駿Side
合宿も終わり、エクレが何日もかかった技をシンクが1日で会得した今日、ガレット領土にある町で追い剥ぎが起こっているとレオ様から言われた。
言い直すと、帰ってきてそうそう、合宿でボロボロになった全身筋肉痛の俺にレオ様がいい笑顔で肩に手なんか置いて、その町に行ってくれないか、と言ってきた。
「嫌です」
「何故じゃ?」
「もう、体力の限界だからです」
もう、俺は立っているのが、やっとだ。正直、ここでレオ様と話していずに、今すぐ部屋に戻ってベッドで寝たい。
「そんなことを言うな。領主のお願いじゃぞ?」
「生憎、俺、魔神なんで。領主のお願いを聞くなんてことはする義務がないんです」
「そうか。できれば、魔物退治に慣れておるお主にも行ってほしいんじゃが」
明らかにしょぼくれるレオ様。耳が倒れているのはたぶん、錯覚などではないのだろう…………罪悪感が出てくるから、しょぼんとするのは止めてほしい。
「はぁ、美保やドルチェも行っておるのに」
「っ!? なんですって!」
俺はレオ様の両肩を勢い良く掴み、前後に揺らした。
「どうして、それを早く言ってくれないんですか。どこですか、マッハで向かいます!」
「や、止めぬか!」
「おぉ、すいません。でも本当にどこに行くんですか?」
「お主、どんどんキャラが変わっていくの。まぁ、よい。アヤセに向かうのじゃ」
「はい!」
俺は元気よく返事をして回れ右、全速力で走ろうとすると、
「………………」
準備運動なんかしちゃって、猫耳ピコピコさせて、ヤル気もついてくる気も満々のノワール・ヴィノカカオさんがいた。
「ノワ「部隊長」、ノ「部隊長」……部隊長、ここは部隊長の手を煩わせるほどではありませんので」
何故か部隊長と呼ぶように言ってくるノワ。まぁ、気にはしないのでそう呼ぼう。
「ううん。私も行く」
こうなったノワ、部隊長はかなり頑固だ。テコでも動かないだろう。
「いえいえ、俺に任しといてください」
「行く。部隊長命令」
………………『命令されたらさからえんよ、部隊長さん』つい昨日、正確には今日言ったセリフ、それ言った手前、そうそう無為にはできなくなってしまっている俺。言わなきゃよかったとは言わないが、この先の不安は否めない。
「はぁ、分かりました。行きましょう部隊長。後ろ、乗せていきますよ」
まぁ、何をどう言おうと結局従うものは従うし、相手は追い剥ぎをするだけで危険度は極めて低い。むしろ、魔物慣れしていくチャンスだろう。
そんなわけで、俺はサンダーバードに部隊長を乗せて、アヤセまで行くことに「ちょっと待つのじゃ」
「なんですか?」
「お主ら、その服装で行くつもりか?」
さっと、白い風呂敷を取り出してレオ様は言った。
「なんですか、それ」
「何って、着物じゃ」
なんだろう、さも当たり前のように言われた気がする。まるで、アヤセにいくらなら着物を着ていくのは常識だと言っているようだった。そして、それを証明するように部隊長さんは着物を持って自室に着替えにいった。
「…………まだ、慣れねえな」
頭を押さえて、そう呟いた。ここでうだうだ言っていてもレオ様は絶対に折れないので俺も着替えに行くとしよう。
そう思い、風呂敷に残った着物を見てみる。生地は良いもの使っている、うん。それに模様も綺麗だ、美しい。さすが領主様だけあってヘタなものは用意しない。これを着れるなんて光栄に思えるな。
「…………よし、褒めるのはこのへんで。レオ様、どうして女物なんでしょうか!?」
生地も模様も一級品だが、何故か、何故か! 花柄にピンクというどう考えても女物の着物が入っていた。しかも丈が少し短い。
「レオ様、いや領主様。少し無礼なもの言いになるが、どういうことだ、おい。ふざけるの大概にしろよ」
「いいではないか。可愛いであろう?」
「ですけど! こういうのはミルヒさんにあげてください」
レオ様は1度その着物を見て、凛々しい顔で考えたあと、頬を赤らめてニヤッと笑い「いいの~」と言った。
この人、本当にミルヒさんのことになると変わりすぎでしょ。どんだけミルヒさん好きなんだよ。ファンクラブとかあったら会員番号1とかだな。
「じゃが、お主が着るのも捨てがたいのう」
「捨ててください。今すぐ、捨てて燃やして灰にしてください」
「うぅむ、今回だけでもお願いできんか?」
「できません」
これで美保やドルチェ、七海の前に出てみろ。引かれるわ。距離が著しく遠くなるわ。
「仕方ない。なら今度わしの部屋に来て、これを着てくれ」
「嫌です。てか、それ少し前にやらされましたよ。撮影会開かれましたよ。動画に撮られましたよ」
実を言うと、シンクが来る数日前に少し女装をされられたことがある。どういうことでそうなったのか、思い出せないけど、最後にはレオ様だけでなくパスティヤージュからも人が来ていた気がする。語ってないが、語る気もないが、てか、絶対に語らないが、そんなことがあった。
「くっ、ならあのときに着物も着せておくのだった」
「まる聞こえです。てか、早くしなくていいんですか? もしかして、それを着せるために、これ頼んだんですか?」
「そんなわけあるまい。しかし、いいのか? これを着ないことで、トラブルが起こるかもしれんぞ?」
そんなわけあるか。失礼な言い方になってしまったが、仕方ない。
実際、このあと、着る着ないの話は続いたり、部隊長の着物自慢があったり、部隊長がまた着るように言ってきたり、と結構長い時間続いたのだけど、割愛させてもらうことにしよう。
駿の女装話はやりません、たぶん。