とりあえずはこちらの作品を優先して作っています。
音式、蝶香と『ノスタルジア』メンバー、そして前置が話をしていた頃と同時刻。
とある森。その中にひっそりと立つ旅館。
既に営業は停止しており、あとは存在を徐々に忘れ去られていくだけだが、営業を停止したのは少し前のことであり、『新しい廃墟』となる。
その中にひとり、静かに立つ者がいた。
左目の周りだけが欠けた仮面を被った、灰色の髪をオールバックにした男―――《鉄仮面》。
「なるほど………良くできた建物です。ここなら、拠点にすることができるでしょう」
もし周りに人がいたら、「こいつは一体何を言っているんだ?」といぶかしむだろうが、ここには彼以外の人物は見当たらない。
「……では、準備を始めましょうか」
そう言って動こうとしたその時、旅館のドアが勢いよく開け放たれた。
「動くな!」
入ってきたのは警官隊。30人ほどの人数で、全員拳銃を構えながら《鉄仮面》の周りに広がっていく。
「おや。誰にも見つかった覚えはありませんがね。いつバレたのやら」
「偶然だ。偶然にも、私が貴様をこの旅館の近くで見かけただけのこと」
どうやら、警官のひとりが偶然彼を見かけ、警官隊を召集したらしい。
「はい!すべては巡査部長の才能によるものです!」
「いや。これは本当に単なる偶然だ。誉められても困る」
どうやら《鉄仮面》を見つけた彼は、巡査部長のようだ。
「それはそれは……巡査部長。なんと運が良く……そして、運の悪い方なんでしょう」
《鉄仮面》が矛盾したことを言った。
「……なんだと?」
「いえ。私が勝手に憐れんだだけです。お気になさらないでください」
「……ならいい。さあ、観念しろ《鉄仮面》。お前もいよいよ、正義の下に裁かれる時が来たのだ」
刹那。
仮面越しではあるが、《鉄仮面》の顔色が変わった。
「………正義、ですと?」
「ああ、そうだ。お前ら、捉えろ!」
巡査部長の掛け声がかかると、警官たちは一斉に《鉄仮面》の方へ走る。
どうやらここで殺すのではなく、捕まえようと試みているようだ。その証拠に、彼らは拳銃を構えたままである。危険を感じたら射殺する方針だろう。
「全く……私は人殺しはあまりしたくないのですが」
《鉄仮面》が言ったことに、何を今さら、と思うものはいるかもしれないが、事実、彼の所業は建造物破壊などが主であり、殺人はあまり犯していない。
「あなた方が正義などという虚構に取りつかれているから、あなた方は私を捕まえようとし、それゆえに私はあなた方を殺してしまう……悲しいことです」
一人勝手に悲しんでいる《鉄仮面》など意にも介さず、警官たちは突っ込んでいく。
「これはあなた方が正義などという盲信に従って行動したが故の結果……なので、あなた方の自業自得だということを踏まえた上で――――」
《鉄仮面》が右手を上げると、その手に刃渡り1メートルはあろうかという巨大な鋏が握られる。
すでにその刀身は、禍々しい魔力を帯びており、彼の行動に危険を感じた警官たちが一斉に拳銃を発砲するが――。
「―――死んでください」
一閃。
すると、発砲された弾丸は愚か、周りの警官隊が一人残らずその姿を消した。
数瞬後。
消えた警官隊が、消える直前の場所に、消える直前の姿のまま現れた。
外傷などない。
しかし、彼らの表情は苦悶の色に満ちており、生気は感じられなかった。
そのままバタリと倒れる警官たち。
何が起こったか分かるのは、《鉄仮面》ただ一人。
「………はあ。一般人ならともかく、警官に見つかったのではここは警戒されてしまうでしょう。良い場所だったのですが」
彼は恐らく、警官たちの情報網から《極幻》に情報が渡ることを考えているのだろう。
「仕方ありません……処分しましょう」
そう言うと彼は、旅館の外に出て、警官たちを殺した鋏を再び取りだし、一閃。
一瞬にして旅館はガラガラと音を立て崩れ落ちた。
「……では、次の拠点候補を探しますか」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
音式、蝶香のカフェ『ノスタルジア』住まいが決まり、いろいろと話が盛り上がっていた頃。
前置の携帯の着信音が鳴った。
「む。………ちょっと失礼」
無響たちに断りをいれてから席を立ち、電話に出る。
「もしもし、僕だ。どうした?……………………何?分かった。報告ありがとう」
前置は通話を切り、悲痛な面持ちで場に戻る。
「……何の連絡でしたか?」
無響が前置に問う。
「最近、森の旅館がつぶれたことは知っているかい?」
「ええ。なんでも、場所が場所なため客が来なかったんだとか」
「……ついさっき、その旅館が瓦礫となり果てているのを発見したそうだ」
「ただ崩れただけでは?」
「いや、それだけじゃない………その瓦礫の下から、30名ほどの警官の死体が発見されたそうだ」
「……!!」
警官たちの死体。
これが示すものは―――。
「……それは、ものすごい犯罪臭がしますねぇ」
「ああ。かなり臭うな」
突如瓦礫と化した旅館。多数の警官の死体。前置は、とある仮説にたどり着いた。
「瓦礫、ね………嫌が応でも、《鉄仮面》が浮かぶな」
「彼の主の犯罪は建造物破壊でしたっけ?」
「ああ。皆が思うほど、殺人などは犯していない。危険人物であることに変わりはないがな」
「しかし今回は警官の死人ですか………偶然にも見つかり、包囲されたためにやむ無く殺した、といった感じでしょうか」
「その推測はあながち間違ってはいないだろうな。全く……手柄を立てようとでも思ったのか……」
自らの管轄で同じ仕事に就く者たちが殺められたことに、落胆を隠せない前置。
「……とにかく、厄介な事態が起こったのは確かだ。速やかに対処に当たると共に、原因を突き止めたい。協力してくれるか?」
「当たり前です。放っておくのは絶対に良くないでしょう」
「もし《鉄仮面》の仕業なら、かなりの長丁場になると思われるが?」
「構いません。二つ目、三つ目とその凶人の手に掛かって被害が増えるよりは遥かに良いはずです。これは、私個人の意見でなく、『ノスタルジア』メンバーの総意だと思いますが?」
「………!」
見れば、いつの間にか全『ノスタルジア』メンバーが二人の周りを囲み、話を聞いているではないか。仮住まいになったというだけのはずの蝋月兄妹もその輪の中に入っている。
「みんな………」
「長丁場だろうと何だろうと、我々は全力で協力します。他の仕事が来ても同時にできないことはないでしょうから」
「そうか……改めて、協力、感謝する」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
《鉄仮面》は旅館を破壊した後、山を踏破し旅館のある麓とは反対側の麓に来ていた。
「ないですね………。この山、我々の拠点とするにはかなり質の良い魔力の流れがあるのですが………うまくその魔力が集積し、引き出しやすい場所はあの旅館だけのようですね……。この山は諦めましょう」
周りには誰もいないので、ただ独り言を言ったつもりの《鉄仮面》だったが、突如、彼のものではない声が聞こえた。
「偶然、お巡りの野郎に見つかるなんてなぁ。大した不運の持ち主だよ、お前」
そう言ってなんの前触れもなく彼の前に現れたのは、上半身を黒い包帯で覆った男。
「おや。どこから見ていらっしゃったんですか?」
「最初から。あそこは確かに良い場所だったなぁ。見つかったお前を恨むべきか、見つけたお巡りを恨むべきか」
「巡査部長を恨んでください……あなたに恨まれたら死にそうな気がします」
「ハハッ。部下として動いてくれるお前を生かすも殺すも俺次第ってか。あながち間違いじゃないかもな?」
「物騒なことを言わないでください……全く―――」
彼の口から紡がれた男の名は。
もはや物騒などという言葉では表しきれない、不吉な響きを持っていた。
「―――気まますぎるのも考えものだと思いますよ?《魔神》」
前書きでも書きましたが、もうひとつの作品「湾岸ボカロフォギア」と同時平行で書き進めています。
いずれにせよ更新速度は遅いですが、よろしくお願いします。