seed試験、認定パーティがあった次の日の朝。
俺は任務に就くようにと、早朝から呼び出しが掛った。
それも制服ではなく、私服で来るようにとの指示である。
制服ではないということは、潜入任務か、それとも。
さてはてと思いながらも、動きやすい服に着替えていく。
それこそ、この世界に来る前に着ていたような服である。
元より、潜入任務の類は割りと得意なつもりである。
何せ、他の人に比べると、全然目立たない類の見た目であるのだ。
人並みの顔に人並みの背丈。嘘言った、若干低い背丈だ。
この世界は、全体的に男性の身長が高いというか。
日本の平均よりも多分、数センチは平均が高いのではないか。
数センチで済めばいいぐらいにでかいサイファーとかいるし。
なんだよもう、とよく判らない恨みを抱きながら私服に着替え。
バトルロッドとブレスレットを付けて集合場所の学園前に向かう。
すると、そこにはスコールとゼル、セルフィの3人がいた。
もしやと思って聞いてみると、任務があって呼び出されたらしい。
ということは、俺はこのまま本編の流れに入っていくのだろうか。
ありえないとは思ってなかったが、実際そうなると驚きもする。
森のフクロウの依頼は、それ程高額で引き受けてないはず。
安い依頼料の任務で、新人3人だけだろうと思っていたのだが。
どうやらそうでもないらしいのは、この面子を見れば判る。
俺の予定は、ガーデンで出来ることをしていくだった。
まあ、予定とは違っても、付いていけるのならそれも悪くない。
出来ることは、きっとそれなりに沢山あると踏んでいる。
依頼人の暴走の抑止や逃走経路の確保。
付いていくことによって、被害を減らせる可能性がある。
特にミサイルの発射を防止できる可能性があることは大きい。
ただ、微妙に納得がいかないのは、学園長である。
学園長が俺をこのメンバーに入れるのは、少し考えにくい。
このメンバーはイデアの家の子どもたちを集めたパーティなのだ。
俺を含めることに何の意味があるのか、疑問である。
まさか何か役割があるのだろうか、なんて考えにも行き着き。
そんな風にただ考えていると、いつの間にか学園長が来ていた。
そして、学園長からの任務の説明が行われた。
ティンバーに行き、ある組織のサポートをすること。
組織構成員に連絡を取り、それ以降は組織の指示に従うこと。
スコールが班長を務め、残りはそのサポートをすること。
「あの……それだけですか?」
「それだけ、とは?」
静かに聞いていた俺から出た質問に、首を傾げて答える学園長。
これでわざとじゃなかったら凄いあれなんだけれども。
しかし、取りあえず依頼の詳細は確認しておきたい所だ。
もし、俺が思っているのと違えば、余りにも肩透かしである。
ある意味、その方が世界は平和なままなのかもしれないけども。
とにかく、俺は聞きたいことをそのまま口にして問いかける。
「任務期間や依頼者の詳細、任務内容は?」
「依頼者に直接聞いてください」
は?冗談でしょ。俺は耳を疑った。
「なぜですか?」
「私が言う必要がありますか?」
「あります」
学園長は何一つ表情を変えずに視線だけこちらに向けてくる。
「任務期間、内容が判らなければ適切な装備が用意できません」
「ティンバーに行ってからでいいでしょう」
「ティンバーはガルバディアの占領下にあります」
「裏市場との交渉は学んでいるはずですが?」
なんだこの人。
態とやってるんだよね?流石に本気の訳はないだろうし。
だとしても、意図が全く掴めない。何が目的なんだろうか。
「わざわざ裏で交渉せずにすむならその方がいいはずです」
「占領下に火器を持ちこむのは無理ですよ」
むっ。確かにそれはそうなんだけども。
潜入任務なら潜入任務とはっきりいって欲しいだけなんだが。
思わず、食い下がる。絶対に何か意図があるはずである。
「それは依頼者によっては、協力を受けてなら出来ます」
「依頼者の手を煩わせるのですか?」
「任務内容によっては当然の帰結では?」
「依頼者はSeedを望んでいます。兵士を望んでいません」
この場合のSeedは、万能の先鋭集団、という意味、だよねぇ。
わざわざ兵士を望んでないって言うことは。
色々考えて、自分たちで行動してきてくださいってこと?
……ちゃうか。ちゃうな。
これそこまで意味ないわ。ただ“次”のは失敗してもいいだけで。
むしろ、失敗した方が展開としては都合がいいってだけだ。
これが、森のフクロウの依頼だとしたら目標は大統領の暗殺。
でも大統領自体は操られてるだけで、それ程価値はない。
本命は、カーウェイ大佐が依頼した魔女イデア討伐なんだから。
大統領の暗殺に成功したら、魔女は別のターゲットを見つける。
その中でも、カーウェイ大佐は名前が上がってくる人だろう。
軍部の実力者で、そこそこ以上に人望を集めている人なのだ。
失敗させることが前提ならば。当然俺たちは逃げ出す訳である。
そこで伝令を出して、新たな任務を与えてってところか。
現在の時点では情報を与えたくはないと判断した方がいいのかな。
「seedは工作員ではありません」
「出来るように訓練を受けてきたのでは?」
「万全を期すように訓練してきたのでは?」
やっぱり、何があっても喋る気がないようだ。
俺としては、表面上だけの言い合いではあるのだが。
ゼルとセルフィがそわそわしているのがちょっと申し訳なくなる。
「あの、シオン?」
「学園長もおっしゃってくれてもいいじゃないですか」
と思った矢先に。
セルフィとゼルが耐えきれなくなったのか口を挟んできた。
二人に言われたからか、学園長は微妙な顔をして口を開いた。
「……いいでしょう。
依頼者はティンバー解放組織『森のフクロウ』。
依頼はティンバーの解放。期間は解放されるまで」
「長すぎます」
「ある程度の判断を許可します」
やっぱりその任務か。
ってことは、失敗前提ってことで進めた方がいいんだよなぁ。
あんまり、そういうの得意ではないんだけども。
「任務の打ち切り等はこっちで判断しても?」
「それには答えかねますが、依頼者が居なくなれば依頼は終了しますね」
「……成程」
思っていた以上にやっかいな人であるというか。
いざとなったら依頼者の放置は別に構わないということか。
ま、流石にそういうつもりは一切ないが。酷すぎるし。
依頼者はヒロインこと、リノア・ハーティリー。
ガルバディア軍大佐。フューリー・カーウェイの一人娘である。
ガルバディアは現在開発独裁をつづけており。
大統領ビンザー・デリングによる軍事政治が行われている。
その中でカーウェイ大佐は軍の最高の権力を握った人物である。
大事のためには、というつもりもないだろうけども。
学園長の中ではリノアのことはそれ程重要ではないのだろう。
精々、途中で逃げさせればいいぐらいにしか思ってないのでは。
ところがどっこい、彼女はバリバリのヒロインなのである。
最後まで、リノア・ハーティリーは戦い続けるわけで。
途中で投げ出すだろうという学園長の想定は間違いなんだけども。
それを今の俺が知っているのは、まあ、おかしいわけで。
「もういいでしょう。
あまり遅くなっては依頼者に迷惑が掛ります」
「そう、ですね」
「スコール、指揮をお願いします」
「判りました。学園長」
頷いたスコールに、学園長は両手で握手をしながら言った。
「あなたたちが無事に戻ってくることを期待していますよ」
学園長は内心を全く感じさせない微笑みで、俺たちを見送った。