dog days not勇者   作:鮪瓜

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第13話

未練

 

ノワとあんな話をしたせいで俺は久しぶりに昔の夢を見た。それは俺がフロニャルドへ訪れる前の1年間、たぶん俺が人を信じようとはっきり考え始めた出来事であり、今思い返せばシンク、七海、レベッカ以外の初めての友人が出来た出来事でもある。

 

そしてその出来事が俺の一番の未練。

 

*

 

その出来事の始まりは高校生活の始まり、高校1年生になって1ヶ月、いつも通りに登校すると俺の下駄箱に1通の手紙が入っていた。色はオレンジ、花の絵も少し書かれていた。

 

(なんだこれ?)

 

今思い返せば完全にそれはラブレターだったのだがその時の俺は変に面倒くさい内容の本と父さんの趣味のバトル漫画しか読んでおらず、それの意味をあまり理解出来なかった。

 

そんな理解も出来ていない俺だったからその手紙をすぐに開けて中の内容を見た。そこには女の子特有(偏見かもしれんが)の丸っこい字で"放課後、伝えたいことがあります。体育館裏まで来てください"と書かれていた。

 

俺はその手紙を便箋にしまい、何も無かったかの様に再び歩き出した。特に興味がなかったんだ。いつも通り、黙って教室に入り自分の席まで、座ってからはずっと本を読んでいた。

 

そういつも通り、授業中も先生の話を全く聞かずに自分のやりたいことをやって先生に当てられたなら即答する。休み時間は誰とも喋らず1人ただ黙々と本を読み続ける。ぼっちではない。

 

そうして放課後、俺は手紙に書かれていた通りに体育館裏まで来た。いちおう言うとおりにするあたり俺は結構周りを気にしているのかもな。

そうしてしばらく経ったのち、少しウェーブがかかったロングの髪を携えた少女が体育館裏に来た。正直この時、放課後と書かれていたが時間は書かれてなかったから放課後の定義は何なのか、考えてたんだよな。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「えっと、いきなりすいません。でも言いたいことがあって・・・・・・」

 

言いたいこと?と俺は聞き返したはずだ。相手は初対面、名前も知らない、そんな相手からの言いたいことに俺はかなり警戒心をもった。

 

「・・・・・・・・・・・・あなたが好きです」

 

少女は顔を赤らめながら言った。神様は少女に味方したいのか柔らかい風を演出した。そして俺は

 

「それだけか?それじゃ俺帰るな」

 

と無表情で無関心で少女に言った。少女はそれを聞いてポカーンとしていた。もっというとそれを見に来ていた後ろの野次馬共もポカーンとしていた。俺は少女を気にせずきびかえそうとするが少女に「待ってください!」と言われて止まる。

 

「あ、あの!それだけですか?」

 

「は?それだけって、あんたこそさっきのだけだろ?」

 

「いえ、私はそれの返事を訊きたいんですが・・・・・・」

 

何を言ってやがんだこの女は、俺は少女を軽く睨みながら思った。だってそうだろう、いきなり体育館裏に呼ばれて、なんだと思えば好きですの一言、しかもその返事を聞きたい、意味が分からない。少なくともその時の俺は思った。

 

でもその時の俺は返事をちゃんと考えた。そして「嫌いだ」と答えた。

 

「な、なんで?」

 

「人間だから。そして初対面の人間を好きと言ったから」

 

人間だから、という理由はこの頃、俺は誰も信用出来ず、本気で人間が嫌いだったからだ。誰とも結婚する気もなかったし。まぁ、動物は大好きだったが。

 

そして初対面の人間を好きと言ったから、という理由は、というかそれで疑わない人間はいないだろう。そんな胡散臭い人間は嫌いだ。

 

「てなわけで俺は帰るぞ」

 

次こそきびかえして俺はその場から去っていった。たぶん少女は固まったままだっただろう。

 

*

 

そのラブレターの件があってから数ヶ月が問題なく進んだ。この場合の問題ないというのはそれから一切誰も俺に関わらなくなったということだ。告白してきた少女もそれから会っていなかった。

 

そうして10月、体育祭(真面目にやればよかったという未練がある)も終わり、文化祭までの間にある期末テストから2週間前になった。別に俺は勉強しなくても点がとれるので何も変わらず自分の読みたい本を読んでいた。その放課後、学校に残ってきりがいいところまでと本を読んでいた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

どこかで憶えがある感じがする。もちろん、その時の俺ではなく、今の俺に。

 

「・・・・・・・・・・・・ん!」

 

この時点では気がつかない。

 

「すいません!」

 

「ん?なんだ?」

 

ここでやっと気がついた。本から顔をあげるとそこには告白してきた少女が立っていた。そして「どうして無視するんですか?」と訊いてきたので、本に集中してると周りの声が聞こえないんだ、と少女は「そうなの?あ、ごめん」と言ってくれた。

 

「それで、なんだ?」

 

「べ、勉強、教えてください」

 

「なんでいきなり、てかなんで俺だよ。お友達いんだろ、そいつらに教えてもらえよ」

 

「あなた、頭いいから・・・・・・それにみんな私に勉強を教える暇なんてないよ」

 

「俺もない」

 

そう切り捨てて本をしまい、かばんを持って俺は教室を出ていこうとする。だが先回りされて扉を閉められた。

 

「・・・・・・・・・・・・私、次のテストで点をとらないとみんなと遊べなくなっちゃうの」

 

「なら遊ばなければいい。それにお前に勉強を教えないってことはそいつらはお前とさして遊びたくないんだろうな」

 

ひどく安直に率直に俺は言った。少女はそれを聞いて唖然とした。

 

「もっと言うと俺はお前と遊びたくない。だから俺にも勉強を教える義理はない」

 

「な、なに!?嘘の告白したの、まだ怒ってるの!?」

 

それは俺からしたらとても突拍子がなく意味が分からなかった。今は勉強の話をしていたはずなのにいきなり告白という言葉が出てきたのだから。

 

「・・・・・・・・・・・・えっと、お前誰だ?初対面だろ?」

 

「はぁ?5月の頃に体育館裏に呼んだでしょ?」

 

「あ、ああ。そういえばあった様な気がする様な・・・・・・・・・・・・」

 

そういえばなんか色々と会話した気がするな。ああ、思い出した。と今より現実に興味がなく全然エピソード記憶が働いてなかった俺は頭から引き出すのに数分かかった。

 

「なら、お前が嫌いだから、帰るわ」

 

「ちょ、ちょっと待って!あれは嘘で、私も初対面の人間を好きなんて言わないわ」

 

「なら嘘ついたお前が嫌いだ、帰る」

 

「ああ!ああ言えばこう、こう言えばああ。あなた性格悪いわね、そんなんだから友達出来ないのね」

 

少女も頼みごとのことなんて忘れたのか、言い争いを始めだした。だが俺はそんなことで熱くなるような心は持っていないので冷たい目で「友達なんていらないよ」と言った。

 

「人間なんて誰も信じれないだろ、みんなすぐに裏切り、騙す。利用して価値がなくなれば捨てられる。結局お前もそうだろ、そいつらにとって利益がなくなったからお前切り捨てられた」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

少女も思い当たる節があるらしく、黙ってしまった。

 

「何か他に言いたいことはあるか?」

 

俺はそれだけ言って少女をどけて教室を後にした。

 

*

 

少女と話した放課後から1日経っても俺は何も変わらず1人席について本を読んでいた。少女の様子は気にならない。どうでもいいからだ。

そうして時は過ぎていきある日の放課後、学校に出る前に教室に本を忘れたことを思い出して、俺は教室に取りに戻った。すると教室にはまだ数人の生徒が残っていた。すぐに入ってもよかったのだが男が言った言葉で扉を開けようとする手をとめた。

 

「最近あいつ付き合いわるいよな~」

 

「美保だろ?だよな~」

 

美保というのは誰だろうか?そう考えていたのだが心のどこかでは誰だか分かっていた。

 

「本当よね~カラオケとかみんなで行きたいのにね~」

 

「だね~」

 

話している内容から推測出来るのは2通り。

 

まずこいつらが美保という子を本当に大切だと思い一緒にカラオケに行きたがっているパターン。

 

もう1通りは、言い方悪く言うなら美保という子がサイフのパターン。

 

おそらく、いや、確実に後者だろう。もし前者なら誰かが勉強を教えているだろう。やっぱり人間というのはこういう生き物だ。人間を利用して利益がなくなれば切り捨てる。

 

俺はそこから少し話を立ち聞きした後、扉を開けた。中にいたのは5人、全員が突然扉が開いたことにギョッとしていた。だが俺はそれを無視して自分の席の引き出しから本を取り出してすぐに教室から出てこうとした。だが扉のところにはあの少女がいた。

 

「あ、どうしたの、美保?」

 

「あ、うん。図書室で勉強してたんだけど忘れ物あって」

 

少女、美保でもういいだろう。美保は自分の席まで行って引き出しからノートを取り出してパタパタと出ていった。

 

さっきの会話は聞いていなかっただろう。だがあいつはもしかしたらこいつらがここに残って喋っていた内容が想像出来たのかもしれない。

 

まぁ、俺には関係がない。俺は思って教室を出た。すると美保は廊下に突っ立ていた。俺はそれをすり抜けるように歩き出した。

 

「待って!」

 

だが美保が叫んだことにより歩みを止めた。

 

「あの、べ、勉強教えてください

「お前、まだあいつらと遊びたいのか?」

 

「違う。本当に全然分からないの。でもあの子たちも教えてくれなさそうだし・・・・・・・・・・・・だから、教えてください!」

 

「・・・・・・・・・・・・分かった」

 

この時、なんで俺は了解したんだろう。なにかの心変わりだったのか、それともただの気まぐれだったのか。今の俺にも分からない。でもこの選択は正解だった。

 

*

 

俺は美保に連れられて図書室に訪れた。そこには何人か残って勉強をしていたり、委員活動をしていた。さらに美保に誘導されて勉強道具が置きっぱなしになったテーブルまでたどり着いた。

 

「で、何を勉強するんだ?」

 

「それじゃ・・・・・・数学から」

 

美保はそう言って俺に問題集を差し出してきた。俺はそれをパラパラとめくる。今回の提出分のページは真っ白、でも頑張ったらしく一問目は消して書いての連続で跡がついていた。

 

「・・・・・・・・・・・・お前、これより前は分かるのか?」

 

「で、できません」

 

「えっと、教えて欲しい科目ってなんだ?」

 

「数学と英語と物理と化学です」

 

4科目か。それならいけるか。

 

「なら流しで基礎から教えるぞ」

 

「は、はい!」

 

こうして俺は美保に勉強を教え始めた。美保も本気で点数を取りたいようで俺の話を真剣に聞いていた。そして俺も出来るだけ分かりやすく解説した。

 

「へぇ~天理くんの教え方ってわかりやすいね」

 

「そうか?まぁ、ちゃんと理解してたらこれくらいはいけるな」

 

「むぅ・・・・・・なんかその言い方はムカつくな」

 

「事実だろ」

 

はい、今の俺からしたら完全にイチャイチャしているようにしか見えません。

 

そこから図書室が閉まるまで俺と美保は勉強をし続けた。外は冬だけあって真っ暗だった。俺と美保は横並びで歩いて帰っていた。

 

「で、俺はこっちだから」

 

「あ、うん。てかこういう時って送ってくれてもいいと思うんだけど」

 

「何故に?」

 

「もういい・・・・・・」

 

よく分からないがいいならいいか。そうして俺は手を振ってから歩き出した。そうして帰り道、俺は今日を振り返った。

 

高校生になって初めてこんなに喋ったな。たぶん、全部上っ面で話していたと思うのだが、それでもこんなに喋ったのは初めてだ。

 

だが何故か悪い気はしなかった。

文化祭も終わり完全に寒くなった時期、俺は冬休みで美保の宿題に付き合うことになり、また美保の部屋に来ていた。

 

「それで、お前やる気ないんだな」

 

「うぅ~~折角の休みなのにどうして勉強しないといけないの・・・・・・」

 

こいつはさっきからずっとこんなことを言って寝転がって一切宿題をする気がない。前に授業を聞けばいけるって言ったが聞くことがまず無理そうだな。

 

「それにしてもお前の家はまた両親いないんだな」

 

「忙しいからね~~」

 

勉強以外になると会話はこんな感じに二言三言しか続かない。基本俺と美保は別々に何かをしている。ちなみに俺は勉強をやめてただ寝転がって、美保は雑誌を読んでいる。

 

「あ、これ可愛い。ねぇ、天理君これかこれ、どっちがいいかな?」

 

「どっちでもいい」

 

俺は寝転んで天井を見ながら答えた。つまり美保が見ている雑誌を一切見ていない。

 

「・・・・・・天理君って性格悪いよね」

 

「なんだ?知らなかったのか?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほらまた、これで会話は終了。俺は寝転びながら美保の本棚を眺めた。そこには父さんが持っている様な本とは違った小さい本ばかりだった。

 

「ん?なんだこれ?」

 

「漫画だよ。知らない?」

 

「それは知ってるよ」

 

さすがに漫画は知っている。だって父さんがバトル系統の漫画が大好きだったのだから。でも美保の本棚には俺が見たことがない本ばかりだった。

 

「ちょっと読んでみてもいいか?」

 

「いいよ~」

 

美保に許可をとってから俺はテキトーに1巻目を手に取った。

 

話はとても日常的、だが俺にとってはとても非日常的な物だった。2人の男女が出会い、色んなイベントを経て、恋に落ちて付き合って終わり、そんな話。

 

あっという間に読み終えて俺は他の漫画にも手をつけた。でもどれも内容は違えど、恋愛に関するものばかりだった。

 

「初めて見る系統だったな」

 

「へ?少女漫画知らないの?」

 

少女漫画・・・・・・・・・・・・ああ、あれか。このリアクションには一切の嘘はなかった。

 

「うそっ?すっごい後悔してるよ、それ!?」

 

「・・・・・・・・・・・・恋愛か。俺には縁遠いものだな」

 

「確かにね・・・・・・・・・・・・」

 

また会話は終了。そうしてこの1日こんな途切れ途切れの会話をしながら過ぎていった。

 

*

 

1週間に1回、そのペースで美保の家に行っていたのだがクリスマス、つまり12月25日、美保が俺の家に行きたいと言い出した。もちろん、特に断る理由ない。

 

というわけで今俺の家路を美保と共に歩いていた。空は冬だけあって暗くなるのが早く、街灯が無いと歩くのがきつそうだ。

 

「ふんふ~ん」

 

まぁ、街灯があるので周りは結構見える。その証拠に後ろにいる美保が楽しそうなのがはっきりと見える。鼻歌まで歌っちゃってるし。

 

親戚の家は一軒家、2階建ての木造住宅だ。その姿が見えてきたのだが少し疑問というか不可解なことがあった。

 

電気が点いていない。

 

「美保」

 

「ん?な~に?」

 

「おじさんとおばさんいないわ」

 

「え!?」

 

すっごい驚かれた。振り返ると街灯に照らされている美保の顔は真っ赤になっている。

 

「これは少女漫画的に良い展開か?」

 

俺はわざとらしい笑顔で美保に訊いた。美保はそれを聞いて顔をさらに真っ赤にさせた。

 

「て、天理君ってそんな冗談言う人だっけ?」

 

「母さんの遺品から少女漫画がどっさり出てきてな。あれから読んでたんだ」

 

「へぇ~。それじゃ、恋に目覚めちゃったの?」

 

「いや、それが俺には登場キャラクターの気持ちが一切分からないんだよ」

 

人とはとても不可思議で不可解だ。これは俺が昔からずっと考えていることだ。その中でも感情とか気持ちとかはまだ解き明かせていない。少女漫画はそれが多い所為で全然理解出来なかった。

 

「そっか~。まぁ、寒いから続きは中に入ってからにしよ」

 

「だな」

 

冷たい風が吹き抜ける中、俺と美保は足早に家に入った。中は電気が点いてなく真暗、電気を点けてリビングに行くと予想通り机には置き手紙があった。そこには高級料理店へ行ってくると書いてあった。

 

「はぁ・・・・・・・・・・・それじゃ、適当に作るからくつろいどいて」

 

「は~い」

 

とは言ったものの美保は俺が思っている3倍くらいくつろぎだした。俺はそれを見て呆れた後、料理を開始する。時刻は既に6時、俺はさくさくと作っていった。

 

料理が出来たのは7時半、美保に手伝ってもらい、机に料理を全て並べた。そして2人合わせて、いただきますと言って食べ始めた。

 

「ん、うま~い!」

 

「あんがと」

 

おじさん、おばさんに作ったことしか無かったのだが、こうして違う人に作って出して美味しいと言われるのも悪くない。

 

「そういえば、お前よかったのか?他の連中にも誘われてたろ?」

 

「いいの。あいつらは私の家の豪華な料理が目当てだから」

 

何か完全に吹っ切れてるな、こいつ。

 

「そうだ、天理君の部屋行こうよ」

 

「ん?まぁ、いいが・・・・・・まだケーキあるぞ?」

 

「天理君の部屋で食べよ」

 

なんだかさっきも言った気がするが特に断る理由も無いので俺は冷蔵庫からケーキを出してリビングを出た。その後ろから美保はついてきた。そうしてたどり着いた部屋は日用品以外ほとんど物が無い俺の部屋に着いた。

 

「片づいてるね」

 

「だろ」

 

ケーキを机に置いて、1人で見るには十分の大きさのテレビの電源を点けた。番組は何かのドラマが丁度終わったところだった。

 

「あ、録るの忘れた!」

 

美保はどうやらこのドラマを見ていたらしい。録画を忘れて嘆いている。

 

「ほら、寝転がってないで食べるぞ」

 

「うぅ、はい・・・・・・て1ホールあるじゃん」

 

「そりゃ・・・・・・作ったからな」

 

うぅ・・・・・・食べれるかな、とか太っちゃうよ、また嘆きながらも美保の目はしっかりとケーキをロックオンしていた。

 

「大丈夫だよ。残ったら俺食うし」

 

「食べれるの?」

 

「頭を使うと甘いものが欲しくなるんだよ。1ホール位ぺろりといける」

 

まぁ、食べ過ぎは良くないしそんなに食べなくても良かった気がするが気にしないでおこう。

 

「それじゃ、食べよっか?メリークリスマス!」

 

「・・・・・・メリークリスマス」

 

なんだこの号令は?と思いながらも俺は同じ様に返してケーキを一口パクリと食べた。我ながら美味い。今回はかなり成功だ。その証拠に前にいる美保もカロリーなんて何のそのと言っている感じでケーキにがっついていた。

 

話相手がケーキに夢中になったので俺はテレビをぼーと眺めた。何かのバラエティ番組が流れていた。

 

12月25日、今年ももう終わり、実際まだ数日あるのだが年末も似たようなことになるだろう。

 

本当におかしな1年だった。気がつけば友人らしきものが出来てそれとほぼ毎日会っている。俺の16いや、10年間からしたらありえないことだ。

 

このまま終わればそれもまた幸せだろう。だが未来は決まっている。俺はフロニャルドに行く。

 

物語が動き出したのは年を越えた後、確か1月14日だった筈だ。

 

*

 

俺は現在、また美保の家に来ている。だがいつもと訳が違った。何故か、それは・・・・・・・・・・・・

 

「君が天理駿君か」

 

目の前にいる30代後半の男性、彼は美保の父親神崎倉蔵、前にも言ったが有名な会社の社長だ。今回は美保ではなくこの人から呼び出された。

 

「そうですが・・・・・・・・・・・・」

 

正直、こういうお偉いさんは苦手だ。たぶんその気持ちは顔に出ているだろう。

 

「娘が世話になったな」

 

「・・・・・・・・・・・・そんな世間話する為に呼んだんじゃないですよね?」

 

さっさと帰りたい、その気持ちが大きすぎて俺はついつい口走ってしまった。一応補足だが、この場には俺とこの人以外美保とその母親がいる。2人とも俺の言葉に絶句している感じだ。

 

「・・・・・・そうだな。天理君、君の噂はかながね聞いているよ」

 

「?、お父さん、天理君って有名人なの?」

 

そういえば俺、一度もこいつに自分のこと言ってなかったな、聞いてこなかったし。

 

「天理君は天理修一の息子で、昔は神童だったのだよ」

 

「へぇ・・・・・・・・・・・・」

 

う~ん、あんまし分かってない感じがするが、 倉蔵は気付いていない。てか神童"だった"てのは少しイラッとくるな。

 

「それで、その神童"だった"俺に何の用なんですか?」

 

だったを強調した。

 

「簡単な話だよ。うちの会社に来ないか?」

 

「「!?」」

 

まさかのヘットハンディングだった。そして美保もそれを聞いてやっとさっきのことを理解した様だった。

 

「君はあの修一さんの息子だ。しかも才能は名だたる科学者達のお墨付きだ。是非私の会社に来てほしい」

 

俺はここからの倉蔵の話をあまり覚えていない。興味がなかったのだ。確か、給料の話とかしてた筈だ。

 

「どうかな?」

 

気がつけば倉蔵はそう言っていた。

 

「凄~い!天理君って本当に凄いね!」

 

横でそんなことばかり言っている美保、たぶん倉蔵の会社が凄いってことだけで判断しているのだろう。

 

俺は少し黙り、考えた"ふり"をする。答えは決まっているが、なんというか・・・・・・悪戯心?

 

「お断りします」

 

あくまで深刻そうな顔で言う。すると倉蔵に誠意的なものが伝わったらしく、残念だと言ってすんなり諦めてくれた。あれ?なんかあっさりしすぎな気が・・・・・・・・・・・・。

 

「それにしても何故いきなりこんな申し出を?」

 

「・・・・・・実は今度会社の開発班で大発見をしたらしく、そのトップである人がが是非とも君を人材としてほしいと言ってな」

 

何故今更俺を?そう思いながらもどこかで悪い予感がしていた。早く帰った方がいい、その言葉がアラートの様に鳴っていた。

 

ピンポーン

 

「お、来たみたいだ」

 

美保の母親は玄関へ歩いていった。俺が固まって思考停止しているのに時間は進み、物語はページをめくられていく。

 

やがて美保の母親は客人と談笑しながら帰ってきた。その客人の顔に俺は見覚えがあった。

 

「久しぶりだね、駿君」

 

「・・・・・・岡、崎さん・・・・・・・・・・・・」

 

俺の父親、天理修一の助手であり今や日本が誇る科学者の1人であり、そして・・・・・・・・・・・・俺の両親を殺した相手だった。

 

*

 

突然、話は変わるのだが俺の父親は研究者だ。新技術の発見を中心に様々なものに手を出していた。

 

常人の3倍のスピードで何かを発見して最年少でノーベル賞を取ったらしい。だから死んでしまった時は色んな人が残念がった。

そんなスピードで発見をしていた為に父さんの部屋にはまだ未公開の物がある。と言っても3つだけなのだが、俺はそれを遺品として受け取った。

 

そこから色々あって俺は岡崎が犯人であることを知った。確かそこからだ、人を信じれなくなったのは。

 

そしてその5年後、岡崎は父さんが残した未公開の研究を発表した。しかも自分の手柄で。俺はその時、いやもっと前からかも知れないが分かったのだ。岡崎が2人を殺した理由はこの3つの未公開の研究だったと。

 

*

 

美保side

 

今日はお父さんが天理君を呼んでほしいと言ったから連れて来たんだけど・・・・・・・・・・・・

 

「いや~本当に久しぶりだね~。あのパーティ以来かな」

 

「はい」

 

天理君に会えてご機嫌な岡崎さんと呼ばれる人、それと真逆な天理君の作り笑顔。どうしたんだろ?感動の再会・・・・・・って雰囲気じゃないな~。よし!ここは私が1つ!

 

「お父さん、私そろそろ勉強したいから戻っていい?」

 

「ああ」

 

「それじゃ行こ、天理君。私天理君に教えてもらわないと分からないから」

 

「あ・・・・・・ああ・・・・・・」

 

私は天理君の腕を引っ張ってリビングを出た。そして少し走って私の部屋に入った。

 

「いや~それにしても天理君って本当に凄かったんだね」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

天理君はクッションに座って下を向いて無言、あれか、心ここにあらずって奴か。

 

「どうしたの?」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

やっぱり話してくれないか。というか言葉が届いてない様な感じだな。

 

そうして無言で数十分経った。天理君はその間全く動かず、凄く気まずかった。でも突然天理君はポツリと言葉を吐いた。

 

「・・・・・・・・・・・・もう無理だ」

 

「え?」

 

突然言われた所為で良く聞き取れなかった。けど何か良くないことを言ったことは分かる。

 

「て、天理君、本当にどうしたの?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

天理はまだ黙っていたけれど顔を上げて私を見た。

 

パンッ!

 

そして自分の頬を叩いた。

 

「え、え?だ、大丈夫!?」

 

「あぁ、大丈夫だよ」

 

そう言ってもう一度こっちを向いた時には、天理君は何時もと同じ様に笑っていた。

美保side

 

岡崎さんが家に来たあの日から1ヶ月が経った。天理君はあの後、何かを思い出したように帰っていき、次の日から少し余所余所しくなった。そうして天理君は何も言ってくれず、私も何も言えずに1ヶ月経ってしまった。だが、今日、2月14日、私はとうとう動き出す!そう、チョコだ。バレンタインだ!絶対に今日私は計画を成功させてみせる。

 

ということで今日放課後、天理君に教室に残ってもらいました。

 

「まさか、残ってくれるとは・・・・・・」

 

「期待されてなかったのか」

 

「まぁ、良いか。えっと、こ、これ・・・・・・」

 

私はチョコを差し出した。天理君はそれをしばらく眺めて・・・・・・・・・・・・何かを思い出したような顔をした。やっぱり忘れてたというか気にして無かったんだ。

 

「あんがと、えっとこれだけか?」

 

何かデジャヴを感じるな~。でも今回の私はひと味違うのだよ!

 

「天理君、最近どうしたの?」

 

「・・・・・・・・・・・・なんでm「嘘つかないで!」・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・」

 

天理君は何か諦めた様にため息を吐いてチョコを眺めた。

 

「別に嘘じゃないんだ。特に何か変わった訳じゃないし。ただ・・・・・・・・・・・・」

 

「岡崎さんでしょ?」

 

「はは、お前って鋭いな。そう、あいつ。あいつが・・・・・・・・・・・・俺の両親を殺したんだ」

 

私は息を呑んだ。この答えは予想外すぎる。天理君は私の顔を見てさらに補足をする。

 

「別にあの人が殺したんじゃないんだ。殺し屋に頼んでたんだ」

 

予想外すぎる。私とは別の世界に生きているのではと勘違いしてしまいそうになるくらい、天理君との違いを感じた。

 

「あ、え・・・・・・・・・・・・」

 

「すまんな、美保。それじゃ帰るわ」

 

私は一歩も動けず、何も喋れず、ただ帰っていく天理君を見ていることしか出来なかった。

 

*

 

結局、何も解決されず、時間は過ぎていき気がつけば終業式になっていた。

 

私は春休みにはどうにか天理君と仲直りしようと考えていたのだが、そんな時天理君から電話がかかってきた。

 

「ど、どうしたの?」

 

『実は、俺この春休みにちょっと旅に出ようと思ってな』

 

「あ、そ、そうなんだ・・・・・・・・・・・・」

 

早速私の計画が潰された。

 

『色々思ったんだがやっぱりこの方法しかないなって思うんだ。それだけだ、それじゃ』

 

「え、あ、はぁ・・・・・・・・・・・・」

 

電話切られちゃった。でも天理君、前より声は元気になってたし大丈夫だよね。

 

そんな私の期待を裏切って、数週間後、元神童の天理駿の自殺がデカデカと新聞と一面をかざった。

 

*

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

昔の夢を見た。まぁ、最後の場面から数ヶ月しか経っていないけど・・・・・・でも私が生きてきた17年間で最も衝撃的な1年間だった。

それにしても本当にあの後大変だった。あの記事を見た瞬間、私は涙が枯れたと思えるくらい泣いた。そしてショックのあまり数日学校を休んでしまった。

 

最初はそうやって混乱していたけど、1ヶ月経った時点で少し分かってきた。今思い返せばあの電話もそうだったんだろう。

 

そうして岡崎さんも捕まってもう2ヶ月も経ってしまった。天理君に関係するニュースも無くなって、私の心も癒えてきたのに何で今更こんな夢を・・・・・・・・・・・・。

 

と私はそこで私が起きた原因に気がついた。それはベッドの上に置いていた携帯だった。先程からずっと鳴っている。

 

「・・・・・・・・・・・・知らない番号だ」

 

そう言いながらも私は何故か電話に出た。

 

『お、繋がった。成功だな。美保元気か~?』

 

聞いたことある声だ。それに向こうは私を知っているらしい。一体誰だろう。

 

『あ、そう言えば俺死んでるんだったな』

 

死んでる、それを聞いた瞬間、私はある人物を思い浮かべた。

 

「て、天理、君?」

 

『大正解』

 

17年間生きてきた衝撃的な出来事は更新された。

 

*

 

駿side

 

美保に電話する数日前、俺はフロニャルドに来る1年前の軌跡を夢で見ていた。まだ2ヶ月しか経っていないのにどこか懐かしい。

美保は怒っているだろうか?悲しんでいるだろうか?それは分からなかったが、とりあえず勝手に死んだことを謝りたくなったのでどうにかあっちの携帯と通信機を繋げれないかと思い、そして電波ジャック機を開発した。

で、早速美保に電話した。だが中々出ない。失敗だろうか?

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ガシャ

 

「お、繋がった。成功だな。美保元気か~?」

 

返事がない、ただの屍のようだ。てか屍なら俺の方か。

 

「あ、そう言えば俺死んでるんだったな」

 

『て、天理、君?』

 

「大正解」

 

美保は電話越しでも分かる位狼狽している。それもそうか、死人が電話してきているんだから。

 

「美保、俺の死体って見つかったのか?」

 

『え、へ?えっと・・・・・・見つかってない、はず・・・・・・』

 

「実はな、俺は海へ身を投じたんだ」

 

『へ?そ、そうだったんだ』

 

美保は真面目に聞いてくれる。

 

「そうして死ぬ筈だった。だが、なんと!俺は深海の底にあるアトランティカへ運ばれて一命を取り留めたんだ!」

 

『えぇぇぇぇぇええええ!!』

 

まぁ、なんと素直な子だろうか。こんな明らかな嘘を信じてくれるとは。いや、俺異世界来てるからあながち嘘でも無いのか。

 

「そうして俺はたくさんの出会いをしてなんと強大な悪からアトランティカを救ったんだ!」

 

『えぇぇぇぇぇええええ!!』

 

「ま、嘘だけど」

 

『えぇぇぇぇぇええええ!!』

 

こいつ何言っても驚くんじゃねえか?

 

「実は異世界に来てるんだ」

 

『あ、そうだったんだ』

 

ズルッ

 

俺はベッドの上で1人こけた。

 

『それにしても・・・・・・良かった~~生きてたなんて。あれ?さっきのが嘘ならどうして・・・・・・?』

 

「あ、それはな・・・・・・」

 

俺は美保に結構細かく俺の物語を話した。美保も色んな反応をしてくれた。

 

「これで終了。どうだった?」

 

『もう色々驚きだよ。でもそっか~天理君この2ヶ月で成長したんだね』

 

「すごいしたよ」

 

『それにしてもどうしていきなり電話してきたの?』

 

「へ?」

 

話はいきなり変わった。

 

『だから別に私に電話する必要なかったでしょ?それなのにどうして?』

 

「う・・・・・・・・・・・・それはだな、数日前夢を見たんだ。お前と出会ってからの1年間の」

『え?』

 

「それで、声だけでも聞きたいな~と思って、電波ジャック機作って電話した。それだけだよ」

 

俺は自分が思っている以上に焦っている様で早口で説明した。

 

『そう、なんだ。・・・・・・実は私もさっきまでその夢見てんだ』

 

「え、マジで?すごい偶然だな、それ」

 

『偶然じゃないよ、きっと。だって私・・・・・・』

 

「駿君~~!」

 

「おぶっ!?」

 

全てが聞こえる前にドルチェが俺にタックルしてきた。

 

「さっきからそればっかりで私はつまらん!」

 

「は、はぁ?ちょっと離れろって!」

 

携帯は俺の手の届かない所にいってしまった。

 

「私は君が好きなんだ!構えよ!」

 

「なんだ、どうした!?そのキャラは!」

 

「いいから、構え!」

 

「だぁ~~!離れろ!」

 

「い~や~だ~!」

 

「こ、の、アルテマキャノン!」

 

ズドーン!

 

これは俺が編み出した新技、ツッコミ用アルテマキャノン。何も破壊せず、ただ単なる純粋なツッコミをすることが出来る。

 

「ふぅ・・・・・・すまんな、美保」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

返事が無い。電話切れちゃったのか?そう思い、画面を見るがちゃんと繋がっている。

 

「美保~~」

 

『私・・・・・・』

「ん?」

 

美保は何か呟いていた。

 

『私、フロニャルド行きたい!』

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?

 

*

 

美保side

 

『駿君~~!』

 

『おぶっ!?』

 

電話をしていると突然、女の人の声が聞こえた。そしてそれと同時に天理君の謎の声も聞こえる。

 

「て、天理君!どうしたの!?」

 

携帯を放してしまったのか返事は無い。そして天理君は女性と何か叫びあっている。その内容は良くは聞き取れなかったが

 

『私は君が好きなんだ!構えよ!』

 

その一言だけは何故か良く聞こえた。その後も何か叫んでいたけどそれどころではない。

 

好きだって・・・・・・・・・・・・!いやいや、これはあれだ、likeでloveじゃないって奴だ。きっとそうだ。その筈だ!

 

『ふぅ・・・・・・すまんな、美保』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

どうしよう、さっきの話からするにフロニャルドでは女の子の友達が多いらしいし、もしかしたらもしかするかも知れない。

 

「私・・・・・・」

 

『ん?』

 

「私、フロニャルド行きたい!」

 

負けてられない、絶対に!!

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