闘技大会は1試合目からかなりの盛り上がりを見せた。
遠目に見ても迫力が伝わってくる拳の応酬は、速く、激しい。それを受け流したり、防いだりという攻防の凄まじさに観客は舌を巻いた。
時々放たれる魔法も観客の目を惹き付ける。
あっという間に2試合が終わってしまった。
そして3試合目。
『2試合目もかなり盛り上がりましたねぇ!! 続いて第3試合、
アナウンスの後、門の開かれた選手入場ゲートから入ってくる二人の男。
右から入ってきたのは少し太り気味な男だ。なんだか悪い笑みを浮かべている。
そして、左から入ってきたのは―――――。
「―――あ!」
「どうしました、暁さん?」
「あの子だよ、私が言ってたの」
「……ふむ………」
赤髪の少年。顔は少し俯いていて表情が読めない。
『では、互いに戦う前に何か一言、述べてください!』
1試合目、2試合目もそうだったのだが、どうやら試合を始める前に選手が一言気合いなり挑発なりを言うというのがこの大会のやり方のようだ。
最初にマイクを握り、話し始めたのは小太りな男―――もとい、長峰だ。
「よう黄金。ついにこの日が来たな! ボコボコにしてやるからよぉ、公衆の面前で恥をかけ!ハハハハハ!」
あからさまな挑発。
それを聞いた選手席や観客席に座っている生徒たちの反応は二分された。
「よし、いいぞ長峰! その言葉通り、完膚なきまでにぶちのめしちまえ!」
と、長峰を応援する連中―――おそらくは、長峰がナンバー3という集団のメンバーだろう。
もうひとつは、
「ふざけんじゃねぇぞ、てめぇら黄金に無理矢理参加状書かせてたじゃねえか!」
「そうだそうだ! そんなんで勝って何か嬉しいのかよ!」
と、事実をしっかりと認識し長峰らを非難する声。
しかし、
「あ? 文句あるのか?」
と、選手席から野太い声が発せられ、非難の声は消えてしまう。
「……………」
「ぐ、
屋來洞と呼ばれた男は、かなり大柄で、いかつい体をしていた。顔には複数の傷の縫い跡がある。
その見た目と、一声で長峰を非難していた人たちを黙らせた辺りから、おそらく彼が連中のボスなのだろう。
「―――――ハ」
しかし。
それに全く怯まない者もいた。
「ハ、ハハ、ハハハハ、ハハハハハハ―――――」
挑発された熾鳥本人である。
「―――笑わせるぜ。ボコボコにしてやるだと? そっくりそのままお返ししてやるよクズが!」
「な………んだと?」
その熾鳥の言葉に、学校で彼が連中にいじめられていることを知っている連中は顔を驚愕の色に染める。
「てめぇ、ふざけてんのか!?」
長峰が怒りを露にしながら熾鳥をどなりつける。
しかし熾鳥は一切怯むことはなかった。
「ふざけてんのはそっちだろうが……。皆、俺が無理矢理参加状を書かされたのは事実だ。だが、それはやつらの脅しが怖かったからじゃない―――」
「―――この大会で、こいつらに地を這いずり回る屈辱を覚えさせるためだ」
「………………」
観客たちは唖然としてもはや一言も発することができず、長峰や屋來洞以下、熾鳥をいじめていた連中も怒りで思考が染まり一言も発せられなかった。
「その目にしかと焼き付けるといいぜ―――これまで調子に乗ってきた権力者気取りの連中が地に伏せる瞬間をな!!」
「……………………」
数秒の沈黙。
そして、どっと会場が沸き上がる。
「マジかよあいつ! やつらに宣戦布告しやがったぞ!」
「信じられねぇ、連中に堂々と喧嘩売るなんて……。いいぞ! やれ黄金! お前の勇姿を見せてくれ!」
観客席のあらゆるところから投げられる熾鳥への声援。
逆に連中は何も声を発せられなかった。
『さあさあさあ、試合前からすごい盛り上がりだぁ! どちらが勝つのか? それでは………レディ、ファイッ!!』
司会の合図と共に試合開始のゴングがなる。
長峰は勢い良く熾鳥に突っ込んでいく。
小太りな身体のわりには足は速く、顔を真っ赤にして標的にまっすぐ向かうのは闘牛を思わせた。
「俺らが地を這うならてめぇは地の底に墜ちろ………!」
そう言って走った勢いそのままに拳を繰り出す。
しかし、その拳は片手で悠々と止められる。
「……遅いな。まるで止まってるように見えたが?」
「な…………」
次の瞬間。
熾鳥は長峰の拳を止めた左手を支点に飛び上がり、頭上を越えて後ろに回り込み、さらに横にひねりを1回転加えて―――。
―――強烈な蹴りを長峰の背中に見舞った。
真横に吹っ飛んでいく長峰。
やや宙に浮いたその身体は、フィールド端の壁にのめり込むまで止まることはなかった。
「延髄は避けといてやったよ………俺の慈悲に感謝することだな」
壁に突っ込んだことで舞い上がった砂煙が晴れると、口から泡を吹いて気絶している長峰の姿が見えた。
『………し、勝者、黄金選手! 圧勝だぁぁぁ!』
数秒の静寂、そして、拍手が起こる。
「……す、すげぇ! あいつ滅茶苦茶強いんじゃないか!?」
「こいつは大ニュースだぞ! 今度の学校新聞はこの記事が1面だ!」
生徒を中心に、観客の盛り上がりは凄まじかった。
しかし、それを快く思わない人がいるのもまた事実で。
「ほぅ………。こいつはどうやら、俺も本気を出す必要がありそうだな……」
屋來洞が冷たい怒りを胸中に抱きながらつぶやいていたことを、誰も知らない。
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1回戦からハイレベルな戦いが繰り広げられていたが、夢中になっていれば終わりはすぐに来る。
次が1回戦ラストの試合、第16試合だ。
『それではそれでは、ついに1回戦最終試合、屋來洞
そして選手がゲートからフィールドに入る。
左から入ってきたのは屋來洞。
そして右からは長身細身の男だ。
「屋來洞! お前を倒すのに黄金と戦わせるまでもねぇ! 俺がここで倒してやる!」
中貝が屋來洞に勝利宣言を出すが、そんなものは屋來洞の気にもかからなかった。
「勝手に言ってろ。俺は今、あの野郎をブチのめすことしか考えてねぇ。てめぇなんざアウト・オブ・眼中だ。とっとと失せろ」
屋來洞の声は底冷えするように鋭く、冷たかった。思わず中貝が怯んでしまう。
『双方とも気合い十分か! それでは………レディ、ファイッ!』
試合開始のゴングが鳴り響く。
刹那、二人の姿が消えた。
そしてさらに刹那、地面が突如ボゴォと音を立てそこから砂塵が待った。
砂塵が晴れた先に見えたのは、ひび割れた地面の中央でピクピクと痙攣して倒れている中貝の姿であった。
その側に、静かに屋來洞が降り立つ。
『……勝者、屋來洞選手! 黄金選手に負けず劣らずの圧勝だぁぁぁぁ!』
司会は場を盛り上げようとするが、黄金が宣戦布告した相手がこうも強いことに、観客は唖然としてしまい声も出ない。
「………おい黄金ぇ!」
突如屋來洞が選手席に座っていた熾鳥に向かって怒鳴り始める。
「必ず決勝まで上がってこいよ………! 俺が直接手を下してやる!」
そうして屋來洞はフィールドから退場していった。
その声の先にいた熾鳥が、うっすらと笑みを浮かべ、
「……さあ、反逆開始だ。手を下されるのはそっちだよ、屋來洞斎気」
と呟いているなどとは微塵も知らずに―――。
すぐに消えるモブの名前を初めて考えました。
せっかく考えちゃったし、またどこかで出そうかな……