シオンを信用しきれない。アーヴァインの気持ちがよく判る。
私は別に、シオンを疑ってるわけでも、疑いたいわけでもない。
でも、信用はしきれない。彼はどうしても、怪しいと思う。
都合がよすぎることをするよね、とは。ずっと思ってた。
それこそSeed試験の時から、ずっと。最初から思ってたんだ。
B班が電波塔に向かったときから、運が良いなって。
彼の行動は、何かを知ってるみたいにばっちり嵌る。
それは、まるで私たちの知らない何かが見えているような。
勿論、彼の知覚能力には、何かが映っているんだろうけど。
彼の行動一つ一つを追うと、裏切ってるとは思えない。
だって、ちゃんと私たちの利に動いてるし、敵対はしてない。
だけど、ただ一言。まるで予定調和のようにしか見えない。
感情の動きだって、そうだ。
サイファーの単独行動の時だって、ガーデンは大丈夫と言った。
少しも不安そうな顔を見せずに、無事だよとゼルに言い切った。
だから、私は疑ってはないけど、シオンを信用しきれない。
アーヴァインほど、信用してないわけじゃないけど、それでも。
この旅は、決して居心地のいい二人での旅ではなかった。
私たちはミサイル基地を爆破後。
ガルバディアに戻ると、そのままバラムに向かう列車に乗った。
案外、ガルバディアは混乱しておらず、素直に乗れてしまった。
シオンは情報統制や、魔女による洗脳が原因だろうと言った。
通り掛かる人からは元気を感じなかったから、納得がいった。
信用はしきれないけど、それでも頼りにはなる人だと思ってる。
シオンと2人きりになってから、だいたい50時間。
3日目に入ったころに、バラムガーデンについた。
その間、私たちの仲は、特に改善も悪化もしなかった。
バラム・ガーデン。
私にとっては、たった数日しか居なかった場所だけど。
もしかしたらこれからは、私の故郷になるかも知れない場所。
しかし、そこで待ち受けていたのは、平和とはいえない状況。
みんなに、また会うことを祈りながら帰ってきた私を。
走り回る学生とモンスターたちが待ち受けていたのだった。
「なにこれ」
隣でシオンが物凄い冷たい声で呟いた。私もそう言いたい気分。
ガルバディアから、一生懸命にバラムガーデンに帰ってきたのに。
みんなはまるで宝探しでもしているみたいに走り回っていた。
いや。
生徒が「見つからないよ~!」とか言っていることからすると。
本当に何かを探しているんだろう。一体何を探しているのか。
「おいお前たち!」
誰も彼もが私たちに見向きもしない中で、いきなり声を掛けられた。
振り向くと教官がいた。勿論、見知った教官ではありえない。
私はここで授業を受けていないので、誰一人として顔を知らなかった。
「なんでしょうか」
「お前たちは何派か」
「……申し訳ありませんが事情が掴めません。
今ガーデンに来たので、説明をしていただけると助かります」
「ガーデンの危機だ。
マスターに忠誠を誓い、学園長を捕らえよ」
シオンが情報を引き出そうとして。
しかし、私には答えが端的すぎて理解が出来なかった。
「判りました。
学園長を探し出します」
「そうか。
行け!」
だが、シオンには何が起こっているのか理解がいったらしい。
どうやら、教官の言うことに従うようだ。よく判らないけれど。
信用できない人に、わからないまま従う気は、流石になかった。
その見知らぬ教官が遠ざかってから、私はシオンに聞いた。
「――ねえシオン。
一体どういうことなの?」
「推測だけど、ガルバディアの工作だね。
暗殺の原因を学園長に求めて突き出させようとしたんだろう」
……随分、推測がうまいことよね。本当に。
アーヴァインが疑うのも判るよ。これだけ理解が早いのだもの。
単純に頭がいいだけでは、済まされない。そういうレベルだ。
しかし説明されれば理解も出来る。マスターと学園長の対立だ。
学園長は隠れて、学園長派という人たちに守られているんだろう。
さっきの教官はマスター派。つまり、ガルバディアに従っている。
「……従っていいの?」
「別に監視してるわけでもないから従わなくてもいいよ」
確かに。教官は離れて行ってしまった。
とはいえ、あの速度で理解して、その上さらりと嘘をつくだなんて。
この人は自分が怪しまれる理由を、ちゃんと理解しているのか。
「それで、どうしよう。
この状況、学園長側で収束させないといけないよね」
「取りあえず、嘘をつこう。
ミサイルが打ち込まれるって放送を流せばいい」
……それ、嘘って言うにはあんまりにも趣味が悪いけど。
私にとっては、あんまり冗談でも聞きたくないような話である。
それで、取りあえず対立騒ぎは収束させるって訳だよね。
「みんな聞くかな」
「死ぬって言われたら逃げ出すよ。
それにこの状況で全員を説得するのは無理だ」
「まずは騒ぎを鎮めないと、か」
混乱の中を突っ切って、ホールのエレベーターに乗り込む。
3階に上がったが、学園長も生徒も誰も居なかった。
それもそうだ。何時もいる場所を探さないことは当然ないだろう。
恐らくここは何度も調べられて、居ないと判断されたのだろう。
私は放送しようとしたが、コントロールを奪われてて動かなかった。
どうするかをシオンに相談しようとすると、彼は溜め息をついていた。
なんだか、酷く億劫そうな表情である。どうしたのだろうか。
「どうしたの?」
「いや、頼りたくない人に頼ることになってウンザリしてるだけ」
理解が出来ず、漠然とした回答に疑問を浮かべた私。
シオンはちょっと困ったような笑いを浮かべた。
ああ、その表情だ。何もかも見透かしたようなその表情は、嫌いだ。
「学園長、いるのは知っています。
ティンバー班のシオンです。報告があるので出てきてください」
シオンは、部屋中に響かせるような張りのある声で言った。
すると部屋の片隅、反対側の壁が揺らぎ、そこから学園長が現れる。
なぜ気がついたのか、は。流石に知覚能力ってことだよね。
「驚きましたね。
気付かれるとは思いませんでした」
「前来た時に隠し部屋に気付いていましたから」
「素晴らしい能力です」
「どうも」
呆気に取られている私を置き去りに、あっさりと会話が始まる。
なんでそんなに普通に会話を始められるのか。私には疑問だ。
まずは、聞くべきことが一つ。
「なんで学園長がここに?」
「狙われたなら、裏をかかねばいけないでしょう?
傭兵の元締めなのに、何も対策をしていないと思っていましたか?」
確かに、理屈はあっているのだが。どうもドヤ顔でむかつく。
そんなことを話している暇はありません、とシオンが割り込んだ。
そうだ、今までのことについて、話さなければいけないのだ。
「ミサイル、ですか」
「手紙は届きませんでしたか」
「この混乱です、無理はない」
「とにかく、対ガルバディア、対魔女戦です。
ガーデンを戦闘態勢に移行する必要があります」
「戦闘態勢にですか」
シオンの言葉に学園長が反応した。一体どうしたのか。
「ガーデンはシェルターとして作られていると聞いたことがあります」
「良く知っていますね。
ですがどんな機能を持っているかは私も良くは知りませんよ」
学園長は机に座ると、戸を開けて何か小さなものを取り出した。
取り出したそれを机に置いて、私たちに見せる。古びた鍵だった。
これは一体と二つの視線に見つめられ、学園長は更に言葉を紡ぐ。
「あるとしたら地下のMD層です。
あそこには、設立当時から手をつけていませんから」
「この鍵は?」
「エレベーターの操作板を開けられます。
MD層にはそれを操作していくしかない」
ありがとうございます、とシオンが頭を下げた。
「ただ、モンスターが住み込んでいます。
あなたが行くには危険かもしれない」
「セルフィだけに行けと?」
私だけ、か。シオンと一緒に行くよりはマシだろうけども。
「シュウたちに手伝わせてもいいですが、時間が足りますか」
「シュウさん?」
「彼女たちが私を守ってくれています」
シオンが何かを考え始めた。
シュウは、試験の総司令官だったか。名前と顔は覚えている。
私だけでいかせるのか聞こうとしたが、その前に彼が口を開いた。
「いえ、もっと適任な人たちが来たようです」
「え?」
反射的に聞こうとした時、がらりと学園長室の扉が開かれた。