ドール実地試験に向かう潜水艦の中、俺は不安と戦っていた。
関るつもりのなかった本編。
持つつもりなどかけらもなかった武具。
感じることなんて僅かにもないだろうと思ってた痛み。
これからはそれと向き合っていかなければならないのだ。
この、ハンデ付きの身体一つを武器に、スコールたちと一緒に。
今から、それが始まるということに、俺は怖がっていた。
医務室を卒業してすぐ。
まだ余り人がいないガーデンには沢山の空き部屋があった。
実際には入る予定だった人数が来なかったせいかも知れない。
そうなった子どもたちを思えば、胸糞が悪い気もする。
だが、実際にその子たちを知ってるわけでもなく。
自分も危なかったというのも含めて、現実味は薄かった。
とにかく、個室に案内された俺。
それは、ありがたいのかどうなのか、微妙な所だったけど。
記憶喪失の俺に対して、ガーデンの人たちは優しかった。
元々孤児だった人が多いこと。
同い年の生徒が多いことも含めて、みんなが優しくしてくれた。
そうなれば、流石に少しは緊張感も和らいでくる。
寝ても覚めない夢の中、日常に俺は慣れて行くのだった。
勿論、慣れたいかといわれれば、それはまた別の話だったけど。
……帰りたいという感情は、胸を何処までも蝕んでいた。
だけど、それはきっと叶わない夢になるんだろうな、と。
目の前の現実に慣れていく度に、俺は常々と実感していた。
世界の移動なんて、それこそこの世界でも夢物語だった。
ありえるとすれば、魔女の力とか。
そういうレベルの話であって、現実味はまるでなかった。
調べれば調べるほどに、無茶という現実のみが目の前にある。
諦めにかかった俺は、それなりに目の前の現実を生きていく。
歴史や地理、数学や科学といった基礎学問。
魔術理論や魔術実践、アイテム論に戦術論、武術などの戦闘技術。
12歳までの子どもで構成される幼等部。
15歳までの子どもで構成される初等部。
基礎単位を取り終えた学生で構成される専門部。
俺は12歳という年齢上、初等部に配属されることになった。
同学年の子どもたちと、基礎学問と戦闘技術を身に着けていく。
もちろんそれと並行して一般常識の授業を受けることにもなった。
しかし、これでも一度は大学生になった精神だ。
世界が変われど基礎学問は大きく変わりようもない。
上から数えた方が何倍も速い成績で終わらせていけた。
心配で、かつやりたくもなかった戦闘も。
基礎魔術理論とアイテム論はもともとのゲーム知識で好成績を取った。
ゲーム脳とは、誠に恐ろしいものであると思い知りながら。
しかし、バラムガーデンは兵士養成機関だった。
一番重要視されるのは直接戦闘技能である。
それこそ、武器の取り扱いから、戦闘時の立ち回りまで。
直接戦闘技能は、初等部では1年時に基礎的な体術。
2年時にそれぞれの得意とする武器と銃器の基本的な扱い方。
それを終えたら、訓練場で実際にモンスター相手に戦闘を行っていく。
俺は、元々そんなに運動神経が良い方ではなかった。
運動にそこまで興味がある方ではなく、見るだけの人間だったし。
授業で悪目立ちしない程度にできれば良かったからだ。
特に、ここでやるものは、人や物を傷つけるための技術である。
身体を動かすのは気持ちがいいが、積極的にやろうとは思えなかった。
結果として俺の武術講義の成績は平均を少し下回るものだった。
少しで済んだのは、単純な理屈。
みんながseedになろうと努力しているわけではないからだった。
俺と似たような、冷めた学生は何処にでもいるという話である。
最低限、自らの身が守れればそれでいい。
そんな感じの冷めた学生によって平均は着実に下がっていた。
結果としてだが、俺は問題視されない程度の成績となった。
他のクラスに原作組がいることには、授業が始まってから気付いた。
思えば、今がいつかということを全く意識していなかった。
それでは、原作知識があっても片手落ちにもほどがある話だった。
キスティスとサイファーは13歳。スコールとゼルが12歳。
つまり原作のスタートからは恐らく、大体5年前。
勿論、この世界が原作通りであれば、という前提であるけれど。
ならば、俺の目標もある程度決まってくる。
俺の目標は、5年後のseed試験が始まるよりも少し前に。
ガーデンを抜けて安全そうなウィンヒルに逃亡することになった。
「適正が、ない?」
「みたいですねぇ」
15歳になり、初等部3年になると実践的な授業が増えて行った。
基礎を埋め尽くし、後は個人で専門分野に特化していくためである。
その共通する最後の授業の一つ、G・F論で初めて躓くことになった。
G・F。ガーディアン・フォース。いわゆる所の精霊とかである。
これを伴って行うジャンクション、身体強化がSeedの強みそのものである。
それが、俺には適正がないというのが、明らかになったのだった。
ジャンクションがなければ、Seedであろうと普通の人間と変わらない。
たかが戦闘訓練を受けた学生如きに負けるほどこの世界は甘くない。
普通のモンスターにさえ、軍隊を作ってようやく戦えるほどなのだ。
その問題をジャンクションは解決してくれる。
ただの個人を、ドラゴンとも殴りあえる程に強化してくれる。
頭の一部の領域を奪い、記憶を消失させることを代償として。
その記憶の消失と引換の力こそが、Seedが必要とされる理由である。
この世界の戦闘技術や軍隊は、モンスターを相手のものだ。
人と物を集めた結果、2つの大国ガルバディアとエスタが作られ。
それ以外の街は、モンスターが少ない辺境に作られることになった。
そう、この世界の軍隊はモンスターからの自衛のために作られた。
大量の人と物を守るべき場所に広範囲に設置して、安全を維持し続ける。
そうなると資金は異常なほどに消耗をし続けるのである。
そして大量の人と物を使う時点で、攻撃行動は非常に取りづらくなる。
例えば山や谷間などにモンスターが大量発生したとき。
軍隊が戦うにはそこまで集団と装備を持っていかなければならないのだ。
不可能ではないが、現実的ではない。
そんな人間の状況を覆すのが、個人を強化可能なジャンクションである。
ジャンクションがあれば、人間は人間以上の力を得ることが出来る。
だが、その記憶の喪失というのが、軍隊における問題点である。
元より軍事政権となりやすいこの世界の軍隊である。
記憶の消失の代わりに絶大な力を得られる方法があればどうなるか。
軍事クーデターを引きおこすような爆弾を身内には持ちたくない。
しかし現実的に、軍隊だけでは出来ることに限界がある。
そこで名乗りを上げたのが、魔女イデアとシド学園長である。
イデアとシドは、魔女を倒す騎士としてSeedを作る必要があった。
それは物語の最後にして最初、詰まるところ、エンディングにおいて。
魔女イデアがseedを知った時から始まった、絶対の流れである。
それから、イデアはseedを作り出すためにガーデンを作り始め。
オーナーであるノーグの力を借り、ガルバディアを中心に資金を集めた。
そして3つのガーデンがこの世界に作られたのである。
ガルバディアにとっては外部組織というのも都合がよかった。
資金の投資で魔女とガーデンに恩を売り、支配することが出来る。
維持費用は必要なく、依頼費という形で渡すだけになるのだ。
依頼費は高額であるが、維持費用に比べたら大したものではない。
それになんと彼らは孤児を引き取り兵士として育てるという。
記憶障害などの全ての問題を、ガーデンが全て引き受けてくれるのだ。
ガルバディアにとってはこれ以上ない程の条件であった。
とにかく。
Seedはジャンクションによって強化された身体で戦うものである。
体力や筋力だけでなく、魔力や毒などへの耐性にも及ぶ強化。
魔女イデアとオダイン博士が作ったジャンクションの力は絶大だ。
精神にジャンクションしたG・Fと擬似魔法をつなげること。
それにより直接強化された肉体は、兵器よりも強力な近接戦闘を可能にする。
彼らは派遣された場所で、身一つでモンスターを殲滅することが出来る。
そのために必要なジャンクションが、俺には出来ないらしい。
ジャンクションに殆どといっていいほど、適正がないらしいのだ。
適正がないというと語弊がある。
ブレスレットを通せばジャンクションそのものは出来なくはない。
しかし、その強化値が平均の強化値よりも圧倒的に低い。
精神と身体のズレが原因であるようだと先生は首を傾げ。
それに心当たりがある俺は、先生を記憶喪失のせいですと誤魔化し。
俺は更に戦闘を行うことへの危機感をつのらせていった。