神桜のノスタルジア   作:ヘリーR

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 暁は……なんでしょうね?


第10話「暁は……」

 前置は、以前雷斬と天下が魔人を蹴散らした市役所周辺の高層ビルの屋上に設置した監視カメラの映像を一つずつチェックしていた。

 

 「……いた」

 

 数ある映像記録の中のひとつに、二人の人物が映っていた。

 

 「やはり、というべきか……最近魔人の出没頻度が急激に増加しているとは思っていたが……奴が絡んでいたのか……」

 

 顔に左目のまわりだけが欠けた仮面を被り、灰色のオールバックにした短髪の男が映っている。

 

 「目撃情報は一切来ていない……なのに、カメラには映っている……何者だ、『鉄仮面』……」

 

 『鉄仮面』。

 一年ほど前から前置はこいつに目をつけていた。実際に、この男は一度街の外れの廃墟ビルを一棟切り刻むという奇怪なことをやってのけ、それから危険人物として指名手配されているのだが、それ以来姿を表すことはなく、しかし監視カメラ等には映っているという奇妙なことが起こっている。

 

 「だが、なんだこいつは……『鉄仮面』以上に危険な雰囲気を感じる……何者だ、一体…?」

 

 そんな『鉄仮面』の前にしゃがんでいる男。

 黒い包帯に頭を含めた上半身をくるんでいる。

 

 「これから、何が起こる…?」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「山登りに?」

 「うん。もう暑いし、ちょっとしたハイキングみたいな感じでいきたいなーと思って」

 

 今、日本は夏だ。

 ギラギラと太陽が照りつける7月。

 そんな中、暁は海ではなく山に行こうと言い出した。

 

 「別に構いませんが…なぜ山に?この時期なら、海と言いそうなものですが……」

 

 案の定、無響が訊いてきた。

 途端、暁は気まずそうな顔になる。

 

 「え、あ、いや、その……私、山が好きなんだよね。緑がいっぱいで…」

 「……泳げない、とか?」

 

 暁が硬直した。

 どうやら図星のようだ。

 

 「そそそ、そんなわけないよ、さっきも言ったけど、緑がいっぱいで――」

 

 そんな暁の必死の否定は、次の瞬間、無惨にも打ち砕かれた。

 

 「そやでー、暁は泳げへんで」

 「きゃあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!」

 

 突如放たれた九綺の援護射撃によって絶叫する暁。

 

 「ぷ、プールなら少しは泳げるもん!海は、波があるから泳ぎにくいだけだもん!!」

 「でも、少しなんですね……」

 

 否定と受け取りにくい否定を受けて苦笑する無響。

 

 「なんで言っちゃうの九綺!?そんなの知られたら恥ずかしいじゃん!同じ女なのに乙女心とか理解できないの!?」

 

 ものすごい剣幕で九綺を責める暁。

 

 「別にええやん。人はみんな弱点があるもんや。なあ、無響はん?」

 「ええ。完全無欠の人なんて世の中に存在しませんよ。恥ずかしがることじゃありません」

 「でも……」

 

 暁が何かを言い渋っていると、無響は目配せをしてくる九綺に気づいた。

 (……?)

 九綺が目線で暁を示したとき、無響は彼女の言いたいことに気づき、思わず苦笑する。

 

 「……行きますか?」

 

 その質問が自分に投げ掛けられていることに気づいた暁は、何のことか分からなかった。

 

 「どこに?」

 「プールに」

 

 その言葉の意味するところを悟った暁は、頭から湯気が出そうなほど顔が真っ赤に染まる。

 そんな暁の肩に九綺が腕をかけ、耳元で小さくささやく。

 

 「行っといた方がええんとちゃうか?無響はんと『親密に』『ベタベタ』触れあえるチャンスやで?」

 「…………!!」

 

 暁の顔が限界突破レベルで赤くなる。耳たぶどころか、耳の中まで真っ赤だ。

 数秒の沈黙の後、暁は、

 

 「…………………うん」

 

 と、小声で頷いたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「無響さんと……たくさん触れあえるチャンス………じゃなくて、泳ぎ方を教えてもらうんでしょ私!そこ勘違いしない!」

 

 唐突に与えられた『無響とプール』という時間を目の前にし、暁は更衣所で水着に着替えながら独り言をブツブツ言っていた。

 

 「九綺ってば、ほんとにあっさりとすごいこと言うんだから……おかげで、変な考えが頭から離れないじゃない…んもう」

 

 事情を知らない周りの人たちからすれば、少しおかしな人に見えたかもしれない。

 

 

 何はともあれ、着替えを終えた暁は更衣所を出て、待っていた。

 少し遅れてサーフパンツに着替えた無響が出てきた。

 

 「すみません。待たせてしまいましたか?」

 「い、いやいや、私もさっき出てきたところ」

 

 そんなことを言いつつ、暁は無響の姿を眺める。

 普段は帽子で隠れてしまって見えない切れ長の目、いつものスーツ姿では想像もできないほど引き締まった肉体。

 暁は思わず見とれてしまっていた。

 

 「……どうしました?」

 「へ?いや、何もないよ?大丈夫」

 「そうですか……」

 

 もちろん、暁は心の中でこう思っている。

 (あなたの肉体美に見惚れてたとか、言えるわけないじゃん……!)

 

 しかし、そんな暁の思いは彼女も気づかぬうちに顔に出てしまっており、彼女が無響に抱く思いの強さは無響も薄々感じ取っているところだ。

 そんな無響は顔を赤らめた暁を見て、思う。

 (反応が露骨ですね……見ているこっちが恥ずかしくなってしまいますねぇ)

 もちろん、顔には出さない。

 

 「じゃあ、とりあえずは入水して、水に体を慣らしましょうか」

 「う、うん」

 

 プールは、もちろん泳ぎの練習に適した8レーンの25㍍プールだ。

 

 二人は、初心者向けの浅い8レーン目に入水した。

 

 「あ」

 「…どうしたの?」

 「準備運動を忘れてましたね」

 

 無響は申し訳なさそうに頭を掻きながら言った。

 いつもなら、そのままスルーしてしまうような何気ない仕草。

 だがそれでさえ、無響への意識がマックスになっている今の暁にとっては、いわゆる『胸キュンポイント』であった。

 

 (……か、可愛い……!いつもあんなにクールにキメててカッコいいのに、たまにこんな可愛げ見せるとか、どれだけ素敵な人なの無響さんは!!)

 

 さすがに今の場面で暁がそんなことを思っているとは、無響には分からなかった。

 

 「…とりあえず一旦プールサイドに上がって、軽く準備運動しましょうか」

 「う、うん。そうだね」

 「すみません、面倒なことをさせてしまって」

 「気にしなくていいよ、私はこれからあなたに泳ぎを教えてもらうんだし、そんなことで不機嫌になったりしないよ」

 

 二人はプールサイドに上がり、屈伸や伸脚、前後屈等、準備運動をして、再び入水。水温に体を慣らす。

 

 「……さて、ではそろそろ練習を始めましょうか」

 「うん」

 「ではまず、一番泳げない種目を教えてください」

 「……」

 「……どうしました?」

 「私……全部泳げない」

 

 さすがの無響も絶句。

 

 「え、えーと…泳げないって言うのは、クロールや平泳ぎのようなものですよね?まさかバタ足もできないってことは…」

 「……ごめんなさい。私、バタ足ですら少ししか泳げないの……」

 「…………」

 

 これは相当な強敵だ。

 

 「具体的には、…どれくらいしか、泳げないんですか?」

 「5㍍、くらい、だと、思う」

 「それは、その……まあ、頑張りましょう」

 

 涙目で言われてはどうしたらいいか分からない。無響も、うまいフォローの言葉が見つからなかった。

 

 「まあとりあえず、1度泳いでみましょう。フォームを見ないことには直しようもありませんから」

 「………」

 

 暁は顔をそむけてなかなか泳ごうとしない。

 

 「どうしました?」

 「やっぱり、恥ずかしいよ……無響さんに、こんなところ見られるなんて……」

 

 赤らめた顔でうつむいてそう言う暁に、無響は思わずドキッとしてしまった。

 しばらく沈黙が流れる。

 それから無響は、気を取り戻した。

 (私としたことが……まさか、こんなことで意識を奪われてしまうとは)

 

 「……まあ、気持ちは分からなくもないですが、そればっかりは我慢してください。いずれは人に見られるかもしれませんよ?」

 「…そうだね」

 

 意を決したように暁はゴーグルを装着する。

 

 「じゃあ、まずはバタ足から…」

 「ええ。お願いします」

 

 暁が壁を蹴り、しばらくしてから、足を動かし始める。

 無響はすぐに直すべきポイントがわかった。

 

 「ぷはぁっ!やっぱり、全然進まないな…」

 「膝が支点になってしまっていますね」

 

 暁は、何のことだか分からない。

 

 「つまり、膝を曲げることで脚を動かし、水を蹴っているんです。支点から作用点、つまり足の先までの距離が短いからトルクも出ず、推進力が低いです」

 「どう泳げば良いの?」

 「脚をちゃんと根元から動かして、膝は力を抜いて、なるべくまっすぐに。脚全体を使って推進力を出すんです」

 「なるほど……やってみるね」

 

 暁は再び泳ぎ始める。

 今度は、さっきとは明らかに違い、スイスイと進んでいった。

 

 「ぷはぁっ!……!!すごい!すごい進んでるよ無響さん!」

 「良い調子です。それだけできれば、クロールも簡単にできるようになるでしょう。この調子で、今日中にクロールまで泳げるようにしましょう」

 「よーし、頑張るぞー!」

 

 子供のように気合いをいれる暁を見て微笑ましく思いながら、無響は彼女の適応力の速さに舌を巻いていた。

 (おそらく、もとの身体能力が高いんでしょう……今まで泳げなかったものを、問題点を指摘しただけで直してくるとは……)

 

 「じゃあ次は、クロールの腕の動きを教えます」

 

 そう言って自分でも腕の動きを再現しながら、暁に動きを教える。

 

 「う~んと……こう?」

 「ちょっと違いますね……失礼、手首をお借りします」

 

 そう言って無響は暁の手首を優しく握る。

 そんなことをすれば、暁が「ボフッ!」となるのは当たり前なわけで。

 

 「腕をここまで持ってきて…そこから水上に腕を出して……入れ替わって、もう一方の腕も同じ動きをします」

 

 なんとか意識を保ち、無響の話は聞けているものの、暁の心臓はあり得ないほど激しく鼓動を打っていた。

 しかしふれあえば何かしらあるのだろうか。

 暁の腕を動かしていた無響の手が、暁の胸に当たってしまった。

 これには、さすがに耐えきれなかった。

 突如脱力する暁。

 

 「……暁さん?」

 

 あまりの刺激の強さに、暁は気絶してしまった。




 暁は……泳げない、ということです(笑)。
 今回は完全におのろけです。
 次回もまだまだのろけますよ~
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