ラブライブ!×遊戯王 ~School idol duelist~ 作:みんふみ
国立音ノ木坂学院。
東京のど真ん中、千代田区に位置するこの学校は今、廃校の危機に瀕していた。
東京の学校なのに廃校なんてあり得るのか、そんな声が聞こえてきそうではあるが、ドーナツ化現象というのは恐ろしいものである。
インターネットを使ったことのある人ならば一度は目にしたことがあるであろうフリー百科事典によれば、千代田区の夜間人口はなんと4万3000人程度である。
これは大雑把に言ってしまえば、夜に千代田区にいる人、言い換えれば住んでいる人はそのくらいしかいないということにある。
さて、そんな地域の学校が生き残るにはどうすれば良いのか。
音ノ木坂学院が女子校であることを考えれば、共学化というのはすぐ案として浮上して来そうなものである。
そして今、音ノ木坂学院に三人の男が入っていった。
彼らこそ、音ノ木坂学院共学化のために送り込まれた刺客……ではない。
どちらかといえば、変態である。
「ふぅん、案外簡単に入れたものだな」
「ああ。それにしても、ここがあの音ノ木坂学院……ここに穂乃果ちゃんたちがいるのか……ゴクリ」
「なぁ遊戯、海馬。ここ女子しか見かけねぇけど……」
「女子校なのだから当たり前だ凡骨」
「いやそれヤバいだろ!? あっという間に捕まって警察行きだぞ!?」
「わめくな。それより遊戯、μ'sのメンバーはいると思うか?」
唯一の常識人である城之内の言葉を無視して、遊戯と海馬はキョロキョロと校内を見渡している。
「いや、少なくとも今のところは誰も見れないな……ん?」
遊戯は何かに気を取られて足を止めた。
つられて海馬と城之内も足を止め、遊戯が視線を注いでいる場所を見た。
そこには『学内掲示板』と書かれた場所があり、ガラス板の奥に張り紙がしてあった。
「廃校……へぇ、この学校無くなっちまうのか。立派な校舎だし、都会のど真ん中なのになぁ。もったいねぇ」
と、これは常識人城之内の意見。
だが、デュエリスト兼ラブライバーである遊戯と海馬の脳内では、まったく別のことが考えられていた。
「おい海馬、これは……」
「ああ、音ノ木坂学院が廃校……間違いなく、今この瞬間にどこかで高坂穂乃香が気絶しているはずだ」
「どうやら俺たちは、まさに物語のど真ん中に入り込んだみたいだな」
「ふぅん、この機を逃すわけにはいかんな。行くぞ、遊戯」
「もちろんだ」
二人で勝手に会話を進めると、スタスタと早歩きで歩を進める遊戯と海馬。
「お、おい!! どこ行くんだよ!?」
「保健室だ」
「なんで!?」
「城之内君、それは、そこに俺の天使である穂乃果ちゃんがいるからだ。ちなみに相棒はことりちゃんがお気に入りだ」
「聞いてねぇよ!?」
「ホノカチャンホノカチャンホノカチャン……」
「遊戯がぶっ壊れた!?」
「うるさいぞ凡骨。もし今日があの日なら、ぜひとも高坂穂乃香たちと会っておかねばならぬのだ。行くぞ」
「あぁもう! 何がどうなってんだよ!!」
―――
「……夢!?」
保健室。
ベッドで寝ていた高坂穂乃香は、チャイムの音で目を覚ました。
穂乃果は夢を見ていたのだ。
自らの通う音ノ木坂学院が廃校になってしまう、そんな悪夢を。
「……なぁ~んだ、夢かー。……ん?」
夢だと確信し、ベッドから出ようとした穂乃果の視界に、見ず知らずの男が三人映りこんできた。
一人は派手な髪型で首からピラミッドに似た形のアクセサリーをしていて、一人は長身で顔もイケメンだが時々あごが伸びそうで、もう一人はパッとしない感じで馬の骨といった感じの男だ。
「えっと……どなた?」
ここは女子校なので男がいることはあってはならないことなのだが、穂乃果的にはそこまで重大な感じではないようだ。
「俺は武藤遊戯。正確にはこの人格は武藤遊戯ではないんだが、そこは気にしないでくれ。それより、穂乃果ちゃんって呼んでもいいか?」
「え、え、ええ? 何だかよく分からないけど……とりあえず、私は高坂穂乃果。よろしくね? それと、私のことは穂乃果、で良いよ」
「呼び捨てなんて出来るわけ……いや、本人から許可を得たんだ、ここはそう呼ぶべきだろう。よろしくな、ほほほほほ穂乃果」
「めっちゃ噛んでるー! 遊戯さん……だっけ? 面白いね! よろしくね!」
「穂乃果ちゃんによろしくされた……うおおおおおおおおッ!!」
穂乃果にニッコリ微笑まれた遊戯はテンションが最高潮に達し、全身の血液が沸騰してしまった。
「えっと、そちらの二人は?」
「ふぅん。俺は海馬瀬人だ。そして隣のこいつは凡骨だ」
「凡骨は名前じゃねえっての! あ、俺は城之内克也ってんだ。よろしくな。なぁそれより穂乃果ちゃん……だっけ? ここって女子校で良いんだよな?」
「うん、そうだよ?」
「だよな? なぁ海馬、やっぱり俺たちはここから出た方が良いんじゃねぇのか?」
「えー? 大丈夫だよ、この学校結構ユルユルだし。私の友達ってことにしておけばヘーキだよ」
「いや平気じゃないような……」
「それより、みんなも私の教室に来ない? せっかくだし、ことりちゃんと海未ちゃんにも会っていきなよ!」
そう言うと穂乃果は、近くの椅子の背もたれにかけてあった制服の上着を掴むと、元気よく廊下へと飛び出して行った。
海馬はそんな穂乃果を見送ると、小さく「ふぅん」と声を発し、しかしどこか嬉しそうな表情で歩き出した。
城之内も慌てて後を追おうとするが、興奮して変なことになってしまっている遊戯を引っ張り出すのに手こずるのであった。
「ホノカチャンホノカチャン」
「遊戯、しっかりしてくれー!!」
―――
ガララッ!!
教室のドアの開いた音に、南ことりと園田海未は教室の入り口の方を振り向いた。
そこには死んだような表情をした穂乃果がいた。
「あ、穂乃果ちゃん、だいじょう……ぶ?」
よろよろとした足取りで教室に入ってきた穂乃果に声をかけたことりであったが、穂乃果の後をついて教室に入ってきた人影を見て言葉を失ってしまった。
「……ことり? どうしたのです……か?」
ことりの様子につられて視線を穂乃果の後ろに動かした海未も、同様に言葉を失った。
それはそうだろう、女子校である音ノ木坂に男が三人もいたら、誰だって言葉を失うというものだ。
しかも、その風貌などが普通ではない。
一人は奇抜な髪型に奇妙な逆ピラミッド型のアクセサリーをして、両鼻と両耳の穴を塞ぐようにティッシュを突っ込んでいる。
ティッシュが赤くデコレーションされているのは……血なのだろうか?
もう一人は背が高く、どんな素材で作ったらそんな風になるんだというようなコートを着ていた。
そして三人目は、周りをキョロキョロして落ち着きがない爽やか系の男。
「えっと……穂乃果? この方々は……?」
「ガッコウガナクナル、ガッコウガナクナル、ガッコウガナクナル……うぅ」
海未が質問するが、廃校が夢などではなく現実であるということにショックを受けた穂乃果は、まったく聞いていない。
「穂乃果ちゃん、すごい落ち込んでる……そんなに学校、好きだったなんて……」
「違います。あれは多分、勘違いしてるんです」
「勘違い?」
穂乃果の悲しみの原因を悟った海未と、分からないでいることり。
そんな二人のやり取りを聞いていた穂乃果は、急に立ち上がるとことりと海未に泣きついた。
「どうしよー!? 全然勉強してないよー!!」
「えぇ……?」
「だって、学校無くなったら別の高校に入らないといけないんでしょ!? 私、編入試験に合格するほど勉強できないよー!!」
「やはり……」
「大丈夫だ穂乃果、俺がついてるZE☆」
「え、ホント遊戯さん!? やったー!!」
「穂乃果の為なら何だってするZE☆」
決め顔の遊戯を輝いた目つきで見つめる穂乃果。
「……なんか、ナチュラルに会話が進んでますが、皆さんはどういった方々なんですか……?」
「この人たちはね、穂乃果の友達なんだ!」
「友達認定はええな……」
「それより海未ちゃん聞いた!? 遊戯さんが私の勉強手伝ってくれるって!」
「ああ、そこも突っ込まないといけないのですね……いいですか穂乃果。確かに廃校にはなりますが、私たちが卒業するまで学校は無くなりません」
「……ふぇ?」
―――
場所が変わって、外。
一本の大きな木の下で、穂乃果たちは昼食をとっていた。
通り過ぎる生徒たちは、ほぼ全員穂乃果たちに視線を送っていた。
正確に言えば、穂乃果たちの近くにいる変態三人組の方にだが。
「……では、遊戯さん、海馬さん、城之内さんの三人は、穂乃果の友達なのですね」
穂乃果の説明を聞いた海未は、納得できないが渋々事態を飲みこんだという表情である。
「……良いのか海馬? なんか、勝手に話が進んでるけどよ」
「この方が都合が良い。彼女たちのそばにいるためにはな」
「なんか、マジもんの変態っぽいぞ今のセリフ」
城之内は完全にツッコミポジションに落ち着いている。
「……あれ?」
パンを美味しそうに頬張る穂乃果を見つめていたことりが、地面に何か落ちていることに気付いた。
拾い上げるとそれは、1枚のカードだった。
なにやら黒いドラゴンのような生き物が描かれ、それとは別に文章やら数字やらが書かれていた。
「これ……」
「あっ!? わりぃ、それ俺のカードだ! すまねぇが、返してもらえるか?」
「あ、はい……」
ことりは手を伸ばしてきた城之内に、拾い上げたカードを渡した。
「やべぇやべぇ、レッドアイズのカードを失くすところだったぜ……」
「……」
カードについたゴミなどを息で吹きながら落とす城之内の姿を見て、ことりが思案顔になる。
「……ことり? どうかしましたか?」
「う、ううん。なんか今のカード、どこかで見たことがあるようなって……」
「ねぇ」
そんな彼女たちに、声をかけてきた女子生徒がいた。
金髪をポニーテールにしたその女子生徒は、気品高い雰囲気を醸し出していた。
リボンの色から、穂乃果たちの一つ上の学年、つまり最高学年の生徒であることはすぐに分かった。
「ちょっといい?」
「は、はい!」
そんな先輩の雰囲気に気圧されて、穂乃果たちは慌ててスッと立ち上がった。
「だ、だれ?」
「ふぅん。絢瀬絵里、この学校の生徒会長だ」
「おぉー。海馬さん詳しいんだね」
「当然だ」
「いや当然ではないでしょう。いくら穂乃果の友達とはいえ、この学校の事情に精通しているのは不自然ですよ」
「……なんか、私が無視されているようだけど。まず、南さん」
「は、はい!」
ドヤ顔を決める海馬に突っ込みを入れる海未。
そんなやり取りに絵里は疎外感を感じて、少しだけ苛立った感情を漏らしながらことりに話を振った。
「あなた確か、理事長の娘よね? 理事長、今回の廃校の件に関して、何か言ってなかった?」
「……いえ。私も、今日初めて知ったので……」
「そう……ひとまず、一つ目の要件は済んだわ。で、二つ目なんだけど……」
そう言うと絵里は、遊戯達の方へと視線を送った。
「あなた達、誰?」
「あ、えっと、この人たちは私の友達で……」
「あなたには聞いてないわ」
「はい、すみません……」
「ここは女子校よ。当然だけど男子禁制なの。よく今までつまみ出されなかったわね」
絵里は臆することなく遊戯達の前に歩を進めた。
いや、両鼻と両耳にティッシュを突っ込んだ男がいるような集団に臆する必要が無いとも言える。
臆した方が良いかもしれないが……。
「生徒会長である私が言うまでもないことかもしれないけど、早々にここから出ていって。でないと……」
「待ってえりち。せっかくやし、ここは一つ、ゲームで運命を決めへん?」
「ゲーム?」
「そう。ちょうどそこの彼が、そのゲームに必要なカードを持ってるみたいやし」
「俺? カードって……これか?」
城之内が希に言われて、手にしていたカードを絵里に見せる。
「あら、それ遊戯王カードじゃない。あなた、デュエルするのね」
「え? あ、ああ」
「ならちょうどいいわ。私も希に誘われて、最近やってるのよ。もし私に勝てたら、少なくとも私の目の届く場所では音ノ木坂にいても構わないわ。でも、負けたら二度とこの学校に足を踏み入れないこと。これでどう?」
「ふぅん、なるほどな。凡骨、負けたら承知せんぞ」
「やることは確定なのかよ!?」
「城之内君、俺たちの未来がかかってるんだ。頑張ってくれ」
「しかもなんか責任重大な展開になってる!?」
こうして、勝手に城之内克也と絢瀬絵里のデュエルが行われることになった。
「なんや、えりちも真面目な顔してデュエル脳やんな」
「希のせいよ。さ、用意はいい?」
「……なんだかよくわかんねぇけど、勝てばいいんだろ? デュエルならそう簡単には負けないぜ!」
「「デュエル!!」」
――つづく。
表遊戯はことりちゃん推し、アテムは穂乃果ちゃん推しということになってます。