神桜のノスタルジア   作:ヘリーR

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第15話「兄妹の力 後編」

 そして―――――――雷撃が止み、舞った砂ぼこりが晴れると。

 そこに音式の姿はなかった。

 

 「ッ!?バカな、確実に捉えたぞ!?」

 

 ギャラリー席にいた無響たちから見ても、雷斬の放った雷撃は確かに音式を捉えていた。

 これを見て驚いていないのは蝶香だけである。

 

 「くそっ……一体どこに……」

 

 すると。

 雷斬はふと、後ろに気配を感じた。

 

 「――――――ッ!?」

 

 音式がいた。

 空中に浮かんでいる、雷斬の後ろに。

 

 「な……………」

 

 そして放たれた音式の攻撃は、パンチでもキックでもなく。

 彼の能力か――――ビームだ。

 突き出した右手から放たれた黒色の波動は、雷雲を消し去り、雷斬を地面に突き落とした。

 

 「がっ…………」

 

 地面に叩きつけられた衝撃で雷斬の口から空気が漏れる。

 

 「さっきは危なかったよ。次はこっちの番だ!」

 

 そう言って音式が右手を上に挙げると、巨大な黒い球体が現れた。

 球体から立て続けに黒い弾が放たれる。

 背中から落ちた雷斬は今無防備だ―――と思ったのも束の間。

 弾がすべて弾かれる。

 

 「…………障壁、か」

 

 風で作られた壁が雷斬を囲み、守っていた。

 

 「…へっ、そう簡単にやられねぇよ」

 

 雷斬が立ち上がり、風の障壁が壊れたかと思うと、彼の左手に纏われる。

 そして、その左手を突き出すと、強風が音式へと襲いかかる。

 風に襲われて体勢を崩さないよう踏みとどまっている音式に対し、雷斬はさらに追撃で右手から雷を放つ。

 

 「………」

 

 強風と雷撃が止むと。

 

 「………チッ、お前もか」

 

 黒い障壁が音式を包み、守っていた。

 

 「はッ!」

 

 障壁を解放、音式が黒弾を放つ。

 雷斬はそれをかわし、こちらもまた風を固めたような弾を放つ。

 音式はそれを避けた。が………。

 

 「………ッ!!?」

 「ハハッ、今さら気づいても遅いぜ!」

 

 再び上空には暗雲が立ち込めていた。

 その暗雲から音式目掛けて落ちる雷。

 しかし、雷の落ちた後には音式はいなかった。

 

 「これでは、先ほどと同じような……」

 

 無響は、先と同じ、音式が後ろに回り込んで雷斬を追い込む図を想定していた。

 しかし、雷斬も馬鹿ではない。

 果たして、音式は無響の読み通り、雷斬の後ろに回り込んだ。

 だが、彼が目にしたのは、自分の行動を先読みし、電気を纏った拳を高く挙げている雷斬の姿であった。

 

 「しまっ………!」

 「オラぁ!」

 

 鉄槌が下される。

 音式は間一髪腕をクロスさせてガードしたが、そのパワーはすごく、音式の足は少し地面にめり込み、二人を中心として半径5mほどの円状にひび割れた。

 

 「くっ………!」

 「純粋なパワー勝負はさすがに俺の方が上だな!」

 

 ガードされた右手にさらに力を込める雷斬。

 纏われる電気も少しずつ強くなり、音式も徐々にダメージを負っていく。

 

 「………ふぅッ」

 「……………?」

 

 しかし音式は降参する気はなさそうだ。

 クロスさせている腕、手首をひねり手のひらを向かい合わせたと思うと、その間に魔力が集まり出す。

 

 「……ッ、てめ…………ッ!」

 「さあ、吹き飛べッ!」

 

 言うや否や、その魔力は小さな球状に凝縮され、解放――――爆発した。

 雷斬は咄嗟に跳び退いたが、逃れられなかった。

 爆風をもろに受け、反対側の壁に叩きつけられる。

 

 「………が、はっ……」

 

 壁から落ちた雷斬は、倒れはしなかったものの膝をついた。

 

 「………そこまでです。戦闘終了」

 

 ここで、観客席の無響からストップコールが出た。

 

 「お二人とも、ありがとうございました。まさかここまで滅茶苦茶になるとは思いませんでしたねぇ」

 

 そう言われて、音式と雷斬は初めて冷静に辺りを見回した。

 ひび割れた床。凹んだ壁。辺り一面ボコボコである。

 

 「「あー………」」

 「お二人とも、かなり夢中になってましたから。無理もないです」

 「こんな良い勝負見れるとは思わんかったわぁ。二人ともすごいやんか」

 

 九綺が感心している。

 

 「別に……そこまで……」

 「そんな大したことは………」

 

 雷斬、音式、二人揃って謙遜する。

 だが、九綺は戦闘における鑑識眼に長けているのか――――見破っていた。

 

 「いや、すごいて。だって二人とも……本気出してないやろ」

 

 「ッ!!」

 「な………!」

 

 衝撃を受ける二人。

 

 「………どうして分かるんですか?」

 

 音式が問う。

 

 「……うーん、何て言うんやろなぁ。まだ、自分の能力をすべて出しきってない……そう感じたんや」

 「「…………………」」

 

 二人揃って絶句。

 この二人、良いコンビになるかもしれない。

 まあ雷斬には天下が、音式には蝶香がいるわけだが。

 

 「……まあ、こんなとこで立ち話もなんやから、戻って暁のコーヒーでも飲みながら話そうや」

 「えっ?何?ここでいきなり私?」

 「別にいきなりでもなんでもないやん。コーヒー提供するのは暁の仕事やろ?」

 「む………まあ……そうだけど」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 そうしてメンバーと蝋月兄妹が戻ってくると、カウンター席に一人の男が座っていた―――後付前置だ。

 

 「…お、来た来た。処理を終えたから連絡ついでにと寄ってきたら、誰もいないんだからね。席を空けるときくらい施錠しておかないと危ないぞ?」

 「おや、これは失敬」

 

 無響が謝ったところで、前置の目線はあの二人に向く。

 

 「……この子達は?」

 「裏路地で会ったんです。『住人』を倒したのは、彼らですよ」

 「………何?」

 

 驚くのも無理はないだろう。しかし、前置はさらに驚くことになる。

 

 「それに、私も唖門も、彼らから魔王の気を認識してます」

 「ッ!?……それは本当か?」

 

 魔王と戦い、倒した二人が、揃って同じことを言うということは、それだけ信憑性が高い。

 

 「ええ。魔王の気と同じ……もしくは限りなくそれに近いものを感じました」

 「…………二人とも、名前は?」

 

 前置は質問対象を無響から話題の中心である蝋月兄妹に切り替える。

 

 「蝋月音式です。よろしくお願いします」

 「妹の蝋月蝶香です!」

 「後付前置だ。よろしく」

 

 互いに挨拶を交わしたところで、暁が全員分のコーヒーを持ってきた。

 

 「今日はアメリカンだよ。音式くんと蝶香ちゃんは甘めのカフェラテにしといたけど大丈夫?」

 「問題ないです」

 「ありがとうございます!」

 

 各々飲み物に口を付け、一息ついたところで前置が話の続きを切り出す。

 

 「……で、音式くんに蝶香ちゃん。君たちは自分の能力が魔王のものに酷似していると認識しているのかい?」

 「いえ。裏路地で無響さんがつぶやくまでは魔王なんて考えになかったです」

 「そもそも、私たちは自分の能力が誰から継がれたものなのか知りたくて旅してたんですから!」

 

 『…………へ?』

 

 聞いていたメンバーのほぼ全員がすっとんきょうな返事をした。

 

 「旅……だって?じゃあ君たち、学校は?」

 「「通ってません」」

 「……………」

 

 前置以下、全員絶句。

 

 「……それはあまり喜ばしくないな。治安を守る者としては、やっぱり社会の縮図たる学校には行ってほしい」

 

 衝撃からいち早く立ち直った前置が二人に向けて言う。

 

 「それは分かるんですけど…自分達のルーツ探しを諦めたくないんです」

 

 音式が深刻そうな顔で言う。

 蝶香も隣で必死に首を縦に振っている。

 

 「うーむ、しかしだなぁ……」

 「じゃあ、ここから通えばええんちゃう?」

 

 突如九綺からものすごい言葉が発された。

 

 「「………へ?」」

 「ルーツとまでは行かへんけど、ヒントは得たやんか。魔王につながってるかもしれんのやろ?なら、そこから辿っていくのにここよりええとこはないわ。泊まるどころかここに住んで、ここから学校に通えばええんや。ほら、双方の意見を両方とも飲めとるやろ?」

 「「「………まあ、確かに」」」

 「んじゃ、今日からここに仮住まいや。にぎやかになるのはええことやし。無響はん、まだ部屋に空きあるやろ?」

 「ええ。問題ないです」

 「ほ、本当にいいんですか?」

 「大丈夫ですよ。歓迎します」

 「………あ、ありがとうございます!」

 「ありがとうございます!」

 

 兄妹、二人揃って礼儀正しく深々と礼をする。

 ここに、仮の形ではあるが、また新しい仲間ができた。




 兄妹の力というサブタイトルにも関わらず、兄しか戦ってません。
 蝶香の出番はまだ来ないかなぁ。
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