1回戦をすべて見終えて、暁は内心ハラハラしていた。
例の少年――黄金熾鳥が存外に強かったことで一度は安堵したものの、最終試合で屋來洞の強さを目の当たりにし、本当に彼は屋來洞に勝てるのだろうかと、再び不安が募っているのだ。
「………大丈夫かな」
ポツリと漏れる一言。
「……大丈夫ですよ」
無響が暁を元気付けるように言う。
彼は、暁が実は心配性な性格で、一度不安になったことはそれが無事解決するまでとことん心配し尽くしてしまうことを知っている。故に、その不安が行きすぎてしまわないように元気付けるのが大切だと分かっているのだ。
「彼がどうなっても、我々は彼に助力することはできません。ここで見守っていましょう。きっと彼は勝ちます」
「……うん」
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2回戦が始まった。
トーナメント形式のため、1回戦では3試合目で出てきた熾鳥は2回戦では2試合目で出てくる。
相手は普通にやる気のある真面目な生徒。
熾鳥は少し手加減したのだろうか―――長峰との1戦に比べ、拳の打ち合いなどが多く見られた。ものの数分で決着が着いてしまうのだが。
そして最終試合では、やはり屋來洞が出てくる。こちらは一切手加減なし、試合が開始した瞬間に勝負がついている。
「あの様子だと、どうやら黄金くんの挑発がかなり頭に来ていますねぇ……」
即座に勝負をつける屋來洞を見て、無響は彼の心情を推測する。
いつもいじめている相手にあれだけ挑発されたのだ。頭に来るのも無理なかろう。
3回戦。他の戦いは大いに盛り上がったが、熾鳥と屋來洞の試合は2回戦と同じように呆気なく終わってしまった。
4回戦。熾鳥は第一試合で出てくる。
相手は――――。
「4回戦第一試合、黄金熾鳥選手対
坂城孝羽馬。司会の言う通り、屋來洞グループの団員―――それも、ナンバー2だ。
ヒョロリとした長身の男で、一見強そうには見えないが、そうして侮った者はみな痛い目を見てきたという。
「黄金……。長峰をああも簡単にツブすとはな。ありゃ驚いたぜ。……だけどよ。テメェの快進撃もここまでだ。腕一本とかで済むと思うなよ。その首、もしくは心臓……。この試合で俺が勝ったら、差し出せ。いいな?」
坂城の言葉は静かに紡がれていったものだが、その語気には確かに怒りが感じられた。
しかし、それにしても……首か心臓?
会場全体が凍りついた。
―――否。全員ではない。
「……いいぜ。俺が負けたら、首を差し出そう」
熾鳥本人は、全く動じていなかった。
「俺が勝った場合には何もいらねえよ。本命は屋來洞だからな。お前は、ただの通過点だ」
「……………」
脅しにも易々と応じ、それどころか挑発までしてきた熾鳥に、坂城の顔が歪む。
「おしゃべりは終わりだ……さあ、始めようぜ」
熾鳥の言葉をきっかけに、司会は慌てて試合開始を告げ、ゴングが鳴る。
刹那。
坂城の姿が消えた。
「…………」
しかし熾鳥が慌てることはない。
背後に突如現れた坂城。長身ゆえの脚の長さをいかした回し蹴りが放たれる。
それを、振り返ると同時に左腕を出して防ぐ。
「…………チッ」
「そう簡単にはやられねえさ。なんせ、首が懸かってるしな!」
「……言ってくれる。貴様のほうがよほどおしゃべりだな」
地についている方の脚を軸に反対回りに回し蹴り。これを熾鳥は右腕で防ぐ。
片足を防がれたまま跳躍。空中で1回転し、踵落としを見舞う。しかしこれは、熾鳥が身を少し右にずらすことで避ける。
着地した左脚を軸に右脚を振り抜く。熾鳥はしゃがんでそれを避け、坂城の体重が掛かっている左脚を払う。
「ッ………!」
しかし坂城もそのまま倒れることはなく、両手を地面につき宙返りの要領で姿勢を立て直し、同時に熾鳥から距離をとる。
そして。
「………
坂城の周りに魔力の暴風が吹き荒れる。
「……強化魔術か」
強化魔術。
その名の通り、魔力を用いて自身の能力を上げる魔術。
「……攻撃、防御、俊敏。全ステータスを7倍加」
「……………7倍、か……」
熾鳥は冷静だが、7倍というのは強化魔術において、まず聞くことのない強化倍率だ。通常なら1.5倍~2倍、よくても3倍である。
それが7倍なのだ。坂城がいかに強化魔術に長けているかわかるだろう。
「7倍……!?」
とまあ、暁も驚いている。
「こりゃあすごい倍率ですねぇ。さあ、赤髪の少年。どう対処するんです?」
一方無響は、それを受けて熾鳥がどう対応するのかを興味深げに眺める。
「……お前に手加減する必要はないと判断した。全力で行くぞ、黄金熾鳥」
すさまじい魔力の奔流を纏いながら坂城は構える。
対し熾鳥は。
「7倍ねぇ……面白いじゃねえか。ほら、かかってこいよ」
と、余裕の挑発をかます。
「………」
坂城は無言のまま、熾鳥へと突進していく。その速度、音を超える。
しかし。
熾鳥は、それを避けた。
「………ッ!?」
「おお、速い。速いわ。でも、まだ少し遅いなぁ?」
避けられたことでフィールドの壁ギリギリで停止した坂城に向かって、今度は熾鳥が突進。
坂城は間一髪で避けるが、すぐさま追撃のアッパーが来て、これは避けれずに空中に吹き飛ばされる。
続けざまに追撃すべく跳躍しようとした熾鳥だったが。
「ッ!? ………」
そこで跳べないことに気付く。
魔力の奔流が熾鳥の脚に絡み付いているのだ。
「俺の能力は強化魔術だけじゃない。《
「………ほう」
こう会話をしている間に、魔力の波は熾鳥の身体へと絡み付き、飲み込んで行く。
身動きが取れなくなっていく。
こうなれば、もはや餌食なのは誰でもわかる。
「……さあ、終わりにしようか、黄金熾鳥。その首、確かに戴く」
動けない熾鳥のもとへ、ゆっくりと坂城が歩み寄っていく。その手には、魔力を束ねて形作られた大型のナイフが握られている。
腕を一振りすれば確実に首を斬れる距離に入る。
一般の観客は皆、目を瞑る。
次の瞬間、坂城はナイフを構え、そして――――――。