待ってくれた方にはとても感謝です。
数日後。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってきまーす!」
元気な声がまだ開店前のカフェ『ノスタルジア』に響き渡る。
声の主は蝋月兄妹――制服を着た音式とランドセルを背負った蝶香だ。
前置の協力もあり、彼らがここに住み始めてから1日も経たないうちに彼らは近くの中学、小学校に転校という扱いで入ることになった。
快活な性格の蝶香はすぐに友達ができたらしく、学生生活を楽しんでいる。
一方、音式はというと、始めのうちは被っていたドクロの帽子からパンク系音楽好きの少年と間違えられたらしく、そういう連中に絡まれたりと大変だったようだが、今ではその良いのか悪いのかよくわからない誤解も解けて楽しく学生生活を送っている。
「はい、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃーい」
それを見送るのは無響と暁。
無響はいつも通り紺のスーツに身を包み、暁はカフェ開店前のためにエプロンを身に付けている。
二人を見送った後、暁は自分と無響の姿を交互に見て、頬を赤く染める。
―――まるで父親と母親みたいじゃん、私たち……
そんなことを思っていると、無響が様子のおかしい暁に気づき、声をかけた。
「暁さん?顔が赤いですよ、どうかしましたか?」
「……へっ!?い、いや、何もないよ、大丈夫」
そう言って顔を赤くしてうつむく暁を見て、無響はいたずらっぽく笑い―――
「――父親と母親のよう、とか思いましたね?」
「むひゅっ!?」
意味不明な声を上げて顔を真っ赤にし、ふらふらと倒れそうになる暁を慌てて無響が支える。
「おっとと……大丈夫ですか?」
無響に支えられ、頬に赤みを乗せたまま、拗ねた顔で暁は言う。
「………わかってて言ったでしょ。無響さんのイジワル」
「あなたが分かりやすいだけですよ」
「むぅ」
そんな二人のやりとりを、後ろの物陰からこっそりと、九綺が見ていた。
「ええやんええやん……二人が付き合い出すのも、そう遠くないでぇ」
ニヤニヤ笑いながら小声で言っているものだから、端から見ればカップルを尾行している謎のストーカーに見えたかもしれない。
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富士山。
言わずもがな、3776メートルという日本一の高さを誇る美しい山である。
その頂上近くに、全く息を切らすことなくたどり着き、悠然と麓を眺める男がいた。
《鉄仮面》である。
「驚きました……まさか富士山の頂上に質の良い魔力の流れる霊脈の源があるとは……しかし、さすがに建物はありませんからねぇ……どう拠点を作るべきか」
思案中の《鉄仮面》に、突然後ろ――彼より頂上に近いところから声がかかる。
「山んなかに作っちまいな。幸い、この山は休火山だ。山肌に穴開けるなり、火口の中に作るなり、方法はあるはずだぜ」
その声を聞いても、《鉄仮面》は振り返らない。
誰か分かっているからだ。
「相変わらず無茶なことを言いますね、《魔神》。ここは世界遺産、富士山ですよ?」
「何言ってんだ、建造物破壊で景観壊しまくりのお前が今さら世界遺産の見た目気にするなんざ、どんな風の吹き回しだ?」
「いえ。ただ、一般的に考えたらっていう話です。まあ、火口の中に作るのはさすがに無理がありますが」
「ほう。じゃあ、山肌に穴開けるのは?」
「問題ないでしょう……結界を張っておけば視界的なカモフラージュは容易ですし、触覚的にもおそらく問題ないでしょう。見える人にしか見えない扉のようなものです」
「そうか。なら問題ねぇな。ここを拠点にする」
これから彼らは日本最高峰の山に穴を穿つ―――誰にも気づかれることなく。
「魔力さえあればこっちのもんだ。この世界が終焉を迎えるのもそう遠かねぇ……ククッ、クハハッ、ハハハハハハハ!!」
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蝶香の通う小学校―――
「おっはよー!」
「あ、蝶香ちゃん。おはよー」
「おはよー」
蝶香は教室に入って早々、仲良くなった友達のもとへ向かい、元気100%の挨拶をする。
この元気があって、彼女はすぐに友達を作ることができた。
「相変わらずすごい元気だね」
「そんなことないよー。いつも通り」
「だから、相変わらず、なんだよ」
朝礼の時間まで雑談を交わす。
そして朝礼。
先生が来て早々、あるプリントを皆に配布した。
そして話し始める。
「え~……最近、この学校の周辺で不審者が出ています。それも、一人じゃなく、たくさん。集団なので、皆さん、気を付けてください」
この話を聞いて、生徒たちは皆「え~!」とか「こわーい」などの反応をこぼしていたが、蝶香はその情報を聞いて心当たりがあった。
そしてその心当たりは、次の先生の言葉で確信に変わることになる。
「目撃情報によると、その男たちは『仲間を返せ!住民を返せ!』と言いながらすれ違う人ひとりひとりの顔を確認した後に何もせず去っていくそうです」
その言葉に対しては、生徒たちは「えー、気持ち悪いよー」「住民ってなんだよ、意味わかんねぇ」と言っているが、蝶香はその不審者集団が探しているのは自分であると確信し、思考を練っていた。
(その人たちが探しているのは、私、それからお兄ちゃん……そしてそこに居合わせた、無響さんと暁さん。私一人で倒せるだろうけど、学校の皆がいる前で騒ぎは起こしたくないな……)
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同時刻。
音式の通う中学―――
音式もまた、蝶香と同じことを思う。
(狙ってるのは俺らか……参ったな。早いうちに処理すべきか)
そして奇しくも、二人の出した結論は同じになる―――。
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導小学校の下校時刻。
蝶香は皆と一緒に帰らず、学校に残ることにした。
「どうして残るの?危ないから皆と一緒に帰ろうよ」
そう言う友達に対して、
「大丈夫大丈夫!お兄ちゃんが迎えに来てくれるから!」
「……そう。気を付けてね」
「うん!」
兄・音式が迎えに来ると言うのは嘘だ。
しかし、「迎えに来る」のは嘘と言うだけだ。
数十分後、蝶香は学校を後にした。
そして向かった先は―――。
導小学校、阿夢価中学校の双方から同じくらいの距離のところにある交差点。
そこで兄妹は合流した。
「……やっぱ、考えることは一緒ってわけか」
「そりゃ、私たち兄妹だもの!」
「それが理由なのか……?」
「うん!」
そして二人が向かった先は、やはり二人の学校から同程度の距離、やや繁華街に近い、しかしながら人気の少ない場所。
ここで、『奴ら』を待つ―――。
そして、その時は来た。
「……あいつらだ!」
大集団―――『住民』たちの大集団が彼らの存在に気づき、その中の一人が声を上げた。
「オラぁガキども、俺らの仲間をぶっ倒したこと、後悔させてやる!」
「血祭りにあげてやれ!」
『住民』たちは怒声やら罵声やらを口々に叫びながら兄妹のもとへ突っ込んでいく。
だが、あの二人が怯むはずもない。
何せ―――始めからこうなることを狙っていたのだから。
「全く……数が多ければ勝てると思ってるんだから。やっぱりあいつら低脳だね、お兄ちゃん?」
「……そんなこと、始めから分かっているだろう?だからこうして、退治しに来たんだ。そうだろ、蝶香?」
「まあね」
そして彼らは、学校の近隣住民にも迷惑をかけ、友達にも不安がらせた『住民』たちへの怒りを込め、戦闘体勢に入った―――。
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「…………おや?」
富士山の頂上付近で着々と『準備』を進めていた《鉄仮面》は、愛知の方角から、微弱な魔力を感じ取った。
そう――戦い始めた兄妹の魔力を。
「人の魔力ですね……こんなところまで届くとは、かなりのもの。もしかしたら、『ノスタルジア』メンバーかもしれませんねぇ。どれ、少し見物しにいきますか」
そう言うと、《鉄仮面》はものすごい速さで山を駆け降りる。
その速さ、新幹線を優に超える。
しかし、その速さは、そして彼の思惑は、思わぬ形で止められる。
突如、彼の前に現れた人物。
それを見て、彼は止まらずにはいられなかった。
「………なぜ、貴方がここにいるのです………?」
驚きと焦りを仮面で隠された顔に滲ませながら、彼は問うた。
彼の前に現れた人物―――《極幻》、後付前置に。
「フフッ。なんでだろうな?まあ、強いて言うことがあるとするなら―――」
「――――いつまでも後手に回っていると思うなよ、ってことだ」
どんどんと物語が動き出しています。
次回をお楽しみに!