『住民』たちは蝋月兄弟へと一直線に突っ込んで行く。
「……さて。くたばってもらうとするか」
さらっと物騒なことを言った音式は、勢い良く地面を踏み込むと、前へと飛び出し、先頭にいた『住民』の顔面にアイアンクローを決め込む。
ピキピキと、頭蓋骨がひび割れる音がし、その『住民』は悲鳴を上げる。
しかしそのままでは終わらない。
音式は『住民』にアイアンクローを決めたまま一回転すると、後ろに続いていた他の『住民』たちに向けて思い切り投げつけた。
掴まれていた『住民』の首の骨がポキッと小気味いい音を立てたのはもちろんのこと、投げつけられた他の『住民』も、仲間がものすごい速度でぶつかってきたことでボキリボキリと鈍い音を立てながら一緒に吹き飛んでいく。
「いくらでもかかってきな……何人来ようと結果は変わらねぇけどよ」
冷酷さを刻んだ顔で音式は『住民』を挑発する。
ただ、これは彼にとってただの挑発ではない。彼なりの怒りの表現でもある。
そう―――何人来ようと、彼の冷たい怒りは、自分に向かってきた『住民』全員を殲滅するまでは抑えられないと。
一方、妹・蝶香は。
音式と同じように前方へ飛び出すと、先頭にいた『住民』の鳩尾に飛び蹴りを見舞う。
「グホッ………」
蹴りを受けた『住民』はそのまま後方へ吹き飛び、こちらもまた後ろに続いていた『住民』たちを巻き込んでいく。
二人の強さに『住民』らは怯み、―――その隙を兄妹は見逃さなかった。
怒濤の勢いで『住民』をなぎ倒し、吹き飛ばし、戦闘不能にしていく。
二人が『住民』を全員倒すのに、そう時間は掛からなかった。
「……ふぅ」
「終わったね」
兄妹は目の前に築かれた『住民』の山を見、そんなことを呟いた。
「あまりにあっけなかったな」
「うん」
ざっと見て、『住民』の数は100人を優に超えている。
「……さて、どうするか」
「うーん……あ、お兄ちゃん、前置さんの連絡先教えてもらってなかったっけ?」
「お、そうだ。連絡連絡……っと」
音式はポケットから連絡用にと無響に渡された携帯電話を取りだし、前置へと電話をかける――――。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
兄妹が『住民』と戦い始めたのと同時刻。
俄然二人は――前置と《鉄仮面》は――にらみあっていた。
「いつまでも後手にまわっていると思うなよ……ですか。確かにそうですね。今回、私の行動を阻害されたという点では、私が後手に回ってしまったのでしょう。しかし―――」
《鉄仮面》が右手を挙げると、その手に突如顕現した禍々しい大鋏が握られる。
そして―――。
「―――戦闘でも後手に回るつもりはありませんよ」
一閃。
前置の体が消える。
「……さようなら、《極幻》。あなたの命は今、終わりました」
そう言った後に再び前置が姿を現した。
あの時――警官隊を瞬時に亡き者にした時と同じ。
しかし、その先は異なっていた。
「……何を言うんだか、僕は生きてるぞ?」
「……ッ!?」
前置は死んでいなかった。
「なぜです……この鋏は、消した者を問答無用で殺すはず……!」
「武器に頼りすぎるのは良くないな。確かにそれは、頼りたくなるようなものでもあろうが」
《鉄仮面》の鋏。
それが何かを、前置は知っている。
「霊具《
「……まさか、この一瞬でそこまで見破ったというのですか……?」
《鉄仮面》の顔には、仮面越しでも分かるほどの驚愕と焦燥が滲んでいる。
「いや? それはいくらなんでも無理があるさ」
「では、なぜ……?」
「簡単な話だ……廃旅館で警官隊を殺し、旅館をバラバラにしたのはお前だろう?」
「ッ!!……気づいていましたか」
「あんなバラシ方、お前以外にできないだろう?あとは、まあ、あれだ」
「…………?」
「……君に殺された警官を一人、司法解剖してもらったらね、外傷に対して、異常なまでに身体内部がボロボロだった」
「なんですと………!?」
「どうやら君も知らなかったようだな。《惨訝》は実際は、身体内部を破滅させる。そういう武器なのさ」
「………」
持ち主である自分すら知らなかった《惨訝》に関する知識を、前置が知っていたことに《鉄仮面》は驚くしかない。
彼の背中を、冷や汗が伝う。
「……だが、だ。伝承でしか伝えられていなかった霊具のひとつを、君が持っているというのは驚かざるを得なかったよ。けど、残念だったね。その呪いは、僕には効かない。そもそも―――
―――――それを知っていて、対処ができないってわかっていたら、ここに来ないだろう?」
刹那。
《鉄仮面》は飛び出し、前置に肉薄する。
「……ッ!」
「呪いが効かないのなら、物理で何とかするまでのことです。刻んであげましょう……」
前置に対して明確な殺意を露にしながら、《鉄仮面》は《惨訝》を振るう。
前置もそれを避け続けるが、《鉄仮面》の突きを避けようとしたところで彼の術中に嵌まったことを察知した。
《鉄仮面》は、その大鋏を、やっと鋏らしく使った――つまり、刃を開いたのだ。
「しまっ………!」
「では、さようなら。死んでください」
閉じられる《惨訝》の刃。
前置の命は、確かにそこで終わってしまうかと思われた。
………しかし、相手が悪かった。
今《鉄仮面》が両断しようとしたのは、日本どころか世界でも最強クラスの戦闘力を誇る四天王の一角、《極幻》後付前置なのだ。
そんな人物がみすみすとやられるわけがないと、彼は気づいておくべきだった。
果たして、その刃が閉じることはなかった―――前置の手に阻まれて。
「な………ッ!?」
「なるほど……僕が《極幻》だと知っていても、僕がどんな能力の使い手かまでは知らないようだな」
「ぐ……」
「教えて欲しいか?僕の能力」
「………余裕ですね……」
《鉄仮面》の唯一仮面で覆われていない左目は、前置を鋭く睨み付ける。
「ならば教えていただきましょうか……あなたの能力とやらを」
「………ハッ!」
「ッ!!」
前置は突如として《惨訝》の刃を弾き、一気に《鉄仮面》と距離をとる。
「何を………」
「これを見ろ、《鉄仮面》」
そう言って前置が《鉄仮面》に見せたのは、前置自身の両手のひらだ。
それを見て、《鉄仮面》は驚愕するほかなかった。
「
そう。
前置の手のひらには、《惨訝》の刃に触れたことによる出血の様子どころか、傷ひとつついてなかったのだ。
「わかったか、《鉄仮面》? 僕の能力は……傷つかない身体、だ」
「な…………」
驚くのも無理はないだろう。むしろ、驚くなと言う方がおかしい。
もはや《鉄仮面》は、自身の背中を流れ続ける冷や汗を止める術がなかった。
しかし彼はふと、とある疑問を抱いた。
「……ならばなぜ、《惨訝》の呪いを受けないんです」
身体に傷がつかないのであれば、呪い云々は関係ないはずだ。彼はそう考えたのだが、前置の能力は、そんな彼の予想を遥かに越えていた。
「さっき言ったろう? 《惨訝》は実際は、対象者の身体内部を壊滅させる。だが、僕の身体は………外は愚か、内部すらも傷つくことはない」
「ッ……………」
《鉄仮面》はもはや絶句するしかなかった。
内外問わず、絶対に傷つかない身体。
そんなものを持つ者に、誰が勝てると言うのか。
そんなとき、前置の電話の着信音が鳴った。
「もしもし。僕だ。………ああ、分かっている。すぐに向かおう。それじゃあまた」
前置は電話を切る。
「どうやら終わったようだ。君の目的は阻止できたから、僕はこれでおいとまするよ」
そして前置は消えたように見えるかというほどの速さで《鉄仮面》の視界からいなくなった。
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「……うわぁ、これはすごいな。もしかしたら、これで『住人』のほとんどを駆逐したんじゃないのか?」
音式と蝶香が築いた『住人』の山を見て思わず前置が呟く。
「かもしれないですね。同じ境遇の人の仇を討つために全員が結束しててもおかしくない。まあ、敵ではなかったですが」
「ハハハ。それは頼もしい。……さて、じゃあこいつらは僕がなんとかするから、二人はもう帰っていいよ」
「はい。あとはよろしくお願いします」
そう言って蝋月兄妹は帰っていった。
「………魔王の気、ねぇ」
二人が見えなくなったのを確認してから、前置はひとりボソッとつぶやいた。
「花舞くんや時狭間くんが言う通り、富士山で感じた二人の気が魔王の気なら………
富士山で《鉄仮面》と戦いながらかすかに兄妹の気を感じていた前置は、彼らの持つ魔力が一種類ではないことに気が付いていた。
「………まさか、な」
ひとつの結論に行き着いたが、それを彼は振り払う。
「もしそうならば………あの子達は存在そのものが犯してはならない
最近ペースが遅くなっております。
まことに申し訳ありません。
これからもこれくらいのペースでの投稿になるかもしれませんが、よろしくお願い致しますm(__)m