「ねえ、スコールは」
「ん?」
「スコールは大変じゃなかった?」
なんとなく。素直に聞いてみたかった。
俺の突然の質問に、スコールは少し考えて込んでから答えた。
「そう、だな。
ここ最近は、忙しかったように思う」
「お疲れ様、だね」
本当に。なんでスコールだけこんな大変なのかな。
他のみんなが大変じゃないとはいわないけど、それでも。
なんでこんなに多くのものを背負わなきゃいけないんだろう。
スコールは少し口ごもってから、そうでもないと答える。
それは、相槌ではなく、明確な意思がこめられた言葉に思え。
どうして、と視線で促すと、ふいとその目を逸らされた。
「守りたいものがたくさんあったから」
「守りたいもの?」
なんだろう。スコールが守りたいものって。
君にとって、大事なものができたのならよかったけども。
それを背負いこむことで、負担に思ってはいけない。
「ああ」
「聞いていい?」
「……言うなよ?」
「勿論」
コンサートのステージから少しだけ離れ。
声が届かないぐらいの距離を開けて、俺は彼に再度尋ねる。
何を聞かせてくれるのだろうかと、少し期待を持ちながら。
「それで、守りたいものって?」
「……そうだな。
まず一番は、ガーデンだ」
ガーデン。バラム・ガーデンのこと、と思って良いよね。
「ガーデン、そのもの?」
「ああ。
ここは、俺にとって唯一の帰る場所、だと思う。
無くなったら、俺はどこに帰ればいいのか判らない」
そっか。ここは、君にとっての故郷足りえる場所なんだね。
ちゃんと、思い入れがあったことに少しだけでなく安堵する。
自分の場所と思えるところは必要だ。どんな所であっても。
そういう俺も、ガーデンが居場所であることは変わらない。
たとえ疑われても、危険な目にあっても、ここにいると決めた。
だから、スコールも同じように思っていてくれて、正直嬉しい。
「俺も、そうだよ」
「このガーデンにはそういうやつが結構いるはずだ。
だから俺は守りたかった」
「そっか。
スコールは優しいね」
いい子だなぁ、本当に。
この子が孤高の人だと思われているのが、時折勿体無く感じる。
ちゃんと話せば、どれだけいい奴かってことが判るというのに。
一曲目が終わって次の曲が始まった。
練習時間の都合上、3曲しか演奏できないと聞いている。
むしろ、この短期間でよくそれだけ準備したという話である。
「他には何が守りたかったの?」
「………だ」
「え?」
「みんな、だ」
聞き取れず、聞き返した俺に。
耳を疑うような答えが返ってくる。みんなって、人のことだよね。
スコールは、不確定名“みんな”を大切に思っていたのか。
「みんなって、ガーデンのみんな?」
「それもある」
「リノアも含むよね」
「ああ」
それは、きっと。スコールの大切な人たちということだ。
誰とも深い関係になりたがらず、孤独であろうとしたスコールが。
他の誰かを、俺たちのことを大切だといっているのである。
レインを、ママ先生を、エルオーネを。
大切な人たち全てから置き去りにされて、殻に閉じこもった子が。
それでも、大切な人たちを守りたい。そう口に出したのだ。
「……スコールの大切な人たち、だよね」
「……そうかも知れないな」
だから、いうなよとスコールは照れたように顔を逸らす。
誰にも言わないよ。こんなこと、俺の大事な宝物決定である。
あの閉じこもっていた子どもが、ここまで成長していた。
スコールがここまで心を開いてくれたこと。
微かに涙が出そうになって、それを笑って誤魔化して。
代わりに俺も、いつもなら言わないことを口に出すことにした。
「……俺も、スコールのこと。
大切だと、守りたいと思ってるからね」
それこそ。危険を覚悟でこの道に踏み入るぐらいには。
隣に立つスコールは、ステージから目を逸らし俺をチラリと見て。
直ぐに目を逸らし、ステージの前へ歩いて行ってしまった。
「ちょっスコール!」
「コンサートに集中しよう」
呼びかける俺にも、振り返ってはくれない。
怒らせたわけじゃないだろうけど、呆れたのか照れたのか。
どうやら、これ以上は話すつもりがない様子であった。
2曲目が終わると、ステージにリノアが現れた。
ステージ裏の広場に簡単なお祝いの食事を用意してあるという。
その後、ちょっとした宴会が始まった。鬱屈晴らしだ。
ワインがあったが、飲んだキスティスがスコールに絡んだり。
リノアが笑い上戸でそれをみて大爆笑していたり。
アーヴァインが泣き上戸で隅っこで愚痴りだしたりと騒がしい。
セルフィの合図で始めた、最後の締めの一曲は。
アルコールが入っていて、少しグダグダな演奏であったけど。
それを、ただ上手なだけであるより好ましいと、俺は思った。
そしてその曲の間にスコールとリノアが話を始めて。
曲が終わっても続いていたので、気を使って先に帰ることにした。
壊れたキスティスたちを引っぱって、ガーデンに戻る。
アルコールが入って楽しくなっているリノア。
ちょっと困った、それでも嫌そうでない楽しそうな顔のスコール。
これはきっと恋愛に発展する。そんな予感がするものだった。
コンサートは結果として大成功した。
もともと肩肘はった計画でもない、みんなが楽しめれば十分だ。
セルフィが頑張りもあり、かなりの盛り上がりを見せていた。
その次の日。
事務員さんたちと打ち合わせしていると、修復完了の報告が来た。
一週間もたたずに、これだけの建造物を直すとは恐れ入る。
報告に来たニーダに、ガーデン運転手を依頼する。
以前より、彼に任せるとスコールたちとは話がついていた。
ニーダは驚いていたが、確かに俺しかいないと直ぐ引き受けてくれた。
ガーデンが動くようになったからには、魔女討伐作戦開始である。
以前の打ち合わせと同じように、まずはバラムへ向かうことにした。
避難している生徒の回収と、それに合わせ物資を購入する為である。
ガーデンの最初の機動。
スコールの命令の元、通信士として選ばれたSeedが放送を行う。
対振動体勢の準備や火元の点検を、順々と指示。一回目は慎重に。
そして最後の放送が終わる。
ニーダの操縦によって、ガーデンは少しずつ海を動き始めた。
だんだんとスピードを上げて、海の上をホバリングしていく。
目標はバラム。到着はおよそ5時間前後と推測されていた。
バラムを目指して数時間。
あともう少しとなったときに、俺は操縦室に呼び出された。
ガルバディア・ガーデンが、先にバラムについていたらしい。
「あれも動けたんだねぇ……」
知っていた俺としては、先回りされたことに腹立つばかりである。
F・Hと同じようにエルオーネを探しているのか。
それともバラムガーデン生徒を回収させないようにしているのか。
「目標はエルオーネとガーデン生徒の両方、かな?」
「だろうな」
ま、どちらかということもないだろう。スコールも同意見らしい。
彼も呼び出されたらしく、何故かガンブレードを持ち出してきていた。
もしかして、自室で寝てたのかな?若干寝癖が残っている。
「あれって魔女が乗ってるんだよね?」
「本拠地にするという話だったな」
背中を嫌な汗が走る。流石に今現在で戦闘にはならないと思いたいが。
「見つけられてはないんだよね?」
「ええ、かなりの倍率の望遠鏡で確認しています。
海上でどこから来るかも判らない相手を見つけられる距離ではありません」
警戒するseedが報告をしてから、バラムガーデンは静止させてある。
戦闘を始めたら、人数の差で蹴散らされるのは間違いないと断言できる。
さて、じゃあどうするかなんだけど。早速一手目から躓いたわけで。
「どうする?」
「どうしましょう?」
「うーん」
打つ手がない。先にトラビアに行くべきだろうか?
だが戦力把握的にも戦闘可能なバラムの生徒数は先に知っておきたい。
物資も含めて、後から調整するのは大変であるのだが、どうかな。
「学園長やシュウはどう思います?」
「防衛班としては現在の接触は拒否したいわ」
それは補給班としても単純に同意見である。
トラビアを先にすると補給や組織化で混乱するし、それは避けたい。
出来れば、先にバラムに到着しておきたいのはこっちも同じだが。
「私は勝てない戦いはして欲しくないですねぇ。
それ以外は専門外なので言えませんが」
判ってはいたけど、解決策はなかなかでない。
これは、トラビアに先に行くことの検討を始めた方がいいか。
「トラビアが無事かによるな」
「F・Hで確認できれば良かったんだけどね」
「孤島ではありませんが情報は入りませんからね」
判らないことばかりでなかなか決まらない。
情報が足りないとはこんなに大変なものなんだ、と今更思い知る。
コレに至っては、原作知識も何の役にも立ちはしなかった。
「それにしてもガルバディアガーデンまで動くとはな」
「魔女との決戦はガーデン同士の戦争後になりそうだね」
「そうですねぇ」
「そうねえ」
それを聞いた通信士が身震いをした。君もSeedだろうに。
そんな未来予想図を描いていると、物見部屋からの通信がきた。
目配せをして、早速繋げてもらう。代表は俺が答える。
「こちら操縦室です、どうぞ」
「ほ、報告です!」
「はい、なんでしょう」
「バラムよりガルバディアガーデンが移動を始めました!」
まだ不慣れな報告を受けて、俺たちはぴきっと固まる。
まさか、気付かれた。そういう思いが部屋中を支配したのだ。
通信機に乗り出すように、シュウが口早に問いかける。
「方角は?
まさかこっちに?」
「いえ、西に向かっております。
こちらに向かうようすはありません」
報告に高まっていた緊張が一気に収まる。
なんだよ、驚かせやがって。今すぐ戦争かと思ったじゃん。
「バラムの様子はどうですか?」
「現在ガルバディア籍の輸送鑑が残っています」
「街の様子は判りますか?」
「いえ、距離が足りません」
ん、まあそうか。結構距離がギリギリだからなぁ。
街の様子までは見られなくても仕方がない、といった所か。
ガーデンの警戒を続けるように言って、通信を切らせる。
通信士が通信を切る。
どうします、と無言でスコール、学園長、シュウに目をやる。
といっても、答えはもう決まっているようなものだけども。
「行くしかないわね」
「そうだな」
「だよね」
「任せましょう」
満場一致というには保留が一だけど、大体全員が同意見だ。
「ニーダ、お願いできますか?」
「了解」
静かに会議を聞いていたニーダが操縦桿を握りこみ。
ガーデンはゆっくりと動き始めた。微かな振動が身体を揺らす。
目標は占領されたバラム。果たして生徒たちは無事だろうか。