場面がまた変わった。
大陸横断鉄道の車室だ。
今よりも少し新しいだろう車内は、凄惨な赤色で染まっていた。
“シオン”はおびえて逃げようとして、何かに足を取られて転んだ。
ああ小さな腕だ。唯でさえ短いそれは、途中でちぎれて無くなっている。
多分一桁の子どものものだろう。彼には弟分であるかもしれない。
ひっと喉から空気を洩らした“シオン”。
立ち上がることもできない、その後ろから迫る灰色のモンスター。
なんだったか、俺には名前を思い出せないような雑魚。
今の俺ならジャンクション無しでも1体ぐらいなら倒せるだろう。
スコールたちなら武器だけで10匹や20匹無傷で全滅させそうだ。
その程度の存在。その程度の雑魚。だけど彼にとっては脅威だった。
何も力を持たない“シオン”。狩られるだけの存在。
いや違った。何も力を持たないわけではなかった。
“シオン”は叫び続けた。こっちにくるな!こないでよ!
もちろん聞き届けられるような、そんなわけもなかった。
殴り飛ばされてふっ飛ばされる“シオン”。
彼は泣きながら願い続けた。
どうか安全な場所に。どうかぼくにこいつを倒す力を。
彼にとって幸運なのか不幸なのかは判らないが、彼には力があった。
彼に同化した俺にはよくわかる。彼の能力はエルオーネの劣化品。
他者を他者へジャンクションさせるエルオーネの力の似て非なるもの。
彼女の力は時間を超えて過去に飛ばすことが出来るものだった。
“シオン”の能力は違った。自分に誰かをジャンクションさせる能力。
それも時間を超えることは出来なかった。
だけどこの彼の最期の一瞬だけはそうではなかった。
同じ時間どころか、同じ世界ですらない何処か。
そんな場所から来た誰かをジャンクションして彼の身体は生き延びた。
そう。彼は死んでしまったのに、彼の身体は生き延びた。
気が付いた瞬間。
俺の意識は鮮明になった。
知覚能力はより鋭敏に、邪魔な壁がなくなったように感じる。
出来るかもと思って念じてみたら、落ちるのがとまった。
まるでG・Fのような空中浮遊。上下左右動きたいように動けた。
普段からこれなら、不自由もないのにと俺は思った。
邪魔な身体がなければ、G・Fって、俺はこうなのかな。
やっぱり俺はこの世界では人間ではなかったのだ。
それに人の身体を勝手に動かしているなんて、俺の趣味じゃない。
なあシオン。
俺、おまえに身体返してやろうと思ったんだけどさ。
おまえは死んでるから、この身体を使うことって出来ないよな。
でも俺もこの身体で生きるつもりはあんまりないんだよね。
なにせ満足しちゃったからさ。もうこれでいいかなと思ったんだ。
だけど、折角だから有効活用させてもらっていいかい?
反対は、どこからも聞こえなかった。
よし。
最期だ、行こうぜ相棒。最後の目標を果たしにさ。
俺の意識はスコールたちを追って、未来に駆けだした。
俺がたどり着いたのは廃墟だった。
砂浜で、少し先には大きな城とそれに繋がっている大きな鎖があった。
あれがアルティミシアの城か、ってことはここはイデアの家?
そんな風に首をかしげていると、物音が聞こえたので振り返った。
「また君か!」
アーヴァインである。今度はなんと頭を抱えている。
「……シオン?!
なんであなたがここにいるの?」
「いや、まて、おまえ本当にシオンか?
なんだか雰囲気っていうか、気配が変だぞ?」
「じゃあ魔女の手先みたいな?
遂に裏切ったの?」
どうやら、俺はみんなよりも先にここに来ていたらしい。
みんなが勝手なことをいうのに、俺はちょっと笑ってしまった。
「シオン、か?」
「ああ、俺だよ。
ちょっと事情があって、着いてきちゃった」
「事情?」
スコールである。そのスコールも、俺かと判別しにくいらしい。
流石に今の俺はシオンと断言するにはちょっと難しい様だ。
確かに時間圧縮で身体がない分、今の俺はシオンよりも“俺”に。
人間よりもG・Fに近いのかもしれない。
今の俺は、まさしく俺の幽霊。何せ身体もなく生きてもいない。
事情を説明するのは難しいし、折角だし見てもらおうと思う。
意識を集中させると、俺の記憶の泡が手のひらに浮かんだ。
俺はオダイン博士との会話をみんなに見てもらうことにしたのだ。
「それは?」
「俺の記憶。
折角だし、見てもらった方が早いと思って」
「……どうやっているんだ?」
ふふふ、と俺は笑って見せた。その説明ごと、見てもらう。
泡をみんなに放り投げる。
みんな泡を通り過ぎているようで、なんの驚きもなく受け入れてくれた。
少し経って、泡が消える。みんなが記憶を見終わったのだろうか。
小さく広がる沈黙に、少しだけ受け入れられない恐怖を感じ。
怖がりが全身へと至る前に、俺はわざとらしく軽い声をあげてみせる。
「ね、こういうことだよ」
「……G・Fなの?」
「うん、特に時間圧縮を受けてからは本格的にね。
今の俺なら、いつもより探索も念話も精度高いよ」
戦闘能力はいつものままだけど。
そうやって笑うと、スコールたちは複雑な表情をしてみせた。
「そんな顔しないでよ。
俺だって困ってるんだから」
「困る?」
どうして、といわんばかりのみんなに俺は苦笑してみせる。
「いや、そりゃそうでしょ。
人間じゃないって言われちゃったしね。
特に今はそれも納得行くぐらいの力がある」
「人間だ」
「違うよ」
「違わない、おまえは人間だ」
スコールが繰り返し言ってくる。
人間かもしれない、けど。
わざわざそう言ってくれるなら、こちらから否定する要素もない。
「そう、かもね。
でもここに来たのは事情があって」
「どういうことだ?」
「俺はG・Fみたいなものなんだよ。
G・Fはどっちかというと魔女よりの存在。
別に精神干渉はないみたいだから、敵に回ることはないけどね」
これは本当のことだ。
そもそもG・Fは、世界を作った魔女によって作られたものである。
だから、どっちかといわずとも人より魔女の影響を強く受ける。
「何が言いたい」
「つまり俺は下手すると帰れなくなるんだ。
魔女の力に引っ張られて、戻れなくなる可能性がちょっとだけある」
幾ら俺でも、ここに囚われてしまうのは、嫌である。
永久にここにいるのも嫌だし、何よりそれでは目標を果たせない。
だから、出来れば引っ張っていってくれる誰かと一緒にいたい。
そう、ちょっと遠慮がちに俺のお願いを言ってみる。
戦力とか裏切りだとか、色々あるから拒否されることもありうるか。
そう思っていた俺に、スコールは。
「そうか」
の一言だけいって先に進もうとしてしまう。
みんなも普通に着いて行こうとするので、むしろ俺がおどろいた。
「ちょ、ちょっと待とうよ!」
「なんだ」
スコールが無愛想に振り向く。
なんだじゃないよ。なんでそのまま受け入れようとするんだよ。
裏切りとかそういうリスクは考えたりはしないのかよ。
「いや、戦力的に邪魔だ、とか。
信用ならないとかそういったあれはないの?!」
顔を見合わせるアーヴァインたち4人。
スコールとリノアは、訳が判らないとばかりにこっちをみている。
「いや、だって、ねぇ?」
「両方とも今更な気がするよな」
「ホントだよね」
「戦力も信じられないのも、そういう段階じゃないわよね」
先から順に、アーヴァイン、ゼル、セルフィ、キスティス。
なんか凄い言われ方をされている。いやいや、みんな酷くない?
今までの俺の行動がアレ過ぎるのか。そんなことは、どうだろう。
「ちょっと!
なんだよその言い方は!」
「いや、だって完璧に今更だよ~?」
「君たちは俺を信用してなかったの?!」
「判ってなかったの?!」
酷い。
ショックを受ける俺に、更に顔を見合わせるみんな。
いや、何を不思議そうにみたいな顔をされても本当に困る。
「あれだけ怪しいのに?」
「自覚なかったんだ……」
「いつ裏切るか冷や冷やしてたのに」
「むしろG・Fだったと聞いて一安心だよ」
だってその方が、今までの行動に納得がいくしねー。
そんなことを真顔で言われては、流石の俺にも立場というものが。
気を取り直して、俺はまだ悲劇の主人公ムーブをする。
「……それに、俺、人間じゃないし」
「人間だ」
「私も魔女だよ?」
「2人とも人間だ」
なんかスコールたちが遠まわしにいちゃついている。
あ、なんかちょっとだけ苛ついてきた。
こう、もうちょっとでいいから俺に気を使って欲しい。全員。
「……着いて行ってもいいの?」
「最初からそう言っている」
「裏切るかもよ?」
「問題ない」
「足手まといだよ?」
「探索で働け」
「本当に、いいの?」
「時間がもったいないだろう」
なんか、スコールは本当にどうでもよさげである。
なんだよ、俺が緊張してお願いしているというのにみんな冷たい。
まあいいのなら、いいか。これも俺への信頼ということだろう。
「……よろしくね」
「ああ」
スコールがそっぽを向きながら返事をした。