「コンサート?」
「そうコンサート!」
事務室で作業中のところ、セルフィに相談があるといわれ。
着いていった先には、なにやらステージ的なものがある。
とはいっても、パイプ組みの割と簡単な造りのものだけど。
「ほら学園祭が出来なくなったでしょ。
だから」
そういえば、セルフィは学園祭の委員をしていたっけ。
更に言えば原作でも、そんなイベントがあったことを思い出す。
何時の間に準備したのだろうか。俺の知らない間に。
とにかく、この騒ぎでこの人数で文化祭を開けはしない。
だけど、この状況だからこそ、気分だけでも明るくしたい。
だから、せめて俺たちでコンサートだけはやりたいという。
既にシュウには了解をとり、スコールにはサプライズ。
ステージはF・Hの技師さんにお願いしていたそうだ。
廃材で作ったらしいが、見た目はなかなかのものである。
確かリノアとスコールがちょっといい雰囲気になるのだったか。
親友が照れる様を想像して、微かに微笑ましい気持ちになる。
セルフィは、残った俺に一応了解を取りに来たとのことだった。
「いいんじゃない?
俺は何をすればいいの?」
「うーんとね、演奏は4人で出来る曲選んだから。
私、アーヴァイン、ゼルとキスティスで十分なんだよね」
シオンは忙しそうだから、とセルフィは笑う。
んー、そこらへんは原作通りなのか。それともはぶられたのか。
でも、折角やるのなら俺も何かさせてもらいたいのだけども。
「俺とリノアは?」
「うんとね」
聞き返した俺にセルフィは少し間を開けてから、
「実はリハーサルもやろうと思って。
その時はスコールだけをお客さんにしようと思うのね」
「うん」
「だから、シオンには当日会場までスコールを連れてきて欲しいの」
……俺なのか。リノアじゃないのか。
なんというか、配役的にそういうのはリノアだと思っていたが。
「嫌?」
「いや、別に嫌じゃないけど。
リノアは?」
「リノアには会場でのお出迎えをお願いしてるの。
リノアの方がそういうの得意かなって思って」
確かにそれは俺がやるとか似合わない。
リノアが連れてきたのに待ってるのが俺とか、嬉しくないだろう。
それならまだ、逆の役割の方がしっくり来るかもしれない。
「それで、お願いしていい?」
「いいよ。
それで、いつやる予定なの?」
「実は今日なんだよね。
本番は明日なんだけど」
「早いな!」と思わず突っ込む。え、なんでそれ俺知らないの。
本番やるってことは、もう既にある程度情報撒いたってことでしょ。
そこまで俺、仕事に集中していた記憶はないんだけどな。
だから練習も、もう終わってるのよ、とセルフィは笑う。
随分手際がいいことで。俺の仕事を変わって貰いたいぐらいだ。
ともかく、了承する。別に断る理由なんて一つもなかった。
「ありがと。
それとね、話はそれだけじゃなくて」
「なに?」
もうこの際、何を言われても驚かない自信がある。
今日やることを内緒にされてた時点で、驚きポイント満点だ。
そう思ってた俺に、セルフィは両手を合わせてこういった。
「疑ってて、ごめん」
――それは流石に、想定はしていなかった。
疑われてることは判っていたけど、謝られるとは思ってなかった。
そも、どうしてこう、謝るまでに至ったのかが判らない。
「えと。
なんで?」
上手く言葉にならない。けど、聞きたいのはどうしてか。
謝るってことは、俺を信用することに決めたのと、同じことだ。
今現在、セルフィを信用させることなんて出来てないと思う。
そう思って口に出した曖昧な問いかけに、セルフィは。
「リノアからね。
スコールの拷問の傷の話、聞いたの」
「……ああ」
あの食堂の話か。あれは、俺も動転してしまったけれど。
変なことを口走らないという、最低限の理性だけは残ってた。
それで。その話が、一体どうかしたのだろうか。
「正直ね。今も信用はできないと思ってるの。
キミ、色んなこと知ってるし、ちょっとおかしいもの」
「……うん」
それは、そうだ。
俺だって、随分都合のいい行動ばかりしている自覚はある。
幾ら理由をつけていたって、誤魔化しきれるはずもない。
でもね、リノアの話を聞いて思ったの。セルフィは俺に告げる。
「スコールを心配してるのは、ホントでしょ。
私たちの足を引っ張ろうとしてるわけではないじゃない」
「その積もり、だよ」
「それに。
この数日間ガーデンの為に一生懸命になってるの、見てたよ」
だから、とセルフィは小さく区切った。
「信用は、まだしきれないけど。
疑ってたことについては、謝らなきゃと思ったの」
「そんなの、別にいいのに」
「私の気の問題だよ。
謝らないと、申し訳ないなって」
これからも、宜しくね。そういって差し出されたのは右手。
果たして、俺はこの手を掴んで良いものなのかと、少し悩んで。
色々なものを振り切るように、俺はその手を掴んだ。
夕方頃。
シュウの作った防衛案を読み終わった頃に、セルフィは部屋に来た。
「スコールを呼びにいって」と微笑むセルフィに、俺は頷く。
二人揃って、スコールの部屋の前に行くと。
セルフィはじゃあお願いねと言って、先に会場に向かった。
その後ろ姿を見送る。多少の時間差は必要だろうから。
改めて、ノックをしようと振り返ったとき。
ガラリと扉が開いて、部屋の中からスコールが出てきた。
いつもよりラフな私服で、少し力を抜いていたような感じである。
「シオン?
何か用か?」
「あ、うん。
ちょっと来て欲しいんだけど、何処か行くの?」
だとすると、ちょっと予定が大幅に狂ってしまうんだけど。
しかし、スコールは首を振ってそうじゃない、と答える。
じゃあどういうこと、と促す俺に、静かな声でスコールが答える。
「シオンの声が聞こえたから。
それで、どこに行けばいいんだ?」
「着いてきてよ」
素直に後ろをついてきながら、仕事かと問いかけてくる。
違うよ、仕事じゃないから安心して、と笑いながら伝えると。
忙しかったのだろうか、雰囲気が安らいだのがわかった。
こっちこっち、とゆっくりとした歩調で俺は案内する。
途中すれ違ったシュウがクスクス笑うのを、手を振り止める。
サプライズなんだから、会場までは内緒にしなきゃ。
ガーデンを出てF・Hの線路に出ると、会場が見えてきた。
ライトアップされた会場に、スコールは「あれか?」と呟いた。
どうやら、準備は出来ているようだ。みんな揃っている。
そうだよと俺も小さく言うと、スコールの腕を掴んで走る。
いきなりだったのにも関わらず、スコールのバランスは崩れない。
追い越すことも振り払うこともなく、あっさりとついてきた。
そして、ステージ前についた俺たちを、四人が出迎える。
「ようこそ~!
今日はコンサートに来てくれてありがと~!」
「リハーサルだけどね~」
セルフィの出迎えの言葉に、アーヴァインが茶々を入れる。
「私たち、学園祭代わりにコンサートをすることに決めました!
今日のリハーサルはガーデンの若き指導者スコールとっ!
みんなの無事の再開を祝ってお送りしますっ!」
「セルフィプロデュースバンドの素敵な演奏よ!」
「一生懸命練習したので聞いてくれよ!」
そういってセルフィたち四人は光の中で、演奏を始めた。
明るいアイリッシュが、夕暮れの薄闇の中に響き渡る。
技術的には拙かったけれど、それでもすごく素敵に思えた。
「すごいな」
「でしょ。
俺も今日知ったんだけど、みんな練習してたんだって」
スコールが呟く。
ステージの光に照らされた彼の横顔は、なんだかこう。
安らぎのようなものに満ちて、非常に穏やかな表情だった。
スコールの表情をみて、俺は心の底から安堵する。
Seed試験があってから、こんな表情は久しぶりに見た気がする。
こんな表情ができるなら、きっと全てが上手くいくと思えた。
拷問を受けたり、委員長とされたり。
色々なことがあって、心休まる時間なんてなかっただろう。
それが凄く嬉しくて、俺は、セルフィに凄く感謝した。