相州戦神館學園 朧    作:あるく天然記念物

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あ、アヴェンジャーをください……



くららむねふゆ

「お嬢様、お暇をください」

 この言葉を口にするのは何度目だろうか。

 気がついたときからはずっと口にし続け、ほぼ毎日言っている。

 ほぼ毎日言えていると言うことは必然的に

「何を言ってるの宗冬、あなたを手放すのはあり得ないわ」

 ほぼ毎日断られていることになる。

「お嬢様、何度も言いますが、私はあなたに仕えたいと思ったのは出会った一瞬だけです。それ以後はお嬢様が自分のタイプで無いと分かってから、好みの異性に仕えたいと思い、旅に出たいと言っているではありませんか。いい加減に私を手放して自由にしてください。篭の鳥は嫌です」

 必死に懇願する俺を見てておもしろいのか、いや、実際おもしろいのだろう。

 お嬢様は笑みを浮かべている。

「青い鳥という話をご存知で? 幸せは見直にあると言うではありませんか。それと、こちらも何度言うように宗冬を手放す気はさらさらありません。あぁ、その反抗的な態度、視線、仕草、全てが愛しい………ですから、諦めて私の生涯の伴侶となりなさい」

「興味ないから嫌です。アホですか?」

「あぁ……その瞳、その言葉、私が求めていたもの」

 反射的に罵倒が口から出てしまった。

 普通なら即刻首はね確定。

 しかしお嬢様は怒るどころか頬を赤く染め、身悶えしている。

 だめだこりゃ。

 もう何度したことかわからないほど先ほどの会話をお嬢様──アホとしている。

 

 何故このような状況に陥っているのか。

 それを教えるには時計の針をかなり昔に戻す必要がある。

 

 幽雫宗冬。

 それが俺の名前。

 明治の日の本に生まれた歴とした日本男児。

 特にこれといった特徴があるわけでもない。

 まあ、強いて言うなら他の人々より頭が良かった…………いいや、元から“色々知っていた”。

 前世の記憶。

 と言えば格好が付くのだろうが、突拍子もない上に理解が及ばない事が身に起こっていた。

 生まれ、育ち、自我が目覚めた瞬間にふと記憶が駆けめぐったのだ。

 自分は明治どころか大正、昭和を超えた先の未来、平成の人間だった、と。

 これから先に起こる出来事や過去の出来事まで教科書という本の知識で完璧。

 ある種の未来予知者になった気分だった。

 その知識を生かして神童として幼少期を過ごし、気がついたら御国のために生み出された士官学校、戦真館學園に入学して初代筆頭生となっていた。

 しかし、筆頭生になったあたりから妙な感覚、記憶の齟齬を感じ始めた。

 戦真館學園。

 未来の記憶をいくらたぐり寄せようともその名前に覚えがなかったのだ。

 さらに戦真館學園は驚くべき事を目的とした學園でもあったのだ。

 それは、夢を真にすること。

 将来の夢なのではなく、文字通りの夢。

 人々が当たり前に寝ているときに見る夢を現実に持ってくるだそうだ。

 正気の沙汰ではない。

 俺の記憶にも日本がそんな事に金を使っていたなんて事はなかった。いや、これは政府が隠蔽しただけかも知れないが、大々的にやっていて何もないのはおかしいと思った。

 だが戦真館學園は本気でそれに取り組み、入学した生徒は俺も含めてモルモットなのだと理解した。

 そんな學園ですごすこと数年。

 ついに學園は夢を現実へ持ってくる実験を始めることとなった。

 結果だけ言うなら実験は失敗も失敗、大惨事の大失敗。

 戦真館學園の生徒及び教官は俺一人を残して全員が死亡。

 実験を行うには理論が足りなかったのだ。

 學園の校長……名前は忘れたがその校長が行った夢を持ち出す技法、邯鄲法を扱うにはお粗末すぎたのだ。

 理論的には夢の世界へ赴き夢を現実の元に持ってこれるよう迷宮のような物を踏破する事になっていたようだが、その入り口にすらたどり着けなかった。

 実験では中途半端に夢の力が働き、魑魅魍魎、全員が全員を食料としか見なさない異様な世界が生み出された。

 そんな世界でどうして俺が生き残れたのか。

 それは簡単だ。

 俺には興味が無かったからだ。

 人に興味がない。

 夢に関しても興味が湧かない。

 下手に未来の知識があった故か様々なことに興味が持てなかったのだ。

 向かってきた同僚に対して思ったことは一つ。

 邪魔するなら消えろ。

 それだけだった。

 向かってく生徒、教官、親友。その全てを持っていたサーベルで斬り伏せ、中身を地べたにぶちまけてやった。

 その事になんの感情もない。

 とりあえず仏教徒として念仏の一つは唱えてやったが、それ以上の関心はなかった。

 襲ってきた向こうが悪い。こっちは正当防衛。

 そんな感じで斬り伏せていたらいつの間にか自分以外この學園からいなくなってしまった。

 人はどんなときに恐ろしいか。

 それは躊躇いがないときだ。

 戦争や決闘など、人は無意識下で血を恐れて殺傷を禁忌する。

 しかしそれも突き詰めたら死に関して興味があるからそうなるのだ。

 対して俺には向かってきた人間に興味はない。

 自分を含めた死に興味がない。

 だからこそ俺は筆頭生徒としての才能、実力、技術を余すことなく殺害に使った。

 故に俺は一人だけ生き残れたのだ。

 また生徒、教官全滅の学園は当然その短い歴史に幕を下ろした。

 その後なのだが、いかんせんやることがなくなった。

 元々士官学校ゆえに将来も未来を見越して海軍になろうと思ってた矢先の大惨事である。

 当然な事に就職先まで蒸発してしまったのだ。

 ふらふらと実家に帰省しつつ何かやりたい仕事を探つつ、あの惨事を引き起こしたことで“興味が少しわいた”邯鄲を完全攻略をしたりして生活する日々。

 そんなある日のことだった。

 

「あなた、私の元で働きなさい」

 

 あのアホと出会ったのは。

 一目見たときは美しいお人だと思った。

 実家にいきなり現れて言ってきた姿、立ち振る舞い、言葉、そのすべてが美しかった。

 あぁ、この人のためになら働いてもいいと、全てを捧げでもいいと思ってしまった。

 が、続く言葉にすべての興味を捨てた。

 

「まぁ、貴族院の私の言うことですから、答えは全て、はい、に決まってますよね」

「あっ、すみません。一気に興味がなくなりました」

「…………はい?」

 

 自分に起こることすべてを当たり前だと思っていたのを知って一気に冷めた。

 それによくよく考えたら俺も彼女の見た目しか判断してなかった。

 それでいて全てを捧げ手もいい? アホかよ、これこそ正気じゃない。

 一瞬でも俺の思考を揺るがしたその姿には感心するが、どうにも美しいだけで彼女には興味がわかなくなった。

 おそらく内面的なもので何かを感じ取ったのだろう。

 彼女の名は辰宮百合香。

 聞けば彼女の祖父が戦真館を作ったそうで、唯一の生き残りであった事や邯鄲完全攻略した俺に興味が湧いたと。

 しかし、先の会話で俺は彼女への興味を喪失してしまった。

 結局色々お話しして妥協案としてめぼしい就職先が見つかるまで働くこととなった。

 

 それで今に繋がるというわけだ。

 それとお嬢様が俺にこだわる理由は、初めて自分が思うままに動かなかった俺の姿を見て俺に惚れるという訳が分からない状況になっているからだ。

 以上、説明終了。

「ところでお嬢様、そろそろ第二期筆頭生徒たちが邯鄲に向かうのでは? もっとも、あの世界に正義だけで向かうなど正気とは思えませんけど」

「確かに、そう言えばそうでした。甘粕大尉の野望阻止という名目はありますが、大尉と同じ存在のあなたからしたら滑稽でしょうね。しかし、それを言うなら、ただ興味だけで完全制覇したあなたが言えたことではないと思いますけど」

「私は二極論で動いているだけです。興味あるか、無いか、それだけです。ですから興味ある物にとことんまで突き詰めただけです」

 甘粕大尉。

 正式名称甘粕正彦。

 初代戦真館が失敗し、俺が完全制覇した邯鄲を同じように制覇した人物。

 夢を現実に持ってくることに興味ない故俺は邯鄲に夢を置いてきているが、甘粕は別。

 彼は彼が描く楽園を成就しようと夢を持ち出そうとしているのだ。

 彼の描く楽園、それは人として何かをし続けなければならない世界。

 安息がなく、日々力強く生きなければいけない世界だ。

 当然ながらそんな世界などさせてしまっては世紀末どころか日本どころか世界が滅んでしまう。

 俺としてはどんな世界になろうと興味が無いとのでどうでもいいが世間は別だ。

 甘粕を危惧したお国から依頼を受けた二代目戦真館では甘粕に対抗するべく邯鄲に向かう第二期筆頭生徒を育て上げた。

 そして今日がその筆頭生徒が邯鄲に潜る日だ。

「早く向かいましょう。仮にも學園長であるお嬢様がいないと始められません。仮にもですが」

「えぇ、そうね。では宗冬、行きましょうか」

「……かしこまりました」

 皮肉を軽く受け流され歩き出すアホについていく。

 これから始まる邯鄲攻略。

 邯鄲を完全制覇した身としては興味はやはりわかないが、先達者として軽く応援はしよう。

 すべて等しく、俺は無関心で愛しているから。

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