デート・ア・ライブ 精霊剣客浪漫譚   作:ソード.

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今回、飛天御剣流のオリジナル技が出ます。特に深い意味はありません。ただ、こんなんあったらいいなくらいの気持ちです。


第十話 手助け

降りしきる雨の中、腰に黒い日本刀〈天舞黒刀(アザゼル)〉を携えた彩人はASTの元へと走っていた。

 

「琴里、精霊は?」

 

『建物内に入ったわ。ASTは十香のときみたく待機してるみたい』

 

右耳のインカムで琴里と連絡を取る。単に気を紛らわせたいのが第一だったが、あの精霊――〈ハーミット〉のことも心配だった。

 

〈ハーミット〉はASTから攻撃された際に反撃すらしなかった。ただ必死に逃げていただけだ。少なくとも、彼女に人を傷つけるという意思がないことは確かだ。

 

「……! 見つけたッ!」

 

見覚えのあるワイヤリングスーツ。銃とアーマーで武装した女性たちが、ある一つの建物を中心としたビル群の屋上に陣取っていた。

 

「琴里……今度はどうする? また前回みたく戦闘不能にさせるのか?」

 

『いえ、それはやめておいた方がいいわ』

 

「?」

 

琴里からの制止に彩人は首をかしげた。彩人の疑問ありげな声に反応して琴里が返事をする。

 

『前回の高校でのASTとの戦闘、高台での十香との戦闘。この二つから、またあなたがこの場に現れることも想定して追加武装や援軍を用意してる可能性が高いわ。

無理に無力化を図るより、士道が精霊を説得するまで時間を稼いでちょうだい』

 

「無理せず倒せるかもしれないと思わせろってことか?」

 

『ええ』

 

無理ではない。無論、短期戦に持ち込んで斬り伏せる方が自分には向いているが、これは殺し合いではない。

 

『ASTは精霊殲滅の部隊。つまり裏を返せば「殲滅対象は精霊限定」って意味でもあるのよ。

あなたを真っ向から殺しにかかるとも思えないわ』

 

「……まあ、一理あるかな?」

 

まあ今回はあの〈プリンセス〉こと十香ではなく、かなり戦闘に消極的な精霊を相手にしている分、ASTの緊張感も比較的低いと考えていい。

となれば、まずはあのASTたちをあの建物から離さなければ。

 

「一番近いのは……あそこか」

 

ASTの隊員が陣取っているビルの向かいの小さな一軒家に目をつけた。家の屋根に飛び上がり、屋根づたいに順番に移動して高度を稼ぐ。数分後には十階建てのビルの屋上へ到達できた。

屋上では、ASTの隊員が一人、こちらに背を向ける形で待機している。彩人は背後から気づかれないように近づいて刀を納めたまま柄頭を相手の背中に押しつけた。

 

「おい、お前」

 

「……っ!」

 

彩人の声にその女性はビクッと肩を震わせて振り向いた。彩人が「武器を下ろせ」と小声で警告すると、ゆっくりとその女性は持っていたライフルを地面に置いた。

 

「大人しく帰ってもらえるか? ついでに他の奴らも帰るように連絡してほしいんだが」

 

「……」

 

目の前の女性は何も言わず彩人を睨んでいる。この距離で彼女が反撃に転じようと、瞬時に抜刀してしまえばこちらの勝ちだ。

だったらどうして、彼女はさっきから何もしない? 勝機があるようには見えない。まるで時間を稼いでいるような――

 

「総員、構えっ!」

 

彩人が思考を巡らせていると、その女性が大声で叫ぶ。一瞬の虚を突いた彼女は推進装置を稼働させ、空高くへ消えていく。

 

逃走のためのハッタリかと思ったが、その考えもすぐに否定された。

四角形のビルの屋上を取り囲むように、銃を持ったASTの隊員が飛んできたからだ。

 

「なっ……!?」

 

さっきのは囮。一人だと油断させたところに取り囲んでの一斉射撃で殺すための作戦だということか?

 

「〈アサシン〉、出現確認。攻撃開始!」

 

容赦のない銃撃の弾幕が彩人を襲う。

間違いない。これだけの用意周到さといい、威嚇とは程遠い攻撃といい。そして今リーダーらしき人物が放った〈アサシン〉という呼称。

 

ASTは彩人を精霊と認識している。ハーミットの出現から、彩人の介入も読んでいたのか。

 

「ちいっ!!」

 

彩人は照準を合わせないように走って回避する。

彩人は精霊の能力である天使を顕現させてはいるものの、十香のように霊装を顕現させてはいない。

つまり、防御力や耐久力に関しては人間の範囲内だ。まともに受けたら確実に死ぬ。

 

(上が駄目なら……下!)

 

彩人は左腰の刀を抜き、地面に刺して下の階まで貫通させる。ガリリッ! と地面に刃を疾らせ、自分の立つ地面に四角形の穴を開けた。それまでの動作を二秒足らずで終わらせ、床を破壊し、下の階に避難する。

 

(とんだドッキリだな、特撮ヒーローもビビって逃げたくなるだろこんなの)

 

自分達の読みが甘かったことに歯噛みしつつ、まずはこの場からの脱出に専念すべきだ。

彩人はビルの職員や関係者に心の中で謝罪しながら、窓側のガラスを蹴破り、そこから飛び下りた。

 

高さはせいぜい数階。彩人の身体能力ならこの程度は大した問題ではない。地面に着地すると同時に両足にビリビリと衝撃が走るが、四の五の言っていられない。近くに潜んでいるASTが彩人の居場所に気づいて一斉に銃口を向けてきた。

 

(奴らの武装の大元は機関銃……しかもこっちが霊装なしだってことも見抜かれてる……)

 

厄介だ。基本戦術が刀による接近戦である彩人は、ああやって常に距離をとって戦う相手は面倒なのだ。

 

だが、しかし――

 

「それくらいなら問題ないな」

 

彩人は刀を握りしめ、地面を蹴って敵の眼前へと跳躍する。

確かに銃は、遠距離で攻撃できる武器であるため性能は高い。

 

しかし、こんな開けた場所で。しかも、呑気にスコープを覗いて照準を合わせるのに数秒かかっているようでは、飛天御剣流を破るなど片腹痛い。

 

「飛天御剣流――」

 

刀を両手で水平に構える。敵も応戦しようと銃の引き金にかけた指に力を込めるが、明らかに遅い。

 

龍鎖閃(りゅうさせん)

 

狙うは敵の武装の二ヶ所。銃と背中のスラスターだ。

神速で振るわれる剣に彼女の武装は紙のように斬り裂かれ、彼女の身体もろとも落下を始める。

それだけでは終わらない。重力で落下する彼女の肩に右足を乗せ、蹴り抜く。再び跳躍した彩人は別の隊員に目をつける。彼女もさっきと同じように狙った二つの武装を破壊。新しい踏み台へと変える。

 

その恐ろしく速く、華麗な動きに空中の敵は為す術もなく無力化されていく。

数秒経つ頃には空から自分を狙っていた砲台は軒並み地面に叩き落とされていた。

 

「さて、次は――」

 

近くのビルの屋上に着地し、新たな敵の接近に警戒する彩人。しかし、突然背後から背中を何かに強く叩かれ大きく吹っ飛んだ。

 

「がっ!!」

 

屋上の床に右肩から倒れこみ、大きく打ってしまう。顔だけを攻撃された方向へ向けると、巨大な砲を持った敵が空に浮かんでいた。

その重量のせいか、三人がかりで大砲の持ち手を支えている。

 

この威力、恐らく十香に使った対精霊用武器の一つだ。となれば、さっきまで相手にしていた敵は囮。本命はこの攻撃を当てることにあったのか。

 

「次弾装填、撃て!!」

 

敵の一人が命令を出すと、大砲の先端に光が収束されていく。もう一度さっきの攻撃をする気か。

 

「当たるかよそんなもんッ!! 飛天御剣流――」

 

彩人は左手で刀を握り、刀身を地面に水平に構える。その状態で身体を右に回し、一回転。一回転が終了する瞬間に左手で刀を大砲目掛けて一直線に飛ばした。

 

飛龍閃(ひりゅうせん)(くずれ)!」

 

放たれた刀は空を裂き、発射されようとしていた大砲の砲門に突き刺さる。

内部機構を一撃で破壊され、砲撃は中止。

慌てて別の攻撃に変えようとしているが、もう遅い。

 

 

彩人は命中の直後に飛び上がって、刀の柄を右手で掴んで強引に引き抜いた。

 

龍巻閃(りゅうかんせん)

 

自身を中心とした円環攻撃、それにより残った敵の武装も悉く破壊された。

 

「もっと鍛えてから出直してこい」

 

 

 

 

◼◼◼◼◼

 

 

 

 

「いってぇ……洒落にならないな、まったく」

 

彩人はASTを片付けた後、右肩を押さえながら精霊の隠れている建物に向かっていた。

さっきのASTとの戦闘で確信した。ASTは少なくとも、自分を殺そうとしている。

 

普段、天使を顕現させていないときならば霊力は検知されないし、人間としての戸籍もあるため、日常生活では問題はないだろう。

しかし、士道と精霊の会話を円滑に進めるためにも自分がASTを誘き寄せられればこっちが有利だ。むしろ、そう考えると成功とも言える。

 

彩人は右耳のインカムのスイッチを入れて士道に繋ぐ。

 

「士道、俺だ。ASTは大体片付けた。お前の方はどうなってる?」

 

『彩人? 大変なんだ、実は――』

 

士道と会話していたせいで彩人は目の前の曲がり角から来ていた人物とぶつかってしまった。

士道の声は続いているが、彩人にとってはそれどころではない。

 

「っ! 君は……」

 

「あっ……あのときの……」

 

彩人とぶつかったのは見紛うことなき水色の髪の少女、〈ハーミット〉と呼ばれる精霊だった。

 

何でここにいる?

 

「おい、士道。どういうことだ? 精霊の子がこっちに来てるぞ」

 

『ああ、ごめん。実はその子と会った途端に逃げられちゃって……中をずっと探してたんだが……外にいたのか』

 

思えばちょっと理解できなくもなかった。

ラタトスクの話によるとハーミットは気性が穏やかで非戦闘的な精霊。他者との不用意な接触は避けるのが当然だろう。

初対面の士道が正面から話しかけようものならASTの仲間だと誤解される可能性が高い。

 

「はぁ………とりあえず俺が何とかこの子を足止めしておくから早く来てくれ。場所は琴里に聞けばわかる」

 

『わ、わかった』

 

彩人はインカムの通信を切ると、おどおどしながらこっちを見ている精霊の少女と目を合わせる。

 

「……久しぶり、だな」

 

「………」

 

少女は怯えるように身体を震わせて目を泳がせる。彩人は困ったように頬を掻きながら様子を伺うが、如何せん話題が浮かばない。

 

「俺は御虚彩人。君、名前は?」

 

「……よ……です」

 

「?」

 

消え入るような小さい声で少女は名乗る。彩人は困ったように少し伏せられている彼女の顔を覗きこんで聞き直した。

 

「……四糸乃……です」

 

「四糸乃……か。いい名前だな」

 

彩人に名前の善し悪しなど詳しいことはわからないが、彼女の雰囲気とよく合っていると思えた。

 

「なあ、四糸乃」

 

「えっ、な……なん……です……か?」

 

「ちょっと話さないか? この辺りにはあの空飛ぶ奴らもいないみたいだし」

 

なるべく敵対心を持たれないように、普通に話を切り出した。雑談でもして士道が来るまでの時間を繋げられればそれでいいのだから。

 

『それって何!? デート!? デートのお誘い!? やーん、よしのん困っちゃうなー!』

 

突然四糸乃とは似ても似つかぬ高い声が彼女から発せられた。

そうだった。以前会ったときも彼女にはこんな声を出す連れがいた。確か名前は――

 

「よしのん……だったか?」

 

『いやっはー! 覚えててくれたんだ彩人くーん!! こうしてまた会うなんて運命のなんたらで結ばれてるってことかなー!?』

 

「赤い糸って言いたいのか?」

 

『そうそうそれそれ!』

 

さっきから話しているのは勿論四糸乃ではない。いや、厳密には発声しているのは四糸乃なのだろうが、思考をしているのは『よしのん』という名のパペットだろう。

 

内気で恥ずかしがり屋な四糸乃とは対称的にかなりテンションが高い。

 

「まあ、デートって言われたらそうとも言えるかな。とにかく聞きたいんだ、四糸乃の話」

 

「……で、でも……私……話すこと……なんて……何も……」

 

「そんなに構えるなよ。好きなものとか、最近起こったこととか。そんな感じのでいい」

 

これはある意味チャンスだ。いくら精霊と言っても性格や趣味嗜好が異なるのは当然。現に十香と四糸乃では大きな違いがある。

 

ここで会話を進めてそういった情報を得ることができれば、士道とのデートで大きなアドバンテージになるはずだ。

 

『さあさあ、どんどん聞いてよ彩人くん。今なら特別サービスでよしのんのこと何でも教えちゃうからさー!』

 

「何でもって……そんな簡単に……」

 

相変わらずよしのんの方はグイグイ来る。向こうから距離を縮めるようなタイプの用だ。

 

「じゃあさ……何で、戦わないんだ? 精霊……なんだろ?」

 

「……」

 

四糸乃はバツが悪そうに目を逸らしてしまった。

まずい。いきなり精霊のことを話すのは失敗だったか。

 

「いや、ごめん。変なこと聞いてるよな、俺。

でも、気になってたんだ。あんな風に出会い頭に殺されかけて、それでも仕返しとか考えないのかなって」

 

「……戦いたくは……ない……です」

 

四糸乃は閉じていた口を開いて少しずつ話し始めた。

 

「……でも、痛いことを……するのも……嫌で……それで……」

 

「逃げてるってことか?」

 

彩人の問いに四糸乃は首を小さく縦に振った。

何となく理屈はわかった。確かに、殲滅対象である四糸乃が戦うことなく逃げ続ければ、お互いに無傷でいられる。大人しく、優しい四糸乃のなりのやり方なのだろう。

 

 

だけど、彩人には哀しくも思えた。こんな幼い女の子をそこまで追い詰めてしまう現実に。これでは、彼女は永遠に人から逃げ続けるだけの存在になる。

 

居場所も、頼る人も、夢も、幸せも最初から与えられていない。

 

そうか。飛天御剣流(これ)はそのためにあるのか。こういう人たちを助けるために、今俺は剣を振るってるんだな。

 

(士道は十香と話してたときも、こんな風に思ってたのかな……)

 

士道が街の高台で十香を説得したときのこと。

自分にも精霊を救える力があれば、と思ったのはあのときからだ。せいぜい自分にできるのはASTを追い払うか、暴走した精霊を止めるかぐらいだった。

 

あくまで、精霊を救う『手助け』しかできない。

だが、元々自分はそうだ。この剣で結果的に人を救えればそれでいい。

 

四糸乃を救うために剣を振るって、それが結果に結びつけばいい。

 

「あの……」

 

「ん? ああ……ごめんな」

 

長いこと思考を巡らせていたせいで四糸乃を不安がらせてしまったようだ。

彩人は苦笑いして頭を掻いた。照れ隠しに四糸乃の被っているフード越しに頭を右手で撫でた。

 

「……四糸乃は、そのままの性格でもいいと思う。だから、その優しさで誰かを救えるようにしてあげないとな……」

 

四糸乃にも聞こえないくらい、それこそ心の声が漏れ出る程度の声で彩人は呟く。

 

「……あ、彩人さん……?」

 

『えー、なになにー!? もしかして彩人くん、四糸乃のこと気に入っちゃったー!?』

 

四糸乃は顔を赤くしながら、よしのんは変わらず陽気に声を上げる。

 

こうして見ると、世界を滅ぼす災厄だなんて呼称がますます似合わない。いや、そんな呼び方はそもそも間違っているのだろう。彼女たちは自然災害でも殺戮生物でもない。こうして接すればただの可愛い女の子だ。

 

「気に入った……か。ある意味そうだな、多分思ってるのと違うだろうけど」

 

『じゃあさじゃあさー、今度は彩人くんのこと聞かせてよー! さっきはちゃーんと答えたんだから順番順番!』

 

「ははっ、いいよ」

 

気づけば和気藹々と話していた。そうだ、これが正しい。死闘や流血など関わらないに越したことはない。

 

 

だが、そこまで気が緩んでいたせいか。彩人は『それ』の察知が遅れたらしい。

 

『あっ! 彩人くん、後ろ!!』

 

咄嗟によしのんが彩人の背後を指差して叫ぶ。彩人は左足を軸にして右に回転。回転を終える間に右手に天使を顕現させる。

 

振り返った先にいたのは、ASTの隊員だった。さっきの部隊とはまた別の者だろう。

その隊員はこちらに銃口を向けており、振り返る間に銃撃を開始していた。弾丸の雨が彩人と四糸乃を襲う。

 

「四糸乃、よしのん、ごめん!!」

 

彩人は四糸乃を左手で強めに突き飛ばす。四糸乃は受け身をとれずに地面に倒れてしまう。

心の中で改めて謝罪しながら彩人は刀を抜く。自身に迫り来る銃弾の嵐を、刀で全て叩き落とした。

 

「懲りない奴らだ……」

 

小さな声で悪態をつきながら、刀を握る手に力を込める。相手は空になった弾倉を新しいものに交換しようとするが、その一瞬が彩人の勝機。

 

彩人は持ち前の神速で接近し、左手の鞘で相手の鳩尾を強く打った。

鳩尾は打たれれば呼吸困難になる。まず戦闘続行は不可能だろう。

 

彩人は刀を納めて、視線を敵から外す。

 

「大丈夫か、よし………」

 

四糸乃、と言おうとしたがさっきまで彼女がいた場所には誰もいなかった。何処かに移動したのか、隙を見て逃げたのかもわからない。

 

「四糸乃……一体何処に……」

 

それからしばらく探したものの、彼女の行き先すら掴むことはできなかった。




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