宴、というより祭りは盛り上がっている。俺も撃破でもらったお金(まぁ、全然無いのだが)を惜しみなく使い、出店を食べ歩いた。どれも美味しかった。そんな風に祭りを楽しんだ俺は一休みがてら、森に入った。しばらく歩いて森を抜けた時、横に人がいた。
「あれ、レオ様?」
そこには1人たたずむレオ様がいた。
「おぉ、確か駿だったな」
俺はレオ様に許可をもらってから隣に座る。
「はい、どうしたんですか?」
俺がそう訊くとレオ様は素直に話してくれた。どうやらミルヒオーレさんと仲直りしていたらしい。
そしてそれを聞いてミルヒオーレさんとレオ様の関係が気になったことが俺の運の尽きだった。
レオ様はそう訊いた瞬間、目を輝かせて思い出とミルヒオーレさんの魅力を語ってくれた。レオ様はまるでマシンガンの様に喋っていく。止まらない、息継ぎがない。止めれない、レオ様が活き活きとしている。成る程、ミルヒオーレさんがレオ様のことをとてもいい人というのは分かる。こんなにもミルヒオーレさんに溺愛しているのだから。
「す、ストップ!レオ様、ストップ!」
「むぅ、なんじゃ?まだ半分も話しておらんぞ」
まだ半分もいってなかったのか。もうお腹いっぱいなんだけど。
「レオ様、もう少しでミルヒオーレさんのコンサート始めるんじゃないですか?」
「本当じゃな。しょうがない、話の続きはまた今度にするか。お主はうちの国にくるからな」
「はは・・・・・・楽しみにしておきま~す」
そう社交辞令を交わして、レオ様は去っていった。俺も少し経った後、立ち上がり会場に歩き出した。
俺が会場に着くとミルヒオーレさんはもうすでに歌っていた。ステージは四角い箱で形成されている。
「綺麗だな」
ミルヒオーレさんは凄いな。あんなにも輝いている。年で言えば俺より下のはずなのに一国の姫を努めみんなを導き、ああやって歌姫になって人々に元気を与える。立派な人だ。
俺がそんなことを考えているとステージの前方に大きい草の茎の様な物が生え出した。
俺はそれに完全に見惚れ、何も言えなくなった。それがなんでなのか分からない。でも言葉が出なかった。
そして気がつくと涙が出ていた。あれ?俺ってこんなに涙脆かったっけ?
俺は涙をこぼさないために上を向いた。上には涙で見えにくかったが、狐が空を駆けていくのが見えた気がした。
事情が分からない俺には分からない。でもあれは何か特別な物があることとそれはあの狐がやったってことだけは分かった。
少し疲れたな、やっぱり。部屋に戻るか。
*
そう思い、廊下をとぼとぼと歩いているとふらふらしているリコッタを見つけた。
「リコッタ?」
「・・・・・・駿様?」
なにやら元気がない。どうしたものか?
「何かあったのか?」
「それは・・・・・・・・・・・・」
リコッタの話によるとどうやら帰還方法が分かったらしい。だがその帰還方法がこっちで手に入れた物や記憶を持ち帰れず、二度とこっちに来れないらしい。
「成る程・・・・・・・・・・・・リコッタ、こっちの資料で他の送還方法は?」
「これから探すであります」
「なら、俺もガレットの書斎で探してみるよ。それとリコッタ、お前はこのことをシンク以外には話すな」
「な、何故でありますか!?」
みんなを不安にさせることはなるべく避けたいし、まだ他の方法が見つかるかもしれないし、とリコッタに話した。そして最後に
「シンクもそう言うと思う」
と伝えた。するとリコッタも首を縦に振り
「・・・・・・・・・・・・わかったであります」
と答えた。
シンクパワー恐るべし。
*
リコッタとの会話後、荷物をまとめてある場所に向かった。
向かった場所はミルヒオーレさんの楽屋、問題も解決したのでガレットに行くためにビスコッティ領主に一挨拶入れておくからだ。
「すいません」
「はい、なんでしょう?」
中から聞こえた声はミルヒオーレさんのものではなく秘書のアメリタ・トランペのものだった。
「アメリタさん、ミルヒオーレさんと少し話せませんか?」
と訊いてみたものの、答えはノー。どうやらさっきコンサートが終わったらしく、まだ少し時間がかかるらしい。
どうしようか?アメリタさんに伝言してもらうか?いや、それじゃ駄目だな。
「それじゃ、待ちます。時間はあまりとらせませんのでお願いします」
アメリタさんが気をきかせてくれたようで、待って数分、ミルヒオーレさんが小屋から出てきた。
「駿さん、どうかされましたか?」
「少し急ぎの用事が出来て今日からガレットに行くので挨拶をと思いまして」
「そうですか。また遊びに来てくださいね」
はい、と言って俺は走り出した。次はレオ様だ。今日から住む国の領主にも挨拶はしておかないと。
小屋から少し走ってレオ様を発見。どうやらコンサートが終わったのでガウルやジェノワーズの3人と話していた。こりゃ、ちょうどいい。
「レオ様、少しいいですか?」
「む、どうした。さっきの続きか?」
「いえ、違います」
即答だった。我ながら凄まじい速度だった。ライジングモード無意識に使ったのかなと思うくらいだった。そして変に追撃される前に本題に入る。もちろん、全部は言わない。ガレットの書斎の本が読みたいとだけ言った。
「うむ、もちろん、了解だが場所は分かるのか?」
「あぁ・・・・・・・・・・・・分かりませんね」
「では案内役を付けよう」
おぉ、これはありがたい申し出だ。
「で、誰にする?」
「じゃぁガウr「ガウルは駄目じゃぞ」・・・・・・・・・・・・なら、一番書斎に詳しい人を」
本当にこのレオンミシェリ閣下の性格が分からない。一体何がしたいんだ?
「なら・・・・・・ノワール。お主が着いて行ってやれ」
「分かりました。レオ様」
あぁ、断るという選択肢はないのだろうか。ないだろうな、きっと。
「なぁ、ガウル。お前の姉さんなんなの?」
「なんか、すまねぇ」
ガウルが代わりに謝ってくれた。成る程、案外2人で成り立っているのかもガレットは。
「それでは駿よ。セルクルを用意するのでしばし「いえ、いいです」・・・・・・どういうことじゃ?」
そう言って俺は輝力集中、足元に紋章が現れて、雷が俺を包んだ。
「おぉ、バチバチやないか」
バチバチって言うのはやめて頂きたい。ライジングモードという名前があるんです。まぁ、言ってないから知らないのは当たり前だが。
「よし、さぁノワール乗って。走るから」
もう決まったものはしょうがない。ガレットの書斎の大きさは分からんが走って損はないだろう。
「・・・・・・・・・・・・え?」
俺がおんぶの姿勢になって言うとノワールが固まった。?、どうしたんだろうか?よく見ると他の人達も固まっている。
「ノワール、少し急ぐんだ。だから」
「きゃ!?」
こっちは少し急ぎたい気持ちもあるわけで俺は固まっていたノワールを抱えた。まぁ、俗にいうお姫さま抱っこと言うやつだ。
「よし、バス〇ーズ、レディ・・・・・・ゴー!」
2011年に生きる俺が何故知っているかって?知らんがな。
*
俺のライジングモード、出力を抑えることが出来る。実際、出力30%くらいでシンクのジェットボードに追いつける。流石雷だね。でも70%いくと体が持たない感じがするから実質使える範囲でいうと半分以上なわけだが。
そんな感じで俺は現在ビスコッティからガレットの道を走っています。ノワールをお姫様抱っこで。
「駿、なんでそんなに急いでるの?」
どうやら、お姫様抱っこにも慣れたらしく、ノワールは俺を見上げながら訊いてきた。
「あぁ・・・・・・・・・・・・少し言えないんだけど。まぁ、事情があるんだ」
俺がリコッタにああ言った以上は俺が話すわけにはいかない。ノワールにはすまないがここは黙っておこう。ノワールも分かってくれたようで頷いてくれた。
ものの十分程度でガレットの城に到着、ノワールの案内で書斎にも着いた。
「うおっ、でかいな」
「うん、ビスコッティに負けない」
さて、どうするか?出来るだけ早く終わらせたい。シンクが帰るまで後4日。今日と明日と明後日とで明々後日には帰るんだ。つまりタイムリミットは明日と明後日となると言っても過言でない。
「案内ありがとう、ノワール」
「ううん、別にいいよ。手伝おうか?」
「う~ん、大丈夫だよ」
俺はそう言ってノワールの頭を撫でた。
「ん、駿って撫でるのうまいね」
そうなのかな?リコッタにも言われた気がするな、そういえば。
少しなでなでを堪能してからノワールは書斎を後にした。俺は出ていくノワールに手を振ってから改めて本棚と向き合った。
時刻は11時、シンクが帰るのは明々後日、なんだまだ50時間近くあるじゃないか。って言ってもこの量なら明日の7時には終わるがな。
俺はそんなことを考えながら目の前の本を手にとった。
*
徹夜の結果は・・・・・・・・・・・・駄目だった。本棚を全てひっくり返しても何も出なかった。いや、本当を言うといくつか本を読んでリコッタのいう送還方法は見つけれた。俺は本棚にもたれかかってそのままずるずると床に座り込んだ。
「はぁ、やっぱり無理か」
一応俺は神童と呼ばれてたんだ。もしかしたら何も見つからなくとも新しい方法を編み出すことが出来るかと思っていたが、無理だった。
「そりゃ、リコッタ達が14日間探してたんだ、8時間程度で見つかるわけがないよな~」
だが、諦めるわけにはいかない。リコッタはたぶん、俺を信じてくれているんだ。それに応えたいと思えたんだ。ここで諦めたら俺は、昔と何にも変わらない。
「ん?封筒?」
座りこんだ手元、いつの間にか封筒があった。たぶん本の間に挟まっていて、さっき落ちたのだろう。集中していて気がつかなかった。その封筒を持ち上げて裏表を確認する。そこには
"勇者召喚について"
「これは・・・・・・え?」
何かのヒントになると思い、リコッタの所に行くために立ち上がろうとしたが逆に横に倒れてしまった。そういえば、戦開始からずっと精神的にも肉体的にもやられっぱなしだったな。
「くそ・・・・・・」
体が全く動かない。腕どころか指一本動かなかった。
*
体が動く様になったのは17時半だった。俺は直ぐに立ち上がりビスコッティへ向かった。流石にそこまで体力は回復していなくセルクルに乗ってだったので思いのほか時間がかかった。
ビスコッティに着いたら直ぐに書斎に入る。すると中には泣きながら調べものをするリコッタの姿があった。
「駿様?」
「リコッタ、これ!」
俺はガレット書斎で見つけた封筒をリコッタに渡した。
「これは?」
リコッタは封筒を受け取り、ひっくり返して絶句した。そして直ぐに封筒を開けて中の手紙を確認する。
そこにはリコッタが見つけた送還方法は勇者と召喚主が関係を拒んだ場合であり、条件を満たすことにより再召喚が可能な一時送還に変更出来ると書いていた。
その条件は3つ。
"最初の帰還から再召喚までは91日以上空ける"
"召喚主以外の3名以上に、また来るという誓約と共に勇者の身につけていた物を預けておく"
"召喚主に対しては、勇者と召喚主の名前が書かれた約束の書と誓約の品を渡しておく"
それを一通り読んだリコッタはまた泣き出した。
「リコッタ?」
「駿様、本当にありがとうであります」
リコッタは持っていた紙を握りしめて泣きながらお礼を言った。
「俺がやったんじゃないよ。元からあったんだ」
「いえ、今の駿様を見たらどれだけ頑張ってくれたかわかるであります」
「そういうものなのか」
「そういうものであります」
久しぶりにリコッタの笑顔を見せてくれた。うん?なんだろうか、これは?
「よ、よし、リコッタ。シンクのとこいこう」
俺は何かを誤魔化す様にそう言った。
「はいであります!」
*
シンク部屋に入るとガウルとジェノワーズもいた。リコッタは興奮しすぎて他の人が見えなかったようでシンクにさっきのことを伝えていた。
「どうしたんだ?」
流石にこの場面を話さないわけにはいかない。俺は少し渋ったが、今思い返せば再召喚が可能になったので隠す必要が無くなったんじゃないか?と思い事情を話すことにした。
「へぇ、そんなことがあったんか」
「だから駿は急いでたんだ」
各々感想を喋っていく。
リコッタもシンクに説明し終えたようでシンクはこっちに来た。
「駿、ありがとう」
「お前もか。言っとくが偶然だよ」
俺はベールが用意してくれたジュースを飲みながらそっぽを向いた。正直、俺はこうやってお礼を言われるには慣れていないからだ。
「でも良かったねシンク君、駿君。これで無事に帰れるんでしょ?」
「え?俺帰んないけど」
ジュースが美味しい。ズズッと全て飲み終わった時に俺はみんなが俺を見て絶句していることに気がついた。
「?、どうした?」
「帰らねえってどういうことだ!?」
「そうであります!」
なんだ?いきなり怒鳴られた。しかし、どうだって言われてもな。
「シンク、俺はなこの旅行の目的は3つあるんだ」
俺はそう切り出した。正直話すか話さないか少し迷うが
「え?現地の謎調べる為じゃないの?」
「まぁ、それもあるんだが・・・・・・えっと、まずは、人を、信頼出来る様になる為」
それを聞いてリコッタ、ガウルやジェノワーズは首を傾げたが、シンクだけは少し俯いた。
「あ、みんな知らないよな。俺は結構人間不信なんだ」
「そうは見えない」
「そやな」
「まぁ、それは俺が積んできた経験のたまものですよ」
ノワールとジョーヌに変な所で褒められた。いや、そんなとこ褒められても喜べないよ。
「それで、もう一つってなんですか?」
ベールが逸れた話を戻してくれた、ありがたい。がこっちはさっきの何倍も話しにくい。
「もう一つは・・・・・・・・・・・・はぁ、あれだ、死ぬことだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こうなるよね~。全員がキョトンとしちゃったよ。
「つっても、それは最終手段だぞ」
我ながら意味のない補足だ。
「えっと、どういうことかな、駿?」
シンクが一番最初に戻った、さすが勇者。
「まぁ、疲れたんだ」
ジュースを飲もうとストローを吸ったが何も口には冷たい水しか来なかった。そうだった、ジュースは全部飲んだんだった。俺はベールのおかわりを断り、話を続ける。
「まぁ、さっき言った通り俺は人間不信だ。正直、この生き方かなり疲れるんだ。だからこの旅行で、もしシンクを信じれなかったら、自殺でもしてやろうかと思ってた」
はい、Q.E.D証明終了。え?違いますか?そうですか。
「なんか、飛躍しすぎとちゃう?」
「まぁ、そう思えるかもしれないが、俺はそれにしかないと思ってたんだ」
遺書も鞄に入ってるよ。とも言った。ちなみにこれは嘘ではない。しっかりとした遺書をちゃんと書いてきた。
「それで、それが帰らねえってのにどう関係するんだ?」
「あぁ・・・・・・あれだよ。俺はさ、人間不信なんだ。誰も信じられない。でもここにきて、少し、ほんの少しだけど、俺は人を信頼出来そうな気がするんだ」
「それは逃げ、じゃないか?」
ガウルさん、流石だ。確かに俺もそれを少し考えた。
「逃げだよ。だけど俺は止まる気はない。あっちで逃げずに死ぬくらいなら、逃げて前に進むことを選ぶよ」
そう、停滞は苦しいんだ。俺はたぶんあっちでもう数年間停滞していたと思う。
「そう、駿はちゃんと決めたんだ。なら止めない」
そう言ったシンクを筆頭に全員が納得してくれた。
「ちなみに俺の遺書持って帰る?」
この誘いは断られた。残念だ。
*
さて、太陽もすっかり沈んだ午後11時、シンクの部屋で遊び疲れたみんなが寝ている間、重大な考え事をしていた。
そう、こっちに残ると決めた時点であっちでの俺の存在はどうなるのか?ということだ。
行方不明か?死か?
自我自賛になってしまうが俺はあっちではかなり期待されている人材だ。それが行方不明になればだいたい分かるだろう。
「う~ん、どうしようか?」
そこから数時間、ずっと悩み続けた。そしてふっと思った。
俺は何に悩んでいるんだ?別に俺はこっちに住むんだ。あっちでどうなろうと俺はどうでもいいはずだ。なら何に悩んでるんだ?
こうなったらたぶん俺は何にも分からない、何にも思いつかない。だから寝よう。
シンク、ガウル、リコッタ、ノワール、ベール、ジョーヌが寝ていて床面積が少なくなっている、そんな場所で俺はなんかとスペースを確保してゆっくり目を閉じた。
*
朝、目覚めると目の前に誰かの顔が、ということはない、何故なら俺は寝相がいい。壁に向かって寝れば何も間違いは起こらない。
そんな風に朝を迎えてからレオ様が実は妹キャラだったとか、ミルヒオーレさんに撫でられている姿を見て、なんと言うか、俺は頭が痛くなったりした。そうやって時間が過ぎていき、シンクの送別会が開かれた。
「いや~よかったよ。もしあの送還方法見つからなかったら、さっきミルヒオーレさんが言った"里帰り"に言葉に胸を痛めたよ」
「あはは、そうでありますね」
そしてシンクの挨拶もなんかとても悲しい感じになっていただろう。
それにしt「それでは勇者様の友人の駿さんにも一言、お願いしたいとおもいます」・・・・・・いや、シンクが呼ばれた時点でなんとなく分かってたよ。だって、今回の送別会の名前が"ありがとう勇者様達、お食事会"なのだから。
だが拍手もされて、もう完全に出ないといけない空気になっている。出るしかない。そして言うしかない、"帰らないと"。
「勇者シンクの友人の天理駿です。えっと、俺は正直シンクみたいなことが言えないですよ。でもこんなパーティを開いてくれたこと、誠に感謝しています。ありがとうございました!それでは最後に・・・・・・・・・・・・俺、帰りませんから~」
そう言って俺は舞台を降りた。ふっ、完璧だったな。・・・・・・まぁ、驚かれたよ。知っていたシンク、ガウル、リコッタ、ジェノワーズ以外にあれこれ聞かれたよ。遺書やののくだりはもちろん話さなかったが。
やっと尋問から脱け出せて俺は用意されていたジュースをストローで飲んでいた。やっぱり美味いな。そしてたくさん話させられて渇いたのどを潤した俺は適当に料理を取って食べていた。
「駿殿~」
しばらく料理を堪能した俺にユキカゼが声をかけてきた。
「どうした、ユキカゼ?」
「いや~、驚いたでござるよ。帰らないとは」
あぁ、まだそれ引っ張りますか。俺はため息を一つついた。
そういえばユキカゼはオンミツ部隊の筆頭でダルキアンさんと共に魔物封印をして周っている。
「ユキカゼってさ、どうしてダルキアンさんと一緒に旅してるの?」
何気なく些細な質問だった。だが訊かれたユキカゼの顔には少し影が出来ていた。
しまった、これはもしかして訊いてはいけないことだったか?と俺は思った。だが気がつくとユキカゼの顔はいつも通り元気になっていた。
「拙者は土地神ということは知っているでござるか?」
「ん?へぇ、そうなんだ」
土地神って人間型のもいるんだったな。なんか動物的だと思ってた。てかそれなら魔物も人間型があるのでは?そこでふと前にあった魔人の少女を思い出したが、今はユキカゼだ。
「拙者の親は魔物に殺されたでござるよ」
「!・・・・・・・・・・・・そうか。でダルキアンさんに拾われたのか」
ユキカゼは首を縦に振った。成る程、そうか、そうか。俺は皿にのっていたトマト(と思う)を1つ口に含み、噛んで飲み込んだ。
「・・・・・・・・・・・・ユキカゼ、それでもダルキアンさんに拾われて不幸中の幸いだったな」
「あはは、そうでござるな」
明らかなから笑いだった。これは俺が悪いのか?なら何とかフォローを・・・・・・
「・・・・・・ユキカゼは俺と似てるな」
とそんな言葉がこぼれた。もちろん、その発言にユキカゼは首を傾げた。
「いや、俺もさ親、殺されたんだ」
誰にも言えず、ずっと隠していたはずの言葉は一度口に出すと空気より軽くなり、この世界にすぐに浮いて出る。そういうものらしい。
「そうでござったか・・・・・・」
「そうでござるよ、なんて。それでさ、殺したのが父さんが最も信頼していた助手だったんだ。しかも目の前で殺されたんだ」
「なっ!?」
ユキカゼは流石にこれには絶句した。
「しかもその後に俺を引き取った親戚、こいつがまた、俺をいや俺の才能を利用しようとしてきたから、もう・・・・・・・・・・・・嫌になるよ」
本当に思い出しただけで不快な気持ちになってくる。しかも!あいつらは俺がそれに気がついていないと思っていたから、これがまた厄介だった。
「本当に俺もダルキアンさんみたいな人に拾われたかったよ」
そうだったら、俺は・・・・・・・・・・・・どうなっていたんだろう?
「すまんな、こんな話して」
突然に出てきた疑問を振り払いながらそう言って締めた。
「いやいや、駿殿のことを知れたので良かったでござるよ」
「それなら俺もユキカゼのこと知れたから五分五分だよ」
人の過去に触れるということはその人について知り、深く関わることを意味する、と俺は思う。だからこれはもしかしたら俺とユキカゼの新密度がアップしたんじゃないか?
*
翌日、宣言通りシンクはあっちに帰る。たぶん道の途中で送還方法の都合により、エクレールに物を渡してたりしているだろう。
確かユキカゼにはストラップをロランさんとダルキアンさんには記念コイン、ミルヒオーレさんには懐中時計と約束の言葉を書いた手紙を渡したはずだ。
これは昨日、ビスコッティに泊まってシンクと2人で考えたりした結果だ。
そうしてそこでお別れも言ったので見送ることもせずに俺は書斎に来ていた。
「へぇ、リコッタは4色ボールペンとスピーカー貰ったんだ」
「そうであります」
リコッタ超笑顔、恐るべきシンクパワー。
「でも、駿様は本当に帰らなくてよかったでありますか?」
「いいんだよ、もう未練ないし」
「そうでありますか」
「そうであります」
「真似しないでほしいであります!」
リコッタのまねをして言ってみたがり、少し頬を膨らましたリコッタに怒られた。しかしリコッタは笑顔でも怒り顔でもかわいいな。
「お、もうそろそろ時間だ。それじゃ俺は帰るよ」
「もうそんな時間でありましたか。また来てくださいであります」
あぁ、と言って俺は書斎を後にした。なんたって今日はガレットへの就任式なのだから。
俺は外に出るなり、ライジングモードを発動。
俺は走り出した。
*
「それでは天理駿の勇者就任式を行う」
「え!?」
勇者就任式、俺はレオ様のいきなりの発言によく分からない声が出た。
「ん?どうした駿よ?」
「いや、どうしてただ単にガレットに入るだけなのに就任式とかあるのかな~て思ってたけど、まさか勇者とは。てか勇者になりませんよ、俺!」
なんかものすごい早口になってしまった。
「なに!?お主勇者にならぬのか?」
「俺言いましたっけ、そんなこと?」
そんな一悶着あった後になんとか勇者にならないことをレオ様が承諾、とりあえず今回は歓迎会となった。
こっちの兵士達と自己紹介をしあったり、いつものメンツと笑いあったり、歓迎会は何のトラブルもなく、楽しい時間が過ぎていった。
「はぁ、今日も楽しかったな」
歓迎会後、俺は1人ベッドに寝転がり、いろんなことを考えていた。
俺はもうこっちの住人だ。あっちへ帰ることはもう出来ない。別に後悔はしていない。だがやはり何かモヤモヤがある。これはたぶん今俺が考えても何も分からないと思う。分かるのだろうか、いつか?
昨日、今日の話についても考えた。
リコッタやユキカゼと話したりして少し、ほんの少しだが距離が縮まった気がする。冗談を言い合えたり出来る仲にはなったと思う。
友人か、俺はその言葉をここで何回も使ってきた。だが実際、俺はシンクを友人と思っているのだろうか?ここだけの話、俺とシンクは長期休暇とかの時に昔の馴染みで呼ばれるくらいで年に5回くらいしか会ってないし。
それに正直言うとその言葉を使ったほうが効率が良いと思ったから使ったのだと思う。だから俺に友人はいるのだろうか?そもそも友人とはなんなのか?
こんなにも何も分からないなんて初めてだった。いつも答えを出せた。いつも正解へ導けた。分からない物はないと思っていた。だがここに来て、俺は何も分からない、分かっていない。
でもそんな俺にでも分かることがある。
それは俺が勇者になれないということだ。
俺にはシンクの様に誰かの為に何かを出来ない。ミルヒオーレさんの様にみんなを元気づけて先導出来ない。リコッタやレオ様の様に誰かの為に全力を尽くせない。そんな人間が勇者になるなんてちゃんちゃらおかしいことだ。
でも真似事は出来る。俺はシンクや泣いていたリコッタの為に頑張れたはずだ。
俺は勇者にはなれない。こんなにも人間不信な自分が誰かと信じあって支え合うなんて出来るわけない。でも一度出来たんだ、きっといつか人の為に頑張れるはずだ。
エピローグは終わった。これから俺は自分の物語を歩み始める。
俺の戦いは始まったばかりだぜ!