待ってくれる読者の皆様には感謝です。
「いや〜、君、強いな。まさか《
スペシャルマッチを終えた熾鳥は、その対戦相手であった蝶香と話を弾ませていた。
「《氷身》……あの氷の偽物ですか?」
「に、偽……まあ、間違っちゃないか……」
「あれにはさすがに一泡ふかされました……あの状況からいきなり背後にまわられるとは、誰も思いませんよ」
「君、随分と難しい言葉を使うな……本当に10歳?」
「失礼な。私は正真正銘、ピッカピカの10歳です!」
「ハハハ、ごめんごめん。……楽しかったよ、今日のバトル。また会おう。いつか、あのカフェにも立ち寄らせてもらうよ」
「はい! 私は店員じゃないけど、お待ちしてます!」
「いい返事だ。それじゃあな、蝶香ちゃん」
「さよなら! またどこかで!」
そうして熾鳥と蝶香は別々の方角へフィールドを後にした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
笑顔で戻ってきた蝶香を見て、暁を始め『ノスタルジア』メンバー一同はホッと息をついた。
「どうだった、蝶香ちゃん?」
「いやー、それはもう楽しかったです! 熾鳥さん、またカフェにいつか来るって言ってくれました!」
「そう、それはよかった。それじゃあ、帰ろうか」
皆で帰ろうとした、その時だった。
「あー、すみません。私は少し調べたいことがあるので、先に帰ってもらっていいですか?」
と、無響が言ったのは。
「………うん、分かった」
そうして皆、無響を置いて先に帰っていった。
「……………さて」
無響は、誰もいなくなったフィールドを振り返り、少し表情を曇らせた。
「何を企んでいるのか、教えてもらいましょうか……。うちのメンバーを標的にされたとなれば、こちらも黙っている訳には行きませんからね」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
闘技大会の片付けを終え、佐虚と春夏は帰路についた。
「今回は見所満載だったな! 随分と楽しませてもらったぜ」
「黄金の活躍も見物だったが、あの少女もすごかったな」
「ああ、そうそう! えっと……蝶香ちゃん、だっけ? かなり強かったもんな!」
「あの時は降参したが、おそらくまだまだ戦えたぞ、あの子。頼まれて仕組んだこととは言え、あれほどいい勝負が見れるとはな」
「うんうん。ぜひうちの学校に来てほしいぜ……おっと。じゃ、アタシこっちだから。じゃあな!」
「ああ。それじゃ」
春夏と別れてからも佐虚はしばらく歩いていたが、とある一本道で立ち止まった。
「……ここならもう良いだろう。姿を現せ」
「―――やれやれ。気付いていましたか。なかなか鋭いですねぇ。さすが、東山園高校の生徒会長と言ったところですか」
佐虚のやや後ろに突如現れたのは、無響だ。
「……何者だ」
「まあ、蝶香さんの保護者的な立場の者だと思ってくれれば構いませんよ。それで、あなたにお聞きしたいことがありましてね」
「……なんだ?」
「あなたは、闘技大会の最中、ただ眺めているようなだけだったのに、スペシャルマッチの時はかなり目が鋭かったんですよ……何かをじっくりと観察するような眼でした」
「 ……それで?」
「そして無礼ながら、先程の副会長との会話、聞かせていただきました。……仕組んだ、と仰っていましたね?」
「…………」
「一体、誰に頼まれたんです?」
「…………………依頼人からの要望で、答えることはできない」
「ふむ。依頼人からの要望。困りましたねぇ。そこを知らないと帰れません」
「そう言われてもな。口を割る訳にはいかないんだ」
「……そうですか。では仕方ありません。ここは力づくでも…………ッ!?」
「…………力づくでも、なんだ?」
無響は怯んだ。
『力づくでも』という言葉を聞いた途端に、佐虚の全身から凄まじい殺気が滲み出てきたからだ。
(この殺気は何ですか……並大抵のものではない。これはかなりの手練ですかね…………)
「……いえ。事を荒立てるのは良くないですかね。今の言葉は撤回しましょう。今回は諦めます。ですがいつか、あなたにそれを頼んだ人物を教えてもらいます。では」
そう言って無響は佐虚の眼前から消えていった。
「…………」
佐虚は先程まで無響のいたところを見つめながら、
「……そちらから聞かずとも、そのうち教えてやるさ。もしかすると、依頼人自らやってくるかもな」
と、ポツリ呟いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「只今戻りました」
暁たちが住処であるカフェ『ノスタルジア』に着いてから15分ほど遅れ、無響が帰ってきた。
「おかえり」
暁が真っ先に無響を出迎えた。
「エスプレッソを淹れておいたから、良かったら飲んでね」
「おお、これはありがたい」
無響は椅子に座り、エスプレッソを啜る。
「……ふぅ」
ひと息。一度すべての思考を停止させ、口に残るエスプレッソの芳醇な香りの余韻を楽しむ。
「………」
そのまま、しばし目を瞑り、今度は思考をフル回転させる。
生徒会長に蝶香の観察を頼んだのは誰なのか。敵なのか味方なのか。
しかし、答えは出るはずもなく。
「……分かりませんねぇ」
「……?」
ボソッと無響が呟いた言葉に、暁は疑問符を浮かべる。
「暁さん、なぜ『スペシャルマッチ』が行われたと思いますか?」
「え………?」
無響からの質問に、暁はしばし考える。
「うーん……普通に考えたら、東山園高校へスカウトできるような強い人を探すとか、そんなのかな?」
「まあ、普通はそうですかね」
「……何か違う狙いが?」
「よく考えてみてください。そのような人を探すとして、闘技大会の優勝者と戦わせますかね?」
「……つまり?」
「それまでの激戦を見てきているんですから、普通の人はあの場面で優勝者と戦おうなんて、思いもしないだろうってことです。いるとすれば、相当な自信家か―――」
「―――蝶香ちゃんみたいな好奇心旺盛な子供だと言うの?」
「ええ」
「じ……じゃあ、初めから蝶香ちゃんが狙いであれを行ったって言うの!?」
「その通りです。貴方たちと別れた後、生徒会長の後をつけました……言質が取れています」
「そんな………」
「ただ……東山園高校の生徒会長ともあろう人が、敵とは思えないんです……。頼まれた、とも言っていましたから、その依頼人から誰なのかにもよりますね……」
「脅された、って可能性は?」
「いえ、それはないでしょう。彼女から力づくで依頼人の名を言ってもらおうとした時、彼女が放った殺気はすさまじいものでした。それほどの方が、脅されるとは考えにくいのですよ」
「………」
「あの殺気も、ひとまず私を撤退させるために放ったとも考えられます。もう少し、様子を見たほうが良さそうですね………」
一方、無響が去ったのを見届けて再び歩き出した佐虚は、その道中でとある人とすれ違った。
すれ違いざまに、彼女はその人に1つのメモリーチップを渡す。
「観測波形や『色』に加え、その他私の所感を述べている。戻ってから読んでおけ」
チップを渡された人は、無言で頷き、そのまま歩き去っていき。
佐虚もまた、そのまま真っ直ぐ歩いていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
佐虚と別れた後の春夏。
彼女もまた、何かしらの気配を感じていた。
(……誰か、ついてきてるな)
姿を現さぬまま後ろにつけてくる何者かの存在に注意を傾けつつも、気づいていないフリをする。
そして、春夏が人通りのほとんどない一本道に入った時。
突如、眼前に鋏が現れた。
「ッ!?」
咄嗟に後ろに引き鋏を避ける。
だが、引いたところで動きを止められる。
後をつけてきていた人物が羽交い締めにしたのだ。
「しまった!?」
そして喉元に鋏を突きつけられる。
その鋏の持ち主は、左目以外を仮面で覆われた男―――《鉄仮面》だ。
「はじめまして、副生徒会長。私のことはご存知ですか?」
「……情報は聞いている。その姿……《鉄仮面》か」
「いかにも。さて、あなたを捕まえたのはちゃんと理由がありましてね」
「………なんだ?」
「少し聞きたいことが。あなたは、生徒会長の企みに関わっていますか?」
「………………」
「どうなんです?」
「………イエスと言ったら?」
「イエスと言ったら? そうですね………」
《鉄仮面》はしばらく目を瞑り思案し。
目を開けると、その手に持っている鋏―――《惨訝》を構えて、こう言った。
「敵はそんなに多くなくていいので。死んでもらいましょうか」
「………ッ!!」
咄嗟に逃げようとする春夏。
しかし拘束がなかなか外れない。
もがく春夏の喉元に突きつけられていた鋏はその凶悪な口を開き、春夏の首を今にも食い破ろうとしている。
「クソッ……!」
その凶刃は閉じられ。
春夏の命は、ここに絶たれた。
サブタイトルについてですが、allyは味方、enemyは敵ですね。
enemyの方はしばしば聞く単語ですが、allyはおそらく初耳だったので調べて驚きました。
意外と知らないものですね。