「なんてね」
アーヴァインは、愛銃をくるくると回してホルダーにしまった。
残されたのは、は?という感じの俺と、みんなの安堵した顔である。
目の前の彼はくるりと反転し、頭の後ろで両手を組んだ。
「信じてはないけどさ。
今更裏切り者もなにもないよねぇ」
「疑ってはなかった、の?」
俺の問いかけに、アーヴァインは疑ってるよぉと軽い声で言った。
じゃあ、どうして。今の問いかけに俺は何かを答えそうになっていた。
俺に背中を向けるアーヴァインは、ちらりと俺を一瞥すると。
「でも、その段階は過ぎてるよ。
何かを知ってるけど、裏切り者ではない」
「それって」
「そう。
アタシと同じだよね」
セルフィだ。俺はセルフィに、同じことを言われてるんだ。
信じられないけど、裏切り者じゃない。そう思ってる。
それと同じことを、今。一番怪しむ立場の人が、俺に言ったのだ。
「みんなね、不思議には思ってるんだ。
シオンの言うことって、どうしてか本当になるの」
「だが」
「裏切り者だったら、ここまで一緒にきてないよな」
「本当よね」
リノアが、スコールが、ゼルが。キスティスがその後に続く。
「本当に裏切り者だったなら。
討伐作戦が成功してないじゃない」
「何時だって裏切るタイミングはあった、そうだろ?」
だから、とセルフィとアーヴァインは言った。
「話してくれるの、みんな待ってるから。
せめてこの戦いが終わったら、話してくれよ?」
俺はその言葉に、ただ頷くことしかできなかった。
疑われて、信用されてないと思ってたのは俺だけだったんだ。
みんなはそれをも乗り越えて、俺を待っていてくれたのである。
「じゃあ、改めて質問に答えるよ。
君たちに、エスタ大統領ラグナさんから依頼があります」
俺は先に聞いておいたアルティミシア討伐作戦の説明を始めた。
曰く、アルティミシアは時間圧縮を目的として、魔女に乗り移る。
時間圧縮には、エルオーネの力によって過去の魔女に移ることが必要。
そのため、イデア=アルティミシアはエルオーネを求めていた。
未来の魔女アルティミシアを倒すためには。
その時間圧縮というステージに上らなければいけないのである。
その為には、逆にエルオーネの力を使わせることが必要なのだ。
「まあ詳しい説明は専門家に説明してもらうね」
「専門家?」
「オダイン博士。
作戦はおいておいても、他に質問があるんじゃない?
大統領が答えてくれるって言っているわけだし聞いておいたら?」
俺がそう言うと、スコールたちは色々と質問を始めた。
エルオーネのこと。レインのこと。ラグナ自身のことについて。
俺は画面越しにしか見たことのない、親子の再開をただ見つめていた。
ラグナはそうだと知っているだろうけど、スコールは知らないだろう。
この戦いが終わったら、きっと話合ってくれるといいんだけど。
俺はスコールが幸せになってくれることを心から祈っているから。
そして、作戦について質問が移ると。
オダイン博士は求められるまま、上機嫌に解説をしていく。
解説が終わり、スコールたちがラグナロクに乗り込もうとした時だ。
「ん?
おまえ変でおじゃる!」
「はい?」
オダイン博士が、いきなり人を変だと話しかけてきたのである。
人を変呼ばわり出来る程、まともな外見でも内面でもないだろう。
この人に比べたら、俺は非常に全うな人間であると自負できる。
「G・Fの反応がするでおじゃる!
このオダインの検知器が鳴り響いているのでおじゃる!」
「……いや。
ジャンクションはしてるから、G・Fの反応があるのは普通ですが」
普通だよ。みんなと同じで、俺からも同じ反応が出るはずだ。
いや、完全に同じかと聞かれれば、それも違うだろうけれども。
何せ適合率は完全に違うから、それで反応したのかも知れない。
「違うのでおじゃる!
お主自身から新種のG・Fの反応がするでおじゃる」
なんだそれ?スコールたちも立ち止まってこちらを見ている。
「検査をするでおじゃる!
これはエルオーネ並みの不思議があるでおじゃる」
「検査って」
個人的に、あんまり病院や検査といった類は好きじゃない。
正確にはするのは好きだが、されるのは微妙である。
こう、知識欲は自分で満たしてこそ楽しいものであるからだ。
「痛くはしないのでおじゃる。
ただ魔力パターンを調べたりするでおじゃる」
「はあ。
それぐらいならいいですけど」
「さっそく行くのでおじゃる!」
俺はオダイン博士に引っ張られて何処かに連れて行かれそうになった。
同情的な目つきで見てくるスコールたちに、頑張れと手を振ると。
ただ引っ張られるのをやめて、俺は素直に着いて行くことにした。
俺がこちらに来た目的。
スコールたちが時間圧縮をする前に出会っておくことは完了した。
一目でも会っておきたい俺の自己満足は、取りあえず満たされた。
そんな風に思いながらもオダイン研究所でされるがままに検査を受けた。
採血されたり魔力検査されたりジャンクション検査されたり。
健康診断なのか検査なのかわからないまま流されて、俺は呼び出された。
「おまえの精神自体が弱いG・Fなのでおじゃる」
「精神、が?」
「そうでおじゃる。
何故かは知らないでおじゃるが、おまえには精神がないのでおじゃる」
何か凄くひどいことを言われていないだろうか。
「精神がないって……
なら今喋っている俺は一体?」
「おまえがG・Fなのでおじゃる。
人の精神自体がG・Fになるとは、これはまた面白いのでおじゃる」
あー、うん、ちょっと心当たりがあるというか。
「その上おまえからは微弱でおじゃるが。
エルオーネに似た反応もあるでおじゃる」
「エルオーネに?」
「そうでおじゃる、恐らくエルオーネに似た能力。
それによってG・Fがジャンクションしたことが原因でおじゃるな」
俺自身がG・Fで、俺が入りこんだ……。
当て嵌まる事象が、まるっとあるのだが、これはなんというか。
そう考えている俺を見て、博士はおおっと声をあげて驚いた。
「思い当たる要素があるのでおじゃるな?!
話すでおじゃる!即刻隅々まで語りつくすのでおじゃる!」
「ええと。
俺12歳の時に事故にあって、記憶喪失になってるんです。
もしかしたらそれかなと。そういって、俺は言葉を止める。
「間違いないのでおじゃる!
人間の体にジャンクションした弱いG・F!
それが身体を動かしている、これは本当に面白いのでおじゃる!」
「ってことは、俺は人間じゃないんですか?」
なんか凄いショックである。
確かに、ジャンクションが関係しているとは思っていたのだが。
俺自身がG・Fといわれると、なんというか変な感覚だった。
「身体は人間で、精神はG・Fでおじゃる。
おまえが人間かどうかは、答えるのが難しいのでおじゃるな」
「そう、ですか」
「そうでおじゃる!
また何か判ったら教えるから、少し休憩しているでおじゃる」
言われるままに俺は研究室を出て、休憩所のソファーに座る。
人間じゃないと言われるとちょっと来るものがある。
『この世界の』と限定ならともかく、人間ではないのは厳しい。
あれ?
ということは俺の精神、というか人間の精神は。
その人間に入っていない限りはG・Fみたいなものなのか。
G・Fは意識を持ったエネルギー体、所謂精霊の類である。
ただ、人間はどうなのか。身体という依り代がない人間だったら。
幽霊状態だったら、それはG・Fと同じということかも知れない。
そういえば原作の最終決戦で。
アルティミシアがG・Fに逆ジャンクションしていた記憶がある。
なんとなく、そういうものなのかと納得も出来る気がする。
しかし、それでは一つだけ納得のいかないことがある。
人の精神がG・Fであるなら、俺の適合率はどうして低いのか。
同じような事例で、適合率が高い事例を俺は知っているのだ。
G・Fを付けた人間をジャンクションする。
状況としては、ラグナさんの言う妖精さんと大きくは変わらない。
しかし、適合率では大きな差をつけられていることが推測される。
それにG・Fの俺以外になにもないとすると。
元々の“シオン・グレイル”は一体どうなってしまったのだろう。
状況的に、シオンがエルオーネに似た力を持っていたのだろうし。
……ん?
そういえば、オダイン博士が気になることを言っていた。
俺から、エルオーネに似た反応が、微弱だがする、と――――。
そう疑問を思い起こした、そのとき。
世界が揺れるのを感じた。ぐわりと、景色そのものが崩れる。
時間圧縮が始まったのだろう、遂にそのときがきたのだった。