雨にも種を。(リライト版)   作:re=tdwa

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ガーデンに入ってから2年間。

俺は一生懸命に勉強し、身を守る手段を身につけて行った。

ジャンクションは出来なくても、出来ることはあると信じて。

 

近接戦闘能力は余り適性がなかった。

しかし、それでも一般人相手に身を守ることぐらいならできる。

モンスター相手にも、時間を稼ぐことぐらいなら問題はなかった。

 

選択した武器は、バトルロッド、要するところに杖である。

刃物を使うのは怖かったし、扱いの難しいのは選びようがなかった。

軽さと扱いやすさを理由に、竜の骨を削った杖を使うことにした。

 

近接戦闘に対して、魔法には少なくない適正があるようだった。

魔法はジャンクションマシーンに付けるストックストーンに入っており、、

使う時には意識を向けながら術式を起動、放つといったものである。

 

この過程には、術式の記憶やイメージの構成が必要とされており。

現代でそれなりにゲーマーをしていた俺には向いているものであった。

元々の魔力も高く、魔法系の授業ではかなり高い順位を維持し続けた。

 

そして今回ジャンクションに適性がないと言われた。

ジャンクションに適性がないことはそこまで珍しいものではない。

むしろ完全に使えるものの方が少ないといった感じらしい。

 

各能力間やG・Fの相性があったり、個人でばらつきがあるようだ。

しかし大抵は60%程の強化が出来るらしく。

30%もない俺は、普通の人間に比べて、大分見劣りすることになる。

 

近接戦闘は本格的に向いていないな、と僅かならずがっかりした。

魔法に関しては元の魔力の高さがあって、悪いものではないらしい。

発動スピード、命中、威力、魔法向きのseedと同等の実力はあるそうだ。

 

もちろん実際に戦ったら近接戦闘で瞬殺されるだけである。

 

しかし、だからといって何の工夫もしないことは趣味じゃなかった。

この世界には、魔女の使う魔法と擬似魔法以外にもまだ道はある。

それは、人間が個々の才能で使う“魔術”というものだった。

 

簡単に言えば、キスティス・トゥリープの使う青魔法である。

擬似魔法が簡単かつ強力なだけで、技術さえあれば特殊なことが出来る。

その中でも、青魔法はモンスターの使うものを再現しているだけだ。

 

俺は、ジャンクションをどうにかできないかを考えているうちに。

G・Fとの適合率が低いからこそ、その自分との隙間に気がついた。

その隙間を探っている内に、幾つかの技術を身につけることが出来た。

 

隙間を探るということは、嫌でもG・Fの存在を知覚すること。

元より魔術に適正がある身体だったようで、それが魔術の感覚を磨いた。

身に着けたのは、擬似的なテレパスとクレヤボヤンスの亜種だった。

 

詰まるところ、G・Fが持っている知覚能力を同期化しただけだ。

周辺の探査とG・Fをジャンクションしている相手への念話。

それが、ジャンクションの代償として十分なのかは、判らなかったが。

 

そうこうしている内に、俺には一つの仇名がついた。

基礎学問と魔法授業に杖を使用した自衛技能、そして“魔術”の習得。

俺は、魔術師のシオンとからかうように言われるようになった。

 

G・Fが、ジャンクションが使えないのであれば。

もう、ガーデンで学べることも、そう多くはないだろうと思い始めた。

早めにガーデンから抜け出すか、そう思っているとお腹がなった。

 

人生2回目の15歳はなかなかに健啖なものであった。

食堂にでもいくか、と歩いていると、前方方向に人だかりがある。

食堂に繋がる通路の途中で何か騒ぎが起きているようであった。

 

 

 

 

 

食堂に繋がる渡り廊下の入り口程に、その騒ぎの原因があった。

ザワザワしたギャラリーを野次馬根性丸出しで覗いてみると。

そこには、同年代ぐらいの派手な外見の少年たちがいた。

「何を黙りこんでるんだよ!」

「そうだもんよ!」

騒ぎの中心、3人の内仲間らしい2人組がもう1人に詰め寄っていた。

イジメか?と思ったが、先程の口調や声を考えると大体の予想がついた。

流石に、だもんよという語尾の人間は、そこまで多くはいなかった。

 

大方、サイファーと雷神が校則破りの生徒に詰め寄っているのだろう。

成績はよく、責任感と正義感も強い彼らが風紀委員なのはある種適任だ。

気性が荒いのは、如何とも騒がしいなとは思うけれども。

 

さて、何をやらかしたのかねともう一人に目をやる。

そこには、無愛想な少年が不服そうに口を噤んでおり、下を向いていた。

スコールだ。何ともいえない感情に、思わず俺は息を呑む。

 

彼もまた非常に優秀な学生であることを、俺は聞いていた。

基礎学問も戦闘技術も全く粗がなく、満遍なくかなりの成績をとり。

特に近接戦闘では、学年の上位数人に該当するだろう。

別のクラスで、俺が接触をしようとしなかったから全く接点はない。

しかしこの三人が揃っているとは何があったのか、少しじゃない興味があった。

野次馬の中に見知った顔はいないかと見回すと、同じクラスの生徒がいた。

「ねえ何があったの?」

「ああ、シオンか」

「うん、スコールが何かやったの?」

 

近づいて声を掛けると、同い年の少年は小さく振り返りまた戻る。

どうも落ち着いている様子から、彼が状況を知ってるらしい。

 

「食堂でブリザド使ったんだよ」

 

そりゃまた。普通に校則違反だけど。

往来で刃物振り回す程度には危ないことをしたらしいが。

 

「訓練場か練習室以外の魔法使用は禁止ってやつ?

 それをサイファーが見ててってこと?」

「そうそう」

「でも理由が何かあってでしょ?」

「なんで判る?」

 

なんでって。スコールの内面を知ってるからとは答えにくい。

少しだけ考えながら、当たり障りのなさそうな返答を口に出す。

 

「だってスコール無駄なことしない人でしょ」

「お前スコールと知り合いだっけ?」

「いや違うけど。

 有名人じゃん彼」

 

有名人ではあるのだ。無口でむちゃくちゃ強い奴とは。

その返答に納得いったのか、「まあな」と少年は頷いた。

 

「んで何があったの?」

「アソコみろよ」

そういってクラスメイトが指す先を追って見る。

そこには氷漬けになった花瓶が床に落ちていた。

 

近くには小さなテーブルがあり。

落ちている花瓶はいつもあそこに置いてあったものである気がした。

ってことはー?

「花瓶が落ちそうになって、割れないようにしたってこと?」

「鋭いな。ついでにその近くに猫がいたってこともあったら完璧だ」

 

うっわ。

 

「猫が破片踏まないようにってか」

「そういうこと」

なんつーか。無口で心優しいってこのことかしらと。

理由は判ったが、その間にサイファーの問い詰めは激化していた。

今にもこの場で戦いが始まりだしそうな感じである。

――だというのにスコールはまだ無言を保っていた。

冷たい容貌からは彼が考えていることは予想もつかない、が。

彼の思考をゲームでたどったことのある俺には大体の予想が付いた。

 

スコールは本編でも人に説明するのが苦手だった。

見た目が冷たく、口数が少なくてクールに見える。

しかし、それは自己主張が苦手という一面にも原因があった。

 

今のスコールもどうやら言いたいことはあるけど。

それが纏まらないから黙っているように俺には思えた。

 

もしそうなら、不器用だなと思う。

だけどそれをみんなが勘違いして、スコールに更なる重荷を課す。

不幸なのはスコールがそれに対応出来るまでの優秀さがあることだ。

 

それが積み重なって更に勘違いされていく、という本編を思い出す。

何だか、可哀想に思えてきた。

いや、と頭を振る。今更何をと思い直す。俺が口を出すことじゃない。

 

――思春期の繊細な頃に年上の理解者がいること。

現代日本ではむしろ常識過ぎる精神の成長を促進させる条件だ。

いやいや、と頭を再度振る。俺に関係あることではない。

――だがスコールにはそんな人は存在しなかった。

孤児として育ち、理解者であったエルオーネやイデアは居なくなり。

彼は段々と一人になって、追い詰められていった。

だが彼には戦闘能力者としての優れた才能があった。

精神を投げ出し、身体と技術の成長に力を注いだ彼を周りは評価した。

精神の孤独をわかってあげられる人は居ないまま。

 

彼には理解者がいなかった。

彼には全てを受け入れてくれる人がいなかった。

彼には彼の成長を促し喜んでくれる人などいなかった。

いやいやいや、と頭を振る。丸で俺がそうなりたいみたいじゃないか。

そんな積もりはない。そんな積もりは全くないが。

……でも、俺は、そんな彼が少しだけ可哀想に思えてきてしまった。

なんだよそれ。

まるでスコールが魔女を倒すためだけに生まれたみたいじゃないか。

レインは、エルオーネは、イデアはそんなの望んでない。

可哀想じゃねえか。

今のスコールは自分が言いたいことも伝えられないただの子供だ。

きっと後2年たっても何も変わらない。

本編が始まって、リノアに出会いスコールは少しずつ変わっていった。

言葉にするのが苦手なのは変わらずとも、行動で表現するようになった。

だから、今俺が何かをする必要はない。俺じゃなくてもかまわない。

駄目だ。イライラしてきた。

シドは何してるんだ。スコールを成長させられるのは学園長だけだろう?

立場的に、あの人しかスコールに手出しをすることは出来なかった。

 

いや、きっと何もしないのだろうな。

そうじゃなければ今のスコールもゲームのスコールも理解できない。

出来ても、しない。それがあの人の難しい立場における選択なのだろう。

騒ぎを聞きつけたのか誰かが通報したのか、教員がやってきた。

ざわついていた野次馬も、今では少し離れた場所で静かにしている。

気がつけば、人の層の一番前に。俺は立っていた。

 

俺は騒ぎの中心人物3人に目を向けた。

いっそ判りやすい程の大声で騒ぎたてるサイファーと雷神。

ふてぶてしい程の仏頂面で無言を続けるスコール。

 

原因はスコールに求められ、彼は言い返したりしないのだろう。

 

――ああ、もう駄目だ。いらいらする。

俺は、一歩前に出た。最前列から一歩前に出た俺に人目が集まる。

口を開く。話す内容は決まっていた。君の思っていることだ。

 

俺は、選んだ。

どうしても、あの可哀想な少年を助けてやりたくなってしまったのだ。

たとえそれが自らを危険に投げ込むことになろうとも。

 

 

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