ミサイル基地への侵入は、特別問題もなく上手くいった。
軍服で軍用車にのり、認識票も持っている人間を疑うわけもない。
よく見たら認識票も、数年前に作られた日付のものだった。
偽造、偽造だよなぁ。そんなことを思いながら。
入って駐車場に車を止めると、セルフィと最終確認をする。
念話の準備、接続完了。俺はこの場から動かないから繋いだまま。
「接続したよ」
「うん、ザワザワしてる」
「そっちから繋げてくれれば返事するから」
そう遠く離れなければ、ずっと繋いだままでもいられる。
流石に、俺自身が身動きするとなると不可能に近いけれど。
でも、今回は俺は乗ってきた車両の中に隠れているだけである。
「判ったよ」
「いつでも出せるように準備しておく」
「ありがとう。
いってくるね」
そして、セルフィは緊張もなく、あっさりと出て行った。
俺は運転席に座りながらセルフィの位置を追い続ける。
段々と奥の方へと入っていき、内部構造が複雑になっていく。
通信がないままに30分程が経ち、突然に基地から明かりが消えた。
何が起こったのか?!、と慌てるとセルフィから通信が入った。
「やっほ~」と明るい声が、G・Fを通して頭の中に響いた。
「セルフィ!何をしたんだ?」
「電源ルームで主電源落としたの!
これでどこにでも入れるよ」
主電源を落とす。大事なのに、軽々というなぁ。
でも、基地である以上、主要部は副電源が別にあるはずである。
まだまだ油断は出来ないが、とにかく順調のようではある。
「成程、順調みたいだね」
「うん!
じゃあ通信を終わるね!」
「了解」
電源が落ちて、基地は混乱を初めていた。
発射準備を始める中で、電子機器が使えないのだ、当然である。
現在、基地の中は非常電源により、最低限の機能しかなかった。
何より、朝の時間帯である。人が動き始める時間だ。
ところどころで、電源が入っていないことに気付き始める。
その原因を探し始めるのは、時間の問題ではないだろうか。
とはいえ、基地内で動くセルフィには、あわてた様子はない。
まあ、潜入任務であわててる奴なんて怪しすぎるだけだけども。
そう思っていた矢先、格納庫前辺りから念話が入ってきた。
「シオン!」
「何があった?」
「コントロールパネルを発見したよ!
今なら操作も可能!」
ん、目的のもの発見って訳だね。
混乱中の今なら特に問題もなく操作可能ってことかな。
「セルフィナイス!
判る限りで邪魔しちゃえ!」
「今やってるの!
目標変更は両方とも海に落としていい?」
俺は少し考える。
バラムガーデンが動くことや生徒の避難を考えると南はまずい。
基本的に、避難をするとしたらバラムに避難すると思われるから。
「ある程度の距離を持たせてなら!
バラムガーデンのは北にやってくれよ?」
「了解!」
そして通信を切らずに数分間。
セルフィの周りに近づく人影も、俺の知覚能力では見られない。
居住区がばたばたとしている中、セルフィが再度声を上げた。
「シオン!
出来たよ! これで大丈夫だよね?」
この後の指示をお願い!」
これでと聞かれても、具体的な操作の中身までは判らないが。
しかし、目標は弄ったのだ。俺は肯定の意をセルフィに示す。
やれることはやってるのだ。これで駄目ならそれも仕方ない。
この後か。このまま逃げ出してもいいけど、念には念を、か?
本当だったらミサイル自体の破壊をしたいところだけど。
流石にそこまでやったら脱出自体が難しくなるに違いない。
そうなれば意味はないし、原作通り基地の爆破をするべきか。
基地内が混乱してる、朝の今ならそう難しくもないのではないか。
迷っているほどの時間はない。俺は早速伝えることにした。
「この基地には自爆機能があるはずだ。
多分、管制室にあると思う」
「制圧して実行だね!」
「出来そうならお願いするよ」
無理っぽかったら別にそこまで危険を負う必要はない。
何せ、本来と違ってセルフィ一人。無理なものは無理である。
戦力を考慮したのか、少ししてからセルフィの声が聞こえた。
「行ってくるよ!」
「頑張ってくれ」
通信が切れた。
恐らく管制室は兵士がいるだろうし、戦闘になるだろう。
俺はいつでも発進できるようにエンジンを起こした。
位置合い的にも、出入り口を突破するのに不自由はない。
このままハンドルを維持してぶっちぎれば、逃げ出せるはず。
流石の俺でも、それぐらいは出来る。失敗はないだろう。
「管制室制圧完了!
どうすればいい?」
僅か数分で通信がきた。
「早いな!
戦闘はあったか?」
「あったけど、指揮官級と管制官数人だったから一瞬だよ!」
まあ、不意打ちでその人数ならセルフィなら余裕だろうか。
「それは良かった。
まずは指揮官からIDカードを奪ってくれ!」
「認証があるのね」
「多分な」
少ししてから、あったよとセルフィから念話が入る。
そのまま操作に入ってくれるように、俺は伝える。
さて、無事に爆破できれば何よりなんだけど、どうかなぁ。
セルフィが機器を弄り始めて数分。
基地内に警報がなり始めた。基地爆破の脱出案内だ。
どうやら操作完了らしい。そのまま念話を続ける。
「セルフィ」
「シオン、出来たよ!」
「早速脱出してくれ。
すぐに出れるようにしてある」
後は、セルフィを回収して、車をぶっ飛ばすだけである。
「ありがとう!
後1分以内に外に行けるよ!」
「判った!
こっちも動かす!」
車を動かし始める。目立たない程度に、そろりと出る。
出入り口に車先を向けると、斜め後ろの扉からセルフィが見えた。
念話ではなく、今度は肉声で、俺は叫び彼女に伝える。
「セルフィ!乗って!」
セルフィが走り寄って、飛び込むように助手席に入った。
アクセル全開!面倒なことはしらねぇぜぶっ飛ばすぞオラァ!
しがみつくようにハンドルを握り、俺は全力で足を伸ばす。
「行くよっ!」
アクセル全開で検問に突撃する。
警報が鳴る混乱の中、中からの突撃は予想してなかったのか。
色々なところにぶつかりながらも、簡単に突破することが出来た。
「やったあ!」
がたがたと揺れる中で、セルフィの喜ぶ声が聞こえる。
追跡は、どうやらない。あってもまだまだ後だろう。
直ぐには追いかけてこない、基地内はそんな様子であった。
10分程全力で逃走すると、遥か後方で基地は爆発した。
これで、俺がやれることは殆ど終わりって感じだろうか。
今更ながら、コレでよかったのかと不安が口をついて出る。
「……上手く、いったかな」
「いったよ~!」
「みんな無事かな?」
「リノアとアーヴィンが助けてくれてるよ!」
セルフィは、そんな俺の弱音にも明るく声を掛けてくれた。
本当は、実行した彼女の方がもっと不安であるはずだろうに。
うん、駄目だ。俺の方こそ、明るく振舞わないと。
「……うん!
じゃあ、バラムガーデンに行こうか!」
ミサイルの発射は阻止したにしろ、まだやることはある。
どちらにせよ、ガーデンは動かさなければならないし。
それに今、ガーデンは学園長派とマスター派で混乱してるはず。
その中をレッツ力尽くでごり押しして、マスター派を排除。
そうしなければ、今後のガーデン同士の戦いに関わってくるわけで。
でなくとも。みんなとはガーデンで合流するという話である。
「まずはガルバディアだね」
「列車に乗らないとね」
荒野を車が進んでいく。時折、がたつきながら。
何だか口笛でも吹きたい気分になって、恥ずかしいので辞めた。
渡り鳥でもなければ荒野で口笛など吹けない。色んな意味で。
そして、その後ろから一発のミサイルが放たれた。
なんで。どうして。基地は爆発したはずなのに。
そう思う俺に、横から小さく声が掛けられた。セルフィだ。
「ねえ。
シオン、どうしてか、判る?」
「……もしかしたら。
自爆範囲の中に、ミサイルが入ってなかったのかも」
そうだ。ミサイルを範囲にいれてない可能性は、ある。
原作では、確か爆破前にミサイルが発射されていたと思うけど。
いやしかし。爆破するなら発射装置も普通なら含めるはずだ。
そう思って、ぐるぐるする俺の思考。
無理をしてでも、ミサイルそのものの破壊をするべきだったか。
後悔は、幾らしても足りない。そんな時に、呟きが聞こえた。
「トラビアだよね、あっち」
「……目標変更はしてるんだよね?」
「した、と思う」
そうか。あれは、今撃たれたのは、トラビア・ガーデンか。
バラム・ガーデンじゃないことに何処か安堵しつつ。
それでも、決してそれは救いじゃないとセルフィを見て思う。
トラビア・ガーデンに、手紙は送っているけれど。
目標変更もしているけれど、どうなるかは判ったもんじゃない。
失敗したと嘆くより、目の前のセルフィを慰めないと。
そう思って、大丈夫だよと慰めの言葉を言う俺に。
セルフィは少し冷たい目を返してきた。アーヴァインと同じ目だ。
その後直ぐに、元通りになる、が。今の目は気のせいじゃない。
「――シオンが大丈夫っていうからには。
きっと大丈夫なんだろうね」
「うん、俺はそうだと思う」
その言葉の意味を、俺は特に深くは受け止めないことにした。
信用ならないと思われることがなんだ。やれることをやるだけだ。
たとえ、嘘でも適当でも、今は慰めの言葉をはくだけである。
「バラム・ガーデンに戻ろう。
早くみんなと合流しなくちゃ」
「……そう、だね。
いつまでも、二人でいてもしょうがないし」
その言葉は、まるで二人でいたくないと言っているようで。
ほんの少し、俺は傷つき。でもそれ以上にセルフィが傷ついていた。
俺たちは、沈黙の中ガルバディアを目指して車を走らせたのだった。