「ふふふ、あのクソジジイ、毛頭金なんか払うつもりないだろうよ、そろそろ一人殺しちまおうかな…ヒヒヒ…」
自分が静岡県知事に出した要求、その条件がまだ満たされていないのに、人質を殺そうと画策する誘拐事件の黒幕。
名前は出していないが、ハンドルネームのようなものを彼はメディアに公開していた。
コードネームは《チルドレンマーダー》、子供殺しだ。
県知事の娘はもう成人しているが、背が低く童顔なため、彼にとって特例だ。
「もうそろそろなついてきた奴もいるしな…心を開いたところで泣き叫ばせるのが楽しいんだよなぁ……ヒヒヒヒ」
彼が誘拐した――正確にはさせた――子供たちのなかには、一番長くて2ヶ月半ここに捕らえられている子供もいる。
彼は今までその捕らえた子供たちを雑に扱うことなく、むしろ手厚くもてなしていた。
そしてなついたところでじわじわと刻んでいくのだ。
これまでは日本ではなく、治安の悪い海外で子供を誘拐し、場合によっては大金をいただき、場合によっては子供をなぶり殺し、を繰り返してきた。
しかし言葉の通じにくい海外に飽きてきて、ついに日本で、3ヶ月ほど前から犯行を行い始めた。
そして現在、彼は今日殺す予定の子供の部屋にに最後の晩餐を運んでいた。
ドアを開ける。
「おーい、晩御飯を持っ………!」
子供がいない。
どこへ行った。
急いでメインルームにいる部下に連絡する。
『もしもし?どうしたんすか?』
「子供が失踪した!!探せ、外まで抜かりなくな!」
『!? 分かりやした、今すぐ全員で捜索に向かいやす!』
電話を切り《チルドレンマーダー》は他の扉を開けていく。
「いない、いない、いない……どこへ行った、ガキどもォ!」
怒りと焦りのあまり本性が出る。
「嘘だろ……ガキどもが一人として残ってねぇ……くそッ!ならもう県知事の娘をぶっ殺してやる!」
そして最後の扉を開ける。
そこにはまだ県知事の娘がいた。
顔を涙でグシャグシャにして、怯えている。
「ヒ、ヒヒヒ…わりぃな、予定前倒しで今殺させてもらうぜ…」
「い、嫌……来ないで……」
「いい声だなあ、今からもっといい声で哭かせてやるよぉ!!!」
そうして、子供殺しがポケットから取り出した大振りのナイフは、無慈悲にも県知事の娘を―――――――――
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
部下たちは外に出た。そして子供たちが親とおぼしき人たちと少し離れたところで抱き合っているのが見えた。
「いつの間に…畜生、ここで親ごと殺してやる!」
意気込んで駆けて行く部下たち。
すると、突如。
先頭を走っていた男の頭が撃ち抜かれた。
「がっ……」
「!!! いったい誰だ!?」
「……さあ?誰だろうな?俺ではないぞ」
「!!!」
歩いてきたのは、サングラスにスキンヘッドの男――八葉六四朗だった。
「貴様ッ、《紅蓮》…!」
「ノスタルジアの俺がここにいる。それが何を示すかわかるな?」
「チッ!ここまで来て引き下がれるか!人数はこっちが圧倒的だ!返り討ちにしてやる!」
「…フン。先程貴様らの仲間の眉間を射抜いたのは俺ではないと言っただろう?」
「!!」
その直後。
矢が二本。
二人の部下を確実に射抜く。
六四朗や子供殺しの部下のいる位置から少し離れて、子供やその親のいるところ。
彼らを背後に守るように、水でできた弓矢を持つ絶斗。
彼の能力は《水》。それを弓矢の形に凝縮して作る《
もちろん、子供殺しの部下を3人射抜いたのは彼だ。
「あとは六四朗に任せておけば大丈夫かな…。あとは無限が県知事の娘を連れてくるのを待てばいいか」
絶斗の《水弓》に3人射ぬかれた部下たちは、戦闘体勢に入った六四朗を見て怯む。
「なんだ?怯んでいるのか?さっき人数がどうのこうの言っていたのはどこの誰だったかな?」
「ぐ……くそっ!ぶっ殺してやる!!」
意気込んで六四朗に飛びかかっていく。
しかし。
「《
「!!動けねぇ…」
赤い光の糸で全員束縛される。
六四朗の能力は《光》。赤い光を自在に操る。明度や範囲ももちろん意のままだ。
そして《輝糸》は、その赤い光を糸状にして、指で操るものだ。
「人数が少なかろうが多かろうが関係ない。俺の《輝糸》は問答無用でおまえらを縛り、そして……絶ち切る」
光の糸を操る指を握る六四朗。
すると、
部下たちは一人残らず絞め切られた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
県知事の娘を―――――――――――
――――貫くことも、切り裂くこともできなかった。
なぜなら、突如床から飛び出てきた黒い何かに防がれたからだ。
「アブねぇアブねぇ……気付くのが早いぜ、子供殺しさんよぉ」
黒い何かが出てきた床には黒い渦があり、そこから茶髪の少年が出てきた。
顔に刻まれた刺青が禍々しい。
「おまえ……《漆黒》か」
「正解正解大正かーい。直々に処刑しに来てやったぜ、感謝しろよ?」
飄々とした様子で問いに答える《漆黒》――零度無限。
「貴様の能力は……その《影》か?」
「おー、察しがいいな子供殺し。まあ、こんだけこれ見よがしに出てきたら誰でもわかるよな」
無限の能力は《影》。その名の通り、影となり自由に動ける能力だ。壁などの障害物も完全無視で移動可能という便利きわまりない能力。
子供殺しのナイフを止めたのは、その《影》を長い爪の形に凝縮し、指から生やした(?)《
現在彼はその《影爪》を右手の人差し指のみから生やしている。
「わりぃけど、あんま時間かけたくないんだよな。すぐ終わらさせてもらうぜ」
無限は子供殺しのナイフを力強く弾く。
ナイフは子供殺しの手を離れ、遠く飛ばされてしまった。
「ッ!くそっ、まだ武器は―――」
「あっても使わせねえよ、じゃあな」
《影爪》で容赦なく子供殺しを袈裟斬りにする。
倒れる子供殺し。
「ああ~、大変なところを見られちまった」
頭をポリポリ掻きながら、県知事の娘を見遣る。
どうやらまだ怯えているようだ。
「安心してください。防衛ギルド『ノスタルジア』の者です。あなたのお父様の要請で、救出に参りました」
飄々とした態度を消して、礼儀正しく挨拶をする無限。見た目に反して、すごい良い人なのだ。
「では、参りましょう。お父様がお待ちになっておいでです」
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六四朗が《チルドレンマーダー》の部下たちを倒して、少し離れた子供たちのところに戻った頃、一同の前に黒い渦ができる。
そこから、無限と、県知事の娘が出てきた。
「ん…?お父さん……?」
未知の体験に目をつぶっていた娘がゆっくりと目を開き、父親の姿を確認する。
「おお!我が娘よ!」
「お父さん!」
互いに走り寄り、力強く抱き合う二人。
「お父さん、怖かった……怖かったよぅ……」
「心配したぞ……でも無事で何よりだ」
そんな微笑ましい光景を、3人は遠くから見つめていた。
「いやぁ~よかったよかった。これで一件落着だな」
「ああ、誰一人怪我のひとつもなくてほんとによかったよな」
絶斗と六四朗は、安心した様子でそんなことを言いあっている。
しかし、
無限だけは、悲しそうな顔でその光景を見ていた。
「……ん。どうした無限?」
その様子に気づいた六四朗が訊ねる。
「え?いや………なにもねえよ」
顔を背けて答える無限。
その様子に、六四朗は何か引っ掛かるものを感じずにはいられなかった。
無限に一体何があったのか?
それは次回判明します。