亀更新すみません。
―――かつて、地球は自然の猛威によって破滅しかけたことがある。それは、それほど遠い話でもない。
14年前、突如として起こった『
この2つの事件。作り出した死者は多かれど、新たな命は各事件で一人ずつ―――合わせて二人しか作り出されなかった。
しかし、これは決して偶然ではない。この怪事件なくして、二人はこの世に生を受けることはなかったのだから―――。
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とある場所。
その場を照らすのはまわりに無数にある溶岩の池。
その微かな光を除けば、すべてが闇に支配されている、さながら煉獄のような世界。
そこで、ひとりの男が目を醒ました。
「………ヌゥ……」
静かに立ち上がった男は、その視界に映る闇とは別の世界のビジョンを認識した。
町行く人々。
その平和を守る人たち。
そして――その平和を壊そうとする者。
「………世ガ、乱レヨウト、シテイルカ……ムゥ……」
彼はしばらく思考を巡らす。
「……我ヲ殺セシ者モマタ、関ワル、カ……未ダ、飽キテオラヌ。……マダ、ソノ時デハナイ……」
彼は再び目を瞑る。
まだ足りない、力を蓄えようと。
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また別のとある場所。
幻想郷を思わせる、光にあふれた美しいところ。
そこでは、ひとりの女性が、先程の男と同じように、目に見えている世界とは別のビジョンを認識していた。
その世界もまた、先の男と同じ。
「……よくない流れができてますね。せっかく安定してきた世を、再び壊そうとする人たちがいるようです」
見えたビジョンにしかめ面をする女性。しかし、その顔はすぐに微笑みを浮かべた。
「……ま、私がそんな安易に介入していたら世界の均衡は保たれないというもの。しばらくは、様子を見させてもらいましょう♪」
歌うように言った彼女は、これまでも、そしてこれからも、世の中の情勢を、ただ傍観する―――。
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音式と蝶香が倒した『住民』の山を処理した前置は、警察署内にある自らの部屋に戻り、誰もいないことを確かめてから携帯電話を取り出す。
番号を打ち、携帯を耳に。
『………もしもし?』
「もしもし。僕だ」
『……《極幻》か。何の用だ?』
「至急、調べて欲しいことがあるんだ」
『調べる……私が? 私じゃないといけないことか?』
「ああ。気に詳しい君だからこその頼み事だ」
『気……なるほど。それは確かに私の管轄だな。で、何を調べて欲しいんだ?』
「それはだな………」
『……なるほど。それは確かに興味深いな。上手いこと機会を作って調べられるようにしよう』
「ああ。よろしく頼むよ―――《修羅》」
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『住民』を倒し、清々しい顔で新たな家―――カフェ『ノスタルジア』に帰ってきた兄妹。
「ただいま」
「ただいまだよっ!」
元気な声に真っ先に反応したのは、すぐそこのカウンター奥で何やら作業をしていた暁だ。
「おかえり~。ささ、二人ともそこに座って」
「?」
「はーい」
何だろうと疑問に思いながらカウンターに座る音式と蝶香。
すると、その前に置かれたのは。
「何これ……すごい美味しそう」
思わずよだれをたらしかける蝶香。
「暁さん、これは?」
音式の質問に暁は胸をはり、自信に満ちた笑顔でこう言った。
「うちの新しいメニュー、柑橘シフォンケーキとミルクティーフラッペだよ。完成記念に、一番初めに学校から帰ってきた二人に食べてほしくて」
「それは……その、ありがとうございます」
「いただきますっ!」
「早っ」
少し顔を綻ばせて礼を述べる音式と、そんな時間も惜しいとばかりに早速ケーキにがっつく蝶香。
「………どう?」
暁は蝶香の反応を見る。
蝶香はケーキを味わうように咀嚼し、そして―――。
――――ゴォン。
「ちょ、蝶香ちゃん!? いきなり頭をテーブルに打ち付けるなんてどうしたの!? ま、まさか……美味しくなかった……?」
蝶香はムクリと起き上がる。
その眼は少し潤んでいた。
「美味しい………美味しすぎるよ………暁さぁん……」
あまりの感動ぶりに暁はしばらくポカンとしていた。
「………な、なんだ。ビックリしたぁ。でも良かったよ、こんなに喜んでもらえて」
一連の応酬を見ていた音式がようやくケーキを口に運ぶ。
そして。
「…………!! う、うまい……!」
割と物静かな部類に入る音式だが、この時ばかりは驚きと感動に表情が変わっていた。
そして、二人揃ってミルクティーフラッペを飲む。
「……! これもまた、うまい……!」
「だ、ダメ。美味しすぎて気絶しそぉ」
二人二色の素晴らしい反応に、暁はつい口元が緩んでしまう。
「……ふふっ。二人とも喜んでもらえて何よりだよ。またいつか、作ってあげるね」
「楽しみにしてます!」
「返事が早いな」
暁の台詞に即返事をする蝶香と、そこに冷静なツッコミを入れる音式。
しばらくの沈黙。
そして3人は同時に吹き出し、笑いあった。
その笑いがちょうど落ち着いた頃。
夕方のカフェ『ノスタルジア』にひとりの客が来た。
「いらっしゃいませ~…ん? 学生さんかな?」
「……はい」
やって来たのは赤い髪にところどころ金髪が混じった学生。制服から、暁は高校生だと判断した。
その制服は、愛知県の中でもかなり有名な高校のものだったからだ。
彼はコーヒーをブラックでオーダーした。
「……暁さん、あの制服。確か、
「そうだね。それがどうかしたの、音式くん?」
東山園高校。
愛知県屈指の武道に精通した高校。
県内の能力者の多くもこの高校に通うと言う。
おまけに進学率、就職率ともに優秀だと言うのだからかなりのものだ。
「………いや、あの人、やけに傷だらけだから。東山園高校なら、まだそれも頷けるなと思っただけだよ」
「………」
言われて見てみると、制服のあちこちは破れ、そこから見えるのは数々のアザや切り傷。
暁はそれが示す重大な事実を見逃しはしなかった。
「……いや」
「?」
「あそこは戦闘の授業の時は、専用の戦闘服を着用するはず……。忘れた場合には参加させてもらえないはずだから、あの傷はおかしいよ。……まさか、何か、いじめみたいなことが……」
「………聞こえてますよ」
「ッ!!」
突如、赤髪の少年が口を挟んだことで、暁たちは驚かざるを得ない。
「………全部、聞かれちゃったかな?」
「ええ。そして、心配は無用ですよ」
済ました顔で少年は言う。
「……どうして?」
「わざとやられているからですよ」
「わざと………ハッ! もしや、そういう趣味ですか!?」
「蝶香ちゃん……さすがにこういう状況でそういうナンセンスな質問はやめようね?」
「はい……すみません」
蝶香の全力のボケ質問には全く反応を示さないまま、赤髪の少年は再び口を開く。
「もうすぐ、奴らを堂々と制裁する機会が訪れます。そこで徹底的に打ちのめし、二度と悪さをしないようにする。それが俺の仕事ですから」
「仕事………?」
「ええ。これでも俺、
「………」
思わず絶句する暁。
「ねぇ暁さん、隠役って何?」
さすがにそこまでは知らないようで、音式が問い掛ける。
「……それは」
隠役。
東山園高校の生徒会役員は、学業優秀かつ戦闘術にも長けている、つまりは文武両道の生徒が任命される。
だがそれとは別に、秘密裏に生徒会役員に任じられ、公的にではなく、裏で動くメンバーがいるという。
それが隠れ生徒会役員、通称隠役と呼ばれるものだ。
「………へえ。何はともあれ、すごいってことですね!」
蝶香がものすごい適当なまとめをした。まあ、細かいことは分からないのだから仕方あるまい。
「気になるなら、その日に学校の闘技場に来てください。僕の力、お見せしますよ。それじゃあ、ごちそうさまでした。いくらですか?」
「あ………300円です」
「はい。ここのコーヒー、美味しいのに安いですね。また来ますよ」
「は、はい……ありがとうございます」
赤髪の少年はそう言って出ていった。
「………」
「ねぇねぇ暁さん、あの日って?」
「あの日………あ」
「………?」
「1週間後、東山園高校は一般公開の闘技大会をやるんだ。きっと、そのこと」
割と日常回です。
亀更新はこれからも続くとは思いますが、よろしくお願いします。