常駐部隊も、俺たちを追撃する余裕はないらしい。
偽者を襲撃されたぐらいでは、追撃もしないということか。
それとも、本隊の受け入れに必死になっているかは微妙だが。
「危険すぎます」
「どうして?!」
そして今。
森のフクロウ幹部ワッツが手に入れてきた新情報。
放送局に大統領が居るとのことに、即興で立てられた誘拐作戦。
それを俺は即座に否定、却下、とにかく実行に移さないと伝えた。
どうしてって聞かれると、それは原作知識なんだけど。
この誘拐作戦part2で、ガーデンが大統領に目の敵にされる訳で。
まあそうでなくても、魔女イデアがガーデンを狙うだろうけど。
とにかく、この作戦が元でミサイル発射に繋がるのである。
確かゼルの迂闊な発言が元で、ガーデンの一味とバレるのだったか。
とはいえ、原作知識という言葉は理由にはならないわけであり。
どちらにしても、この短期間で二回目の誘拐作戦はない。
それをこちらのリノアさんに説明しないといけないのだけども。
果たして納得してもらえるものかどうか。俺の技量次第かね。
「理由はいくつかありますが……。
先ほどとは違って今回は多くの護衛がついているのでしょう?」
「間違いないっす」
んー。やっぱりそうなるよね。
「そこから、こっちこそ本物の可能性は高くなります。
しかし作戦としてはその中に突入し、人質に取るしかない」
ティンバー独立の方法として、誘拐ってのはともかくとして。
人質として運用しようと思うと、結構難しいものである。
そも、トップを人質に取るとかはあんまり有効だとは思えない。
いくらSeedと言えど、何の準備もなしに突撃は出来ない。
それも人一人を連れて帰ってきて、その後の展望もないというのに。
そう言った俺に、リノア・ハーティリーは悔しそうにする。
「……でも!
なんとかなるかも知れないじゃない!」
「なんとかなるかも知れないで班員を危険に晒せません。
事前に判っている決死の任務に送り込むわけにはいきません」
これって普通に考えて、決死の任務だからね。
流石にそれをそのまま了承するのは、俺としてはありえない。
スコールだったら、なんだかんだで引き受けてしまうのだろうけど。
「でもseedなんでしょう?!
最高の傭兵seedはどんな任務でも成功するんでしょ?!」
「どんな任務でも成功しますよ。
適切な準備と作戦を用いますから。今回はそれが出来ていません」
「……seedの癖に臆病なのね」
「もちろんです。
俺は仲間たちが死ぬなんて了承できませんからね」
臆病と煽られても、それがどうしたって話である。
俺の役目は元々そういうものだし、むしろ褒め言葉であるだろう。
というか、それ以外にもまだ理由はあるしね。
「仮に誘拐が成功したとして。
それは恐らくティンバーの解放には繋がりませんよ?」
「どういうことよ」
答えはシンプル。意味がないからである。
「ティンバーの独立。言うだけなら短いですよね。
でも条件が結構厳しいのは、想像が付くことだと思います」
最低でも、ガルバディアの常駐軍のお引き取りは必須。
経済的な独立、自治機能と自衛機能の復活。さてそれはどうする。
軍の撤退だけなら大統領の命令一つでなんとかなるだろうが。
「誘拐に成功したところで、軍の一時撤退をさせることが限度。
恐らく次は更なる戦力で侵略してきますね」
「じゃあ、誘拐じゃなくて殺してしまえば」
「それこそまさかです。
軍の報復でティンバーが地図から消えるかもしれませんね」
作戦が失敗しても同じことである。
実行犯を探すためにティンバー全体を鎮圧するだけに終わるだろう。
これは、原作を考えなくても直ぐに想像できることである。
「……どうしようも、ないの?」
「残念ですが実行は不可能でしょうね」
リノア・ハーティリーがこれ以上なく不服そうにしている。
だからといって危険な任務はスコールたちにさせるわけには行かない。
そう強く意思をこめて見つめると、リノアさんは目を逸らした。
「なんか、私、勘違いしてた」
「え?」
「seedが来てくれたら、何もかもうまく行くと思ってた。
でもそんなに簡単じゃないよね」
リノアさんの絞り出したような声。
リノアさんはそこまで言うと、後ろへと振り向いた。
「みんなは雇われただけだもんね。
仲間ってわけにはいかないよね」
「リノア……」
「えっと、作戦は中止します。
一度解散しましょう。いいよね、ソーン?」
わざとらしく明るい声
「……いいのかよ?」
「うん。
仕方ないじゃない。
確かに、無理を言っているのは私たちなんだもん」
「リノア」
「ごめん、私、ちょっと休む」
スコールに掛けられた声に、返事もしないまま。
そう言って振り返らないまま、彼女は専用の客室に向かった。
残されたのはseedと森のフクロウの2人の計6人。