無響曰く、『魔王の気』を纏った兄妹は、戦闘態勢に入ってなお、男たちを見据える。
その目には、怒りと、少しばかりの冷やかな軽蔑が含まれていた。
その視線の先にある男たちは、その軽蔑を感じ取ったのか、
「……んだオラ。くたばれェ!」
と、突如激昂して兄妹に殴りかかった。
兄、妹、それぞれに3人ずつ。妥当ではある。が……、
その激昂を兼ねた突撃は一人目であっけなく止むことになる。
兄妹はそれぞれ先頭にいた男の拳を片手で受け止める。
それを見た残りの男たちは、怯んで足が止まってしまった。
そして、
「……くたばるのは、そっちだ」
と兄のほうが言ったかと思うと、ポキポキと小気味いい音が鳴り、直後断末魔が響く。
拳を止められた男が握り拳を握り潰されたのだ。
それを見た残りの男たちは、恐怖を顔に浮かべ逃げようとする。
しかし。
それは、兄妹が許さなかった。
二人の姿が消えたかと思うと、逃げようとした残りの男たちの道を塞いでいた。
「なっ……!」
「……全員、三途の川の前で反省しろ」
そして再び兄妹の姿が消えたかと思えば、男たちの後ろに現れた。
数瞬後。
男たちは勢い良く宙を舞い、無惨にも地に落ちた。
「………すごい」
一部始終を見ていた暁が呟く。
無響も絶句している。
「………あ」
呆然としていたのから立ち直った無響は、携帯電話を取り出す。
「……もしもし。後付さんですか?繁華街の裏路地で6名、『住人』を倒しました。処理をお願いします。ええ、ええ……頼みました」
無響は電話を切ると、目の前に兄妹が来ているのに気づいた。
「……なんでしょうか」
二人の『気』に少し圧されている状態だが、平静を装って訊ねる。
「……聞こえてたよ。俺らから、魔王の気を感じたって?」
「……ええ」
「どうして分かる?」
「……それは、なんとも言えませんね」
無響は少し困り顔で少年の質問に返答する。
「………そうか」
少年の顔が沈む。何か考えているようだ。
「…ひとつ、お願いがある。いいか?」
「ええ。なんですか?」
「……あなたたちの家に泊めてほしい」
「………へ?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……と言うわけで、この二人を連れてきました」
所は変わりカフェ『ノスタルジア』店内。
帰ってきたのは無響と暁だけでなく、二人の子供も付いてきた。
「では、自己紹介をお願いできますか?どちらからでも構いません」
「はいはーい!じゃ、私からで良い?お兄ちゃん!」
「ああ。構わねぇよ」
「はじめまして!
「あー……ご紹介に預かりました、蝶香の兄の蝋月
妹――蝶香は、肩甲骨の下まで伸ばした金髪、前髪はピンで止めている。
兄――音式は、ボサボサな焦げ茶色の髪が特徴的で、ドクロの刺繍が入った帽子を被っている。
「花舞無響です。よろしくお願いします」
無響以下、ノスタルジアメンバーが順に挨拶をし終えたところで、音式が急に話を切り出してきた。
「それで……無響さん、魔王の気を感じたって話、詳しく聞かせてもらえませんか?」
「む…」
『魔王』という言葉に反応する人物がノスタルジアメンバーの中にも少なからずいるわけで、突如問われた無響も少しばかり戸惑ってしまう。
「魔王………だと?無響、どういうことだ?」
案の定、唖門が訊ねてきた。
「……こればっかりは、見てもらった方が早いかもしれませんね。唖門なら、見ればわかるでしょう。そうですね……、風切さん、ひとつお願いできますか?」
「……?はい」
「この建物の庭、その奥に鉄でできた倉庫のようなものがあるのですが、わかりますか?」
「……ああ、入ったことはないけど、見たことはありますね」
「あそこ、実は闘技練習場なんですよ。そこで、あの二人のどちらかと、戦って欲しい」
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そして、やって来たはカフェ『ノスタルジア』の裏、メンバーたちの暮らす部屋がある棟を抜け、出た庭の奥にある闘技練習場。
防衛ギルドの練習場だけあって、かなり丈夫な造りになっている。
戦闘フィールドの片方に立っているのは、《聖裁人》風切雷斬。
対するは、ドクロの刺繍が施された帽子を被った少年――蝋月音式。
ノスタルジアの他のメンバー、そして音式の妹、蝶香は、小さいながら設けられたギャラリー席に座っている。
「では、どうぞ。始めてください」
無響の開始の合図と共に、雷斬が消える。
気付いたときには、音式の目の前だ。
「先手もらったァ!」
雷斬は意気揚々と電気を帯びた拳を突き出す―――が、避けられてしまう。
「ッ!?なんのッ!」
避けられたことに怯まず、雷斬は立て続けにパンチを繰り出す。
しかし、それも見切られ、避けられる。
「彼の動き、私に攻撃してきたときと同じパターンです……であれば、次の彼の一手は……」
無響の読みは当たった。
雷斬は、パンチを避け続けている音式の足を払いにかかった。
しかし、その足払いまでもが、避けられた。
ジャンプすることで、足払いを避けたのだ。
「ッ!?」
音式はそのまま空中で1回転、回し蹴りを食らわす。
雷斬はクロスさせた腕で防いだが、その威力の大きさに少し後ろへ飛ばされた。
「ッ……、こいつ……」
「次は俺が攻撃する番だな」
そう言って攻撃モーションに入った音式を見て、―――唖門が怯んだ。
「………!これは……」
「分かりましたか?」
「こいつは……確かに、魔王の気だ…」
無響ならず、唖門までもが彼から魔王の気を感じたことで、他のノスタルジアメンバーも戦慄する。
音式が一気に地面を踏み込む。
彼の身は勢いよく前へと飛び、瞬時に雷斬との距離を詰める。
「……ハアッ!」
音式が飛んだまま蹴りを繰り出す。
雷斬は間一髪でそれを避けた。
そこから続く音式の怒濤のラッシュ。
雷斬は圧倒され始める。
「くっ…………!」
「まだまだ終わらせないよ!いつまで避けれるかな?」
「………っ、この野郎……!」
音式の攻撃を、雷斬は避け、防ぎ、また避け、また防ぐ。
少しずつ、雷斬が押されていく。
音式の攻撃が当たり始めた。
「ぐっ……が……っ」
「とどめだ!」
そうして音式が放ったパンチは、しかし雷斬に当たらなかった。
雷斬の体が霧散したのだ。
「ッ!?」
「ふぅ、危なかったぜ」
「!?どこに………?」
そうして声の聞こえた方を向けば。
「なっ!?」
雷斬は、空中に浮いていた。
自身の能力で作り出したであろう雷雲の上に、乗っているのだ。
これには、雷斬の対戦相手である音式だけでなく、観戦していたノスタルジアメンバーも驚いた。
「さァて、上空から一方的に攻撃させてもらうぜ!」
雷斬の乗っている雲がゴロゴロと音を立て光り出したかと思えば、次の瞬間には雷撃が音式を襲っていた。
「…ッ!」
音色はギリギリでそれを避ける。
「オラオラァ、さっきまでの威勢はどうしたぁ!?」
際限なく襲いかかる落雷。
ついに音式は追い込まれた。
「くぅ………っ」
「そぉらよ!」
とどめとばかりに放たれたこれまでで最高威力の雷撃は、的確に音式を捉えた。
そして―――――――――。
兄妹の力とか言っておきながら、兄の音式しか戦ってません。
まあ似たような感じだということで。そのうち蝶香も戦いますから。