かくして、パトロールへと出掛けていった無響と暁。
街中はいたって平和である。
「こうやって見ると、のどかだよね、この辺」
「そうですね。のどかなのはいいことです」
パトロール……というものの、現状何か事件など起きていないので、端から見れば『デート』である。
二人に関して、ありとあらゆることが九綺の思い通りに進んでいることなど、二人は知るよしもないのだった。
「あっ、おじさん、クレープ2つちょうだい!」
暁はおいしそうなクレープの屋台を見つけたようだ。
「はいよ、まいどあり!お嬢さん、後ろで待ってるスーツの兄ちゃんは彼氏かい?」
「………へっ!?」
暁の頭から湯気が上る。
「図星のようだな!ま、頑張れよ!」
そう言って屋台の店主は2つのクレープを暁に渡す。
「………あ、あ、あ、ありがとうございますっ!失礼します!」
暁はクレープを受けとると顔を真っ赤にしながら猛ダッシュで屋台から離れていった。
「いいねぇ、青春ってのは………あ、お代もらってねえや。……まいっか、2つくらいタダであげても」
太っ腹な店主だった。
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クレープを2つ買った無響と暁は、近くの公園のベンチに座る。
「ストロベリーとチョコバナナ買ってきたけど、どっちが良い?」
「暁さんはどっちが食べたいんですか?」
「え?わ、私はストロベリーが良いな」
「じゃあ、私はチョコバナナで」
「……う、うん」
顔を少し赤らめながらチョコバナナのクレープを無響に手渡す暁。
「ありがとうございます。では、いただきます」
「い、いただきます」
二人並んでクレープを食べる。
「………お、おいしいね」
「はい。おいしいです……ん」
「………?」
気がつけば無響は暁の顔を見つめている。
「………な、何?」
「クリーム、頬に付いてますよ」
無響はそう言いながら暁の頬からクリームをさらう。
突然のことに暁は顔を真っ赤にして固まってしまった。
「……早く食べないと、クリームが溶けますよ?」
「…………………ハッ!そ、そうだね」
照れ隠しにクレープを急いで食べる暁。
無響は傍らでゆっくりと残りのクレープを平らげる。
どこから誰がどう見てもデート中のカップルだ。
「ふぅ……ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
クレープを食べ、二人は再びパトロールへと向かう。
「住宅街は大丈夫ですね。次は、繁華街の方に向かいましょう」
「うん」
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ここは名古屋のとある繁華街……の裏路地。
賑やかな繁華街とは別の意味で賑やかだ――喧嘩の音や敗れたものの呻き声を、賑やかというのであればだが。
荒くれ者たちがうろつき、何かにつけては喧嘩をするようなところである。
そこに普通の人が迷い込めば、無事では帰ってこられない。
そこに今、一人の若い、気弱そうな男性が迷い混んでしまった。
「ど、どこだここ?街の反対側に回る近道があるって聞いて入ってみたけど……ワケわかんないぞ!」
その噂はもちろん『裏路地の住人』たちが流したガセだったのだが、こうして信じて裏路地に入ってしまう人がいるのだ。
だいたいそういう人は所持金を盗られ全身アザだらけになって帰ってくる。
この男性にもそんな未来が見え始めていた。
「よぅ!兄ちゃん!」
「ひいぃ!」
男性に近づいてきたのは、ガタイの良い男が6人。
「なあなあ、金持ってない?道に迷ってるっぽいし、恵んでくれたら大通りに帰してやるよ~」
大嘘である。
「お、お金!?ないです!150円しか持ってませぇん!」
男性の悲痛な叫びを聞いて、男たちの表情が変わった。
「………けっ、使えねぇ。おいてめえら、コイツどうするよ?」
「「「「「ボコボコにして追い出す!」」」」」
残りの5人が口を揃えて言った。
「………というわけだ兄ちゃん、悪いけど、サンドバッグになってもらうぜ?」
「ひ、ひぃぃ、許してください!」
「残念、俺らの辞書に慈悲って言葉ななくってなぁ!」
「―――何してるの、ガラの悪いお兄さんたち?」
「ッ!!」
いつの間にか、男たちの後ろに一組の男女がいた。
男――少年のほうは、中学生くらいと見える。ドクロの刺繍が施された帽子を被り、焦げ茶色の髪はボサボサだ。女――少女の方は、まだ小学生だろうか。黄色のセミロングの髪は下ろしてあり、前髪はピンで止められている。
「……おいおい、どうしたのかなチビッ子たち。こんなところに来ちゃいけないよ?」
「チビッ子じゃねぇ、14歳の平均身長はあるし。ていうかこっちの質問に答えなよ、何してるんだ?」
「………チッ。何してると思うんだ?」
「「この路地裏にあろうことか迷い込んだ気弱そうな男の人を恐喝してると思う」」
少年と少女、息ぴったりに長文をハモった。
「……すげえな、大正解だ。だけど、あろうことか迷い込んだのはお前らもじゃないのか?」
数瞬後。
思いがけない答えが返ってきた。
「そこの男の人のビビったような声が聞こえてきたから、何かあったと思って来たんだよ。それに―――」
「―――私たち、お兄さんたちみたいな強がってるだけのカスに負けるつもりはないよ?」
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無響と暁は繁華街に着いた。
「……さて、繁華街というと……路地裏が気になりますね」
「そうだね。あそこは危険区域だから。うぅ……別に大したやつはいないけど、気が乗らないなぁ」
「だいたい怒号か血か呻き声が飛び交ってますからねぇ……正直、私も行きたくないです」
防衛ギルドの主要メンバーたる無響と暁でさえも尻込みしてしまうほど、繁華街の裏路地は治安が悪い。
強敵がいるとか、そういうのではない。ただ、居心地が悪いのだ。
どんなに注意をしても裏路地を徘徊する悪性な輩が減らず、警察はもちろん、防衛ギルドすら悩ませている。
コンスタントにパトロールするしかないのだ。
「道に迷わないようにしないといけませんね」
「そうだね。かなり複雑だもんね」
二人は警戒しながら裏路地へと入っていく。
すると、
「生意気なこと言ってんじゃねぇこのクソガキぃ!」
と怒号が聞こえた。
「ッ!!今のは!?」
「あちらの方ですね…急ぎましょう!」
声のした方向へ走る二人。
見えたのは、6人くらいのガラの悪そうな男たち。脇には、気弱そうな男性が一人、怯えている。
彼らの前には、二人――少年と少女が、すました顔で6人のなかで最も前にいる人物――怒号を放った本人だろう――を睨み付けている。
「……生意気、ね。街の反対側への抜け道があるなんてガセネタ流して、まんまと騙されて入ってきた人に手当たり次第に声かけて金盗ってアザだらけにして大通りに返すあんたらのほうが、よほど生意気だと思うんだけどな。な、蝶香?」
「お兄ちゃんの言う通り。あなたたちの方が、私たちなんかよりずっと生意気」
どうやら、少年と少女は兄妹のようだ。
そこまで瞬時に分析した上で、無響と暁は制止に入った。
「そこ、何をしてるんですか?子供に手を出すなど―――」
「―――いや、それに関しては俺らが自分から首突っ込んだんだ、止められる筋がないよ」
「うん。だから心配しないで大丈夫。私たちより、そこの男の人を助けてあげて」
制止を、制止された。
「……暁さん、彼を、こちらに」
「へ?あ、うん、わかった」
暁は警戒しつつ、男たちの傍らにいる男性を助けに行く。
すると、
「……オラぁ!」
案の定男の一人が蹴りを繰り出してきた。
暁は応戦する気満々だったが、
「手ェ出してんじゃねえよ!!」
と、少年がその蹴りに干渉した。
予想外の反応速度と力の強さに、男は驚く。
「ッ!こいつ……」
男が怯んだところを見て、暁は脅されていた男性を連れて戦線から離脱する。
「大丈夫ですか?」
暁が連れてきた男性に無響が声をかける。
「は、はい。なんとか。怖かったぁ…」
男性の無事を確認した無響は兄妹の方へ視線を移す。
「―――ッ」
そして、戦闘になると見て既に構えていた兄妹の姿を見て、怯んだ。
「………どうしたの、無響さん?」
「この、感じは………」
無響はあるデジャヴに襲われていた。
今まさに戦闘に移ろうとしている兄妹。その二人から醸し出される、ある雰囲気に、無響は怯んだのだ。
「………間違い、ない。これは、魔王の――――」
「………え?」
魔王と戦い、打ち破った無響だからこそ分かる感覚。
「―――魔王の、気を………感じます」
「…………」
無響の話を聞いた暁は呆然として兄妹を見るしかない。
――――――魔王の、気?
呆然と立ちすくんでしまった無響と暁の前で、兄妹はその力を見せつける――――――。
なんだか現実味に欠けるかもしれないです。
150円しか持ってないって、子供じゃあるまいし。
まあ、そこはご愛嬌ということで。