不思議な子だ、とキスティス・トゥリープは考えていた。
評価だけなら一点を除いて最優秀。
始めて受け持った生徒の一人、シオン・グレイルはそう評価される。
彼は今、Seed実地試験の会場、ドールに向かう高速艇に同乗していた。
彼は、非常に地味な生徒だった。
普通Seedになるほどの実力者なら、目立つ要素を持ち合わせている。
それは、ある種の功名心というか、目立ちたがりなのかもしれない。
しかし、シオン・グレイルにはそういった要素がなかった。
むしろ地味としか表現しようのない顔立ちと小柄な体型。
seed試験の資格を持っていることすら、私にも疑問に思えてしまう。
地味で大人しい少年。それが彼の外見から受ける印象である。
だがそれは彼の能力をあらわすものではなかった。
魔術・G・Fに関する卓越した技能。
戦術論、補給論、情報論、戦場指揮、その他多岐に渡る技能保持者。
彼の資格と成績だけを見るならば。
最年少でseedになり最年少で教員になった私と、大きくは変らない。
なるほど、魔術師と渾名されるだけはある生徒だと思う。
だが彼はseedにはならないだろうといわれていた。
彼には欠点がある。
ジャンクションの身体能力強化の恩恵を、殆ど受けることが出来ない。
そのために、単純な意味での戦闘への適性がない。
seedの存在価値であるジャンクションは非常に強力な武器だ。
若造に過ぎない私たちが戦場で本職の兵士を圧倒することを可能にする。
彼にはそれが使えない。
それは非常に大きな欠点だ。
Seedとは、少数先鋭にして戦場を荒らしまわるもの。
どれだけ他の能力に優れていたとしても、彼では本質を満たせない。
それでも彼はここにいる。
seed試験を受けるのに必須の単位は取得済み。
筆記試験は余裕の合格、事前課題も方法はともあれ条件は満たしていた。
しかし、これから受ける実地試験は近接戦闘も含んだものである。
ドール市街地の奪還。
それと現職のseedが戦う間の後方維持を行うことが主な任務となる。
彼がどうやって点数を稼ごうとするのか。
どんな魔術を使って、彼はSeedになってみせるのか。
そのことは、ガーデンの人間の注目を少なからず集めていた。
とはいうものの、それは私が彼を特別な人間と思う理由ではない。
私にとっての彼はその特異な才能の持ち主ではなく。
むしろ、彼の交友関係に特異性を見出していたのだ。
彼の交友関係はそんなに広いものではない。
初等部におけるクラスメイトの内、彼に似たような大人しい男の子たち。
それと同じ専門授業を受ける人と若干の交流があるくらいだ。
別に誰とも接点がないというわけでもなければ。
特定の誰かと特記すべき程の深い仲というわけでもない。
しかし彼の側からではなく、別の生徒から考えるとそれは注目に値する。
スコール・レオンハート。シオンと同じく私の受け持った生徒である。
戦闘能力において並みのSeedを圧倒する近接戦闘技能を所持する彼。
今回の試験に参加し、そして間違いなく合格するだろうと期待されていた。
彼は非常に優秀な生徒だ。
戦闘指揮官として必要十分の知識と高い戦闘技術を持っている。
合格すれば、間違いなく最強の一角となるSeedとなるだろう。
その外見も、華やかではないが特異のものだ。
長身で鋭い眼差しをして、人を引き寄せない雰囲気。
それを持ち合わせた彼は、能力も合わせて孤高の存在とされていた。
私は学生だった頃から1つ下の優等生だった彼の噂を聞いていた。
何しろ彼は目立つ存在だったから、噂は広範囲に広まっていたのだ。
このガーデンでは、優秀である人間はすぐに評判になる。
その噂の中には彼の交友関係も含まれていた。
私が初等部を卒業し専門部に入った頃。
人を引き寄せなかった彼が気を許す存在が現れたという噂が流れた。
興味が湧いてそれが誰かというのを人伝いに調べてみた。
直ぐに答えは出た。相手もまた、名の知られた人間だったからだ。
当時の私は、魔術師としての評判しか知らなかったが。
どうやらその彼と仲良くしているらしかった。
聞けば、ちょっとした諍いを魔術師が解決したというのだ。
いいことではないか、と。
スコールに縁があるわけではなかったが、何故だか安心をした。
親しくする相手が出来たなら、彼も少しは心が安らぐだろう、と。
その年に私はSeedになった。
幾つかの任務を受ける中で、実戦に向いていないということが判った。
ならばと受けた教員試験に合格し、初めて受け持った授業にスコールはいた。
無愛想な少年だった。無口で鋭い視線を教壇で語る私に向けてくる。
何か問題があるのか、つまらない授業だと思っているのか?
それとも、まさか理解が出来ない箇所があるとか?
そう思って彼に質問を投げかけるとあっさり答えが帰ってくる。
優等生という噂が本当であることを確認しただけだった。
授業をした期間で確認出来たのは二つのこと。
その無愛想が、彼にとっての普通ということ。
彼は孤高の人ではなく、人と関わるのが苦手ということだった。
そして今年。
私が担当教員として指導することになった8人の中に彼らはいた。
授業と同じように無愛想なスコールと、隣に座る小柄な少年。
最初はただ偶然隣に座っているのかと思ったが。
地味な少年の名前を確認したとき、彼が噂の魔術師であることを知った。
あの地味な少年が、まさかスコールと仲がいい?
どうも想像が出来ないままに、最初の顔合わせを終えると。
シオンが、スコールに話しかけているのを見て驚いた。
あの無愛想なスコールと会話を成り立たせる相手がいるだなんて!
スコールはシオンの話に返事をするぐらいだったが、その表情だ。
嫌がって面倒な素振りは見せず、あまつさえ微笑むかのように振舞う。
あの子はスコールにとって特別なのだ。
それが当然の事実であると周りの生徒は驚いていたりはしなかった。
その時から私にとってシオン・グレイルは不思議な存在になった。