ラブライブ!×遊戯王 ~School idol duelist~ 作:みんふみ
「ただいまー」
「あら穂乃果、おかえりなさ……い?」
和菓子屋「穂むら」。
穂乃果の両親が営んでいる和菓子屋には、今日も和菓子を求めてお客さんが出入りをしていた。
さて、そんな穂むらに男女合わせて4人が入ってきた。
一人はここの家に住んでいる長女の穂乃果なので何の問題もない。
ところが、その穂乃果に続いて3人の男が入店してきたことに、店番をしていた穂乃果の母親は言葉を失ってしまった。
「こ、ここが夢にまで見た穂乃果ちゃんの家……」
「ふぅん……」
「へぇー、和菓子屋なんだな。上手そうな和菓子がいっぱいじゃねぇか」
しかもどうやら、たまたま穂乃果の後に続いて入ってきたという訳ではなく、穂乃果の知り合いのようだ。
穂乃果に男の知り合いがいたのね、それも3人……そんな風に考えているのは穂乃果の母親である。
どちらかといえば、あんな奇抜な髪型の変人と知り合いなのね、ウチの娘は……そう思ってほしいものである。
「あら穂乃果、お知り合いの方?」
「あ、うん。友達なんだ」
「あらそうなの。それじゃあ、後でお茶を持っていくから先にお部屋へ行っててもらって」
「うん、分かったー」
穂乃果は遊戯達を引き連れて、レジの横を抜けて和室の扉を横にスライドさせた。
「あ、お姉ちゃんおかえりー……え?」
和室にいたのは、穂乃果の妹で中学三年生の高坂雪穂。
雪穂も母親と同様、入ってきた穂乃果の後ろにいる遊戯達三人組を見て言葉を失った。
「お、お姉ちゃん、この人たちは……?」
「私の友達なんだ。遊戯王っていうカードゲームを教えてもらうために来てもらったの」
「へ、へぇー、そうなんだ……」
そうは言ったものの、雪穂は母親とは違ってすんなり事情を呑み込めたわけではない。
穂乃果はもちろん、雪穂もこの家に男友達を呼んだことなどこれまで無かった。
そんな高坂家に、突然三人もの男が入り込んで来たら、こうなるのは自然な流れとも言える。
「今お母さんがお茶持ってくると思うから、それまで遊戯さんたちも座って座って」
「こ、ここで穂乃果ちゃんと雪穂ちゃんが生活を……グハッ!」
「おい遊戯!? 遊戯のやつ、また興奮してぶっ倒れやがった……」
「あーもう、もう一人の僕はすぐ興奮して倒れちゃうんだから……ここにいる間は、しばらく僕が表に出てるよ」
気絶したはずの遊戯だが、人格が入れ替わることですぐに復帰した。
その様子を見ていた雪穂は、当然だがまったく理解が追いつかない。
「……お姉ちゃん、この人たち大丈夫なの?」
「うーん? 大丈夫って、何が?」
「何がって、全部……」
のんきな穂乃果とは対照的に、雪穂は現実的な反応である。
だが、そんな雪穂のことは露知らず、穂乃果は買ってきた遊戯王カードを袋から取り出してたたみに置いた。
さぁこれから開封しよう……そんな矢先、穂乃果の視線にあるものが飛び込んできた。
「これは……パンフレット?」
穂乃果が見つけて拾い上げたパンフレットにはアルファベットで、「UTX」と記されていた。
「あー、うん。私、来年そこ受験するんだ」
「ふーん……」
雪穂の言葉を聞いた穂乃果が、パンフレットをパラパラとめくり始める。
穂乃果はUTXの名前と、学校が秋葉原にあることくらいは知っているが、逆に言えばそれ以外のことはほとんど何も知らない。
なので、あるページにきれいな少女が写り、スクールアイドルと記されているのを見たときは思わず感嘆のため息がもれた。
「へー、こんなことやってるんだ……」
「知らないの? 今1番人気がある学校で、全国から生徒を集めてるんだよ」
「へぇー……ん?」
そこで穂乃果はあることに気付く。
雪穂はこの学校を受験すると言った。
つまり逆を言えば、穂乃果が通っている音ノ木坂は受けない、ということになる。
その事実を認識した穂乃果の表情は驚愕のものへと変貌した。
「……って、それじゃあ雪穂!! 雪穂、音ノ木坂受けないの!?」
居ても立っても居られない穂乃果は立ち上がると、障子を開けて母親に呼び掛けた。
「お母さんお母さーん!!」
「な、なに?」
「雪穂、音ノ木坂受けないって言ってるよ!!」
「聞いてるわよ」
「なんで!? だってウチは、おばあちゃんもお母さんも音ノ木坂でしょ!?」
信じられない、そんな表情で声を大にしている穂乃果を見て、雪穂は小さくため息をついて言った。
「っていうかさ、音ノ木坂、無くなっちゃうんでしょ?」
「え、もう噂が……?」
「みんな言ってるよ。そんな学校、受けてもしょうがないって」
雪穂の言っていることは、至極当然なことではある。
廃校の噂が出ている学校と、人気上昇中の学校、そのどちらを受けるか。
そんな質問を100人にすれば、100人全員が後者を選ぶ。
だがそれは、前者の学校に現在進行形で通っている人間にとっては、あまりに悲しい現実でもある。
「ふぅん、何なら海馬コーポレーションが援助してやろう。そうすれば、学校の一つなど救済することなど容易い」
「ダメだよ海馬君! そんなことしたらμ'sの活動が無くなっちゃうよ!」
話の根本をぶち壊しかねない発言をする海馬と、それを止めようとす表遊戯。
「しょうがないって、そんな……」
「だってそうでしょ? お姉ちゃんの学年、2クラスしかないんでしょ?」
「で、でも! 3年生は3クラスあるし……」
「1年生は?」
「……1クラス」
「ほら。それって、来年はクラスがないってことでしょ?」
数学的帰納法よろしく、そんな推理が雪穂によってなされた。
「そんなことない! 今、私と海未ちゃんとことりちゃんで、どうやったら廃校にならずに済むか考えてるもん! だから、絶対廃校になんてならない!」
「……そう。でも、どう考えてもお姉ちゃんがどうにかできる問題じゃないよ。お姉ちゃんのお友達の方も、そう思いますよね?」
ここで雪穂は、遊戯達に意見を求めてきた。
「こ、ここで俺たちに聞くのかよ……遊戯、どう思う?」
「うーん……」
城之内はともかく、遊戯と海馬はこの先の顛末をほぼ知っている。
しかし、ここで不必要なことをしゃべってしまえば、遊戯達の知っている展開とは異なるものになってしまう可能性もある。
「ふぅん。大切なのは実現可能性ではない。大切なのは、己が未来を自分で切り開こうという強い意志。あらゆる困難に立ち向かい、それを粉砕せんとする強い意志……それが無ければ、人生など何の意味もないものになってしまう」
海馬が発したのは、彼が常々口にしていることだ。
自らのロードは自らの手で切り開く。
単純だが、今の穂乃果には一番響く言葉であった。
「ありがとう、海馬さん! ……そういうことだよ、雪穂。私はどんなに可能性が低くても、絶対に諦めない」
「……お姉ちゃんの気持ちは伝わったよ。でもね、海馬さん……だっけ? 今言ってたでしょ? 困難に立ち向かい、それを粉砕する強い意志って。つまり、未来を切り開くためには、困難に打ち勝つだけの力も必要ってこと。気持ちだけじゃどうにもならないことは、世の中いくらでもあるからね」
「うん」
「だからさ、お姉ちゃんの力、私にぶつけてみてよ」
「え、それって、雪穂を思いっきりビンタでもすればいいの?」
「えぇ!? そうじゃないよ!! そうじゃなくって……お姉ちゃん、ちょうどいいものを持ってるじゃん。それで力比べをしようよ」
そう言って雪穂が指さしたのは、たたみに置かれた遊戯王カードであった。
「カードで力比べって……それって、デュエルってこと?」
「そう。実は、私もデッキ持ってるんだ。中学で流行ってるからね」
雪穂はそう言うと、近くに置いてあった学生カバンの中からデッキを取り出した。
「デュエルは運も絡むゲームだけど、運も実力のうちっていうからね。運も含めて、お姉ちゃんの力をみせてもらうよ」
「……もちろん! 私の全力を、雪穂にぶつける!」
二人は互いに、向き合うようにテーブルをはさんで座った。
入念にデッキをシャッフルして、自分の右側へ置く。
「……遊戯。確か、穂乃果はデッキを2つ揃えたはずだけど、どっちのデッキを使うんだ?」
「どうだろう……でも、この戦いは運を含めて全力をぶつけるって言ってたし、多分あっちのデッキなんじゃないかな……」
ジャンケンによって、先攻は雪穂に決まった。
「まずは、互いに5枚のカードを引いて手札にする。お姉ちゃん、準備はいい?」
「……うん!」
「じゃあ、私のターン!! ……って言いたいところなんだけど、実はもう、決着はついてるんだよね」
「えっ……」
「私の手札は……これ!!」
そう言って雪穂は、あろうことか自らの手札を開示した。
そこにはなんと……。
「こ、これは……!!」
「こ、こんなことが……!!」
「ありえねぇ……嘘だろ!?」
雪穂の5枚の手札。
それは、『封印されし者の左足』『封印されし者の左腕』『封印されし者の右足』『封印されし者の右腕』、そして『封印されしエクゾディア』。
そう、5枚のパーツをすべて手札に揃えると、いかなる状況だろうと勝利できるエクゾディア。
それが初手ですべて揃っていたのだ。
デッキが40枚ならば、その確率は約0.00015%。
エクゾディアデッキを使い続けても、一生のうちに起こるかどうか分からない、そのくらい低い確率。
デュエルに精通している遊戯達でも、これには流石に驚愕せざるを得なかった。
「ひょっとしたら、神様はお姉ちゃんの覚悟を、上手くいかないですよって言ってるのかもね」
「……フフフ」
だが、穂乃果は笑っていた。
初手でエクゾディアを揃えられた以上、負けしかないこの状況で、穂乃果は笑っていた。
「……お姉ちゃん?」
「さっき雪穂言ったよね? 運も含めて実力だって。なら、私が音ノ木坂の廃校を阻止するための決意は、どんな困難にも立ち向かえるだけの強さを持ってるよ」
「どういうこと?」
「見せてあげるよ、私の……決意を」
そう言うと、穂乃果はゆっくりと自らの手札をテーブルの上に置いた。
それも、カードが見える形で。
そこには……。
「……えっ? う、嘘でしょ!?」
「……す、すごい、すごいよ穂乃果ちゃん!」
「ああ、俺は今、この世で一番すげぇ奇跡を見てるかもしれねぇ!!」
「この奇跡を呼び起こしたことこそ、自らのロードを切り開いた証に違いない」
オープンされた穂乃果の手札。
それは、雪穂の手札とまったく同じ5枚であった。
穂乃果が唯一負けない方法。
相手が初手でエクゾディアを揃えるなら、こちらも初手で揃えるまでのこと。
互いのプレイヤーが初手でエクゾディアを揃える確率は、4329億7452万8064分の1。
もはやパーセントで表してもよく分からないほどの、あまりに小さな確率。
「どう雪穂、これが私の決意の強さ」
「……」
雪穂は、ただ茫然と穂乃果を見つめていた。
これは単なる偶然に過ぎない。
そう頭では理解できていても、4329億7452万8064分の1を偶然の一言で片づけがたいのも、また人間である。
そこには、何かの意志が介在しているのではないか……。
その意志というのが、穂乃果の音ノ木坂を廃校から救うという決意なのだとしたら……。
雪穂には、そんな風に思えて仕方が無かった。
「お茶をお持ちしましたー……あら?」
事情を知らない穂乃果たちの母親が、お盆にお茶と菓子をのせて運んできた。
「? どうかしたの?」
「あ、お母さん。ううん、何でもないよ。それより皆さん、私の部屋でデュエル、教えてね」
「う、うん……」
教えることなんてあるのだろうか、そんな風に思わずにはいられない遊戯が、上の空で返事をする。
「お母さん、持ってきてくれてありがとう。後は私が持ってくね」
「そう、分かったわ。あ、お菓子はアンコ入りのチョコね」
「えー、アンコ飽きたよー」
「和菓子屋の娘がアンコ飽きたなんて言うんじゃありません」
「はーい……」
わずかに不満そうな表情を浮かべた穂乃果は、お盆を両手に持って階段をのぼり始めた。
その時、遊戯が首からかけている千年パズルが光を放ち、人格が入れ替わった。
「お! この角度なら、階段をのぼってる穂乃果ちゃんのアレが見えるぜ! どれどれ……ん!? ぐはぁっ!!」
覗き行為に全力を注いだ闇遊戯であったが、穂乃果の足からすっぽ抜けたスリッパが顔面に直撃して失敗に終わった。
「……どうやら、遊戯の決意はユルユルだったみてぇだな」
「ふぅん。俺も、真姫ならやっていたかもしれんがな」
「ダメだこいつら、何とかしねぇと……」
――つづく。
ファイナルライブ前最後の投稿となりました。
あぁ、泣きそう……