『さあさあ、ついにやって参りました、決勝戦です!』
司会の言葉に、観客たちは盛り上がる―――かと思いきや。
事情が分かっているゆえ、大きな盛り上がりを見せない。
『皆さんも分かっているでしょうが、決勝は1回戦から因縁だらけのあの二人!』
そして、戦うべくして決勝まで勝ち上がってきた二人が同時にフィールドへと足を踏み入れる。
『黄金熾鳥選手と、屋來洞斎気選手だあぁぁ!!』
向かい合う二人。その視線は互いにそらすことなく、フィールドの中央で火花を散らす。
「………黄金。よくここまで上がってきたな。遊びはせん。すぐにその身を塵としてくれる」
「ああ、こっちも遊ぶ気はねえさ。せいぜい、俺の体を塵にできるよう頑張れよ」
「……ほざけ」
静寂が訪れる。
永遠とも思える静けさを撃ち破ったのは司会の試合開始を告げる声だった。
『それでは……レディ、ファイッ!』
双方の姿が一瞬にして消える。
刹那、フィールドの中央から激しい衝撃波が巻き起こる――二人の拳がぶつかり合った。
「………ッ!」
「これは………なんという……」
思わず無響たち『ノスタルジア』メンバーも驚いてしまうほどの衝撃だった。
もはや二人の姿は見えない。
あまりに速すぎる。
フィールド上のみならず、空中でも大規模な衝撃波が起こる。激しく観客席を揺らし、何名かの観客は気絶してしまっている。
みるみるうちにフィールドは多数のクレーターが形作られ、もはや原型をとどめていない。
「ハハッ。さすがはボス、といったところか? 坂城とは強さが段違いだな!」
「……その口をそろそろ閉じろ。耳障りだ」
「おおー怖い怖い。なかなか塵にできなくてイラついてるだけだろ?」
「……ほざけ!」
地面が揺れ、派手に砂埃が舞う。
熾鳥が空中から叩き落とされたのだ。
「……っ
間を置かずにもう一度地面が揺れる――屋來洞が追撃をかましたのだ。
だが、不発に終わった。
砂埃が晴れ、再び二人は睨み合う。
「………」
「ふぅ。やるじゃんよ、屋來洞」
「……とっとと…………」
「ん?」
「……とっとと、死ねぇ!!」
「ッ!?」
突如熾鳥の身体が何かに掴まれ、投げられたように壁へと勢いよく吹き飛んだ。
砂煙が晴れた先には、地面に押し付けられ、首を絞められている熾鳥がいた。
そう―――《魔腕》だ。
「ぐ………」
「こうなれば勝負はついたも同然。さあ、地獄の底へ落ちろ………!」
第三者から見ても、もう勝ち目のない勝負に見えた。だが―――。
「―――ククッ……」
「…………何……?」
「……それは、どうかなァ!」
熾鳥が右腕を払うと、彼の首を締め上げていた《魔腕》が弾け飛んだ。
「………なん……だと?」
「魔力には魔力をぶつけりゃ良い……こんなん、魔力を使う上では定石だろうが」
「……………チッ。どこまでも目障りな奴だな、黄金……!!」
そうすると、今度は視認できるものの、巨大な《魔腕》がいくつも現れ、熾鳥に襲いかかる。
「おう。言ってろ言ってろ。せっかくだから、ここで言っといてやるけどよ……」
熾鳥の周りに大量の魔力が渦巻いていく。
そして―――。
「俺からすればなぁ、テメェが、テメェが俺に思ってるより何倍も目障りなんだよォ!!!」
―――爆発。
その爆風は《魔腕》を飲み込み、無へと帰す。さらには屋來洞も飲み込んでいく。
「………ッ! ぬおぉ……!」
しかし屋來洞はなんとか踏ん張り、その爆風を耐えきった。
「……グッ…………」
「耐えたか……ま、そんな簡単にやられちゃつまんねぇ。テメェには、苦しんでもらわねえとなぁ……!」
「……ッ!!」
一瞬。
ほんの一瞬ではあったが、屋來洞の顔が恐怖に歪み、そして、怒りへと転化される。
「……いいだろう」
「あん?」
「貴様は本気で殺す」
屋來洞がそう言うと、地面が大きくうねり、まるで荒ぶる海のように激しく波打ちはじめた。
「ッ!? こいつは……!?」
「俺の本当の能力、《地海》だ。呑まれるが良い」
「まだ隠し球を持ってやがったか!」
予測不可能の大地の津波。
寄せては返す、などというような単純なものではなく、全方位からランダムで波が襲いかかってくる。
無論、熾鳥の足元も激しく波打っている。
「クソッ、体勢が保てねぇ……!」
「沈め、埋まれ……死ね」
「うおっ!?」
熾鳥の足元の地面が大きく隆起し、その勢いで空中へと投げ出される。
次の瞬間には、隆起したばかりの地面が大きく陥没し、入れ違いに周囲の地面が高く盛り上がる。
陥没した地面に落下した熾鳥が見たものは。
「……チッ。ここまでか」
自分を呑み込まんと雪崩れ込んでくる大地の波であった。
「…………フン」
《地海》が完全に熾鳥を呑み込んだのを確認すると、屋來洞はなおその大地を操る腕に力を込める。
「こんな程度か。だが、貴様を生かしておくつもりはない。そのまま圧死しろ……」
熾鳥を呑み込み、やや盛り上がっているその地面がさらに平坦になろうとする。
「……何………?」
しかしそこで、屋來洞は異変に気付いた。
「潰れないだと……? それどころか、地面が押し返されている……!?」
平坦になるはずの大地が、逆に盛り上がっていく。
屋來洞が全力で潰そうとするが、それもままならない。
「どういう、ことだ………ッ!」
「………こういうことだよ」
「ッ!?」
パキン、という音。動かなくなった大地から飛び出てきたのは―――。
「………氷、だと……?」
「その能力、強いな。俺が持っているのが他の能力だったらそっちが勝っただろうが………」
氷は徐々に熾鳥を呑み込んでいた地面を浸食していき、やがて完全に凍る。
そして彼が指を鳴らせば、凍った大地は砕け散り、余裕な表情の熾鳥が屋來洞の前に現れた。
「相手が悪かったな」
「……ッ!! クソ野郎が!」
再び屋來洞は《地海》を発動する。
うねり出す大地。しかし。
「甘いんだよ!」
動き出したそばから凍らされ、動かすことができなくなる。
「グッ………おのれ!」
《地海》を使えなくなった屋來洞は大量の《魔腕》を顕現させ、熾鳥を潰しにかかる。
だがこれも、熾鳥が周囲に放った冷気で凍り、たちどころに砕けていく。
「………ん?」
だが、屋來洞の後ろにはまだ《魔腕》がいくつか残っており、それらが地面を殴り付けていた。
「……なるほどな! 氷を割って《地海》を使えるようにしようってか! おもしれえ……!」
「………ハアッ!」
氷の砕けた地面はすぐさま土の槍となり、《魔腕》と共に熾鳥へと迫る。
「………《
対する熾鳥が両腕を広げると、無数の小さな氷の刃が彼の周囲に現れた。
「舞え、雪花の花弁……!」
氷の刃が土の槍、魔力の腕とぶつかり、削り削られの猛攻。
砕けた氷や土槍の破片、魔力の粒子が太陽の光を反射し、幻想的な風景を見せる。
煌めくカーテンを破り、熾鳥は屋來洞へ奇襲を仕掛ける。
突然の奇襲に怯んだものの、《地海》の槍を突き出すことで防ぐ。
避ける熾鳥。すかさず屋來洞は攻撃に転じ、土槍を熾鳥へと向ける。
瞬時に氷の壁を生成し土槍を止め、さらにそこから氷の棘を射出する。
その棘は《魔腕》が受け止め、砕く。
さらにその《魔腕》で氷の壁を砕き、自身も共に熾鳥へと攻撃にかかるが―――。
「ッ!?」
熾鳥は、凶悪なまでの笑みを浮かべていた。
「………残念だったな、時間切れだ!」
「な………ッ!? ぐおぉ!」
突如降りかかった氷の雨。
容赦なく屋來洞の肌を切り刻んでいく。
「ぐっ……だが、この程度で……」
「ククッ、本命はこっちだ!」
「ッ!!??」
熾鳥の指が向いた先―――氷の雨が降ってくる上空を向いて、屋來洞は目を見開くしかなかった。
巨大な氷の塊。
あまりにも巨大すぎる氷塊。
そこで彼が驚きに身を固めることなく、瞬時に《地海》なり《魔腕》なりを利用して氷塊を砕きにかかれば、結果はまだ違ったかもしれない。
だが―――彼は硬直してしまった。
であれば。彼に待ち受ける運命はただひとつ。
―――氷塊に圧し潰される。ただ、それだけだ。
「…………」
熾鳥は落下した氷塊をしばらく眺める。
「……解除」
彼がそう言って指を鳴らすと、氷塊はたちどころに砕け散り、幻想的な光を演出した。
そしてその光の中に、気を失った屋來洞が確認できた。
『……勝負ありィィ! 激闘の末勝利を手にしたのは、黄金熾鳥選手だぁぁぁぁ!!』
司会のアナウンスがあった数秒の静寂。そして、観客から一斉に歓声が沸き上がる。
「……ふぅ、よかったぁ」
「かなり心配していましたからね」
「そりゃあ心配もするよぅ。でも、ホントに、よかった……」
心配のあまり気が気でなかった暁もこの通り、胸を撫で下ろしている。
「……終わったか」
「いやーヒヤヒヤさせてくれるぜ。うまいこと力を調整しやがって」
生徒会長・醍乃佐虚と副会長・秋冬春夏も熾鳥の勝利を見届けて安堵している。
しかし。佐虚の目付きはすぐに元の鋭いものに戻る。
「さて。次は私の番か」
「おお? あれか? 例の頼みってやつか?」
「まあ、そういうことだ。成功するかどうか賭け要素が多いが、そこは仕方ないだろう。無論、黄金には引き続き働いてもらう」
「だな。んじゃま、私もお供しますかね」
闘技大会は終わった。
だが。生徒会長の企みはまだ始まったばかりだ―――。
決勝戦で丸々1話使いました。
実を言うともっと熾鳥に圧勝させる予定だったのですが、思いの外苦戦させてしまいました。
まあ、まだ本気出してないってことにしといてください(笑)。