答えは読者様の心の中に。
僕は人と慣れあうことが大嫌いだ。でも、人間という生き物は人間という生き物と共存しなければ生きて行くことが出来ないのである。だから、僕は道化を使用して人間という生き物を欺き、そして、好かれたくもないのに、関わってほしくもないのに表現するなら、なれ合いを続けている。皮肉な話だ。
僕という存在は幼稚園児から小学生に成長を遂げた。だが、僕は小学生になんかなりたくなかったし、幼稚園児でいることも嫌だった。だからこそ、死という道を選ぼうとした。でも、僕は非常に運が悪い、運が悪いから二度目の人生という牢獄に閉じ込められたのだろうし、初恋の人と一緒に死を共にできなかったのだろう。
僕は近所にある市立小学校に入学した。近所に聖祥大付属小学校という私立の小学校が存在したのだが、彼女、高町なのはが入学するという話を聞いたので、両親に口答えこそ出来なかったが、少しだけ道化を抜いて知り合いと同じ小学校に入りたいという嘘をついて彼女と違う学校に入学することに成功した。だが、あの時のことは今でもよく覚えていて、心臓がゾクゾクと鳴り響き、やはり、道化の部分がそれを防ごうとしたのは確かだ。でも、少しだけ、初恋の人と一緒に死のうとした時のように我の自分を出せたような気がする。もしくは、我の自分のような演技を道化が演じてくれたのかもしれない。僕は、頭が悪いからわからない。
僕は学校から自宅に帰る道をゆっくりと歩いていた。すると見知った少女の姿が見えた。そして、冷や汗が流れたが、道化の部分がその汗すら乾かしてみせた。そして、彼女、高町なのはは新しい制服に身を包んだ姿で手を振ってきた。そして、その隣には僕の知らない少女を一人連れていた。そして、僕のことをギロリと睨んでいた。僕は、早くもその場から逃げ出したい気分になっていた。でも、僕の道化の部分がそれを許すことがなかった。
高町の方は駆けるように僕の前にやってきて、また、気色の悪い猫なで声のような声を発するのである。僕は、こころの中でいつものように逃げ出したくなったが、これまたいつものように道化の部分がそれを押さえつけて、彼女の喜ぶような言葉を選んで発するのである。ああ、僕はとんでもない嘘吐きだ。
「アンタがなのはの恩人なの?」
僕は、恩人という言葉を聞いて気分が悪くなった。僕は高町のことを助けてなどいない。助けたのは僕という存在を借りた道化の部分であって、僕は、僕は、ただ、道化の部分に支配されて彼女を助けてしまったのだ。今でも、いや、彼女と会う度に助けなければよかった、そう、僕は思い詰めるのである。だから、僕は誰からも恩人と呼ばれたくもないし、出来れば、彼女との関係を絶ちたい。でも、それは出来ない。何故なら、僕は道化師だから、人々を楽しませる事しか出来ないのだ。ああ、嫌な話だ。ああ、辛い話だ。
僕の道化の部分は礼儀正しく、そして、上品に高町の友人、金色の髪をした少女に挨拶をした。すると、礼儀はわきまえているのね、と彼女も上品な姿勢で挨拶をした。僕は、僕の道化は出来る限り言葉を選んで、彼女と会話を重ねた。すると、彼女は僕、いや、僕の道化の部分がどういう奴なのかを理解したらしく、うんうんと頷いた。こうしてまた、僕の道化に騙される人間が増えた。
「わたしはアリサ・バニングス、よろしくね」
彼女は自分の名前を告げた後に右手を差し出してきた。僕は、その手を弾いてやりたい気持ちになったが、僕の道化はそれを拒んで、差し出された右手を僕の右手と重ねたのである。体中が震えるような気持ち悪さが巡ったが、やはり、道化師である僕はそれを押さえつけて、あたかも、嬉しそうに握手を交わしたように見せつけるのである。
短い握手だったが、僕にはそれが数十年にも感じれた。そして、僕は、僕の道化は彼女に気に入られるように話を持っていて、だが、隣にいる高町のことも忘れないで、気を使いながら、彼女の警戒心を解いていく。そして、最後には、僕、いや、僕の道化の部分のことを『良い人』という印象を持つようになるのです。
僕は彼女、いや、彼女達に好印象を残してその場所を去った。そして、僕はまた、人間、それも女性という存在との関係を強くしてしまった。僕の残された良心のようなものが少しだけ道化を責めるが、僕が僕の道化の部分を否定したとしても、僕の道化が消えるわけではない。それに、僕が道化を消し去ってしまったとしても、捻くれた本物の自分が続くだけだ。そして、その本物の自分をさらけ出し、本当の一歩を歩んだとしても、それを耐えられるようには思えない。最悪の場合、また、道化が顔を表すに決まっている。
あれから数日後のことだ。僕は気分を変えるために散歩に出かけていた。もちろん、僕は人間が嫌いだから人気のある場所には出掛けていない、出かけているのは犬と散歩をしている老人くらいしか居ないような人気のない公園だ。
僕は澄んだ空気を吸い込んで、その公園で一番人気のない場所に移動して、ジメジメとした誰も座りたくないようなベンチに腰を下ろした。そして、目を閉じて深呼吸を何度も繰り返す。すると、僕は大嫌いな筈の生と呼べるものを深く感じることが出来た。何故だろうか、僕は死ぬことを望んでいる筈なのに、死を求めている筈なのに、生というものを感じていると不思議な感覚になる。それが何なのかわからない。でも、これは安らぎではない。初恋の人と一緒に死のうとした瞬間が一番安らげた筈だ。筈なのだ。
「あら、奇遇ね」
僕はギョッとした。そして、体中から汗が流れ出す。だが、やはり僕の道化の部分がそれをせき止めて、愛想の良い言葉を捻りだすのです。そして、僕は、僕の道化の部分はいつものように愛想よく挨拶をします。その挨拶をした人は数日前に知り合ったアリサ・バニングスという少女です。
彼女はリードを握り、その先には小型種の犬が嬉しそうにしている。僕は、いや、僕の道化の部分は彼女が喜びそうな言葉を選んで会話を続けた。すると犬が僕の足に噛みついた。甘噛みなんてものではない、血が出るほど強く、そして、忠誠心に満ち溢れていた。僕は痛いとか、そういう言葉を叫ぶ前に、この犬は僕の本質を、完璧な道化の本質を見抜いたのだろうと感心してしまった。そして、とても悲しい表情だと思う、僕は多分そんな表情で犬の頭を撫でたのだ。すると、犬は僕の気持ちを察してか、それとも、僕を哀れに思ったのだろうか、噛むことをやめたのである。
ズボンから綺麗な鮮血が滲み出てきた。するとバニングスは顔を真っ青にして謝罪し、犬の名前を叫んで叱りつけるのである。僕は、多分、道化の部分じゃない僕は叱らないであげて、と彼女に告げて、その次に道化の部分が適当な理由を見繕ってくれた。僕は、この犬の気持ちが何となく理解できた。多分、道化師の僕からご主人様を守りたかったのだろう。動物は鋭い洞察力を持っている、多分、僕の道化を悟れるくらい鋭い洞察力なのだろう。動物も欺いてきたと思っていたのだが、所詮、僕の道化は人間だけしか欺けないのだろう。少しだけ、嬉しく思えた。
「お詫びは必ずするわ! ご、ごめん......」
僕は、いや、道化はやはり、彼女の好きそうな言葉を選んで会話をおこなった。そして、僕は彼女のことを最初に出会った時よりも嫌いになった。だが、それに比例して彼女の好感度は上がったのではないだろうか。皮肉な話だ。
彼女と別れた後、噛まれた足の痛みを楽しみながら家に向かった。何故、痛みを楽しめたのかわからないが、それでも、少しだけ痛みが心地良く感じたのだ。死ではなく、生でもなく、痛みに何か、そう、何か、感じることが出来る何かを見つけられたような気がするんだ。不思議な話だ。
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