雨にも種を。(リライト版)   作:re=tdwa

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最終話

 

 

アルティミシア城は仕掛けでいっぱいの遊園地である。

 

Seedの使う戦闘技能に対してそれぞれ封印が掛っており。

封印を守る護衛獣を倒さないと、その能力が使えない。

それぞれ仕掛けの中に隠れていて、倒すには仕掛けを解く必要がある。

 

だが、今の俺には仕掛けなんてものの数ではなかった。

記憶の中からゲームの記憶を見られるし、そもそも探索で十分だ。

今の強化された通信能力ならどこからでも一方的に通信できる。

 

戦闘能力に特化した前線のみんなに護衛されながら誘導していく。

 

スコール、リノア、ゼルの班。

アーヴァイン、セルフィ、キスティス、俺の2班に分かれて突入。

まずはホールのアンドロ・スフィンクスをスコール隊で撃破。

 

続けてスコール隊にそのまま進んでもらいシャンデリアを落下させる。

 

雷耐性をジャンクションしてもらい、トライエッジを撃破。

レバーを抑え、シャンデリアの先のコキュートスをセルフィ班で倒す。

その間俺は入り口で隠れていることにした。戦えはしないからね。

 

セルフィ班に俺を回収してもらい、スコール班とともに奥に進む。

大広間の奥、中庭の噴水で宝物庫のカギを手に入れ、スコール班が進む。

4つの棺を調べ、その先にいたカトブレパスを撃破する。

 

スコール班に続けてホール右側の画廊に行ってもらう。

大きな絵のタイトルは「庭園に眠る使者」が答え、戦闘が始まる。

ドルメン・アリニュメンを撃破。残るはあと3体。

 

セルフィ班で武器庫のカギを回収し、水門に向かう。

武器庫・牢獄でガルガンチュアとウルフラマイターを撃破する。

俺はその間スコール班と一緒にいた。

 

全員で中庭に戻り、時計塔を登る。

途中の振り子の先に敵がいることを伝え、セルフィ班に行ってもらう。

炎耐性ジャンクションで安全にティアマトを蹴散らした。

 

全ての護衛獣を撃破し、アルティミシアの居室へとたどり着いた。

俺は力不足であることと、意識を取られる可能性。

ドローされてG・Fにされる可能性を考慮して外で待つことにした。

 

俺の手の届かない戦いが、部屋の中で行われているのが判る。

時空が少しずれているだろうか、部屋の中の音は聞こえてこない。

どれだけの規模の戦いをしようと、外には影響が出てこなかった。

 

だけど俺はスコールたちを信頼してる

負けるとか、そんなのが似合う彼らじゃない。そんなのあり得ない。

 

ただもしも、もしも中から戦いの気配が消えたとか。

そんな時だけ、フェニックスの尾を持って中へと突撃しよう。

そうすればきっとまたみんな戦えるようになるから。

 

でも。そんなことは必要がなかったらしい。

やがて、世界は白に包まれ、アルティミシア城は崩壊を始める。

時間圧縮の逆戻し、時間の再展開である。俺たちは勝ったのだ。

 

また溶けてしまった時間の中。

みんなが元の場所に、元の時間に必死に帰ろうとしていた。

鋭敏になった俺の感覚は、意識をするだけでみることが出来た。

 

そしてスコールだけが場所を気づけていない。

スコールが帰りたかった場所。求め続けていた場所。

スコールが足踏みを続けていた、あの時にいってしまった。

 

世界で最高の素質を持った最高の魔女イデア。

 

最期の魔女はイデアに力を継承するためにあの場所に現れた。

そしてスコールによってママ先生はseedを知り、ガーデンを知る。

悲劇の運命はその時に始まり、魔女の運命はここに終わる。

 

そしてスコールは帰り始めた。

みんなを呼んで、走り始めた。

どこに行けばいいのかを、始めて人に問いかけた。

 

俺はみんなに呼び掛けた。

 

みんな、聞こえていますか?

スコールがどこに行けばいいのかを迷っています。

どうか、みんなで呼び掛けてあげて欲しいんだ。

 

そしてリノア。

この世界において、君の力は唯一の目印になる。

俺に少しの時間だけでいいから貸してくれないか?

 

みんなが行くべき場所へ。

スコールが向かう場所を指し示すことが出来るのは俺だけだから。

だから、今ひと時だけその力を。俺の目的を達成する為に。

 

「聞こえてるよっ!

 スコールを呼べばいいんだねっ!」

 

セルフィのうれしそうな声が聞こえる。

 

「任せろよ!

 声のでかさには自信あるぜ!」

 

ゼルの声が大きく響き渡る。

 

「どの方向にいるのかしら?

 せめて方向が判ればいいんだけど」

 

キスティスの疑問が凛と響いた。

 

「う~ん。

 場所とかがある場所じゃないよね~?」

 

アーヴァインの声がそれにこたえる。

 

「私の力がみんなの目印になるのならっ!

 シオン!

 みんなを、スコールを助けてあげて!」

 

そして、リノアの声が聞こえた。

 

……ああ。

俺はこんないい人たちを置いて行こうとしてるのか。

でも、きっとこれが一番いいはずだ。

 

俺はもう、あの身体に戻って生きて行くつもりなんてないから。

 

身体に流れてくる魔女の力。

圧倒的な量の情報に、俺は消えてしまいそうになる。

だけど、今はちょっとだけ我慢する。後少しで終わるから。

 

みんなの居るべき時間に光を作る。どこに居たって見える光を。

 

「スコール。見えている?」

「……おまえは誰だ?」

 

G・Fの記憶障害ってやつ?

こんなときに起こるなんて、本当に間が悪いよね。まあいいよ。

君の帰る場所はあの光の場所。見えてる?

 

「光?」

 

見えてないの?

 

「言われれば、見える気がする」

 

そっちだよ。きっとみんなの呼ぶ声も聞こえてくるから。

 

「みんな?」

 

もう、そこからなの?いいから走って行きなさい。

 

「わかった」

 

素直でよろしい。

俺は立ち止まってスコールたちの後ろ姿を見つめる。

ああ、みんなの声が聞こえたみたいだ。

 

不思議そうな顔をしていたスコールも段々スピードが上がる。

既に光の下にはスコール以外の全員が集まっていた。

このまま時間圧縮が終われば、きっと無事に帰れるのだろう。

 

魔女の力で、もう終わりかけた時間圧縮をもう少しだけ引き延ばす。

そうして俺は俺の行くべき場所に飛ぶ。この中に居る魔女は俺だけだ。

だからなのか俺の目的地、時間のひずみには直ぐにたどり着いた。

 

俺はこのまま消え、魔女の力を世界から亡くそうと考えていた。

 

シオンは身体にもどることは出来ず。

俺はあの身体で生き続けるつもりはない。

それならば、魔女とともにここで消えてしまうのが一番だと思ったのだ。

 

その為にアルティミシア城へと向かい、みんなの手助けをしたのだ。

この時間圧縮の中で、リノアから魔女の力を継承するその為に。

そして声に導かれたスコールが光にたどり着く。再開を喜び合う。

 

光の元で、俺が居ないことにみんなはすぐ気付いた。

 

「ねえ、どうしてシオンは居ないの?」

「そうだよ!

 どこに行っちゃったの?」

「今更迷うなんてことはねえよなぁ?」

 

ああ、どうか気づかれずに消えてしまえたらよかったのに。

 

「ねぇ、シオン?

 どこに行っちゃったのよ」

「さっさと帰ってパーティしようよ~」

「……まさかっ!」

 

スコールが何かに気づいてしまったみたいだ。

だとしても、ここは俺の世界に近い。

気づかれたとしても、スコールたちにはもう何も出来ないはず。

 

「魔女の力に引きずられたんじゃないか?!」

「そんなこと!

 さっきは普通に通信までしていたのよ?!」

「私だって魔女の力貸しちゃったんだから!」

 

スコールたちが勘違いをしてくれている。

俺は俺の意思で消えようとしているのだ。

悲しんでくれることは嬉しいが、引きずらないでほしいなぁ。

 

そう思って俺はさっさと時間圧縮を終わらせようとした。

少しずつ、少しずつ。端っこから順番に世界は元の形に戻っていく。

彼らの世界へ繋がるように、元の流れに戻りますように、と。

 

「―――時間圧縮がっ!」

「ねえシオンは?

 シオンはどうなっちゃうの!」

「おい、帰って来いって!

 一人だけ居ないとかそんなの嫌だぜ!」

「そうだよ!

 君が居ないとガーデンがどうしようもなくなっちゃうよ!」

「聞こえているんでしょう答えなさい!

 シオン・グレイル?!」

「シオン!

 答えてくれ!」

 

アーヴァインが。リノアが。ゼルが。

セルフィが。キスティスが。スコールが、俺の名前を呼び続ける。

戻って来いと、その声を叫ぶようにして張り上げる。

 

元の形に戻り始めた時間。それとともに形が出来てくる風景。

俺は集中してみんなの姿を記憶にとどめる。

たとえ消えるとしても、天国にまで持っていけるかもしれないから。

 

風景とともに、みんなの姿が消えて行く。

元の世界にだんだん戻って行っているのだと、今の俺には判った。

もう直ぐだ。もう直ぐこの時空の歪みの中に俺は閉じ込められる。

 

最初はアーヴァインが。続いてゼルが。

キスティスが。セルフィが。

そして、リノアが消えようとするとき、リノアは叫んだ。

 

「スコール!

 もう少しだけ、もう少しだけ時間をあげる!

 だから、シオンを!」

「リノア!」

 

リノアは消えた。

彼女には、少しだけ魔女の力の片鱗が残っていたのだろうか。

それと同時にスコールの姿が戻る。俺の心はまだ続く。

 

白い世界の中でたった一人になったスコールが叫ぶ。

 

「シオン!

 聞こえているんだろう、シオン?!」

 

どうしてみんなそんなに俺が聞こえてることを前提で話すのかな?

 

「おまえが人間でないとか、そんなことはどうでもいい!

 俺はお前が居てくれないと困るんだ!」

 

スコールが今まで見たこともないような顔で。

聞いたこともないような音量で叫んでいる。

 

「俺は、おまえにいろんなことを教えてもらった。

 俺はシオンに沢山のことをしてもらった。

 沢山の借りがあるんだ、まだ居なくなって欲しくない!」

 

そういえば、俺がseedになると決めたのはスコールの為だったっけ。

あの時は可哀想な男の子に見えたけど、今は君の方が年上に見えるね。

身体は同い年だし、精神は年上のはずだけど。大きくなったよね。

 

「お願いだ!戻ってきてくれよ、シオン!

 なんで居なくなっちゃうんだよ?!」

 

今のスコールは子どものように見えた。

きっとエルオーネが居なくなった時も同じように叫んだのだろうな。

子どものように、置いていかれたと泣いて悲しがったのだろう。

 

「なあ!

 本当にお願いだよ!

 おまえにはまだまだ教えてもらいたいことがあるんだ!

 俺一人じゃ何も判らない。

 俺一人じゃ何も決められない。

 俺は一人では生きていけないんだ!」

 

スコールにはリノアがいるし、他のみんなもいるだろう?

みんなを頼ればいいんだよ、君は立派に世界を救えたはずなんだ。

ほら、君の姿がまた薄れてきている。もう時間切れだよ。

 

俺にとっても、君にとっても。

 

「おまえも!

 おまえも俺をおいていくのか!

 俺を置き去りにして何処かにいってしまうのか!」

 

ああ。

そういえば俺は、スコールが一番嫌うことをしようとしているのか。

最初はレインに。そしてエルオーネに。イデアに。リノアに。

大切な人たちに。スコールは置いて行かれ続けているんだった。

 

どうしよう。

俺はスコールを悲しませるつもりなんてなかったんだけど。

ちょっと旅に出るぐらいで、トラウマを刺激するつもりはなかった。

 

これは、困ったな。俺もスコールを悲しませたいとは思わない。

スコールを置き去りにするつもりなんてなかったのに。

いっそ、俺の記憶だけを消してしまっていかせるべきだろうか。

 

ついにスコールは消えてしまった。俺に残された時間も少ない。

ああ、このままスコールを置き去りにしちゃうのか?

それとも魔女の力ごと元の世界に戻るのか?それは出来ない相談だ。

 

―――手伝ってあげようか。

 

え、と何処からか掛けられた声に辺りを見渡す。

勿論何もいなかった。居るはずがない。もうここは俺だけのはず。

今この世界に居られる存在なんて、殆どいないはずなのだ。

 

―――ね、帰りたいんでしょ?

 

やっぱり声がする。

本当に魔女の力の影響がG・Fの俺に出てきたのか?

そんなことはない。俺には、俺には一つだけ心当たりがあった。

 

―――ぼくがもって行ってあげてもいいよ。

 

ああ。どうしようこの声。

高くて、小さな少年みたいな声。

俺はこの声に聞き覚えがあった。

 

―――楽しかったから、そのお礼だよ。

 

その声と同時に俺は弾き飛ばされた。

俺が作り上げたはずの光に向かって凄いスピードで飛んでいる。

必死になって振り返ると、そこには12歳ほどの茶髪の少年がいた。

 

俺に向かって手を振っている。俺はその手に振り返す。

 

―――バイバイ、おにいちゃん。

 

ああ。

悪いな。

俺おまえの身体、もらっちゃうよ。おまえの人生貰っちゃうよ。

 

―――大丈夫。

―――ぼくもおにいちゃんの家族、もらうから。

 

そうか。あんなんで良ければもらってやってくれ。

意外といい人たちばっかりで、自慢の家族だったんだ。

魔女の力を持ったおまえが入るなら、事故にあった俺も助かるだろう。

 

どうか、よろしくしてやってくれ。

 

―――任せて

 

そして俺は光の中に吸い込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付いたら、俺はラグナロクのブリッジに居た。

始めて乗るけど、記憶の中でみたことあったし。

なによりスコールたちも全員揃っていたから、一目で判った。

 

ああ、みんながすっごく驚いた顔をしている。

俺も驚いているよ。

助かるなんて、またみんなに会えるだなんて思っていなかったから。

 

まあ、いいや。

みんなが声にならないようなので、俺が先に言わせてもらおうかな。

俺はコホンと、喉の調子を確認すると、最後の一言を呟いた。

 

「みんな、遅くなったけど―――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただいま。

 

 


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