魔女記念館に封印されたリノアを助けた俺たちは、イデアの家に行った。
リノアが行きたいと望み、他に行く場所もなかったからだ。
やってしまったことに目を向けるには、少し時間も必要だった。
俺とリノアは再開の約束をした。
いつ、何が起こっても。自分がどこにいるのか判らなくなったとしても。
俺たちはここで待っていると決めた。お互いに会えるまでずっと。
そうしている間に、ラグナロクにエスタから無線が入ったらしい。
普通なら無視しているところだが、その大統領補佐官はキロスと名乗った。
あのキロスと同じ人物かを確かめるために、俺たちはエスタに向かった。
大統領官邸。
待っていたのは、キロスとウォードだと思われる細身な男と巨漢であった。
間違いないと思えるぐらいには、特徴が良く似ていた。同一人物だろう。
そして壮年の男が一人いた。見間違えるはずもない。
何度も俺は体験した。幾ら年齢が違っていても、直ぐ判ってしまった。
その男がラグナ・レウァールであるということが。
ラグナが説明をしようとするのをキロスが押しとどめ。
俺たちから質問するように促した。知りたいことが沢山あるだろう、と。
そして俺たちは、何故呼ばれたかという根本の疑問を投げかけたのだった。
物陰で待ち構えていた俺が、期待通りの質問に身を晒すことにした。
「それについては俺が説明するよ」
「シオン?!」
予想通りの反応だ。
誰も俺がここにきているなんて想像すらもしていなかっただろう。
全員の裏をかけたようで、目を見開く姿を見ることが出来た。
「久しぶりスコール。
大体20日ぶりぐらいかな?」
「なんでここに居るんだ?!」
思い返せば長くなる。ここまでを思い出しながら、俺は答え始める。
月の涙が起こったということは、エスタは危険な訳であった。
モンスターがうろついて、俺が一人で出歩くことはできやしない。
そんな中を、白いSeedの護衛を受けて、俺一人お散歩気分である。
ああ、実際にはバステ振りまきで仕事はしたんですけどね。
ゾンビーレイズの安定感は抜群である。レイズが勿体無い以外。
こうでもしないと活躍できないのが、俺の限界なのであるけども。
まあそれはともかく。
無事にエスタにたどり着き、入国審査官にガーデンの使者と告げた。
一応書いてきた大統領ラグナ宛のお手紙も、お出しさせていただいた。
内容は素直に、月の涙が起こったようですが大丈夫ですか。
特にスコールとかスコールとかエルオーネとか無事ですかという話。
これを読んでくれたら大統領も会ってはくれるだろうと踏んで。
そういうことで、国賓とまでいかずともそれなりの扱いを受ける。
中々よい部屋にご案内されて、待つようにお願いされる次第。
白いSeedたちも同様に扱われているようで、一安心であった。
さて。
月の涙が起きたということは、スコールたちは宇宙かラグナロク。
現在はエスタにはいないことが推測される訳であるだが。
まあ、考えても仕方がないだろうと俺は寛ぎモードに入った。
ベッドに身体を投げ出して、だーらーだーらーしていた。
久しぶりに仕事が待っていないことに、もう身体が緩んでしまった。
そうしているうちに、大統領が会ってくれると連絡が来た。
わざわざ伝えに来てくれた、大統領高官キロスさんにお礼を言う。
いやあ、流石にあれだけ目立つ特徴があると、直ぐ判るね。
そして呼ばれた先にいたのは、大統領とオダイン博士であった。
その二人から、ルナティック・パンドラの一件と月の涙。
スコールたちが魔女記念館で起こした騒動の一連の話を聞く。
そして、これからスコールたちに依頼をするのだと聞かされる。
愛と友情と、勇気の大作戦。その概要を俺は聞かされる。
スコールたちがもう少しで来るというところで、大統領は口を開けた。
「因みに、君はスコールの友達なんだよねぇ?」
「そうですね。
一応親友ぐらいには仲がよいほうかと」
腕を組んでうんうん、と頷く大統領。
そのジェスチャーは、スコールよりもリノアに似ている類である。
「その君に質問なんだけど。
あいつってどんな奴だった?」
「どっちとしての質問ですか」
父親か、大統領か。それによって答えは変わると思うんだけど。
そういう意味で聴いた言葉に、大統領はガシガシと頭を掻いてみせる。
答えを聞かなくても父親の方だと判ったので、心の中でため息をつく。
「……いい奴ですよ。
人思いで、ちょっと無愛想で、でも優しい子です」
「そっか。それはよかった」
「自慢の親友ですよ、俺にとっては」
スコールにとっての俺がどうかは、判らないけれども。
勿論、俺もそうでありたいとは常に願っているけどもね、現実はね。
中々上手くいかないものである。色々な事情をふくめても。
「因みに、あのリノアって子は」
「スコールの彼女一歩手前の女の子ですよ」
そっかそっか~と喜ぶ姿は、ただの若く見えるお父さんだった。
その後、スコールたちがラグナロクでエスタに到着するまで。
似たような他愛のない話で、お互いに盛り上がるのであった。
そして、スコールたちがこの場にきて、話を始めたのである。
「――というわけで、俺はここにいるんだ」
「つまり。月の涙が観測されたから。
俺たちの安否の確認ついでに来た、と」
その通りだ、と俺は頷く。流石スコール、完璧な理解である。
「それは、判った。
じゃあ何故ここに居る」
「大統領官邸にいる理由は、月の涙の説明を受けるため。
君たちもここに呼ぶと聞いたからね、同席させてもらったんだ」
「そうか」
うん。納得いただけたようで大変幸いなことである。
ま、実際には最後まで見届けようとする為に、ここに来たのだが。
別に俺に何ができるというわけでもないしね。申し訳ないけど。
「――信じられない」
しかし。納得出来てない人が、一人。鋭い眼光で俺を射抜いた。
アーヴァインだ。誰よりも俺を疑わざるを得ない立場にいた彼である。
その彼が、ここに至って遂に、俺の真偽を問いかけるにいたった。
「何が安全の確認、だ。
何が同席させてもらった、だ」
「アーヴァイン」
「スコール、聞いてくれ。
シオンはずっと何かを隠し続けてる」
おっと。それを言われたら俺は反論のしようがないじゃないか。
というか、普通に動揺してる俺には、反論が思い浮かばないのだけど。
疑われるのはともかく、まさか直接来られるとは思ってなかった。
「随分、都合がいいよな。
ミサイル発射も、今回きたタイミングも。何を知ってるんだ。」
「……ごめん、何のこと?」
せめて、恍ける。答えられないと黙っていたら認めるようなものだ。
そして他の誰かに助けを、と思って。みんなに視線を向けて、気付いた。
全員が俺を見てる。スコールを含めた全員が、俺の答えを待っていた。
「俺が、何を知ってるって?
何を知ってたらおかしいのか教えてよ」
「知りたいのなら教えてあげるよ」
カッカッと。
アーヴァインの履いているブーツの音が、沈黙の部屋に鳴り響く。
俺の前で止まったアーヴァインは、俺の耳元で囁くように言った。
「ミサイル発射のこと。
あれが決まったの、暗殺作戦の次の日なんだって」
……ミスってた。
純粋に、俺は必要だからと思ってやったことが決定的にずれてた。
他にやりようが思い浮かばなかったからこそ、後悔が尽きない。
「なんで知ってたんだろうなぁ。
なんでシオンはさも、確定事項のように話したんだろうなぁ」
そうだ。俺はあの時確定事項として、あのことを話してる。
だから推測という答えは使えない。先に釘をさされてしまった。
いや、しかし。だからといって、言い逃れる方法は。
「ずっと思ってたんだ。
もしかしたら、君は全部知ってたんじゃないかって」
「何を、全部だい?」
「さあ。
君が答えてくれたら判るんじゃないかな」
そういって、アーヴァインは俺にその愛銃を向けてきた。
至近距離で押し当てられた銃口は、確実に俺を殺す力を持ってる。
その硬さは、彼の意思の強さと同じ。答えなければ撃つ気だ。
「答えなよ。
君は、何を知ってるんだい?」
俺は、何を知っていたというのだろう。
近くにいた人の思いにも気付かず、何を知ったつもりだったんだろう。
助けを求めても、その視線に答える仲間は誰も居なかった。