アーヴァインにとって、スコールたちは幼馴染だ。
それこそ、一時期までは兄弟のように育った関係のはずである。
そんな彼らから、まるで他人の様に扱われたらどう思うか。
その上、彼らはママ先生を殺そうと平気な顔で言って来る。
まるで他人のような、そんな口ぶりで暗殺しようと気軽に言う。
記憶を保持しているアーヴァインにとって、現実はホラーだ。
その理由を求めたときに、一番怪しいのは誰か。
普通に考えたら、リノアと俺かどっちかで、更に言えば俺だろう。
俺は、バラムガーデンからずっとみんなと一緒に来たのだ。
追い詰めた積もりはないが、アーヴァインは追い詰められてた。
その状態での救いは、誰かに何かをされてしまったということ。
その誰かは、俺であると、彼は言っているのである。
とはいえ。
俺にとっては色んなことは知ってることだけど。知らないはずのこと。
それこそ知っていたら犯人でしかありえないようなことばかりだ。
だからこそ、俺は恍け続けることしか出来ない。
「なんのことか判らないけど。
取りあえず、救出には行ってくれるんだよね」
「ああ、行くさ。
君に任せたくはないからね」
口調は静かだけど、その声には絶対の俺を拒否する響きがある。
話についていけてないのは、リノアとセルフィの二人だ。
……失礼。リノアだけ。セルフィは、どうやら理解している。
「シオンが怪しいのは仕方ないけどさ。
取りあえず、話を続けさせてもらっていい?」
セルフィの口調にも、いつもと違って遊びがない。
トラビア・ガーデンも狙われるかもしれないのだ、そうもなろう。
アーヴァインは不承不承といった感じで小さく頷いた。
「それで、どうすれば救出できるの?」
「ジャンクションをしつつ外から強襲。
出来るだけ混乱を長引かせれば大丈夫だと思う」
「うわ適当」
セルフィの感想も、俺は最もだと思う。
だけどこれ以上の説明がしようがないのだ、悔しいことに。
詳しい構造まで情報を手に入れられたわけではないから。
アーヴァインはいまだ不服そうにしているが、頷く。
どうせ、今の俺が何を言ったところで信用はされないだろう。
俺も、俺自身が怪しいことは承知の上で話している。
「ミサイル基地は?」
「大佐に頼んで、軍用車と軍服を貸してもらおう」
「正面から堂々侵入ってわけね」
こっちはシンプルに原作と同じ方針でクリアを目指す。
幸い、時間的には数日単位でまだ余裕があるはずである。
原作でリーダーだったセルフィがいるというのも、心強い。
「ばれないように行動しつつ、ミサイルの破壊か目標の変更。
基地の破壊まで出来ればいいんだけど」
「なんとかするよ」
本当に、セルフィが一緒にいてくれて心強いばかりである。
「終わったらどうするの?」
「バラムガーデンで落ち合おう。ガーデンが無理ならバラムのホテル。
それと……よし、書き終わった」
俺は手を止めて、封筒にしまう。
用意しておいたSeed公式書類用のシールをぺたりと張り付ける。
「仕事が早いね」
「文章を戻る間に考えてたからね」
「じゃあ私、頼んでくるよ」
「トラビアとバラム両方だからね!」
「判ってる!」
リノアが2通の手紙を持って、再度呼び鈴を鳴らした。
「いつから動くの?」
「早い方がいいな。
ここからは収容所には10時間はかかる。
ミサイル基地には8時間ってところか」
「じゃあ今からいこう!」
セルフィが即座に言ってきた。
今からは、それはそれでいいんだけど、疲れはないのだろうか。
先ほどまで戦闘を、任務をしてきたばかりというのに。
「疲れてないの?」
「4時間くらい途中で眠らせてくれたら大丈夫!」
「頼もしいな。アーヴァインは?」
「似たようなもんかな」
……本当、俺と違ってみんなは頼りがいがあるというか。
基礎体力の時点で、俺はみんなに遅れをとってると思うね。
だからこそ、こうやって頭脳労働でカバーする訳だけども。
そして、リノアが戻ってきたので再度説明をする。
すると、彼女もきらきらした瞳で今すぐ行こうといい始めた。
どうやら、体力的にはまだ十分足りている様子である。
「今すぐ行こう!」
「大丈夫なの?」
う、とリノアは一瞬口ごもったが、直ぐにひらめいたらしい。
「メイドに車出してもらう!」
「メイドも巻き込むのか?」
「2台で行って、途中で片方に移って帰ってもらうの!」
思わずなるほど、といいたくなるぐらいの案である。
この子お嬢様なだけで地の頭はやっぱりいいんじゃないかなぁ。
そう思いたくなるほどに、思考自体は凄くしっかりしている。
さっそくセルフィが軍用車を。
リノアとアーヴァインが装備と車の手配をしに行った。
軍用車の準備は20分ほどのあっという間に終わった。
セルフィが言うには「お願いしただけだよ~?」らしい、が。
その裏に、微かに薄ら寒いものを感じた。勿論追求はしない。
軍服に着替え、軍用車に乗りこむとセルフィが何かを渡してきた。
「なに?」
「軍の認識票。新規発行してもらったの」
おっと、この20分の間にどれだけ無茶させてきたの。
そう聞きたくなるほどの、手はずの整い具合である。
参考までに聞いてみたいが、参考にしかならなそうなので辞めた。
認識票のお陰で、町からの脱出は簡単に出来た。
セルフィは俺に運転を任せ、「ごめん」と断ってから横になった。
なお、俺の運転はド下手糞である。前に進むのが精一杯だ。
疲れていたのか、セルフィは4時間しても起きてこなかった。
荒野の中を軍用車で駆け抜ける。時折がたつくのはご愛嬌。
そんな嵐の中で輝きそうな体験も、5時間ほどすると飽きてくる。
少し休憩を取ろうと、車を止め。
リノアがメイドに用意してもらってくれていた食料を食べる。
日持ちが効く、レーションのようなものと。
今日中に食べてほしいものとを別に用意してくださっている。
なんというか、見習いたいほど気がきく人たちである。
サンドイッチと紅茶を頬張っていると、セルフィが起きてきた。
起こしてくれればよかったのに、と頬を膨らますセルフィに。
サンドイッチを押し付けると、嬉しそうに食べ始めた。
今度はシオンが休憩しててよと言うので、お言葉に甘えた。
とはいえ、俺は戦闘をしていたわけではない。運転もしてたし。
目がさえていたので、そんなに眠れそうな気分ではなかった。
だから、こういう時のための必殺技スリプルを自らに使用。
魔力の調整をすれば、深くも浅くも眠れるのが便利である。
使いすぎると、普通の寝方を忘れるともっぱらの噂であるが。
「起きて、シオン」
「ん」
「もうすぐだよ」
「判った」
3時間ほどの睡眠で、俺の体力は相当回復していた。
出来そこないとは言えども、seedの訓練は受けてきているのだ。
体力は一般人よりはまだまだマシな方の積もりである。
「ねえ、シオン」
「何?」
セルフィが運転しながら声をかけてきた。何事だろうか。
「基地侵入のプランって何か決まってる?」
「いや。
侵入方法とやることしか考えてないよ」
基本はどたばたでなんとかなると思ってる駄目人間である。
いや、ある程度何をどうするかは覚えているのだが。
それにしたって、確証はない程度の記憶しか持ってないわけで。
「基地破壊とミサイル破壊、目標変更だよね」
「ああ」
「実行は私単独でいいかな」
「……え?」
ちょっと、想定外な言葉が出てきた。それはどうなんだ。
「私1人じゃ君を守りきれない。
プランがないのなら、撤退もその場で確定でしょ?
それなら、君には外で車両の確保をしていて欲しい」
「……成程」
あーうん。それはちょっと割りとありかも知れない。
どちらにせよ、戦闘をするつもりはないけれど。
作業速度より撤退の安全を考慮するというのは、多分ありだ。
もしも戦闘になったとしたら、俺は役立たずになるわけで。
うん、確かにそれは効率的な気がしてきた。
俺が情けないのさえ我慢すれば、かなり良い案だと思われる。
「通信をずっと繋げていてくれれば相談も可能でしょ?
駄目かな?」
「いや、むしろかなり良い案だと思う。
君がいいならいいよ」
すると、セルフィはあからさまにほっとした顔をした。
む。なんか俺がついていくかと不安だったような素振り。
もしかしてだけど、ねえ。アーヴァインとおんなじで?
「もしかして、君も俺を疑ってたり?」
「さて、どうかなあ」