あの後、一通り戦い終え、結果シンクは全勝、その後ユッキー、エクレ、ノワ、俺という順位(俺が勝手に数えてただけだが)になった。ちなみにノワはエクレ以外にはあそこまで負けず嫌いにはならなかった。
そうして訓練は一旦終了、息抜きに川で泳ぐことになった。現在は女性陣の着替え待ち、俺とシンクはゆっくり川を泳いでいた……いや、訂正、俺は泳いでいない、正確には浮いている、だ。
「はぁ……冷たくて気持ちいい」
「駿、泳がないの?」
「逆に訊くが、あれだけやってなんでまだ泳げるんだ、お前」
俺の記憶が正しければシンクは訓練中俺の倍ぐらいは動き回っていたはずだ。なのに笑顔ですいすい泳いでいる。こいつの体力は無尽蔵なのだろうか?いや、訓練後、息抜きで川を泳ごうとしている辺り、フロニャルドの住人は全員そうなのかもしれない。少し動けるインドアな俺にはついてけないな…………。
そう思いながら仰向けで空を眺めながら浮いていたら何かが割れる音がし、太陽に黒点が出来た。その黒点はみるみる大きくなっていき、気が付いたときには、お腹に荷重がかかり沈んだ。
「ごふっ!?」
お腹にかかる荷重、そこが浅かった所為で背中に当たる石、空気がない状態での水イン、これら全部、疲れた体で一気に俺に襲い掛かる。
「ノ、ノワ!?」
水の中だが、なんとかシンクのその声が聞こえた。どうやら俺のお腹の上にはノワが乗っているらしい。ということはさっき黒点だと思っていたものは飛んできたノワだったのか…………いや、なんで飛んできたんだ、ノワ。それに先ほどからお腹に伝わる感触は布ではないような……どっちかと言うと肌な気がする。
「ごめん、すぐ着替えてくるから」
ノワはすぐに立ち上がり小屋へ帰って行った。そこでやっと俺は水から浮き上がれた。
「はぁ……死ぬかと思った。ん?シンクどうしたんだ?顔が真っ赤だが」
「どうしたもなにもノワが何も着てなくて……」
何も、着ていなかった?ってことはノワはやっぱり俺のお腹に直接乗っていたってこと、だよな?
「てかなんでノワ、裸で降ってきたんだ?」
「……さぁ?それより僕はなんで駿がそんなに冷静なのかを訊きたい」
「直接見たわけではないし反応のしようがない」
そうそう、直接見たわけではないし、まぁ、肌は密着したけど……あれ?どっちの方が恥ずかしむべきなのだろうか?でも俺は溺れていて正直全然覚えていないに等しい。いや、でも肌が直接当たったのは事実だし……。
思考が堂々巡りになり、顔が熱を帯び始めた。
「あ、駿顔真っ赤だよ?」
「るさい。お前が変なこと訊くからだよ」
やばい早く冷静にならないと。こういうときはなんだっけ?確か美保は素数を数えると良いって言ってたな。
よし、2、3、5、7、11、13、17、19、23……(中略)……953、967、971、977、983、991、997(この間1.03秒)。よし、これで落ち着……かない。どうしようか、よし、なら美保のことを考えよう。うん、もしこれを美保に言ったなら何て言われるかな?たぶん「へぇ、他の女の子と裸で密着したんだ……」…………うん、落ち着いた。てか血の気が引いた。ゴミ虫を見るような目をした美保が鮮明に出てきたよ。
「お待たせでござる~ん?どうしたでござるか、駿殿?随分と顔色が悪いようでござるが……」
「い、いや、なんでもない」
赤くは無くなったが、真っ青になっていしまった。というか、これ誰にも訊かれて無いよな?確かドルチェは今、美保の方に憑いている(誤字にあらず)筈だし。
「どうしたの、駿?やっぱりさっきの……」
「いや!さっきのは関係ない。ちょっと運動しすぎただけだ。川で浮いておけば治るよ」
確かに元をたどれば、ノワが裸で空から落ちてきたことが原因であるとも言えるのだが、それはあくまでも赤くなった方であって、青くなった方は関係ない。
「そうでござるか?それでは、気を取り直して、これから15分間は休憩と自由時間、その後、救命訓練に移るでござるよ~」
「「「おぉ~!」」」」
「お~……」
一緒に言いたかったが、さすがに今元気がなかった。
インドアな俺だが、外で体を動かすことは別に嫌いではない。逆に好きなくらいだ。ただ、体力が少ないので限度がある。そしてそれ以上に自然は大好きである。それを踏まえるとフロニャルドは本当に俺に合った場所だと思う
そんなことを考える、お昼どき、水の上である。周りは泳いだり、ビーチボール(たぶんシンクが持ってきたのだと思う)で遊んだりしている。本当にフロニャルドの住人(+勇者)は体力が無尽蔵である。それとも俺が体力なさすぎるだけなのか?いや、だが、それは仕方がない。ちゃんと理由がある。それは……
「ばっ!」
いきなり、回転したビーチボールが顔に飛んできた。
「あぁ!駿殿、大丈夫でござるか?」
「あ、あぁ、いきなりで驚いただけだ」
さすがの俺もビーチボールにやられるほど、弱ってはいない。
「それにしても、ビーチボールか……なんだろ、やった記憶がない」
そういえば、こっちに来てからたくさんの人に囲まれていたけど、あっちでは俺、ほとんど友達いなかったんだよな……。海とか行ったことない気がする。
「そうだったでござるか。なら一緒にどうでござるか?」
「いや、いいや。少しやりたいことあるし」
「そうでござるか……」
耳をペタンとして残念そうにユッキーはボールを持って去って行った。少し、罪悪感的なものが胸にあるが、ここはしょうがない。先ほどシンクに言われた考え過ぎていないかという言葉、あれについて考えた結果、何も考えず少し自然に身を任せようと考えたのだ。だから俺はこれから約15分間、何も考えずに浮いておくのだ。
ノワside
さっき、私は裸でシンクと駿の前に出てしまった。顔には出していなかったけど実はかなり恥ずかしい。きっとシンクも駿も同じだろうと思っていたんだけど、駿は何故か顔を真っ赤にせず、真っ青にしていた。駿は関係ないと言っていたけどもしそれが嘘なら結構ショックだ。
なので謝罪も兼ねてシンクに尋ねてみることにした。
「シンク、さっきはごめんね」
「ううん、全然。ノワとぶつかったのは駿だし僕は大丈夫だよ」
「そっか。ところで駿はどうなんだろ?」
「大丈夫だと思うよ」
シンクは泳ぎながら悩むことなく言った。でもやっぱりさっきの顔を思い出すとそうとは思えない。
「でもさっき、顔が真っ青だった……」
「あ、あはは……あれは僕も分からないけど、その前は赤かったよ」
「え?本当?」
そう聞き返すとシンクは「うん。すごい真っ赤だったよ」と言ってくれた。あの鈍感さからもしかしたら恥じらいがほとんどないのかも思いかけていたけど、どうやらそうじゃないらしい。
「駿ってね、結構感情豊かなんだと思うだ。だから両親が死んじゃったとき、塞ぎ込んじゃったんだと思うんだ」
私は駿やシンクからしかその話を聞いていないし、その頃の駿を実際に見たことなかったからあまり分からない。
横を見てみると空を仰ぎ見て浮かんでいる駿がいた。
「あれ?駿何やってるんだろ?」
「さっきやることがあると言ってずっとああしてるでござるよ」
エクレとボールで遊んでいたユッキーが残念そうに答えてくれた。
「どうしたのかな?」
「どうせばてているのだろう。放っておけ」
エクレがそう言ってユッキーにパスを求める。確かにさっきも疲れているだけだと言っていたけれど…………。
「そうだね。エクレは愛しのシンクのことしか興味ないもんね」
「えぇっ!?」
「なっ!ノワール……このあほ猫がぁぁ!!」
エクレをからかうために言ったけど、シンクも反応した。そしてエクレは輝力を開放して巨大な剣を繰り出した。あれは……お館様の神狼滅牙に似てる。
「おぉ、エクレ新技!」
「輝力の刃、光輪剣でござる」
ユッキーが解説をしてくれた。
「この後、救命訓練、助けられる側の人間はどうせなら本当に気絶していた方が良くないか?」
そうエクレは提案した。
駿side
後、何分くらいこうやっていられるのだろう。ついつい考えてしまった瞬間、遠くからエクレの怒声とともに水の飛び散る音がした。何か事件なのかとさすがに動かざる得なく、俺は地面に足を付けてそっちを見た。
「この後、救命訓練、助けられる側の人間はどうせなら本当に気絶していた方が良くないか?」
エクレが神狼滅牙をモチーフにした光輪剣をノワに向けながらそんなことを言っていた。どうやら、あの二人はまたぶつかっているらしい。
これは無視することはできまい。俺はシンクの元まで泳いだ。
「シンク、どういった状況?」
「あ、駿。えっと、救助者決めかな?」
なるほど、大体分かった。とりあえず、喧嘩ではないらしい。
「それは、名案」
ノワもかなり乗り気なようで、エクレが輝力武装をしたのに合わせて輝力武装を発動する。
一本だったノワの黒い尻尾が黒い光を帯びて七本に分かれたのち、先っぽに槍のような刃物が付く。
「エクレ自ら気絶してくれるなんて、ナイスアイデア」
黒い、黒いよ、ノワ。ノワの尻尾くらい今の君の顔は黒い笑顔をしているよ……。
「ノワまで!?」
「かっこいいでござる」
ずいぶんと落ち着いている外野たち。ユッキーなんてビーチボールをくるくる回している。ああいうのってバスケットボールでやっている人多いよな、なんのためなんだろうか?
「輝力武装、セブンテール!」
俺が協力して生み出した輝力武装、セブンテール。武器などをモチーフにして生み出す普通の輝力武装と違って尻尾をモチーフにしている。なので少しトリッキーな戦い方が出来る。
ノワの輝力武装は良く使っていたナイフにしようとしていたのだが、肉弾戦を劣るから輝力や紋章術が十二分に発揮できる方法がいい、というノワきっての希望によりあれが出来上がった。最初は慣れていなかったけど、今ではクモの如くセブンテールで移動が出来るほどにものにしている。
そのおかげかノワはエクレと互角で戦っている。だが、さすが騎士というべきかエクレもセブンテールの攻撃を見事に防いでいる。
そしてエクレはノワの攻撃を避けて、空に飛んだ。うん、飛んだで合っていると思う。4mは絶対にいってるもん。
「光輪剣!烈閃光牙!」
「セブンテールスクイーズ」
短期戦なのか、エクレは光輪剣から紋章砲を放つ。それに負けじとノワもセブンテールに輝力を込めてエクレの紋章砲に衝突させた。
巻き起こる爆発、その後、一本の光の柱が天高く伸びてやがて消えた。
「えっと…………」
そうして戦場に立っていたのは…………どちらでもなかった。いきなり第3者が現れて2人を倒したとかではない、2人とも川で浮いていた。
はい、救助者2名追加で~す。
補足ですが、シンクは駿との通信で空白時期にフロニャルドのことを色々聞いています。なので駿とノワがガレットで魔物対策の部隊を設立していることを知っています。