神桜のノスタルジア   作:ヘリーR

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 最近主人公が熾鳥になってる気が(笑)。
 まああまり主人公がどうとか考えてなかったりするのでいいですかね(笑)。


第23話「準決勝」

 ―――――そのナイフが握られた腕が振られることはなかった。

 

 「………? ………ッ!」

 

 魔力の波が、坂城の腕を封じていた。

 それだけではない。全身を少しずつ、魔力の波が覆い尽くしていく。

 

 「………貴様、一体何を……ッ」

 

 そして、熾鳥からは魔力の波が剥がされていく。

 つまり―――――。

 

 「――何、簡単なことさ。アンタの《魔波》を、ちょいとお借りしただけだ」

 「なん……だと? そんなことが……」

 「できるんだよ、魔力の扱いに心得があるやつはな。アンタの魔力の腕がまだ未熟だったってだけだ」

 「………………ッ。おのれ………!」

 

 ついには坂城の動きは自身の能力であるはずの《魔波》によって完全に封じられ、逆に、熾鳥の身体は自由を取り戻した。

 

 「クソ………ッ」

 「足掻いても無駄だぜ。さて、じゃあ今度こそ終わりにしようか。首とか心臓とか、そんな物騒な話はなしだ――――」

 

 熾鳥は、動けない坂城のもとに一歩踏み込み――――。

 

 「―――単純明快に、拳でなッ!!」

 

 強烈なストレートを、坂城の鳩尾にぶち込む。

 

 「ぐぁ………ッ、は………」

 

 吹き飛ぶことさえ許されなかった坂城は、そのダメージを一切外に流せず、鳩尾に限らず全身の痛覚を刺激される。

 そのまま気を失い、ぐったりと崩れ落ちた。

 

 『……勝負ありッ! 勝者、黄金選手! 坂城選手の脅しや能力にも一切臆せず、見事な勝利です!!』

 

 司会のアナウンスが終わるのを待たず、観客から歓声が沸き上がる。

 

 かくして、黄金熾鳥、決勝進出。

 

 

 4回戦は準決勝―――つまり、4人しか残っていない。

 であれば、4回戦第2試合は―――。

 

 

 

 『4回戦第2試合! 龍虎(たつとら)三葉(みつば)選手対屋來洞斎気選手だぁ!』

 

 ―――そう、屋來洞の試合である。

 

 『今回の大会において、唯一の女性参加者である龍虎選手! ここまで勝ち進んできました。屋來洞選手に対しても、華々しい勝利を飾ることができるのか!?』

 

 しかしながら相手はまさかの女性である。屋來洞はどう対応するのか。

 

 「……ほお、女か。悪いが、この大会、てめぇも本気の勝負だって分かってて参加してるはずだ。手加減はしねえぞ」

 

 かなりの威圧を以て、視線の先にいる少女―――龍虎に話しかける。

 

 対し、龍虎も怯むことなく応じる。

 朱色の髪をツインテールに結び、右目は失明でもしているのだろうか――眼帯を着けた少女は、屋來洞に圧される様子がない。

 

 「ええ。手加減なんてしないで頂戴。されたところで私が不快なだけよ。……ま、到底貴方には勝てないと思ってるけど、せいぜい遊び相手にはなれるよう努めるわ」

 「……………」

 『それでは……レディ、ファイッ!』

 

 試合開始を告げるゴングが鳴る。

 即座に動き出したのは、やはり屋來洞の方だ。

 

 「遊ぶ必要なんざねぇよ………とっととくたばれ」

 

 切り裂くような鋭い視線、そして声色。普通の人であれば怯むこと間違いない。だが―――。

 

 「あるわよ。第1試合はあんなに盛り上がったんだもの。準決勝だし、今までみたいにあっけなく終わらせたりしないわよ?」

 

 彼女は、怯まなかった。

 

 振るわれた筋骨隆々の右腕を、その細腕で受け止める。

 

 「………!」

 「これでも準決勝まで勝ち進んできたんだから。甘く見てると痛い目見るわよ?」

 

 受け止めた右腕をそのまま引っ張り、位置をひっくり返すようにしながら1回転。強烈な回転蹴りを屋來洞の延髄に見舞おうとする。

 しかしそこは屋來洞が体勢を低くすることで蹴りを避ける。

 体を起こしつつ方向転換。その勢いのままに右腕を繰り出す――――。

 ――――かと思いきや、フェイントで頭突きをかましてきた。

 

 「ひゃむっ!?」

 

 右腕が来ると読んでガードに入っていた龍虎は、もろに頭突きを食らい思わず情けない声が出てしまう。

 そこから怒濤のラッシュが放たれる。

 頭突きのダメージが思いの外大きかったからか、徐々に屋來洞の攻撃を捌けなくなる。

 

 「………ッ」

 「……………フン!」

 

 とどめと言わんがばかりに放たれた右ストレートを避けきれず、腹部に食らって吹き飛んだ。

 壁にぶつかるまでは行かなかったものの、かなりの距離を転がっていく。

 

 「……………」

 「………さすが、というべきかしらね」

 「…………」

 

 しかし、龍虎は倒れていなかった。

 

 「それにしても、頭突きはさすがにひどいわ。頭へこんだらどーするのよ」

 「………おしゃべりが過ぎるぞ、女」

 「あら。冷たいわね。そういう男は嫌われるわよ?」

 「黙れ。そんなものは今関係ない。俺が求めているのはただ『勝利』だ。うるせえやつは…………」

 「―――ッ!!?」

 「徹底的に、黙らせるまで」

 

 屋來洞はその場から一切動いていない。しかし、龍虎の体がやや宙に浮き、その表情は苦しそうだ。

 

 「か…………、っは……」

 「魔力で編んだ腕………《魔腕》だ。力ずくで引き剥がすことはできない」

 

 そう。

 目を凝らせば、龍虎の首をぎりぎりと締め上げている半透明の腕が見える。

 彼女は、《魔腕》に締め上げられているのだ。

 

 「う………ぐ、が……あぁ」

 「抵抗は無駄だ。とっとと楽になれ」

 「は………が……………ぎ、ゃあ……」

 

 フッと、龍虎の体から力が抜ける。

 気絶したのだ。

 

 「……………」

 

 屋來洞は無言で《魔腕》を解除する。

 彼女はどさりと倒れて、動かなかった。

 

 『………勝負あり! 勝者、屋來洞選手!!』

 

 司会が屋來洞の勝ちを宣言するが、あまりにも後味の悪い終わり方だったために観客席は静寂に包まれている。

 しかしそんなことには興味もないと言わんばかりに、屋來洞はさっさとフィールドから立ち去っていった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 静かなフィールドと、去っていく屋來洞を特別席から高見の見物と洒落込んでいる生徒会長・醍乃佐虚と副会長・秋冬春夏。その後ろには二人の人物が立っていた。

 ひとりは赤髪の少年――黄金熾鳥。そしてもうひとりは。

 (あか)い髪をツインテールにし、右目には眼帯をした少女――龍虎三葉である。

 

 「良かったのかよ、あれで。全然盛り上がってなかったじゃねーかよ」

 「さすがに《魔腕》は予想外だったんだもの、仕方ないでしょ。それに、あれが()()ってことも考えて頂戴。到底本気なんか出せた代物じゃないんだから」

 

 そう。

 屋來洞が戦っていた龍虎三葉は、彼女自身ではなかった。

 本人の実力の足下にも及ばない偽物――分身。

 それでありながら、短かったとは言え屋來洞との互角な勝負を演じた。ならば、本物の実力は計り知れないだろう。

 しかしながら、負けは負け。龍虎三葉は準決勝で敗退した。

 そして―――。

 

 「そんなことより、行かなくていいの、熾鳥くん? やっと本命よ?」

 「なーに、ゆっくり行っても間に合う。せいぜい、手加減してやるさ」

 「へえ……本命なのに手加減ね。随分と余裕じゃない」

 「それが事実だからな」

 「……黄金」

 「おう?」

 

 龍虎と軽口を叩きあっていた熾鳥に、佐虚と春夏が口を挟む。

 

 「手加減するのは構わないが、油断の末に負けるなんてことはないようにな」

 「お前が負けたら元も子もねーんだからな。くれぐれも、自分が隠役だってことを忘れるなよ」

 「はは。わかってるよ、会長、副会長。ま、もし向こうにまだ隠し玉があったりなんてしたら、少しくらいはこっちも本気出してやるよ。なんせ―――」

 

 3人に背を向け、ゆっくりと歩き始めながら彼は言う。

 

 「――――奴を負かさなきゃ意味がねえからな」

 「………」

 「ま、任せときなよ。観客の盛り上がりも大切にしながら、あの野郎を地に這いつくばらせてやるから」

 

 

 一方、屋來洞は。

 既に次試合出場選手の控え室で静かに佇んでいた。

 しかし、その身が纏う気はまるで噴火寸前の火山のように震えている。

 

 「…………黄金、熾鳥」

 

 静かな、しかし燃えたぎる怒りは、確かに決勝戦の相手へと向けられている。

 

 「………待っていろ……必ずその身体、骸と化してやる」

 

 そしてついに、その時は来た―――。

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