「スコール、居るかい」
「シオン?」
「ああ」
「入ってくれ」
スコールの部屋。ノックをすると、返事が返ってきた。
言われるままに入ると、スコールはガンブレードの手入れをしていた。
……武器の手入れとか、いつからしてないだろう。まあいいか。
「やあ」
「どうした?」
手入れの手を止めて、俺を見てくるスコールに片手をあげ挨拶。
いやあ、あれだよね。俺だったら手入れそのまま続けるよね。
ちゃんと手を止めてくれる辺り、凄く律儀な人だなって思う。
「修理について知らせようと思って。
学園長には伝えたけど、材料がなくてこれ以上は無理。
今現在だと無理やり止まるのが精いっぱいってところかな」
「そうか。
お疲れ様だな」
労いの言葉も、とても優しい響きである。
嫌な大人と話して荒んだ心が癒されるような心持ちである。
「うん。
それで仕事も一区切りだし、君とお昼ごはん食べようかと思って」
「そんな時間か」
チラリと時計と見るスコール。
もしかして手入れに時間を忘れていたのか。マジメ過ぎるだろ。
健康管理を忘れがちな班長に、軽く苦言を呈すことにする。
「スコール?」
「仕方ないだろう。中々時間が取れなかったんだ」
「忙しかったのも君がそれ大切にしてるのも知ってるけど。
ほどほどにね」
ホントにね。体調崩したら元も子もないんだからさ。
一回体調崩すと癖になるし、その後が余計忙しくなるものだ。
定期的な睡眠と休憩は必須!これ本当に大切なことである。
「次からはな」
「こら」
「いいだろう。
それより、早く行かないか?」
そういう俺に、スコールはなんと話を逸らそうとしてくる。
話を誤魔化そうとするとは、スコールにしては頑張っているものだ。
まあ、正直へたくそだが努力を認めて乗ってあげようかな。
「そうだね。
行こうか、今ならまだ人も少ないだろうし」
「ああ」
俺とスコールは連れ立って食堂に向かった。
一緒に食事を取るなんて、一体何時振りのことだろうか。
そう懐かしくもないはずの記憶に、なんだか遠い憧れを感じる。
食堂に行って、注文をする。今日の気分は焼き魚である。
食料は人数減少や、早期に対策でまだまだ余裕があった。
FHに着くまでなら、普通の食堂運営が出来ると予想している。
焼き魚定食を軽く平らげていると、人が段々と増えてきた。
埋まってくるテーブルに、知り合いが着たら相席かなと思った頃。
丁度食堂に来たらしいリノアが、俺たち二人を見つけてきた。
「スコールとシオン!
相席させてもらっていいかな?」
「どうぞどうぞ」
「ああ」
ちゃんと確認してからリノアは席に着いた。
この子も意外なぐらいにしっかりしていると、この数日で知った。
やっぱりお嬢様として育てられただけのことはあるのだ。
「ありがと、結構人多いよねガーデンって。
これでも人が減った方なんでしょ?」
「ああ」
「前は中庭でパンとかおにぎりとか食べる人もいたからね。
今は全員こっちで食べてるから」
「そっか、天気のいい日は外で食べたいもんね」
いただきます、と手を合わせて食べ始めるリノア。
俺も、自分の分を片づける。大盛りにしたのは失敗だった。
半分を超えたとき、スコールが余り箸が進んでいないのに気づいた。
「スコール、どうしたの?
今日はお腹空いてなかった?」
「……いや」
じゃあ、どうしたのだろうか。
特に、嫌いなものが入っているということでもなさそうだし。
微妙に偏食気味だから、俺が多少気を使っていたんだけど。
「体調が悪いとか」
「傷が痛んだだけだ」
あらら。最近戦闘が多かったからねぇ。
「傷?
治療はしたんだよね」
「遅れたから後が残ったんだ」
あーそっか。余裕ぶっこいてると回復遅れるよねぇ。
回復魔法も治療が遅れると、後まで残る傷になったりするし。
魔法とは言え、そこまで万能なものでもないから困り者である。
「大丈夫?」
「時々痛むだけだ」
ふうん、お大事にと。
本人が大丈夫なら大丈夫なんだろうと俺が話題を切ることにした。
あんまり気を使い過ぎるのも、逆に面倒くさく思わせてしまう。
リノアの食器がカチャリと音を立てて、俺はそっちを向いた。
すると、リノアの顔からは表情が消えていた。
顔色も、元々白い肌が薄く青色に染まったような、暗い色である。
「リノアもどうしたの」
「………んの傷」
聞こえずに聞き返す俺に、リノアは強い口調でもう一度繰り返す。
「え?」
「拷問の、傷。
スコールが受けたの」
「え」
頭が真っ白になった。
そういえば、俺はD地区収容所でスコールが拷問を受けたこと。
そのことを俺は知っても聞いてもいた。判ってすらいた。
「そっ……か。拷問、か」
「そう」
「スコール、大丈夫なの?」
そう。判っていたのだ。俺は、あの時もずっと知ってたのだ。
「ああ、問題はない。
受けてからケアルをかけるまで長かったから完治していないだけだ。
カドワキ先生も治ると言っている」
「良かった」
「良くないよ」
俺の言葉に追って、冷たくリノアがつぶやいた。
そうだよな、良くないよな。本当は、ずっと判ってたんだ。
謝らなきゃ。俺は君が犠牲になるってわかってて、それを選んだ。
「そう、だよね」
「シオン」
「スコール、ごめん。あの時、俺助けられなかった。
任務だって思って、邪魔しちゃいけないなって」
俺は調子に乗っていたんだ。
未来がわかってるなら、原作通りに進ませるなら仕方ないって。
D地区収容所に捕まれば、拷問を受けることは知っていたのに。
血の気がどんどん引いていく。何も上手く行ってない。
何が原作知識だ。ただ神様気取りで、上から目線なだけじゃないか。
吐き気すらする。俺の気持ち悪い調子に乗った馬鹿さ加減に。
しかし、スコールは何のことか判らないといった顔である。
「いつの話だ」
「暗殺の時。
俺、みんなが捕まるの見てることしか出来なくて」
原作通りだから、それでいいやって思ってたんだ。
「シオン」
「後で助ければいいやって、思ってた。
ごめん。君が辛い思いすることになるのも判ってて、なのに」
判ってたのに。俺は何もしなかったんだ。
俺は君の親友面して、何も判っていなかったんだ。
君の事を、俺はよかれと思って流れに任せてしまったんだ。
「落ち着けシオン。
あの時点でお前が介入するタイミングも要素もなかった。
救出も成功している。感謝こそすれど、謝まられる必要は全くない」
「でも」
違うんだ。俺は感謝されるようなことなんて一つもしてない。
俺はきっと、変えようと思っていたのなら変えられたのである。
俺は君を見捨てようとしていたんだ。原作知識の名の下に。
だけど、スコールは俺を許そうとする。
そりゃそうだ。だってスコールは俺が、知っていたことを知らない。
君が何をされるかわかっていたことを、スコールは知らない。
「でもじゃない」
「だって」
「だってでもない」
「……」
「お願いだから、そんな顔をするな」
言葉にならない。俺が悪いのに、俺のせいじゃないという。
謝りたい。本当のことを全部話して、謝ってしまいたい。でも。
信じられるわけがない。話せるわけがない。飲み込むしか、ない。
「シオン」
「……リノア」
リノアが声をかけてきた。その表情は、先ほどまでとは違う。
絶対零度の視線ではなく、俺を責めるような声色ではなく。
ただ優しそうに、申し訳なさそうに、俺のことを思いやる。
「ごめん。
君が気にすると判ってて言っちゃった。本当にごめん」
「いや、俺のせいだし。
ありがとう気がつかせてくれて」
本当に、リノアが言わなかったら俺はずっと気がつかなかった。
「そんなこと、ないよ。
今みんながここに居るのは君のお陰だもん。
だから、ごめん」
「……うん」
ああ。俺はこの世界を甘く見ていた。軍隊もseedも甘く見ていた。
トラビアガーデンを救うためだと、俺はスコールを見捨てた。
死なないし、大丈夫だろうと思っていた。原作通りだからと。
それなのに、親友に目の前で痛がられるだけで辛いものだなんて。
本当に、俺は君の親友でいていいのかな。
俺は君に許されてしまっていいのかな。断罪はいらないのかな。
俺はこの世界と、どうやって向き合っていけばよかったのかな。
後悔は先にはたたず。後に残るのは一体なんだったのだろう。